2019年12月12日

東京・渋谷の新東急プラザ「フクラス」に行ってみた

 かつて、とは、十年ほど前までのこと、イヤというほど渋谷に行っていた。
 仕事の打ち合わせ、品の受け渡しなどで、待ち合わせは東口なら東急文化会館、西口は東急プラザが多かった。
 それは無理もない選択で、渋谷には座って話せる場所が多くなかったし、渋谷駅から離れるなら、どこも坂を上がらなければならないからだ。

 ご存じのとおり、そのころの渋谷駅周辺はすっかり姿を変え、文化会館は「ヒカリエ」として七年前に開業、プラザは複合施設「フクラス」となって、この十二月初めに営業をはじめている。
「ヒカリエ」が出来たときはまだ会社員で、開業まもなく行ったが、直後に仕事をやめて関西にいたりもして、以後の渋谷の様子はあまり知らない。
 いまは渋谷からさほど遠くない所に住んでいるから、「フクラス」に行ってみることにした。

 渋谷は変わってしまった、昔はよかった、という思いはない。
 学生時代の徘徊地は、もっぱら新宿だったし、とはいえ上京者なので、渋谷、新宿、池袋、どこにも愛着はない。

 東京の街区風俗の写真を見ていると面白いことがある。建物も人の風体も、ほぼ三〇年前を境に、それ以前の写真は歴史本に載った資料写真のように見える。つまり明らかに古くさい。そこに自分もいたことが、どこか気恥ずかしいような。それ以後の写真は、なぜか二〇年前くらいの写真でも近ごろ撮ったように見えるから不思議だ。
 いずれにしても、自分がよく出歩いた昭和末期の東京風景が歴史となって姿を消したように、平成のそれもまた、ほどなく古び、消えるのだろう。
 惜しいとは思わない。渋谷も、震災も空襲もなかったから五〇年くらい長持ちしてよかったね、くらいの気持ちだ。

新東急プラザ「フクラス」のコンセプト

 十二月五日の開業まもない「フクラス」。
 一度行ったきりなので、勘違いがあるかもしれないから、東急不動産ホールディングスが三日付で出した報道資料で確認しながら書いているが、この資料、美辞麗句の連発はいいとして、見てきたばかりの「フクラス」の説明としては、意味がよくわからない。
 それでも「フクラス」の特徴は、ひと通り回ってみれば、すぐわかる。

(1)大人むけ
(2)モール式
(3)IT だ。

「大人むけ」とは、センター街や道玄坂にはあまりいない、つまり、そのような「渋谷」には来ない、かなり年輩層が対象なのだ。
 楕円の回遊型フロアに「有名店」が並ぶ。スマホやカードでのモノやコトの購入や、AIによるインタラクティブなサービスが前面に出ている。さほど巨大ではないから、三つのコンセプトはショッピングエリア全体に行きわたっている。

 幕開けに並んだ店舗は、伝統素材を使った衣料や、雑貨、道具店、オーダーメイド装身具の店をはじめ、美と健康がテーマの漢方薬店やエコ系コスメショップなど。そして高級仕立ての銀行──資産や相続を扱うという──に、ブース接客の旅行代理店。リユース、アクセサリーリメイク店も目につく。
 デパートならおなじみのブランドショップがないのも特徴で、「BEAMS」が入っている──渋谷に初出店とは知らなかった──が、「和のおみやげ」にシフトした感じの開店ディスプレイだった。
 食堂も、寿司、うなぎ、そば、茶園など、東急プラザ時代の店のほか、渋谷は初出店という「大人的名店」が入った。とくに最上階は、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズのルーフトップ──シンガポールに1か月いたことがあるが行っていない──をやっているのと同じ業者が、ガーデン+レストランを展開している。

 ITサービスはどうだろう。
 じつは「フクラス」の半分は企業階で、GMOインターネットグループ──仮想通貨やネットメディアの会社──が入っている。したがって、同社との業務関係はともかく、店舗階でITサービスを積極化するのは必然か。年輩層むけITサービスの、間口実験というねらいもあるかもしれない。
 その点を考慮してか、インタフェースは入門的なもので、ふつうの電子注文や決済、ある程度のインタラクティブ接客、といったところだ。目につくものでいうと、待ち合わせ場所のホログラム、「GMOデジタル・ハチ公」──なるほどGMOのソリューションだ──であるとか、ソフトバンクロボディクスの初事業だというカフェ──ロボットが注文をとったり話し相手になってくれるらしい──だとか。

昭和世代でも渋谷を楽しめる場所

 かくして、年輩層も安心して渋谷が楽しめる区画が、キレイにできあがった。
 昭和世代のわたしが浮くこともないし、知らないものに困惑させられることもない。
 スマホを持っていないので、カフェには入らなかったが、ポケモンGOに熱中しスマホが手放せない、いまどきの年輩層なら、楽勝でアクセスできるだろう。

 しかし。
 高齢世代のプランナーが企画したかどうかは、わからないのだが、ここに来る「大人」って、こんなコドモだましに喜ぶのだろうか。ちょっと信じられない。
 わたしも含めた、いまの年輩者の欲望って、たかだかこの程度のものなのだろうか。
「フクラス」には「ホンモノ」があるという。それはウソではないにしても、歳をとっているからこそ見極めがつく「ホンモノ」とは、これらのモノゴトではない。絶対に。
 スマホで飲食を頼み、ロボットとお話しし、高級旅行をセットし、漢方薬を買い、ロハス的な衣料雑貨を買って、預金や不動産の整理をする──これらが「大人」のすることだといわれたオッサン、オバハンら──わたしもだけど──は、小声でつぶやく程度でいいから、いったほうがいい。「ばかにするな」と。

 一年後に「フクラス」が、どんな仕立てに変わっているか見るのが楽しみだ、とまでいってしまうと、ただのイジワルジジイだからやめておくが、オッサンもオバハンも──わたしもだけど──渋谷を、ちょっとばかり高級ぶって見せかけるために、もっといえば、渋谷再開発のどうしようもなさを目くらますために、コドモだましな餌で動員されている飾りにすぎないのだ。
 なぜなら渋谷は、クズのような若者たちの、汚いセックスと暴力の場所だからだ。いまどれくらいひどいか知らないが、すくなくともセックスについては、わたしが若いころより間違いなく、ひどいことになっているだろう。
 オッサンもオバハンも──わたしもだけど──明るい時間に「ヒカリエ」や「フクラス」の高い所から下界を見下ろすだけで帰ってしまわず、夜の渋谷の地べたを、広く深く歩き回ってみることをすすめる。(ケ)

191219sB.JPG 
「フクラス」から渋谷駅西口側を見下ろす


Originally Uploaded on Dec. 20, 2019
posted by 冬の夢 at 00:05 | Comment(0) | 時事 社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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