2019年10月29日

The Brothers Johnson − Get the funk out ma face 元気が出る曲のことを書こう[43]

 コンバンワァッ!
 ジュンビ ガ デキタッ!

「ニホンゴ」の挨拶が、「日本語」では聞いたこともない、雷撃のようなリズムで飛んできた!
 つづいて英語になりリズム感激増、ビートにのって連呼されるリフは、曲のタイトル「Get the funk out ma face」だ!

 げだふぉ あとまふぇぃ!
 げ! だ! ふぉ! あとまふぇぃ!
 げだふぉ あとまふぇぃ!
 げ! だ! ふぉ! あとまふぇぃ!

 ラップというジャンルがまだない時代だから、口三味線か、言葉がパーカッションとなって、ぐいぐいリズムをあおる。
 つくつく、ちきちき、つくつくつくち〜! ドラムスの16ビートハイハットがたまらない。ベースの振動がものすごく、リズム班たった二人で繰り出すピックアップは、聴いたこともないほどうるさく、うるさいのにキレがよく、ぶっ倒れそうだ。
 歌のメロディは対照的にサワヤカで明朗なのがいい。しかも、たちまちおぼえられるたった二小節が基本型。その基本型がコール・アンド・レスポンスとなり、「このファンク、どっかへやっちまえ! って、俺たちの音楽が嫌いだってのかい、でもまあ俺たちに演奏させてみなよ」という、自信たっぷりの歌詞が歌われる。ギターの兄がファルセット、ベースの弟が低音を歌い、間にはさまれたバーガーの「具」はファンク大盛りだ。寸糸の乱れもない。

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Look Out for #1 1976

 その兄弟とは、ザ・ブラザーズ・ジョンソン。
 一九七〇年代中盤にアメリカのR&Bチャートをヒット曲で席巻、満を持して日本に乗り込んだ、一九七九年の東京・中野サンプラザ公演だ。
 まったく偶然にFMラジオで、それを聞いたわたしは高校生。うわっと叫んでワナワナ震えだした!
 大人になってから震えた経験は、仕事でひどいトラブルになったか、相手先や上司から仕事とはいえ許せない扱いを受けたときしかない。初めて聴いた音楽にノックアウトされた瞬間にこみあげた震え、あの喜びを実感するのは、もうむずかしい。

 一九七〇年代、知らない音楽に出くわす手段は、いまの百分の一くらいしかなかった。
 ちょっと大げさだろうか。しかしインターネットはないし、テレビやラジオでは歌謡番組こそ盛んだったが、発掘型の音楽番組はめったになかった。文字情報も不十分、地元の地方都市に当時、音楽を楽しめる店が多数あったとは思えない。
 鉱脈にぶち当たる機会が少ないだけに、出くわしたときの驚きと喜びは大きかった。「ワナワナ」には、そういう背景もあったと思う。

       ♪

 最近、かつてFMラジオで聴いた来日公演の録音を、やはり偶然に聴くことができた。
 音はかなり悪かったが、四十年後のいま聴いても、すごいライブだ。
 ファンクといえば、その総帥、ジェイムズ・ブラウンに始まって、スライだとかジョージ・クリントンだとかのコテコテ軍団がいるし、クール・アンド・ザ・ギャングや、アース・ウィンド・アンド・ファイアだって、一九七〇年代にはアブラっこいファンクバンドだったから、ブラザーズ・ジョンソンだけが格別にすごいわけではないと思うが、演奏をライブ録音で、いきなり聴いた衝撃があまりにも強かった。

 衝撃の核心はもちろん、弟のルイス・ジョンソン。思いっきりバンドを盛り上げるベース奏者だ。
 エレクトリック・ベースを打楽器のように叩いて鳴らす、見た目もいいスラップ奏法。
 いまや誰でも多かれ少なかれやる弾きかたの、発明者に定説はないと思うが、ルイス・ジョンソンをスラップ創世記に記載することに異論はないはずだ。そして、この人の弾きかたこそスラップ(Slap=ビシバシたたく)だといいたいほど、すぐにルイスだとわかるモーレツな弾き(叩き)かた! 最高だ!

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Right on Time 1977

 じつは、四十年前に初めて聴いたときは音だけで絵がないから、ルイスが弾くところを見てあらためてブッ飛ぶのは、ずっと後のこと。
 彼が愛用したのは、スティングレイという楽器。その名も「エイ(鱏)」で、見るからにバカでかく重そう。わたしが持ったらバズーカ砲を持たされた少年義勇兵に見えてしまう。その楽器をルイスは三味線でも弾くかのように、ヒラリヒラリと手を動かし軽々演奏する。現代のスラップ巧者たちに比べれば音選びは素朴だが、ツボを心得た叩きかたがカッコいいのだ。
 見た目の映えというと、弟のほうが大柄で、兄のジョージのほうがやや線が細く、また左ききなので、それぞれベースとギターを持って並ぶと楽器が「V」の字に。絵になる兄弟だ! 
 兄がメンバー紹介でいっている弟ルイスのニックネームは、ベースの弾きかたどおり「サンダー・サム(Thunder Thumb=雷親指)」、兄のあだ名は、弟ほど知られていないようだが「ライトニン・リックス(Lightnin' Licks=稲妻フレーズ)」だ。まったく、いい感じの兄弟だな! ブラザーズ・ジョンソンを聴くのがますます好きになる。
 ちなみにジョージは、いわゆる「早弾きギタリスト」ではないが、リズム伴奏のシャープさといい、曲のブリッジで音階を走り抜けるようなフレーズの、正確で心地よい粒立ちといい、一聴に値する。

       ♪

 初めて聴いてブッ飛んだから、一九八〇年代初めにかけて、この兄弟バンドをもっと聴くことにしたが、愕然とさせられた。
「ジュンビ ガ デキタッ!」のライブ放送と、スタジオ録音盤──つまり全米ヒットを連発したレコードたち──が、ぜんぜん違う!

 スタジオ録音盤は、よくいえばカッチリまとまった演奏で、アブラ抜き、ツユ薄め、トッピングマシ、って感じだ。トッピングとは、ライブ演奏にはない鳴りモノなどが多いということで、キラビヤカなのはいいが、なんだかテレビ番組のジングルか、スーパーマーケットのBGMのようにも聴こえる。
「Get The Funk Out Ma Face」はデビュー盤に収録──一九七六年春発売の新人ということになるが、翌年のビルボード・ソウル・アルバム1位になっている──されているので、荒削りな面が残っているのか、けっこう熱い演奏。それでも「Thunder Thumb」が、かなり押さえられていて不満だ。この盤をかわきりに四枚連続でプラチナ盤(米)と、爆売れしている反面、演奏の濃度はどんどん薄くなっていってしまう。

 その四枚をプロデュースしたのは、泣く子も黙るクインシー・ジョーンズで、ついでに調べると、高校生のわたしがぶっ倒れたツアー・バンドの人たちが伴奏担当ではなく、そのころからスーパー・マーケットの音楽がそれ一色になった、いや、アメリカのスーパーで聴いたことはないけど、いわゆる「クロスオーバー」、いまでいうフュージョン、スムーズ・ジャズの超一流奏者たちが顔を揃えている。
 当時、ファンクの魂、ブラック・ミュージックの芯を、薄味にしちゃった内容だと批判する評論家もいたようだが、しかたがないことなんだろうな。ジョーンズの力量あってこそのトップヒット連発で、そのおかげで日本のディスコでも、きっと、さんざん回され、来日公演ができ、地方都市でラジオにかじりついていた高校生を、その放送でノックアウトしてくれたのだ。それが、小さい日常世界で悶々としていた自意識にパラダイムシフトを起こす結果になったんだからな。
 このバンドだけではないが、聴いたこともない音楽と出会ってワナワナした経験は間違いなく、いまここにいる場所でない所に行って、ひとりで生活しようという決心を、後押ししてくれたのだ。

       ♪

 ブラザーズ・ジョンソンの五作目は、タイトルが意味ありげな「OUT OF CONTROL」(一九八四年)。クインシー・ジョーンズは降りて制作者交代。それだけでそうなるかとも思うが、アメリカの総合チャートでやっと百位以内、R&Bチャートでも二十位となり、売れた盤はこれが実質最後となった。

 以後、ルイス・ジョンソンは、もちろんその腕をかわれ、売れっ子ベース奏者となって、たくさんのヒット曲で演奏している。
 いちばんヒットした曲は、さてどれだろう、マイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」かな。そう、あの印象的なファ#ド#ミファ#ファ#ド#シド#ですね。むろんジャクソンに世界的スターへの道を開いたのもクインシー・ジョーンズなので、ジョーンズに呼ばれてだったと思われるが、ルイスはこの曲ではたんたんとファ#ド#ミファ#を弾き続け、「雷親指」は披露していない。
 兄のジョージは、しばらく後に実業へ移ったらしいが、近年ふたたび演奏しているようで、イベントなどで兄弟再演もしている。
 と書きつつ、どこかでライブをやらないかな、と近況を調べたら、弟のルイスが二〇一五年に亡くなってしまっていた。(ケ)

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Blam! 1978

The Brothers Johnson
GEORGE JOHNSON 1953/05/17 -
LOUIS JOHNSON  1955/04/13 - 2015/05/21

■Music Vault が Youtube で無償公開している公式映像に、この曲の一九八〇年ニューヨーク公演があります。
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posted by 冬の夢 at 00:59 | Comment(0) | 音楽 映画音楽・ソウルなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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