2020年07月02日

「香港頑張れ!」とさえも言えない……

 このところ気になってしようがない主題が二つあり、どちらを先に話題にしようかずっと悩んでいた。ひとつはとうとう香港に施行されてしまった「香港国家安全維持法」。もう一つはこの20〜30年の間の日本社会の沈滞振りに関すること。どちらも考え始めると、心の中に耐えがたいほどの嘔吐感がこみ上げてきて、何とか言葉にして吐き出さないと、それこそ日常生活にも支障が生じかねないくらい。しかし、やはり、先ずは香港のことから−−こちらの方が緊急性も重大性も遙かに高いのだから。

 幸か不幸か、香港に親しい知人、いや、親しくない知人さえ一人もいない。その意味では、香港がどうなろうと所詮は他人事だ。日本にいる人間がわざわざ首を突っ込むようなことではないのかもしれない。しかし、どんなに赤の他人であっても、不当に痛めつけられている人を自分の眼で見てしまったら、もう見て見ぬ振りはできない。見ない振り、気づいていない振りができないとなれば、不当に痛めつける側に浅ましくもすり寄るか、不当に痛めつけられる側に寄り添うか、どちらか一方に我が身を定めない限り、心の平穏は得られない。

 そして、これもまた幸か不幸か、中国のことはほとんど何も知らない。自分の無知蒙昧を公言することは阿呆の二乗とも言えるが、実際、中国のことを特に知りたいとは全く思わない。(私事ながら、亡父からは常々「お前は西洋のことは少しは知っているのかもしれないが、中国のことは何も知らないから半人前以下だ」と散々に叱られ続けた。が、それでも今なお「申し訳ないが、中国のことを知る努力をする時間と余力があるなら、ギリシアやローマのことを知る方が先だ」と思ってしまう……根っからの「西洋かぶれ」とご容赦願うしかないようだ。)

 中国のことは何も知らなくても、日本で生まれ育った人間の最低限の責任として、日本の近代史については多少は知っている。そうした目で見ると、今度の「香港国家安全維持法」というものが、その名称だけではなく本質においても、戦前の日本の「治安維持法」と酷似していることは容易に理解できる。中国語は知る由もないので、情報は全て日本語と英語を通してだけだが、どちらの新聞を見ても、この気色悪い法律の全貌が見えない。というか、そもそもまともな実体なんぞあるはずもなく、わざと曖昧にしている節もある。どうやらイギリス政府が大急ぎで分析を進めている最中らしいが、詳細を知るまでもなく、この新法が香港の民主化・自由化運動の封じ込めを狙っていることだけは、それこそ真昼の太陽並みに明白だ。事実、すでに香港の民主化運動のリーダーたちは自らの政治団体からの脱退を表明している。さもなければ、彼ら、彼女たちは今日(7月1日)にでも逮捕拘留されていたことだろう。そして、たとえ政治団体からの脱退を表明したにしても、彼ら、彼女たちの身の安全が今後はこれまで以上に危ぶまれることには、これまた不幸なことに疑問の余地がない。ちょうど、戦前・戦中の日本で、社会主義者や反戦論者たちが治安維持法の影に怯え、ときにはその法の下に虐殺されたように、香港の活動家たちも本質的に同じ危険に晒されることになるのだろう。

 治安維持法や香港国家安全維持法の恐ろしいところは、この種の法律さえあれば、当局は好き勝手し放題、全ての反対分子を大手を振って根こそぎ絶滅させることができる点にある。当局の目から見れば、政府に反対する者は例外なく「国家の安全を脅かす存在」なのだから。そして、名実共に三権分立の原則のない、自称・社会主義人民共和国にあっては、いったん当局から「国家の安全を脅かす存在」と見なされてしまえば、それを覆す方策はない。実際、7月1日付の英字新聞The Guardianを読んだ限りでは、外国の政権や政治家、マスコミに中国政府に対する制裁措置行動を求めることだけでも犯罪要件を満たすらしい。となれば、例えばこのような個人のブログや tweet に反政府的文言を書き残しただけで逮捕拘留されることが十二分にあり得るわけだ。(戦前・戦中の知識人の中には、卒業文集に書いたちょっとした文言を見咎められて憲兵隊に捕まった人たちもいたらしいが、これと全く同じことが香港でも繰り返されることだろう。)その上、当局が重大事件と見なした場合は、身柄を中国本土に送致し、裁判も中国本土で行うことができるという。香港のいわゆる民主化運動=抵抗が激化したのは、この「中国本土への身柄送致」を争点としていたわけだから、要は天安門事件のときと同じで、とうとう中国共産党政権は自らの本性を丸出しにして、しかし、今回は戰車で轢き殺す代わりに、より陰湿な国家安全維持法という弾圧装置を持ち出し、この古臭い、しかし極めて悪質な装置を使って、自由を求める勢力を押しつぶしたというわけだ。

 おそらく、今香港で行われようとしていることは、軍事政権下の日本やナチ政権下のドイツで平和主義者や反戦論者に対して行われたことと大同小異である。そこでは言論の自由も、集会の自由も、したがって移動の自由さえも制限される。

 しかし、仮にそうだとして、いったいぼくたちに何ができるだろう? 「香港頑張れ!」と言うことさえ空々しい。それに、この香港国家安全維持法は外国人にも適用されるらしいので、日本人だろうとフランス人だろうと、「香港頑張れ!」と香港で口にしようものなら、即逮捕されかねないのだ。何とも凄まじい弾圧装置であることか!
 
 イギリス政府は250万人〜270万人分のパスポートを用意しているらしい。これはこれで結構なことだけれど、そして、同時に、自称・自由主義国の面々には是非とも香港の活動家たちの身の安全を守ってもらいたいと切に願っているけれども、それでも「香港」が早々に消滅してしまうことは避けられないのではないか。ともかく、個人としては、今後は中国製品を一切ボイコットすることくらいしか思いつかない。あるいは、「香港加油」と書いたTシャツを着て歩き回ろうか……蟷螂の斧とは承知しつつも。 (H.H.)
posted by 冬の夢 at 03:11 | Comment(0) | 時事 国際 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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