2021年06月14日

コロナ禍にもかかわらず、ちょっと(とても?)素敵な出来事(1)

 どんなに贔屓目に見たとしても、日本政府の感染症対策が失政に失政を重ね、ほとんど破綻していることは明らかだ。パンデミックの危険性が明らかになって2年近くが経とうとしているのに、感染症に罹った多くの人が入院もできない状態が続いているなんて、これで先進国と言えるのか? さっさと各地に感染症専門の病棟を増やすべきなのに、それがいまだにできないどころか、この先も対策を立てるつもりはないようだ。ということは、今後も実店舗で展開している小売業界、飲食店関連、一部のエンターテインメント業種等々に甚大な経済的打撃を与える「緊急事態宣言」を気ままに出して、それで患者数を操作することで医療崩壊を辛うじて防ぐという、正にイタチごっこのような、対策とも言えない対策を続けていくつもりなのだろう。そして、忌々しいことこの上ない「ソーシャル・ディスタンス」! ただでさせ陰気な日本社会にあって、「食事のときは会話しない」(黙食というそうだが、こんなことを真面目に言っているとは!)とか、「路上で知人に会っても、会話は短めに切り上げる」とか! 「電車の中で会話するな」とか! これでは最早「半分死んでいる」と言ってもいいのではなかろうか。その上、もう何も言いたくはないが、東京オリンピックなどという狂気の祭典が待ち受けている。「もうどうとでもしてくれ!」と、自暴自棄な気分になるのは別にぼくだけではないと思う。

 しかし、このコロナ禍の時期、そんな鬱陶しい気分を、たとえ一時とはいえ一掃してくれるような、爽やかとしか言いようのないような、ちょっとした出来事に3件ほど遭遇した。いや、遭遇という言葉は間違いだ。自分自身が一方の当事者だったのだから。もっと端的に、「しみじみと嬉しくなるような、ほんわかと明るい気分にしてくれるような、小さな親切、配慮とも言えないくらいの、本当にさり気ない、しかし、よくよく考えれば滅多に期待できないような親切な行為を受けた」と言うべきだろう。そうは言いつつ、この嬉しい気持ちの本当の正体が自分でもよく分かっていない。単に「得をした」というだけではないはずだが……この3つのエピソード、本当は一つ一つ丁寧に、もう少し詳しく書きたいところだけど、最近なぜか文章を書く気力がなくなっているので、それぞれ要点だけ。それでも、しみじみとした「良さ」は伝わることと願っている。

1)フランスに本拠地のあるガレージ・オーディオ・メーカーの話
 お恥ずかしいことに、いわゆる「巣ごもり」の影響か、音楽CDとワインをやたらと購入している。そして、ついつい悪癖が顔を覗かせ、またしても中古アンプを購入してしまった。それも「通電しない」と明示されている、つまり半ば壊れた真空管アンプ。時間潰しにネット・オークションを眺めているときに偶然見つけてしまったブツはこれ。

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(手前が300B、真空管が大きい!  後ろの控え目なのがEL34シングルアンプ)

 真空管アンプの中でも最も名高い300Bという真空管を使ったAudion Silver Night 300Bというシングルアンプだ。シングルアンプというのは以前にも別の機会に書いたけれど、真空管アンプとしては最もシンプルな構造のもので、使用される部品も少なくなるため比較的安価にもなるが、目の玉が飛び出るほど高価なシングルアンプだっていくらでもある。特に300Bという真空管は安くても1本3万円くらい、高ければ10万円を超すこともあるので、使用する本数に比例してコストがかさむ。庶民にとってはシングルアンプの方が好ましく感じられるのも当然だろう。が、それはともかくとして、海千山千のオーディオマニアから見れば価格の点でも性能の点でもごく他愛もないアンプであることは百も承知だが、当人にとっては非常に思い入れのあるアンプで、もう四半世紀も近く前、今ではすでに鬼籍に入ってしまった友人も含め、数人の同好の士(つまり、それなりにオーディオ機器に興味関心を払い、いっそう大事なことには、音楽をまるで心の栄養素か回春剤のように愛好している友人たち)と音楽雑誌を見ながら、「このアンプ、小さいけれど良さそうじゃないか?」と話していた、正にそのアンプだった。(当時の薄給では、いくら欲しくても手が届く価格ではなかった。)

 しかし、どんなに思い入れがあったにしても、通電しないでは話にならない。が、考えようによっては、「通電するし、真空管も新品だが、明らかに壊れている」代物よりも「通電しない」という故障の方が単純で、案外と簡単に修理できる可能性もある。事実、通電しない原因の最たるものは、単にヒューズが切れているという、故障ともいえない故障だ。念のために出品者に問い合わせると、「そうかもしれないが、『ヒューズが飛ぶ』ということ事態が異常事態なので、やはりジャンク品だ」という、剣もホロロというか、誠実というか、ともかく、いやにあっさりとした返答が戻ってきた。

 それから悩むこと数日。結局、かなりの安値で、昔から欲しかった300Bのシングルアンプを手に入れることになった。が、問題は修理だ。このアンプ、かつてはイギリスに本拠地を置くガレージメーカー製で、今の住所はフランスになっている。そして、4半世紀前は日本のどこかの販売店が独占的に取り扱っており、そのときならその販売店を通して修理依頼もできたけれど、今は自分で手に負えない修理となれば、フランスまで郵送するしか方策はない。最悪(?)、「古いアンプを修理します」と謳っている近隣のオーディオ屋さんに依頼するという手もないではないが、せっかくの、自分としては「伝説的」という形容詞でも付けたくなるようなアンプなのに、他所様の気ままな修理には委ねたくない気持ちも強い。つまり、メーカー純正の部品を使って、メーカーが納得する状態にしてもらいたい。そうでなくては、わざわざお金をかける意味がない。

 そこで、恐る恐る(?)フランスのメーカーに英語でメールを書いてみた。「斯く斯く云々、もしもオーバーホールを頼むとして、費用はいくらくらいになるのか、云々」。すぐに返事が来た。ビックリするくらい安価だった。輸送費がなければいつでも気楽に、何度でも頼みたくなるくらいの値段だ。これはいまだに信じられないくらい。確かに、使っている部品の数も知れているし、回路構成も比較的単純。修理するといっても、真空管を交換するか、ハンダをつけ直すか、電解コンデンサーを交換する程度だから、「手数料+実費」ということで、真空管は交換しなくてもいい(こちらで用意する)となれば、安価であることも、ある意味では当然だ。が、今の世でこういうことは滅多にない。少なくとも日本では「手数料」というのは、何だかとても高くなっている。
 が、「しみじみと良い話」は、別に「手数料が破格に安かった」なんてことではない。また、「返信がすごく素早かった」なんてことでもない。

 オークションで手に入れたアンプが手元に届き、最初にしたことはもちろんヒューズの点検。が、残念! 目で見た限りヒューズはピンピンしており、どこにも異常は見られなかった。が、念のために、普段使っているEL34アンプのヒューズをちょっと拝借し、交換して試したところ、やはり300Bアンプの方は通電せず、EL34アンプの方は何の問題なく作動した。つまり、故障はヒューズではないということだ。となると、遠路遙々フランスまでアンプを送り届けるしかないわけで、そうなると、またまたメーカーに「斯く斯く云々、近々修理のためにアンプをそちらに送りたいのだが、真空管や電源コードの類は一緒に送らなくてもいいのか、云々」のような問合せを行い、先方からも「真空管の特性などのチェックをしなくてもいいのなら、真空管は送らなくてもいい。が、破損が心配というだけなら、真空管はちゃんとパッキングすれば案外と破損しないぞ、云々」という親切な返事が届いた。そこで、いずれにしても真空管を外すことにして、あらためてアンプの隅々をしげしげと眺めたところ、なんと! ヒューズがもう一つ別の場所で使われているではないか! 元々のEL34アンプでも、そして年代物のトランジスタ・アンプでも電圧ヒューズは1箇所だけだった。が、この300Bアンプでは、どういう理由かは知らないが、異なった電圧のヒューズがそれぞれ異なった場所で用いられていた。そして、そのヒューズを見ると、見事に焼き切れているではないか。

 そして、ここで新たな問題が発生。EL34で使っているヒューズと、300Bアンプで、先に確認したヒューズは125V 4Aの表示のものなのに、今し方発見したヒューズは125V 1.6Aの表示のヒューズだった。こんな小さなヒューズなんて近頃は滅多に目にしない。(そもそも、ガラス管ヒューズが珍しい。)近所のホームセンターを探し回ったが、2Aのヒューズはあるものの1.6Aがない。そこで、またまたフランスのメーカーに問い合わせる。「斯く斯く云々、実はヒューズno.2が焼き切れていたようで、修理依頼する前に、このヒューズを交換してみようと思うのだが、1.6Aのヒューズが手に入らない。厳密に言って、2Aのヒューズで代替すると何か危険があるか、云々」。

 すると、案の定、またすぐに返事が届いた。その返事は「おかしいな。日本では125V 3.0Aのヒューズが適格なはず。でも、2.0Aのヒューズでも大丈夫。しかし、1.6Aだと小さすぎるかも。ヒューズが焼き切れたのはおそらくそのせいだろう」。そこで、早速2Aのヒューズを入手して交換、ビンゴ!! アンプは何の問題もなく復活した。そのことを「大騒ぎして申し訳ない」と報告すると、「簡単に直って良かったね。何かあればいつでも遠慮なく連絡してくれて結構だから」という親切なご返事。
 
 さて、以上のやり取りだけでもかなりの好印象なのだが、何といっても中古で手に入れた機材なので、真空管のことも気になってくる。このアンプには目を引く大型真空管300Bの他に6922という真空管と5687という真空管、合計3種類の真空管が使われている。(ぼくが手に入れたのは初代なので、5687が使われているが、カタログによると、現役の3代目は6922が2本使われているようだ。それは当然で、5687という真空管は今では新たに作られていないので、この先の安定供給にかなり暗雲が漂っている。)

 さて、たった今書いたように、5687には5687の問題があるのだが、いっそう悩ましい(?)問題は6922の方だ。この6922という真空管には言わば「双子の兄弟姉妹」がやたらと沢山いる。つまり、「名称は違うが、特性は完全に、あるいはほとんど同じ」という真空管が複数存在する。互換性というものと理解されたい。曰く、6DJ8、ECC88、E88CC、等々。そして、これにまつわって一番面倒なのは、ロシア製と日本製の真空管。かつての真空管黄金時代、おそらく著作権、特許なんてものに関する意識が、良くも悪くもユルユルだった頃、似たような真空管を「後進国」の旧ソ連や日本でも大量に開発した。6922と6DJ8を元に、旧ソ連では6N1Pというのを作り、宇宙ロケットにも使っていたらしい。で、マニアの中では「西側の6922や6DJ8よりも性能がいい」なんてことが言われていたりする。しかし、一方では(どうやらこちらの方が真実らしいが)「6922≒6DJ8と互換性のある旧ソ連管は、6N1Pではなく、6N23Pだ」とも言われている。ところが、困った(?)ことに、6N1Pという互換性に疑いのある真空管は、案の定、破格に安い。6N23Pも安いときはかなり安く手に入るが、ともかく、6N1Pは他の真空管の10分の1か場合によっては20分の1(つまり捨て値)で入手できる(可能性がある)。が、互換性に問題が……

 そこで、困ったときはメーカーに問い合わせ、ではないが、調子にのってまたまたフランスに相談してみた。すると、「6N1Pを自分で試したことはないが、特性を調べた限りでは使用できるよ。6922の類は本当に沢山あるから、色々試してみるといい。うちにも良いのが一杯あるけど、どう?」という返事が届いた。わざわざ調べてくれたところがありがたい。そして、6N1Pが大丈夫ということになれば、国産の日立が作った6RHH8やら6RHH2というのもおそらく大丈夫なのだろう。というわけで、その後細かい真空管が雨後のタケノコのように我が家で増殖したことはいうまでもない。

 しかし、いったいこれのどこが「しみじみと良い話」だというのか……やはり、実際のメールのやり取りが再現されないと上手く伝えられないのかな……その店長兼メカニック兼営業員さんの、何とも自然体の親切は。でも、事実として、この一件からはかなりの元気を貰ったような気がしている。

 残る二つのいい話は、

2)30年以上前の思い出のボールペンを無料で修理してもらった話
3)自転車の、取るに足らない小さな部品、どこでも売っていない部品をメーカーが送ってくれた話

 これはまた時間のあるとき、気力があるときに書くことにしよう。 (H.H.)

posted by 冬の夢 at 03:47 | Comment(0) | 日記 話題・意見・世相 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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