2021年11月27日

John Keats を読む Ode on a Grecian Urn 邦訳【説明】(6/9)

■第4節(2/2) ──小さな街の謎

 この世の中を、どう生きるか。

 しばらく前になぜかベストセラーになった、戦前の本を思い出しますが、ともかくキーツのメッセージを読んでみることにしましょう。
 ちなみに吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』は、一九三七(昭和十二)年。キーツの手紙は一八一九(文政二)年で『Ode on a Grecian Urn』を書く直前のものです(四月二十一日)。

 キーツは、この世の中では人は幸福になれるはずがない、と考えます。
 バラの花は、せっかく美しく咲いても、避けえない自然の脅威にさらされ不幸になります。世の中ができると同時に存在していた、どうにもならない不快さにさらされる人間が、バラより幸福になれるわけがない、と。
 そんな、きつい世の中を、ふつうの人は涙の谷≠ニよびます。ぐうぜん神の助けに合えば天国へ連れ出してもらえるにすぎない、悲しい場所だと。
 キーツは、そんな考えには反対です。涙あってこそ魂が作られるのであり、世の中は魂創造の谷≠ネんだ、といいます。
 キーツのいう「魂」とはなんでしょう。
 人間らしい心と、知的な精神とが、たがいに作用してできる、持ち主それぞれの人格や個性が加わったもの、それが魂です。
 心や知性(知的なひらめき)は、だれでも持つことができますが、そこから人それぞれの本質が輝く魂ができなけれがならない。そうなってこそ、人それぞれにとっての最大の幸福があるはずだとキーツは書いています。
 そして、その仕組みはキリスト教の神頼みより、もっとも偉大な救済の方法なんだとキーツは書きました。ここでは寄り道しませんが、わたしがキーツを追いかけるようになった理由のひとつが、この考えかたです。

 弟夫婦に出した手紙ですから、キーツは身近なたとえで説明してもいます。
 世の中は、小さい子どもに読みかたを教える学校です。
 心は、教科書です。
 読めるようになった子どもが、魂なのだといいます。
 キーツが強調するのは、心はかんたんな教科書ではない、ということです。痛みやトラブルでいっぱいの世の中こそ、魂をつくるためには、ぜったいに必要だ、というのです。
 世の中は、心があらゆる形で苦しめられる場所なのですが、人の人生がさまざまなように、魂はその人に固有のものとして作られなければならず、そのためには魂創造の谷≠ナある世の中で苦しむ経験が必要だというわけです。それが、キーツが選ぶ、この世の中の生きかたなのです。

 人びとが葬儀へと出はらい、人っ子ひとりいなくなった「小さい街 little town」。キーツはそれが「川べりなのか 海辺なのか それとも」「平和な砦がある山に囲まれているのか」と問いかけます。
 
 And, little town, thy streets for evermore
  Will silent be; and not a soul to tell
   Why thou art desolate, can e'er return.

 そんな,小さな街よ,その街路は永久に
  静まりかえったままだろう; もはや誰ひとり
   なぜ人が消えてしまったか 告げに戻っても来るまい


 古代の美神たちや、神々に祝された美しい人たち。
 かれらがくりひろげた美の祭典は、つまるところ幻のなかのものにすぎず、遠方でそれらを葬る葬儀が行われている、その葬列がやってくるのに気づくのが、この節なのだと解釈しました。ロマンの空想世界に躍動した人たちがすっかり消え去った「小さな街」は「この世」の写し絵でもあり、それゆえ涙の谷≠ネのです。「聞こえない unheard 音楽」は「まだ聞いていない、これから聞く unheard 音楽」と読みとっていましたが、「つぼ」に浮き彫りにされた「幸福な笛吹き happy melodist」が奏でてもいるその音楽は、じつは「この世」でいつも、危機を告げる警笛のように吹き鳴らされている「冷え冷えとした牧歌 Cold Pastoral」であり、「この世」から、それが聞こえてきていたのです。
 わたしたちは、その音に驚いて目ざめ、それぞれの涙の谷≠ノ、それぞれが、ひとりぼっちで取り残されていることに、はたと気づきます。気づかなければならないのです。

【7/9】へつづく(ケ)

■ 【1/9】は→こちら←
■ 『Ode on a Grecian Urn』の私訳は→こちら←
■ 「John Keats を読む Ode on a Grecian Urn  邦訳【説明】」の一覧は→こちら←


*専門家ではないので、まちがいがありえます。複写引用にはご注意ください。
 Originally Uploaded on Dec. 03, 2021 16:00:00


posted by 冬の夢 at 00:05 | Comment(0) | 文芸・読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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