2019年11月08日

台風19号と荒川放水路(1/3) ─ 12年ぶりの水門閉鎖

 隅田川と荒川が分かれる地点に設置された岩淵水門は、十月中旬、台風19号の降雨による増水で、十二年ぶりに閉じられた。
 東京に、つごう四〇年近く暮らし、隅田川下流の堤防間際に住んだこともあるのに、隅田川や荒川の氾濫の危険など想像もしなかったし、そもそも隅田川と荒川の関係も、よく知らない。そこで岩淵水門がある、北区の志茂へ行ってみることにした。

 分岐点に着くと河川敷は想像以上に広い。しかし、これが満杯になり両岸へ溢れ出でもしたら終わりだと、背筋が寒くなる。
 さいわい台風19号では荒川にも隅田川にも決壊や溢水は起きず、すでに水門は開かれ、流れも落ち着いていた。でも水はまだ泥色。安心より怖さだ。※
 これが、降雨や津波の水害に緊急感が薄かったころの秋晴れの日でもあったら、のどかな景色と思ったはず。知識も経験もないと、印象が極端にぶれてしまう。

 この地点には、正確には三つの川がある。隅田川に新河岸川が合流しているのだ。荒川と新河岸川が並流する州の端に国土交通省の荒川下流河川事務所があり、河川事務所と北区が運営する荒川知水資料館という見学施設もある。
 分岐の様子や水門を見たり、資料館に入ったり、あとで少し調べたりして、かつてトイレの窓から朝な夕なに見た川のことを、いかに知らなかったかと呆れてしまった。
 反省と備忘を兼ねて、ざっと書いてみよう。
 国交省河川事務所の広報は充実していて、ウエブでも簡単に情報が得られるし、東京で生まれ育った人には退屈な話かもしれない。

       *

 地図で見ると、荒川下流のほうが隅田川より川幅が広いので、隅田川が荒川の支流、もしくは荒川の増水分を流す側溝みたいなものかと思いこんでいた。
 これは間違いで、いまの荒川の岩淵水門から下流の部分こそ、隅田川流域を水害から守るため、一九一三(大正二)年から二十年にわたる大工事で──事業開始は一九一一(明治四十三)年──出来た、その名も「荒川放水路」なのだ。岩淵水門は、荒川が増水したとき流れが隅田川に入るのを止め、放水路よりキャパシティが低く、かつ都心に近い隅田川が氾濫しないようにする装置である。

 荒川は、もとは現在よりずっと東を流れていて、江戸時代初期は利根川(江戸時代の利根川で現在の大落古利根川)に合流、いまの中川から海へ出ていた。
 当時、荒川はたびたび氾濫した。いま地図を見たり地質を調べても、いかにも水はけが悪い関東平野のこと、広い流域が水浸しに。
 そこで江戸幕府は、三代将軍・家光の治世に、現在の埼玉県熊谷市あたりで荒川の向きを変え、より西の、いまの流れに近いところを通し隅田川へ流れるよう改造する。

 理由は複数推定されているが、確実ではないそうだ。
 いわく、街道整備の要から、中仙道の重要拠点だった熊谷(久下)あたりの水害がひどいのを鎮める、あるいは水運の強化、農業用水の確保など。
 歴史素人の想像で根拠はないが、治水は経済や軍事の面で為政者の重要事業だったし、臣民に威光を示す効果が大きかった。だから江戸城下近くに、治水の成果を置く意味があったのかもしれない。
 しかし、隅田川を護岸して荒川を流したわけではないので、暴れ龍を江戸城下に近づけたことになり、現在の東京下町に毎度のごとく水害をもたらす結果ともなった。

 江戸時代の隅田川流域はおもに田畑で、武家、寺社、町場が入りまじる。河川氾濫での人的被害は、現代の宅地浸水ほどではなかったらしい。
 そうはいっても、農業被害が深刻でなかったはずはないが、洪水が運んできた肥えた堆積土に適した作物が特産となった場合もある。いまも松戸名産の「矢切ねぎ」は料亭や贈答向けの高級品だそうだが、これなどは江戸川の氾濫の産物ともいえて、明治の初めから盛んに作られるようになった。
 だが明治ともなると、江戸の河川機能つまり水運や用水を引き継ぐ形で東京下町は工場地域となり、牧畜(都市需要向け乳業)などが行われ、宅地の密集化も進んだ。
 その結果、繰り返される氾濫被害は深刻なものになり、首都機能が損なわれ続けることにもなった。(ケ)

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図:荒川放水路と隅田川に分岐する地点の略図
写真:岩淵水門。図に赤い線で示した旧水門から。手前が分岐側で、奥が隅田川
どちらもクリックですこし拡大します  敬謝不敏無断引用


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※荒川上流の支流では氾濫被害が起きています。
Originally Uploaded on Nov. 10, 2019. 23:30:00
posted by 冬の夢 at 00:05 | Comment(0) | 時事 社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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