2020年06月15日

「男はつらいよシリーズ」全作品鑑賞苦行記 @(の予定)

 四月からBSテレ東で始まった「土曜は寅さん!4Kでらっくす」。これまでも「男はつらいよシリーズ」は度々番組化されてきたが、今回はTV初の全作4Kデジタル修復版での放映。私がこのシリーズを真剣に見ていたのは随分昔で、二十作以降は全く見たことがない。人生の日暮れどきに差し掛かったこともあり、「男はつらいよ全作品鑑賞」の苦行を始めることにした。本来なら盆と正月の年二回、楽しみにして見るべきものを、毎週見なければならない。そこが苦行たる所以で、録画したのが溜まってすでに遅れをとっている。全四十九作を踏破出来ないかも知れないが、まずは序盤戦から着手しよう。
 再見してみて改めて驚かされるのは、車寅次郎がハイレベルな迷惑行為を繰り返す人物であること。こんなのが親戚にいたら、おいちゃんではないが、「オリャ知らねえよ」と言いたくなるだろう。漫然と見ていても仕方ないので、作品ごとに寅さんがどんな面倒を引き起こしたのかに着眼してみたい。
 製作順、タイトル、公開年、マドンナ女優、採点を表記して、具体的な迷惑行為の内容、さらに印象的な名場面がある場合のみ特記を加える。なお、採点は、例によって双葉十三郎基準(※1)に則った個人的な見解となります。

[1]『男はつらいよ』 1969年8月 光本幸子 ☆☆☆☆
【迷惑行為】さくらの見合いの席においちゃんの代わりに列席した寅。したたかに酔っ払い、ズウズウとスープを啜り、「糞という字は米が異なると書く」と放言する。会場はホテルニューオータニ、相手は広川太一郎。広川の母親が耐えかねて席を立つが、観客でさえ直視出来ないほどの醜態。さくらが可哀想になるくらい恥ずかしい。
【名場面】とらやの食卓でさくらへの思いを打ち明けた博はそのまま印刷所を去る。そんな博を京成線柴又駅まで追いかけるさくら。発車する電車に博と一緒に飛び乗る。さくらの芯の強さと固い決意が伝わる文句なしの名場面。

[2]『続 男はつらいよ』 1969年11月 佐藤オリエ ☆☆☆★★
【迷惑行為】入院先の病院から抜け出した寅は、弟分の登と二人で焼肉店で暴飲暴食したあげくに金を払えず店主を殴りつける。警察沙汰となり勾留寸前となった寅。呼び出されたさくらが身元引き受け人になって連れ帰る。
【名場面】東野英治郎の先生宅で佐藤オリエの結婚話を聞かされる寅。縁側のガラス戸に背をもたせていたのが、庭にひっくり返って「アハハ、転んじゃった」と照れ笑い。シリアスな場面でコケて、泣きたいのに笑う寅。その原点となる渥美清の名演技。

[3]『男はつらいよ フーテンの寅』 1970年1月(監督 森崎東) 新珠三千代 ☆☆★★
【迷惑行為】勧められて見合いに出かけた寅を待っていた相手は、昔馴染みの仲居で亭主持ち。寅は亭主との仲を取り持ってやり、祝宴まで開いてハイヤーに乗せて送り出す。ところがかかった費用全額をとらやに請求させ、おいちゃんと大喧嘩に。
【名場面】なし

[4]『新 男はつらいよ』 1970年2月(監督 小林俊一) 栗原小巻 ☆☆★★
【迷惑行為】競馬で大儲けした寅がおいちゃんとおばちゃんをハワイ旅行に招待。しかし代金を預けた旅行代理店の社長が持ち逃げして旅行はパーに。近所の手前、出発したふりをした三人は、とらやに潜伏するはめに。
【名場面】なし

[5]『男はつらいよ 望郷篇』 1970年8月 長山藍子 ☆☆☆★★
【迷惑行為】寅が久しぶりにとらやに電話すると、おばちゃんがからかって「おいちゃんが危篤だよ」と冗談を言う。真に受けた寅、近所中走り回って葬式の準備を万端整えて帰還すると、そこには元気なおいちゃんが待っていた。
【名場面】額に汗して働きたい寅だが、何をやってもうまく行かない。結局は荒川の渡し舟でうたた寝をしてしまう。ゆらゆらと川をさまよう渡し舟の寅を真上から俯瞰でとらえた名ショットは、たぶんシリーズ随一。

[6]『男はつらいよ 純情篇』 1971年1月 若尾文子☆☆☆
【迷惑行為】独立をしたいと言う博、博を引き留めてくれと言うタコ社長。そんな二人に「俺に任せろ」と仲立ちを安請け合いする寅。互いに勘違いしたままの宴会で未解決だったことが明らかに。博が金策に詰まり、結果的には元の鞘に収まる。
【名場面】森繁久弥とのやりとりで「故郷があるから甘えてしまう」と悟る寅。それを受けて柴又駅で電車に乗った寅は、さくらに「故郷ってのはよ…」と言い残して去って行く。兄妹の情が画面に滲む。

[7]『男はつらいよ 奮闘篇』 1971年4月 榊原るみ ☆☆☆
【迷惑行為】ミヤコ蝶々の母きくが泊まる帝国ホテルの部屋でトイレを借りる寅。用を足して「さすがに広いトイレだね」と満足気で出てくる。トイレだと思いこみ、鏡を横に用を足し、お湯で流したのはバスタブだった。頭を抱えるきくとさくら。
【名場面】なし

[8]『男はつらいよ 寅次郎恋歌』 1971年12月 池内淳子 ☆☆☆
【迷惑行為】博の母親の葬儀に平服で駆けつけた寅。見知らぬ人から喪服を借りる。葬儀後、諏訪家揃っての写真撮影となり、さくらからシャッター押してあげなさいよと言われ「はい、笑って」。葬式でしょと怒るさくらの顔を見て訂正して「はい、泣いて」。
【名場面】酔っ払って、酒場で出会った知人をとらやに連れ帰る寅。ビールを出させたうえにさくらに「何か歌えよ」と強要する。静かに「かあさんの歌」を唄うさくら。うなだれる寅。倍賞千恵子のアカペラが美しい。

***

 こうして振り返ると、初期の寅さんは本当に困った人で、見ている観客も心底困ってしまう。特に第二作の無銭飲食と店主への暴力行為は犯罪そのもの。「男はつらいよシリーズ」を初めて見る若い人たちからしたら、出来るだけ関わりたくない人物としか映らないだろう。だからなのか、寅の迷惑行為は徐々に内輪だけのものになって行く。『寅次郎恋唄』は諏訪家の兄弟を怒らせてしまっているけど、遠縁の範囲。第一作のメチャクチャぶりに比べればどうってことない。

 さて、こうして序盤戦はこなしたものの、まだ四十九作のうちたったの八本。まだまだ先は長い。第八作までの共通点は森川信(※2)がおいちゃんを演じたこと。寅の迷惑行為に「オリャ知らねえよ」「あ〜、イヤだイヤだ」「バカだねえ、あいつは」と嘆いていた森川信は、第八作が公開された三ヶ月後に他界した。最後の出演となった『寅次郎恋唄』では寅がおいちゃんのことを過去形で語る場面が出てくる。俺のことをそんなに死なせてえのかとかなり本気になって喧嘩するおいちゃん。まさか本当に死んでしまうとは、森川信本人も思ってもいなかったはず。役の上のこととは言え、渥美清は酷く気にしたことだっただろう。(き)


男はつらいよ01.jpg


(※1)双葉十三郎の星取り(採点)は以下の通り。
☆☆☆☆=ダンゼン優秀
☆☆☆★★★=上出来の部類
☆☆☆★★と☆☆☆★=見ておいていい作品
☆☆☆=まア水準程度
☆☆★★★=水準以下だが多少の興味あり
☆☆★★以下=篤志家だけどうぞ

(※2)森川信(もりかわしん)は、「男はつらいよ」TV版のときからのレギュラーを渥美清とともにつとめた。ちなみにTV版では、さくら=長山藍子、おばちゃん=杉山とく子、博=井川比佐志で、この三人は揃って『望郷篇』に出演している。




posted by 冬の夢 at 22:08 | Comment(1) | 映画 男はつらいよシリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 タイトルからしてつらいよ、読むだにつらいよ、完遂を待つのがつらいよ。
 またどうして、かような「苦行」をはじめたのか。
 待てよ、なぜ始める前から「苦行」と分かっているのか。
 いつしか快楽に変わる、というやつでしょうか。
 シリーズが四十九本だったとは知らなくて、驚きました。亡くなった出演者や制作関係者の追善には、なりそうですね。
Posted by (ケ) at 2020年06月16日 10:34
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