2020年04月02日

散歩と観察と運動不足 .

 運動しなくちゃならないけれど、スポーツ音痴だから、せめて散歩を続けている──という書き出しで、近所の様子を書いてきた。
 しかし四月に入った東京では、散歩も、ままならなくなるかもしれない。

 繁華街には行かず、電車・バスの利用も控え、居宅から徒歩で回れる範囲だけ。茶見世での休憩もやめ、人が少ない道を選んで歩く。
 前に書いた文に、一度の散歩で複数の区を踏破するように読める部分があり、驚く人がいたが、「しっかり歩き」が必要だから、ある程度は距離を歩くことと、東京の地図を見ていただくと、区や市の境が複雑で、宅地を少し歩くだけで二つ三つの区や市を通り抜けてしまう地域が案外ある。たまたま、そういう所に住んでいる。

 集団感染が起きやすいとされる環境には縁がない。
 人と会うことが主だった仕事はとうにやめ、通勤もない。
 といっても、まったく人と接さずに暮らすことはできないし、対面での用事が思ったより手間どり、「濃厚接触」になる可能性もある。

 文にすると、心配で夜も眠れないようだが、分秒もなく不安がってはいない。人づき合いが苦手でも孤独ではない、という幸福に浴せてきたから、人を過剰に怯えさせる文にするつもりもない。
 危機感は持っているが、それでも感染したら、死ぬ可能性が低くないことは了解している。「運動しなくちゃならない病気」──かくすこともないですが──や過去の病歴、年齢などから。
 ならば、諦念と平常心で生きているかというと、そんな達観はムリ(笑)だ。
 この気持ちを、うまく書くのはむずかしい。なんとなく怯えながら生きている、だろうか。

       ♪

 三〇〜四〇世帯ほどの低層集合住宅に住んでいる。部屋にいる時間が長いと、さまざまな音が、ほかの居住者の暮らしを感じさせるのに気づく。

 ドスンバタンという音が激しくなった気がするのは、自宅待機世帯が多いから、この機会に整理や模様替えをするのか、あるいは子どもの室内遊びか、などと想像していたら、何世帯かが引っ越していくと知った。
 知り合いの管理のオバチャンと居住者の会話も、よく聞こえる。オバチャンは、わたしには居住者のマナーの悪さを訴えることがあるが、入居者の誰に会っても、無難な話題に終始している。
 各階の通路や駐車場は、子どもの遊び場になっている。早朝からだと辛いが、しかたがない。
 早朝といえば、高い靴音を響かせる出勤の人たち。
 ヒールを鳴らす音などは、かねてから苦情が出ていたが、テレワークが増えたためか、このところ止まっていた。それが、四月になって早朝の靴音が再開している。それもガッガッガッという音が、飛び起きてしまうほどひどくなった。自宅作業が許されない仕事の人たちの不安といらだちが、朝の歩みにこもっているのだろうか。

       ♪

 こんなふうに、「観察」は「聴察」になった。
 もっと聴きとる力があり、筆力もあったら、尾崎一雄(一八九九〜一九八三)のリスニング版みたいな文が書けて、尾崎のように病床に伏すことになっても、がまんできるかもしれない、と思ってみたが、耳ざといことと繊細さとは違うし、筆力もない。だいいち、感染して死ぬことになったら、あっという間に、誰にも会えずに死んでしまうわけだ。

 感染すると味覚や嗅覚がおかしくなる場合があり、重態になりでもしたら、ものごとの見聞もままならない──と聞くと、後味がとても悪かった映画『パーフェクト・センス』(Perfect Sense; 2011・英)を思い出してしまう。なんとか押さえつけていた不安と憂鬱が、しつこくカマ首をもたげる。
 そこへさらにメドゥーサの呪いのように飛んできたのは、二次健康被害という概念だ。
 外出自粛で運動不足になり、生活習慣病になったり、もともとそうである人は悪化するそうだ。そういう警告が専門家筋から出ている。
 そんなことは言われなくてもイヤというほどわかっているわけで、したり顔で解説している専門家とやらには、まったくウンザリさせられる。

 自分が書いていることを、いま一度ふり返ってみる。
 自分で観察できたことだけを淡々と書くといいながら、つい不安をあおるようなことや、イカサマ予言師みたいなことを書いていないかと。
 四月一日、エイプリル・フールに、デマを流すぞと意気込んでいるアホが多数いるらしい話を聞きつけたが、それもまた、デマだったのだろうか。(ケ)

200402He.JPG 
「貴婦人と一角獣」から「聴覚」
Sound late 15th century
public domain



■二〇二〇年七月二十一日、文のつながりのみ直しました。


posted by 冬の夢 at 14:01 | Comment(0) | 日記 話題・意見・世相 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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