2020年06月11日

ウィントンの娘として、その言葉を聞く─2020年5月31日、あるトランペット奏者の発言【説明】

 全米で起きている抗議行動と、中西部ミネソタ州ミネアポリスでの警官による黒人殺害事件に関連して、トランペット奏者のウィントン・マルサリスが、その思いをフェイスブックやブログへ投稿している(二〇二〇年五月三十一日)。

 その投稿の最後に、マルサリスは数多い自作から五つの盤をあげた。
 アメリカがもたらす災厄と難問に関わることに、あたかもとり憑かれてしまったかのように向き合ってきたというマルサリスは、彼の両親から教わった、自由への前進が誰にでも可能であるということを守るため、おりあるごとに世の中の人の注意をうながす作品を作ってきた、というように書いている。あげられた五作は、そうしたマルサリスの意思が結実した自薦作ということだろう。

『Black Codes(From the Underground) 』(1984)、『Blood on the Fields』(1997)、『All Rise』(1999)、『From the Plantation to The Penitentiary』(2006)、『The Ever Fonky Low Down』(2019)

 マルサリスのリーダー盤は、もちろんいくつか持っているけれど、この五作では『Black Codes』しかない。しかも、さほど熱心に聴いたことがなく、探しているがなかなか出てこない。
 今回のマルサリスの投稿を読んで手にとれば、ジャケット写真の意味は何も調べなくても即座に理解できるし、マルサリスの経験をイメージした場面に違いないこともわかる。しかし、この盤を買ったとき、たしか何かを読んでジャケット写真の含意は知っていたと思うが、あまり深くは気にとめずに聴いていた。

 この人の場合、ジャズ・トランペット奏者としてこういうタイプだから、ファンなのかそうでないかということで、買ったり買わなかったりしたことはない。彼ほど群を抜いた演奏力があれば、それが、彼が開拓しチャレンジする音楽でどう発揮されるかを聴くことに意味があるからだ。
 だから、アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズに起用されて知られるようになったころは、その爆発的なテクニックを称賛した人たちが、「上手すぎてつまらない」と言い出したのは、すこし不思議に思った。

 それはともかくとして、正直にいわなければならないのは、わたしには「尻ごみ」感があったと思う。たとえばチャールズ・ミンガス、あるいはマックス・ローチ、そして……なにかが切実に力説されていることはわかるけれど、体感として共有できない。かといって、バカと思われるのはイヤだから、知らんふりもできない。
 そういうとき、マルサリスが投稿に書いたとおりのことが、若い日本人だったわたしにも起きて、より大人になっても修正されることがなかったのだ。それは、なまじっか平和平等人権なんて言葉を知っているから、かえって、容易には解決できない根本的な問題に対しては、あたかもそれが存在していないかのような態度をとれてしまう、というやつだ。

 たまたま最近あることから、もうジャズは聴かなくてもいいや、という気分になっていた。
 しかし、その直後にウィントン・マルサリスの、この投稿に偶然出会ったら、この人の言葉に、そしてこの人自身が推す作品に、耳を傾けなおさなければならない気がした。マルサリスはクラシック音楽家としても有名なので──文頭で「トランペット奏者」と書いたのはそのため──聴くべき音楽はジャンルを超えるが、数はかぎられていたけれど思春期にジャズという音楽に人生の借りを作った以上、なすべきことをしなければ、と思ったのだった。

 さっさと訳して載せたように見えたかもしれないが、とんでもないことで、訳すのは難しく、時間もかかってしまった。友人の手助けあっての手直しを繰り返せなかったら、読み下せる文にさえ出来なかっただろう。
 拡散されること前提のSNSに公表されたものとはいえ、断りなく全文を訳し、こうした匿名の同人ブログに掲示するのはどうかとも思うが、あえて強くいいたいのは、「ウィントンが、こんな感じの文を書いたみたいよ」では、この場合はぜったいにダメだ。どうしても全文でなくてはいけない。
 そして、マルサリスが、彼の娘に説明しようとしたと書いたことをうけて、彼の娘になったつもりで、その発言を聞こうと思う。ちなみに、マルサリスはまったくの同世代──わたしと完全に時代を一にする音楽を作ってきた人──だけれども。(ケ)

200610bc.JPG 
Black Codes (From the Underground)  1984

【全文と訳;@(@〜B)はこちら】

■訳文には誤訳がありえます。そのため訳文の複写使用は控えていただくよう、お願いします。

posted by 冬の夢 at 16:10 | Comment(0) | 時事 国際 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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