2019年07月18日

感動の値段と名古屋弁のこと

 名古屋で、喫茶店「K」に立ち寄り、昼休み。
 昔の喫茶店ふうの店内で人気のチェーンで、全国FC展開して十数年。もとは名古屋に昔からある喫茶店だったとは、知らずに行っている人も多いかもしれない。

 隣席は、大学生か専門学校生、もしくはどちらかを卒業したての、若いふたり連れ。
 その話題に、つい耳を奪われた。
 盗み聞きではないですよ。名古屋でしか行ったことがないが「K」って、どの店でも客の話し声が大きく、つつ抜けに聞こえてしまう気がする。それじゃ、いかにもイイワケっぽいか。

 大人になると、感動するのに、おカネがかかるよね!

 女の子が、そう言った。相手の男の子も賛成だ。
 子どものころは、つまらないことでも感動できるが、大人になると、ありきたりなことでは感動できないから、娯楽費がかさむということらしい。
 費用を要しても感動するものは何か、というところまでは聞けなかったが、カネで買えるものではないと疑いもしなかった「感動」が、あっさり費用対効果で語られるのに驚いた。
 
 しかし、すぐに反省。
 感動はおカネでは買えないなんて、ウソもいいところだ。
 芸術、風景、あるいは友情や恋愛、才能や努力で活躍する人たちを見たり、彼らの作った新しいモノに出会うこと──もちろん「無料体験」できる場合もなくはないが、わが身をふり返っても、それらに、いったい、いくら払ったことか。
 そもそも、ただの一銭も使わず、これがホンモノだ、これを感動というんだ、という感性が身についたか。まさか、というしかない。『フランダースの犬』のネロだって、カネを払わずにホンモノを体験し感動を学ぶことは、できなかった。ゼニがないばっかりにルーベンスの絵が見られず、瞬時、見たきりで、死んじゃったのだ。

 いや、そうではなくて、カネでは買えない感動を得るためにこそ「自分への投資」が必要で、自腹で鑑賞や経験を重ねてはじめて、ホンモノを見る目ができ、真の感動が得られる、という教訓がある。よくいわれる話だが。
 たしかに、この教えについてわが身をふり返れば、「投資」したジャンルでは、ある程度の目利きにはなったかもしれない。
 しかしそれは、カネに換算できない感動を知ったというより、そのジャンルの「業界通」になっただけだという気がする。感動の作法を習っただけ、とでもいえばいいか。借りものの定規で、感動の度合いを計っているようなものだ。
 
 ならば、感動を買いあさるような「じぶん投資」に、意味がなかったかというと、そうでもない。
 もとから、のべつ感動するたちではないが、めったに「感動した!」と思わなくなった。このブログの他の文で、音楽や映画を絶賛しているじゃないかって? いえ、それは「いい!」といっているだけで、感動しているわけじゃありませんから。ううむ、屁理屈かな。

 わたしも「大人になると、感動するのに、おカネがかかる」と、心のどこかで思いつつ、感動を買い続けてきたことになるが、その結果、感動に縁遠くなったのだ。とくに、多数の人たちが酔ったように絶賛することには、アレルギー反応ともいえる拒絶感があり、その意味では、いまの世の中で感動をさそっているものに誘惑を感じることは、まずない。
 せっかく、みんなが感動しているのを小馬鹿にするような、鈍感で偏屈で、さびしいトシヨリになっただけじゃないかって? それでいい。これからも、そうありたいと思っている。年々、そうであることが難しくなってきているように感じるけれども。

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 ところで、名古屋で喫茶店「K」に坐るたびに、不思議に思うことが別にある。
 名古屋弁って、どこにいったのだろう。
 よんどころない事情で、最近よく名古屋に行くが、「K」ばかりでなく、人と会って話す場合も、よそ行きの場でない街中や駅などでも、名古屋弁らしきもの、そのイントネーションさえ、めったに聞こえてこない。なにか、特別な運動でもあったのか。地元の政治家などは、ことさらに名古屋弁で話したりするので、よけいにおかしい。

 名古屋の中心街を南北に貫く久屋大通りは、日本一の100メートル道路(幅が)といわれ、広々とした都市空間の礎になっている。栄から南はとても「おしゃれ」だし、ランドマークの「テレビ塔」からさらに北側は静かで、パレ・ロワイヤルと見間違えたほどだ。空が広い。
 ただ、この都市はひたすら「クルマの身の丈」で出来ている。だから運転しないわたしには、いつもどこか変に感じられる比率で街区が成り立っている。
 そんな、美しい街から消えた言葉は、「汚い言葉」だったのだろうか。あくまで昔の喫茶店「ふう」に、とことん清潔に出来ている「K」で、名古屋弁が聞こえないにぎわいの中に坐るたびに、イスから浮き上がったような、奇妙な気持ちになる。(ケ)


posted by 冬の夢 at 11:06 | Comment(0) | 日記 旅・徘徊・発見 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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