2021年10月19日

カーク船長、宇宙へ──心にとどくことば(できるだけ全文)

 アメリカのテキサス州で十月十三日、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスによるブルー・オリジン社の宇宙船「ニュー・シェパード」の、二度目の有人打上げが行われた。
 約三分間の宇宙空間滞在をふくめ、発射から約一〇分後、搭乗カプセルは無事帰還した。
 今回の乗客には、テレビと映画の人気作『スター・トレック』シリーズのオリジナル版、『宇宙大作戦』(STAR TREK∴鼡纔Z六〜一九六九)でカーク船長を演じた、ウィリアム・シャトナーがいた。シャトナーは九〇歳で、最高齢の宇宙旅行者となった。
 以下は、シャトナーが地表に降り立った直後、迎えたベゾスと話したようすだ。ほかの同乗者と出迎えの人が大騒ぎしているため、きわめてわかりにくかったが、複数のニュース映像などを見くらべ、シャトナーのことばを知った。そのあと多数のメディアの取材に応じたろうと思うが、そちらは見ていない。
 なぜ、わかりにくく、とりとめない、帰還第一声に耳を傾けたか。
 かつてエンタープライズ号の船長席から、ゆうゆうと「ワープ1で前進!」と命じ、未知の宇宙へフロンティアを進めたカーク船長は、ニュー・シェパードで同乗者が無重力状態をわいわい楽しむなか、生まれて初めて観覧車に乗った子どものように窓にへばりつき、小さな声でつぶやきながら窓外を見続けていた。それがあまりに印象的だったから。
 そして、カーク船長の帰還第一声はたしかに「地球は青かった」に類してはいたけれど、なにより、無限の暗黒への畏怖と、地球をつつむ大気の薄さへの驚きに満ちていた。それもとても印象的だったからだ。

※英文にも訳文にも誤りがあると思われます。複写引用は避けてください。


William Shatner (WS): In a way, it’s indescribable. I loved it.

シャトナー:なんというか、ことばにできないね。よかったよ。


Jeff Bezos (JB): That’s what I thought. You have to work on it. It’s so hard to describe.

ベゾス:そうおっしゃると思ってました。よく考えないと、とてもじゃないが表現しがたいことですよね。


WS: Not only is it different than what you thought, it happens so quickly. You know my... the impression I had, that I never expected to have. This is the shooting up... and there’s new sky.

シャトナー:思っていたのとまったく違うだけでなく、まったくあっという間のことだね。私の印象は、こうなるなんて予想もしていなかったことだ。発射したらもう、見たこともない空があるんだ。

(登場者や関係者、そしてベゾスも、シャンパンを抜いて騒ぐが、シャトナーはひとり黙って立っている。あらためてベゾスに向かい)


WS: What you have ... if ... everybody in the world needs to view this. Everybody in the world needs to see the, um... it’s still too... it was unbelievable. I mean, you know, the little things, the weightlessness. But to see the blue color go whoop by, and now you’re staring into blackness ... that’s the thing! The covering of blue was... the sheet, this blanket, this comforter of blue that we have around us, we think, Oh, that’s blue sky. And then suddenly you shoot through it all of a sudden, as though you whip off a sheet off you when you’re asleep, and you’re looking into blackness, into black ugliness, and you look down, there’s the blue down there, and the black up there and it’s... it’s just... there is mother earth and comfort, and there is ... is there death? I don’t know. Is that death? Is that the way death is? Whoop, and it’s gone. Jesus. It was so moving to me. This experience, it’s something unbelievable. You see, yeah, you know, weightless, my stomach went up ... This is so weird!

シャトナー:この体験を、もし……世界中の人がみな、これを見なきゃいかんよ。世界中が見なくちゃ……ああ、まだとても信じられないな。ね、わかるだろ、自分が小さいこと、重力がないということがね。しかし、青い色がばっと過ぎたかと思ったら、暗闇をのぞきこんでいるんだ……そのことのほうがさ! 私たちの上空を青く覆っていたものは、布か、毛布か、私たちを包んでいる青い掛布団で、「わぁこれが青空なんだな」って思うわけだが、そこへいきなり打ち上げられると、まったくとつぜんにだね、まるで寝ているときにいきなり上掛けを引っぱがされたように青い布が吹っ飛ぶ。そしたら暗闇を、醜悪なほどの暗黒を見上げることになるんだよ。下を見ると下には青がある。しかし上には暗黒だ。それはちょうど……下には母なる地球と安心がある。でも上には……あそこに死があるのか? わからんな、あれは死なのか? 死とはああいうものなんだろうか? ひゅう〜っと行ったかと思ったら、去っていった。ああ、すごく感動したよ。この経験は、信じられないことだ。な、わかるだろう、無重力、胃がせり上がってきてさ、とても奇妙な体験だったな。


WS: But not as weird as the covering of blue. This is what I never expected! Oh it’s one thing to say. Oh the sky and the thing and the fragile... it’s all true! But what isn’t true, what is unknown until you do it is there’s this pillow, there’s this soft blue! Look at the beauty of that color! And it’s so thin! And you’re through it in an instant! It’s, what a ... How thick is it, do we know? Is it a mile, two miles? ... But you’re going 2,000 miles an hour, so you’re through 50 miles, whatever the mathematics ... it’s like a beat and a beat and suddenly you’re through the blue! And you’re into black! And you’re into, you know, it’s mysterious and galaxies and things, but what you see is black, and what you see down there is light, and that’s the difference. And not to have this, you have done something, I mean whatever those other guys are doing, what isn’t, they don’t, I don't know about them. What you have given me is the most profound experience I can imagine. I’m so filled with emotion about what just happened, I just... It’s extraordinary, extraordinary. I hope I never recover from this. I hope that I can maintain what I feel now, I don’t want to lose it. It’s so...it’s so much larger than me and life. It hasn’t got anything to do with the little green planet, the blue orb and the ... it has nothing to do with that. It has to do with the enormity, and the quickness and the suddenness of life and death and the ... Oh my god!

シャトナー:けれどもそんなことは、あの青い覆いの異様さほどではなかったな。それこそ思ってもみないものだったから! ああ、ひとついわなくちゃいかん。ああ、空、もの、はかなさ、すべてが真実だ! だが、この経験をするまでは真実でなく、未知でもある、というのは、ここにこう、まくらがあって、ここに柔らかな青があるってこと! その色の美しさを見てほしいものだ! そしてとても薄いんだね! 一瞬で通り抜けてしまうんだ! それは、ええっと、どのくらいの厚さなんだね? 1マイルか、2マイルなのか?……いや、時速2000マイルだというんだから、50マイル通り抜けたということか、まあ算数はともかく……とん、とん、と二拍もすればもう、青を通り抜けているんだよ! そして暗黒の中さ! 突っ込んでいくわけだ、謎めいている、銀河がある、いろいろあるところへね。しかし、実際に見えているのは闇であり、そして下のほうの光だ、その違いだけ、そこなんだよ。そして、これをしなかったら私は知ることがなかったんだ。きみ(ベゾス)はなにかをなしとげて、なんといえばいいのか、ほかの連中がやろうとしてて、やっていないこと、それがなにか私はわからないが。きみ(ベゾス)が私に与えてくれたものは、私に想像しうるもっとも深淵な体験だよ(涙ぐむ)。この経験への感動でいっぱいだ。貴重な、とても貴重な体験だったんだ。(ベゾスを抱きしめる)。私はね、いまの境地からもとにもどりたくないな。いまの感覚を保っていたい。これは、とても(ため息)……私という存在や生命というものよりも、はるかに大きな存在なんだ。この経験はね、このちっぽけな緑の惑星、つまり青い天体ね、そんなものには何の関係もないんだ。このことは、とてつもなく大きくて、速くて、突然であることをあらわしているんだ、生と死のね、そして……ああ、なんてことだろう!


JB: It’s so beautiful.

ベゾス:美しい。


WS: Beautiful, yes, beautiful in its way, but...

シャトナー:ああ、それはある意味、美しいね、でも──


JB: No, I mean your words.

ベゾス:いえ、あなたのことばがです。


WS: Oh, my words.

シャトナー:え、私のことばが、かね。


JB: It’s just amazing.

ベゾス:驚くべきことばですよ。


WS: I can’t even begin to express what... What I would love to do is to communicate as much as possible the jeopardy, the moment you see how... the vulnerability of everything ... It’s so small! This air which is keeping us alive is thinner than your skin! It’s a sliver, it’s immeasurably small when you think in terms of the universe. It’s negligible, this air. Mars doesn’t have it. Nothing... I mean, this... And when you think, wait, carbon dioxide change to oxygen at, what is it, 1% or something, that level sustains our life ... it’s so thin, to dirty it ... I mean, that’s another whole subject...

シャトナー:まだ表現しはじめることすらできないでいるよ。ええと……私がなんとか伝えたいと思っているのはね、危険のことだ、わずかな間に、あらゆるものがどれほど脆いか見たわけだ。なんて、はかないのだろうってことだ! 私たちを生存させているこの大気は、皮膚より薄いんだよ! それは薄っぺらい、とてつもなく薄いんだ。宇宙全体ってことで考えたらね。無視していいくらいなんだ。火星には大気はないよな。ほかにはなにも……つまりなんというか、考えてみれば、待てよ、二酸化炭素はどのくらい酸素に変わるんだっけ、1パーセントぐらいかどうか、その割合が私たちの生命を保っていると……空気は、あまりにも薄いんだ、汚染してしまうには……いや、これはまた別の大きな問題だな……。


JB: And you shoot through, what you were saying about shooting through it so fast.

ベゾス:あなたは、そこを通り抜けましたね、それが、ものすごく速かったとおっしゃっている。


WS: So quickly! Fifty miles of...

シャトナー:どえらい速さだ! 50マイルを……


JB: ...And then you’re just in blackness!

ベゾス:……そしたら、あなたは暗黒の中にいる!


WS: And you’re in death! The moment...

シャトナー:死のなかにいるんだ! その瞬間に……


JB: This is life.

ベゾス:それが人生なんですね。


WS: This is life, and that’s death. And it’s, in an instant you go, Whoa, that’s death!’ That’s what I saw.

シャトナー:それが人生だ。そして、それが死だよ。一瞬でそこに行くんだ。「おわっ、あれが死だ!」それが、私が見たものなんだ。


JB: That’s amazing. That’s amazing.

ベゾス:驚くべきことです。驚くべきことですね。


WS: I am, I am overwhelmed. I had no idea. You know, we were talking earlier before going, Well, you know, it’s going to be different, Yeah, and whatever that phrase is you have, that you have a different view of things. It doesn’t begin to explain, to describe what a, well for me, I mean everybody’s gonna... But ... and this is now the commercial ... everybody. It would be so important for everybody to have that experience through one means or another. I mean maybe you could put it on 3D and wear the goggles... and have that experience. I mean that’s, that certainly is a technical possibility.

シャトナー:いや、まいったよ。わからなかったんだ。ね、出発前に話し合っていたじゃないか、さあて、想像したのとぜんぜんちがう体験が待ってるぞ、そのとおり、ってね。そのときの、ちがう、というフレーズがどんな意味であったにせよ、ものごとの見えかたが変わった、ってことなんだよ。まだ、自分が思うように説明も表現もやれていないんだが、つまり、みんなが……いや、いまはこれは、商売でやっていることだから、みんなが、なんらかのべつの手段で、この経験をすることがとても大切だろうってことだ。つまり、きみがこれを3Dにしてくれて、ビュアーをつけて見られるんじゃないか……そういう体験が、技術的に可能なんじゃないかっていいたいんだ。


JB: Yeah.

ベゾス:ええ。


WS: But what you need also... We’re lying there and I’m thinking, this is one delay after another delay,’ we’re lying there, how do I feel, and I’m thinking, Yeah, I’m a little jittery here, and well they moved the... Oh, there’s something in the engine, they found an anomaly in the engine. They found an anomaly in the engine? We’re going to hold a little longer. Oh you’re going to hold a little longer? And I feel this, you know, the stomach, the biome inside, and I’m thinking, okay, I’m thinking I’m a little nervous here’ ... another delay ... I’m a little more nervous, and then the things start. By the way, this simulation is, they have to be? owed? ... it’s only a simulation. Everything else is much more powerful.

シャトナー:それから、もうひとつ必要なことは……搭乗カプセルで仰向けになっていたとき思ったんだが、発射延期が繰り返されるたびに、カプセルにいて感じたとことを、こう思うわけさ。おい、ちょっとナーバスになっているぞ、ってね、なにか動かしているぞ、あれ、エンジンになにかあるぞ、エンジンに問題を見つけたな(笑)、エンジンに問題があるというのか? しばらくこのままの状態を保持しますだって、え、またこのままでいるのか? ね、腹の中に虫がいるような感じがしてさ、こう考えるわけだよ。オーケー、私はちょっと神経質になっているなって……そしてまた延期……で、私はもう少しナーバスになる。そしてミッションは動き出すんだ。とにかく、訓練っていうのは、しなくちゃならんことになっているのかね。それはシミュレーションにすぎないだろう。訓練以外のすべてが訓練よりずっとものすごいんだからね。


JB: Doesn’t capture...

ベゾス:訓練にはとり入れられませんね……


WS: Doesn’t capture the... and besides which, the jeopardy. Bang, this thing hits, you go, you know. That wasn’t anything like the simulation.

シャトナー:できないな……そのほかの危険もね、ドカンと撃って、飛んでいくわけだろう、あれは、訓練とはぜんぜん違うものだったよ。


JB: The G-force is pulling your skin!

ベゾス:重力加速度が、あなたの皮膚を引っ張りますからね!


WS: Yeah, the G-force and your stomach and you’re like, What’s going to happen to me? Am I going to be able to survive the G-force? You feel that. Am I going to survive it?’ And then I think, Good Lord, you know, just getting up the bloody gantry was enough!

シャトナー:そうなんだ、加重と、せりあがってくる胃と、私はどうなっちまうんだ、って感情が襲ってくるんだよ。重力加速度に耐えられるのか? と感じるわけだ、この加重で、私は生きのびられるのか? そしてこう思うんだ、おお神さま、この、くそ発射台を、ここまで上がってきただけでもうたくさんだ、ってね。


JB:

ベゾス:(笑)


WS: Oh my god what an experience, what a... nothing, nothing...

シャトナー:ああ、なんてことだ、なんて経験だろう(ため息)、なにも、なにも比べられるものとてない……。


JB: It looked like you had a moment of camaraderie with your crewmates up there.

ベゾス:上では、同乗者たちと友情のひとときを持てたようですね。


WS: Oh, we all hugged each other. You know, you share, it’s like being in battle together, really. And there is this bonding of being in battle. But you’re also embattled inside yourself. Oh my goodness. I have had an experience.

シャトナー:ああ、たがいに抱き合ったよ。みんなで戦いのときをわかち合うようなものさ、本当だ、戦いの絆というものがあるわけさ。でも、自分の内面とも戦いをしいられるんだよ。ああ、なんてことだろう。なんてすごい経験をしてしまったんだ。

(ケ)
211019ST.JPG 
『宇宙大作戦』のカーク船長、ウィリアム・シャトナー(右)。
 宇宙船エンタープライズ号の模型を前に、
盟友のスポック副長を演じたレナード・ニモイとともに。
public domain



※ 聞き取りと訳に協力してくださったかたに感謝します。
posted by 冬の夢 at 21:36 | Comment(0) | 時事 国際 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く:ペンネーム可・アドレスは表示されません
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: