2019年10月26日

S.Cahn, J.Styne − The Things We Did Last Summer 元気が出る曲のことを書こう[42]

 とても好きな曲で、ふと、よくメロディが浮かぶのに、曲名も奏者も、いつどこで聴いたかも、思い出せない曲ってありませんか?
 そんな曲だらけだ。ジャンルや時代をとわず、なんでもかんでも聴くから、探す手がかりもない。
 イタズラに長く生きているぶん、かなりの数が判明したが、さっぱり分からない曲も、まだまだある。

 わからない数がいちばん多いのはジャズの曲。
 ずっと以前、学校の部活でやっていて、それがよくなかった。
 たいした知識もないのに、イキがって曲名を符丁でいったりするから、よけいわからなくなる。

 たとえば「サケバラ」。
「酒とバラの日々(The Days of Wine and Roses)」という曲で、長調で小粋なのに、アル中で破滅する話の、同名映画の主題歌とは、けっこう長い間、知らなかった!
「愚かなり我が心(My Foolish Heart)」もそう。
 これも同名映画の主題歌で、それも悲恋のB級メロドラマ──ただし、この曲が流れる場面でのダナ・アンドリューズは、とてもいい──だ。
 この曲は「マイフリ」とはいわないが、いい曲だなぁと思ったくせに、しばらく曲名を知らなかった。映画でなくピアノ・トリオの演奏で知ったが、ビル・エヴァンズだとはわかっていたから、かなり後にジャズ喫茶でレコードジャケットを見せてもらって解決。
 ジャズでよく演奏される古い流行歌の場合、曲の仕立てが似ているものがあるので、ごっちゃになってしまうこともある。お店のBGMなどで、コード進行を聴いていて、あの曲だね、とわかったりするわりには曲名が出てこなかったり、ほかの曲と勘違いしていたり。

       ♪

 最近の話を書きたいから、近ごろ知った曲を思い出していたら、この曲のメロディが浮かんだ。
「The Things We Did Last Summer」。一九四六年にジョー・スタッフォードの歌でレコードが出ている。
 さんざん探して、やっと曲名を知った。

 メロディが心にしみる曲だ。歌われているのは、湖でボートに乗ったとか、移動遊園地のアトラクションで景品をとったとか、朝からタンデム自転車でハイキングに行って弁當を食ったけど雨に降られちゃったとかいう、恋人との夏の思い出。小さいエピソードがぽつりぽつりと、ほほえましく綴られる。
 しかし、秋になったら将来の約束は、木々の葉が枯れるように薄れてしまった、どうして愛はこんなことになっちゃんたんだろう、この冬じゅう、ふたりで夏にしたことを思い出すよ──という話で、じつは典型的なトーチソング、いかにもB級メロドラマな失恋の歌なのだ。
 さまざまな人気曲を作った、詞のサミー・カーンと曲のジュール・スタインの作。このコンビが作った、いまも誰でもすぐわかる曲といえば、クリスマスによく流れる「Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!」だろうか。

 ちなみに「Let It Snow! ──」も、同じくらい世界中で聞かれている、ジャズ歌手のメル・トーメ作曲の「The Chrisitmas Song」も、一九四五年七月に作られている。
 真夏に作詞作曲されたクリスマスソングとして話題になる曲たちなのだが、ほかならぬ一九四五年の夏のこと。こちらが一億玉砕といっているときに、冷房をかけてその年のクリスマスのことを考えていた国と、戦争をしていたのだ。いまさらどうしようもないことだが、なぜ、せめてもうすこし早く「負けました」といわなかったのだろう。

 ジョー・スタッフォードの盤が発売されたのは、翌一九四六年九月。全米十位のヒットになった。当時、愛聴したアメリカ人たちがイメージした「Last Summer」は、同年の夏なのか、それとも「去年の夏」つまり一九四五年の夏なのか。そう思いつつ歌詞をたどると胸が痛くなる。
 そのころ小学校低学年で、疎開もしたウチの母の記憶ときたら、「空腹」に尽きてましたから……。

       ♪

 さて、ごく近年この曲を知ったときは、ジャズの演奏で聴いたはずだ。
 ジョー・スタッフォードの歌を初めて聴いたのは、じつはこの文を書きながら。歌詞もいま初めて見ている。 

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Jo Stafford 1948 public domain item

 ジャズのバラードソングに、名曲、名演、名盤は山ほどあり、ほかにも好きな曲がたくさんあるが、この曲は、とにかく最初のメロディが抜群にいい。
 ドミソのハ長調に直していうと、ミファソラ、ミファソときて、すぐオクターブ上のミミファ、下がってラドレ、この単純すぎる、似た組み合わせの動きが美しい。

 The boat rides we would take
 The moonlight on the lake

  あのボートが進むよ よく乗ったよね
  湖を照らす、あの月の光

 と、歌詞をはめると、美化したい思いが強いほど、色合いが淡くなっていく光景が、まるで自分の記憶のように浮かぶ。
 その思いが心から流れ出すように、つづけてミレド、ソミレドと、似た組み合わせでメロディが下降する。
「The」が、みなアウフタクトなのが、訥々と思い出をならべる感じなのもいい。

 The way we danced. And hummed our favorite song.
 ダンスしたときの感じや 好きな曲をハミングしたこと

 最初のメロディの終わりの「song」が「シ♭」なのがしゃれていて、コードはEm7→A7、つまり次のメロディをTとみたUm7→X7で橋渡し。
 英語のいい回しが出来ないと──もちろん出来ないが──この部分を映画音楽調には歌えないし、「song」の伴奏Um7→X7は、甘さにシャープな感じが加わってカッコいい。
 それほど難しい話ではなく、ジャズっぽい緊張感になるよう配されるコード進行「ツーファイブ(Um7→X7)」が、いいところにバッチリ仕込まれている。その造作を感じさせない構成美なのだ。
 なのに、誰の演奏でこの曲を知ったのか、どうしても思い出せなかった!

       ♪

 そこはアッサリあきらめ、「逆引き」すなわち、この演奏はいい! というのを探すことに。

 歌詞を知ってしまうと、淡々と情景描写する感じの演奏がいいと思った。
 初回発売のジョー・スタッフォードは、ゴージャスなオケつきの映画音楽ふう。いいのだけれど、希望からすると、ちょいとやりすぎだ。
 じつはこの曲は、作者たちがもともとフランク・シナトラに約束していた曲なのだが、シナトラのレコード会社が手間取っているうちに、べつの会社がスタッフォードで売り出してしまったといういわくがある。スタッフォード版がヒットしたのでシナトラは激怒したらしいが、くわしくは調べていないけれども当時は、まず作者が契約している音楽出版社に曲を預ける仕組みだったのでしょうね。
 なお、シナトラも録音・発売したが、ヒットには至らなかった。

 歌で聴くとしたら、ザ・レターメンがいい。三連符で伴奏するポップスだが。
 ビーチ・ボーイズもコーラスでやっていて、意外にそちらのほうがジャズっぽく演奏している。ただ、最初のメロディをユニゾンで歌っているから次点ということに。もっともレターメンの歌いかたは、やや堅いので、ルーズなほうが雰囲気を感じるならビーチ・ボーイズかな。

191027Lm.JPG 
The Things We Did Last Summer/Secretly 1965
英語のタイトルを見ると、山口百恵の「ひと夏の経験」を
思い出してしまう世代ですが、そういう曲じゃないです (^_^)

 かんじんのジャズの演奏は、聴いたはずの演奏はわからず、あまり好きな演奏もない。
 情景をポツリポツリ置いていくような演奏がいいと決めてしまったので、音程やテンポを揺らして情緒たっぷりなのは、どうもなぁと思ってしまう。

 そこで選んだのは、これまた今日の今日まで知らなかったトランペット奏者、ディジー・リースの演奏。
 ディジーといっても、ガレスピーではないですね。
 この人もハード・バップの奏者らしく、この曲が収録された盤には、アート・ブレイキー、スタンリー・タレンティン、ボビー・ティモンズ、サム・ジョーンズらというハード・バップ一軍選手がずらりと顔をそろえている。
 が、知らなかった。ディジー・リース。

191027on.jpg 
COMIN' ON! 1960

 どこがいいといって、飾りっけもヤマっけもないこと。
 よくいえば癖がなく、悪くいえば教科書のような、ということになるが、同じトランペットでもフレディ・ハバードの、あまりにも上手すぎる演奏と比べると、あきらかにリースのほうが、この曲の感じを伝えてくれている。
 ハード・バップのアブラっ濃さは、しっかりしみこんだ演奏なので、教科書として手にとり、教科書の中にも教科書に載らないことのタネがあるんだよ的な聴きかたでも、いいじゃないかと思う。

       ♪

 曲名探しと合わせて、山ほどジャズのバラードソングを聴いたので、食傷したかというと、そんなことはない。
 ジャズではアップテンポでふつう演奏するのに、もとはベタベタなバラード調だったという曲も知ったし、その逆があることもわかった。
 ジャズの歌ものの曲は、歌詞の内容を理解して演奏すべき、という説があり、この文もそのような文脈なのだが、そんなことはぜんぜん関係ないんで、モダン・ジャズの中にこそポスト・モダンが存在しているのがジャズのカッコよさでもあるんだと、いまさら再認識もできた。

 それはそれとして、あらためて、亡くなったチャーリー・ヘイデン──すばらしいベース奏者!──がいっていたことを思い出した。
 ヘイデンは、芸術的にも政治的にも先鋭で反主流の音楽を演奏するいっぽう、昔の映画音楽や小唄など、ロックやポップ以前のポピュラー音楽を、古いスタイルで演奏することを大切に、熱心にとりあげた。
「懐メロ」の演奏にもこだわるのは、そうしたポピュラー音楽がとても愛されていた時代は、それらは、ことに強く郷愁を歌っていて、その郷愁という感情こそが、アメリカがしばしば陥る暴力と狂気から人びとを遠ざけてくれるからだと、ヘイデンはいっていたのだ。
 その通りだと思う。なのに、これほど郷愁に満ちた美しい曲をトップヒットさせたアメリカが、その後たびたび戦争を繰り返し、いまでは国の中でさえ、こんなにもいがみ合ってしまうとは。なぜなのか、わからない。(ケ)

Originally Uploaded on Oct. 27, 2019. 11:30:00

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posted by 冬の夢 at 00:05 | Comment(0) | 音楽 ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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