2019年12月11日

雪の六角形とWLet it snow!”

 冬の寒い日、首都圏を車で走っていると、いきなり視界に大きな富士山が入り込んでくる。高低差のある道路のやや標高の高いところ。しかも付近に雑木林や高いビルがないあたり。住宅街越しのかなたにくっきりと浮かぶ富士山。ひときわ大きく見えるのは、空気が澄んでいて輪郭が明快だからか。あるいは車からはほんの一瞬しか目に入らず、その印象が大きく見せるのか。
 今年の富士山の初冠雪は平年より26日も遅い10月22日だったそうだ。温暖化の影響で遅いのかとも考えたが、10月に初冠雪を記録した年は2000年代、2010年代の各10年間でともに6回。気象庁では初冠雪を「寒候期に雪が山頂に積もっているのが付近の気象台から初めて見えたとき」と定義している。要するに担当者が目視して「あ、積もった、かな」という感じで決めているものだから、特定された日にちに深い意味があるわけではない。まあ、季節感を共有するためのお約束事のひとつなのだろう。

 そんな気象庁的な捉え方とは違って、子どもの頃に雪が降るのを楽しみにしていたのはなぜだったろうか。地方都市にいた子ども時代、今よりは確かに雪がよく降った覚えがある。道も舗装されておらず、空き地も多かったから、街中でも雪はしばしば積もっていた。もちろん水分を含んだベタ雪だったので、すぐに雪は土と一緒になって泥沼化していた。そうなる前に積もった雪の若い表面に雪玉をコロコロと転がし、雪だるまを作ろうとして、しかし結局は泥だらけの黒茶色だるまが出来上がってしまうのだった。
 もちろん、これはたまにしか雪が降らない地方の話であって、毎年冬は雪下ろしが重労働となる豪雪地帯では雪への思いも大きく違っていることだろう。そんな雪を有効利用しようと、「再生可能エネルギー」のひとつとして「雪氷熱利用」の事例が挙げられている(※1)。冬の間に降った雪を溜め込んでおいて夏の冷房に利用するということらしい。夏に冷房の必要などなかったのが、こちらこそは温暖化の影響で夏の暑さ対策が必要になったらしい。

 地域の違いはさておき、子どもにとって共通の思いは、小学校で雪の結晶について学んだときの衝撃ではなかろうか。あの空から降ってくる雪が、ひとつひとつの結晶の集合体であって、その結晶が例外なく六角形の幾何学模様だと言うのだ。何という不思議!なんて神秘的なのだろう。けれども理科の教師は自然界のものがなぜ正しく等しく六角形なのかについては何ひとつ説明してくれなかった。ひたすら美しい六角形の結晶の写真を眺めているうちに、理科の授業は終わってしまったのだった。

 なぜを調べると下記のような回答が出てきた。

水分子が凝集していくときには、水素結合という引き合う力が働くのですが、縦方向にも平面方向にも成長していく可能性があります。平面方向へ成長していくときには、酸素の周りの3つの水素が等価になって結合の角度が120度になり六角形の基本構造を作るようです。(中略)温度が−15℃前後で,湿度110以上(*)の条件が揃うと、氷は平面的に成長し、典型的な樹枝状(星状)六角形(六花)の結晶ができます。そして落下中に水分子がこの結晶の樹枝に触れてさらに大きな結晶に成長していきます。
(※2)

 どうやら六角形以前に「120度」という角度が重要らしい。120度の内角が6個ある形、すなわち六角形が分子構造において最も効率性が高い形状と言うことだろうか。自然界では雪の結晶以外にも、いろんなところに六角形が登場する。亀の甲羅、トンボの複眼、蜂の巣の穴。どれも完璧な六角形だ。確かに平面をある形で埋めようとすると、三角形か四角形か六角形でしか埋められない。その中で一番安定性と固定性に優れているのが六角形なのだった。
 だから六角形は工業製品にも多用されていて、六角形や六角柱が組み合わされた形状はハニカム構造と呼ばれている。「ハニカム」という言葉自体は聞いたことがあったものの、英語のWhoneycomb structure"(蜂の巣構造)から来ているとは知らなかった。円を並べると隙間が出来るのに、六角形だときっちりびっちりと空間を埋められる。蜂たちのDNAには蜜を蓄えるための最良の方法があらかじめ組み込まれているのだ。雪の結晶が六角形であることと同様に、神の手のようなものを感じざるを得ない。

雪の結晶.jpg

 雪に話を戻すと、そんな美しい結晶が重なり合って、フワフワと夜空から舞ってくる雪こそが、12月のクリスマスに相応わしい。雪のクリスマスソングと来れば、誰もが知っているWWhite ChristmasW(※3)となるわけで、それではなんとも当たり前過ぎる。タイトルにそのまま「雪」と名付けられた曲を思い浮かべると、すぐに出てくるのがWLet it snow!W。サミー・カーン作詞、ジュール・スタイン作曲のスタンダードナンバーだ。本来は男性歌手の楽曲だけれども、主役を女性にして訳してみよう。


Oh, the weather outside is frightful,
But the fire is so delightful,
And since we've no place to go,
Let it snow, let it snow, let it snow.

It doesn't show signs of stopping,
And I brought some corn for popping
The lights are turned way down low,
Let it snow, let it snow, let it snow.

When we finally kiss good night,
How I'll hate going out in the storm
But if you really hold me tight,
All the way home I'll be warm.

The fire is slowly dying,
And, my dear, we're still good-bye-ing,
But as long as you love me so.
Let it snow, let it snow, let it snow.


まったく外の天気は壊滅的
けど暖炉の火はとても蠱惑的
わたしたち出かける先なんてないから
雪を!雪を降らせましょうよ

降り止む気配は見られない
買ってきたポップコーンでも温めない
灯りは暗くしておいて
雪を!雪を降らせましょうよ

やっとおやすみのキスを交わしたのに
こんな嵐の中に出て行くのはイヤ
でもあなたがギュッと抱きしめてくれたなら
家に着くまでわたしはずっとあったかい

暖炉の火はゆっくり消える途中
うふふ、わたしたちはまださよならの途中
あなたがわたしと恋に落ちているあいだは
雪を!雪を降らせましょうよ



 WLet it snow!Wが発表されたのは1945年。でもこの曲は、1988年のアメリカ映画『ダイ・ハード』のエンディングソングとして有名になってしまった。『ダイ・ハード』はブルース・ウィリス扮するニューヨーク市警のジョン・マクレーン警部が高層ビルを乗っ取ったテロリスト集団をたったひとりで殱滅させてしまう痛快アクション作品。ほとんどビルの中で物語が進み、ラストでやっとビルから出られたマクレーンが妻と再会する。アメリカ映画らしくここでもう一悶着があり、そのおまけが終わって、そこに突然このWLet it snow!Wの曲がかぶさる大団円。男臭さ満載で来た最後にちょっとロマンティックな味付けを加えて、それがなんとも粋な演出だった。
 『ダイ・ハード』で使われたのは、ヴォーン・モンローが歌うオリジナル版。40年代から50年代まで活躍したヴォーン・モンローは典型的バリトンシンガーで、このWLet it snow!Wでも低音で甘めの声を響かせる。それがオールドスタイルを感じさせて、『ダイ・ハード』本編とのギャップ感が増すという仕掛けであった。
 もちろんいろんな歌手がカバーしていて、その中ではやっぱりフランク・シナトラの余裕溢れる歌い方が魅力的だ。短い曲だから間奏が入ったあとに同じ歌を繰り返すところを、シナトラは単なるリフレインにはしない。歯切れ良く、歌詞を弄ぶようにして歌に載せながら、ほんの少し言葉を変えて歌っている。
Wsome cornWはWlots of cornsWに、Wkiss goodnightWはWsay goodnightWに。そしてWreally hold me tightWはWlonely hold me tightWに、という具合だ。
 シナトラの凝った歌い方は、散々同じようなクリスマスソングを聞かされていた頃には、洒落て聴こえたのだろう。けれども、単純明快勧善懲悪型アクションの『ダイ・ハード』には、懐メロ的なヴォーン・モンローがぴったりとハマっている。

 いずれにしても、雪をテーマにしたクリスマスソングが浮わついた気分を運ぶのは、四季があることが前提だ。そして季節がはっきりとしていて、夏は暑く冬に雪が降るのは温暖湿潤気候(※4)の共通点。アメリカの東部と日本は、ともにドンズバその地帯。戦後の日本にアメリカのクリスマスソングが一気に流入したのは、占領のためもあるだろうが、気候環境が似ていたこともひとつの理由だったのではなかろうか。(き)

let it snow.jpg

(※1)経済産業省資源エネルギー庁ホームページより

(※2)島津製作所HP「科学のお話」より

(※3)WWhite ChristmasWはアーヴィング・バーリン作詞作曲のクリスマスソング。1942年製作の映画『スイング・ホテル』の挿入歌だと思っていたら、その前年のクリスマスにビング・クロスビーがラジオで歌ったのが初めてだと言う。

(※4)ケッペンの気候区分のひとつで温帯に属する。小学校高学年で習ったような気もする。

posted by 冬の夢 at 21:38 | Comment(0) | 音楽 映画音楽・ソウルなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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