2019年07月10日

さようならジャズ喫茶「マイルストーン」─昔よく行った店に、とてもひさしぶりに行ってみた .

 大学生時代に行っていたジャズ喫茶を、ずいぶんひさしぶりに訪ねてみた。
 そのころから、三十五年以上たつ。
 当時のジャズ喫茶のなかでは、新しい世代の店だった。いまでは老舗有名店のひとつになっているようだ。

 店内は改装されていた。記憶にある店の様子とは違う。
 昔はたしか、店内がもっと、意外なほど広くて、大きく低いテーブルを中心に、かなりヘタった藤張りのパイプ椅子が雑然と並んでいた、そんな気がする。
 いまは片方の壁面がすべて書棚だ。自由に読め、買うこともできる本がずらり。なかったはずのバーカウンターもある。インテリアはやや雑然としていて、趣味人の書斎という感じ。それはそれで、落ちつく感じがする。
 いまも喫煙可と思うが、かつてはもっと煙がもうもうとしていたような。さすがに喫煙者が減ったせいか。もっとも、一九七六年の開店だそうで、行っていたころは開店からさほど年月がたっていない。自分でかってに、紫煙と薄暗さで語られるジャズ喫茶のイメージをかぶせるように、記憶してしまったのだろう。

 三十五年以上前というと、東京にはまだジャズ喫茶がかなりあって、歴史のある店も一家言あるマニアックな店も存在していた。
 学校の部活動がジャズ研だったくせに、そういう店は、あまり好きでなかった。店や店主が好きでないというより、店にいる客が苦手だったのだと思う。そのくせ、いかにもハードルの高そうな硬派の店にも、ふらりと入ってリクエストが出来る若者を気どっていたから、われながら始末におえない。
 それをいうなら、ジャズが趣味ということが、そもそもどこか嘘くさかった。それもこれも、地方都市から来た背伸び学生の、イキがりだったんでしょう。

 東京・高田馬場の「マイルストーン」。
 なぜこの店に、いちばんよく行ったか。
 気楽な店だったからだ。
 今回訪れて知った、ジャズ+ブックカフェ+バーという営業スタイルにも現れているように、昔も肩肘はらずにいられる店だった。本や漫画を読んだり、多少雑談しながらBGMにジャズを聴いていても許される雰囲気。昔もいまも同じなのでは、と思った。

 回されていた盤が、硬軟さまざまなのもよかった。
 あのころの伝統店や頑固店が、私語禁で真剣に聴けとばかりにガツガツ流していたシリアスな盤ばかりではなかったのだ。
 それから店の主が、まれに雑誌に寄稿する文がまた、飄々としているというか、とらえどころがないような不思議な文で、気にいってもいた。ジャズ喫茶の店主らが、ジャズ論はもちろんオーディオ論にも筆をとるようになりつつあったのだが、たいていは押し付けがましくて読む気にならない文ばかりだったので、こんな文を書く店長のいる店は、きっと気楽だと思ったのだろう。
 しかし、今回あらためて店内を見ると、音響装置はなかなか「硬派」なのである。マッキントッシュ(パソコンではないです)の真空管アンプにJBLのスピーカー、JBLといっても、いかにもなスタジオモニターのかわりに、一九六〇年代の「オリンパス」だ。そこにハニカムタイプの中音域ホーン、レモン絞りみたいな高域専用ユニットが乗っかっているという、ド直球のジャズ聴きセット。
 短い訪店の間に回された盤も、なかなか「濃く」て、気楽だとか飄々のイメージもまた思い込みで、じつはかなりの、こだわり店主だったのかもしれない。

 ほんとうのところはともかく。
 大学生時代は金欠下宿人。いまの学生さんの多くには想像できないかもしれないが、食費に困るほどだった。もちろんジャズ喫茶のコーヒー代には苦労したので、なけなしの小遣いをはたいてまで、無理してしんどい店に行く気になんてなれなかった。
 だから、この店に行くことが多かったわけだが、その結果、ジャズというジャンルだけでなく、かぎりなくさまざまな音楽を聴くようになり、また、レコードばかり聴いていないで、できるだけ実演へ行く、外国へ行ったらそこで聴かれている音楽を買ってくる、そういう音楽ファンになった。
 そのことは、よかったと思っている。ジャンルや奏者をこれと決めて研究的に追うことはしなかったので、聴いた数のわりには知識は乏しいけれど。

 ひさびさの再訪は、平日の夕刻に行ったが、外国人留学生らしい若者たちや、女性の姿が意外なほどあった。この店の、長く続いた気ままさとこだわりのバランスが、このような聴き手をいま、招き入れているのだとすれば、素晴らしいと思った。
 それにしても、ジャズ喫茶のステレオの音には、なぜハード・バップが似合うのだろう。今回かかっていた盤でも、まちがいなくそうだった。
 ごく薄い紗に包まれたような、記憶の片すみで鳴っているようにも聴こえる音。思えばジャズ喫茶というものは、ことの始めから思い出の音を鳴らしつづけてきたのかもしれない。

 いまこの文を書いている、二〇一九年七月の末に、この店は閉店するという。
 なんど来たか知れないが、ほとんど話す機会のなかった店主に確かめると、引退して房総のほうへ移るそうだ。
 本当にありがとう! お元気で! (ケ)

190710ms.JPG 
MILESTONE 東京・新宿区


管理用
マイルストーン(ジャズ喫茶)閉店

posted by 冬の夢 at 01:31 | Comment(0) | 音楽 ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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