2018年12月25日

映画『ガン・ホー』が面白い──アッサン自動車とアメリカの労働事情

 It's run our way!
 The way we know how!
 This is the way!

  これが僕らの仕事のやりかただ!
  僕らにはわかってるやりかたなんだ!
  これが正しいやりかたなんだよ!

 Oh, yeah?
 If you're so great,
 how come you lost the big one?

  おう、そうかい。
  そんなに日本人が偉いってんなら、
  なんで戦争に負けたんだよ。


 一九八六年制作のアメリカ映画、『ガン・ホー』は面白い。公開から三十年以上たつが、やはり面白い。
 舞台は一九八〇年代のアメリカ。北東部の田舎町だ。
 地域唯一の経済拠点だった自動車工場が不況で閉鎖になり、職長のハント・スティーブンソンは、日本の自動車メーカーを誘致し、街の生活を守ろうとする。
 誘致に応じて赴任してきた日本人業務責任者は、落ちこぼれ管理職の汚名返上を課された中堅社員のカズヒロ。もとの工場員を仮採用し、成果が出れば本契約という設定のもと、さまざまな価値対立や文化衝突がコメディタッチで描かれ、苦笑の連続だ。

 ハントは、高校時代バスケットボール部で活躍、人望が厚い。しかし、昔の試合の逆転劇だけを持ちネタに、ノリとジョークで場当たりに乗り切るタイプ。日本企業を逃すまいと、雇用条件で現場に出まかせをいってしまい、苦境に立たされる。お調子者だが憎めない愛郷者を、マイケル・キートンが好演している。
 日本から赴任したカズヒロ(Kazihiro)のゲディ・ワタナベもいい。日本語は話せないようだが、ときどき出てくる日本語のやりとりはツボを得ているし、強権で行くには線が細いキャラも、リアルだ。日本人社員たちの行動は誇張されているが、そうだよな、それはある、と納得してしまう場面がけっこうあり、多少ヘンでもうなずかされるのは、ワタナベの役作りの上手さだ。
 
 コメディ映画なので、よくあるステロタイプの連発で解りやすい。外国のヒトコマ漫画じゃあるまいし、実際の自動車工場じゃあり得ないよ、ではなくて、バケモノ化してしまった産業システムの中で人間はどう生きればいいか考える、よいヒントをもたらしてくれる。だからこそ、何年かに一度、観たくなるのだと思う。

 むろん映画の中でも、日米相互理解は容易でない。
 日本企業の集団主義や組織優先、自己犠牲や厳密管理など、行き過ぎとあげつらわれる思想と行動が、西部劇の舞台がそのまま現代の商店街になったような、のんびりした街にやってきたのだから。
 たとえば、とっぱなの「文化衝突」は、日本側が課した開業時の全員体操! 「ナンじゃこりゃ!」とアメリカの従業員から失笑が起きる。
 日本の社員にすれば、カジュアルな服装で、ラジカセを聞いたりタバコを吸いながらだったり、新聞や雑誌をちら見しながらの作業──実際にそうだったという※──や、多少の仕上がりミスは販売店が修理するものだ──It's just cars, not brain surgery (たかが車だろ、脳の手術じゃあるまいし)──などというのは信じられない。

 The company is everything. Team!
 That is what has raised us from a conquered nation to an economic power.

  カズヒロ:この会社がすべてなんだ。チームだよ!
       それが僕らを被占領国から経済大国に成長させたんだ。

 Work, work, work, You'll go nuts.

  ハント:仕事、仕事、また仕事、それじゃおかしくなっちゃうぜ。


 ファーストシーンでは、管理職研修のシゴキをくらい、絶叫させられていたカズヒロ。海外生産の円滑管理は、社の厳命であり挽回のファイナルチャンスでもある。
 しかしカズヒロは、アメリカ生活のあいだに考えかたが変わりはじめる。上がらない生産能率のチェックに、日本からじきじき訪れた社長の目の前で、こう言い放った。

 We work too damn hard.
 This is not our lives. This is a factory.
 Our friends, our families
 should be our lives.
 We are killing ourselves.

  僕たちはバカみたいに働き過ぎですよ。
  これは僕らの人生じゃない。工場なんですよ。
  友だちや家族こそが人生であるべきなんです。
  僕らは自分で自分を殺してるんだ。(略)
 
 Tell him.
 Tell him that we have things
 we can learn from americans.

 (社長の前で同僚たちに向かって)
  社長に教えてやれよ。
  アメリカ人から学べることもあるって。


 いっぽう、設定された生産台数を達成するのが雇用と賃金支払の条件なのに、その何割か作れば賃金は支払われると苦し紛れにごまかしたことが、街の人が見守るお祭り会場でバレたハント。日本企業撤退を公表され、冷たい視線を浴びたすえ、現場仲間や地域の人たちに、こう叫ぶ。

 You want to hear that americans
 are better than anybody else.

  みんな、こう言われたいんだろ。
  アメリカ人は誰よりもすごいってな(略)

 Sure, the great old american do-or-die spirit.
 Yeah, it's alive. But they've got it.
 I tell you, we'd better get it back.
 We'd better get it back damn fast.
 Instead, we're strutting around telling ourselves how great we are.

  わかってるよ、偉大なるアメリカの「死んでもやれ精神」ってやつだ。
  ああ、それは俺たちの中に生きてる。けどな、日本人だってもう持っているんだよ。
  言っとくが、俺たちはそれを取り戻さなくちゃならない。
  それも大急ぎでだ。
  でもな、俺たちはそうしないで、
  アメリカ人ってなんて偉大なんだろって
  自分で自分に言いながら、偉そうにそっくり返ってるだけなんだぞ。


 ハントは「僕はいいリーダーじゃなかった」と認めたカズヒロとともに、閉じられた工場に入り、たった二人で残り台数の仕上げにかかる。
 すると、嘘つきは許せないからストだと工場を去った組立員たちが一人また一人、そしていつしか総勢で、組み立てを再開する。場面のBGMはジミー・バーンズが映画の前年にヒットさせた労働者讃歌「Working Class Man」だ。
 面白いのは、それまで The company is everything. を象徴するような、怖い殿様みたいだった日本人社長が、怖いは怖いが、フェアで包容力もあるお父さんのような発言をすること。この映画でおそらくただ一人の日本人出演者、山村總が、日本の名優として存在感ある演技で、嬉しい。

181228GH.JPG 
 「ガン・ホー(Gung Ho)」は、第二次大戦時のアメリカ海兵隊用語。
 中国語の「工和」=Work Together に由来する士気鼓舞の言葉。
ほかに有名な標語には「常に忠誠を」の「センパー・ファイ(Semper Fi)」がある。

 この『ガン・ホー』、自動車製造業における日米労働観の違いを、すこし正確に知ると、さらに興味深く観られる。映画のずっと後の、オバマ政権下のビッグ3崩壊を知っていて観るわけだから、後出しジャンケンもいいところだが。

 アメリカは能力主義・競争原則で、日本は平等主義・年功原則だと長年思っていた。
 この映画も長くそのつもりで観ていたが、ひさしぶりに観た後で、意外にも逆であることを初めて知った。
 簡単にいうと、アメリカの現場仕事は、同職種同賃金が原則だという。トップダウンつまり経営が考え現場が働く。現場の労働者は、決められたとおり働き、決まった賃金を受け取ったら、それ以上しない。能力査定がないのだ。よくイメージされる激しい競争や転職、キャリア追求は、トップの一部にしかあてはまらない話である。
 ならば、アメリカの労働環境の厳しさの代表例として思い浮かぶレイオフ、あれはどうするかというと、勤務歴の長さイコール「年功」で、決めている。いずれにしても「能力主義」ではない。
 日本の自動車製造現場には、現場発の生産性向上ベクトルがある。ご存じのQCや改善というやつだが、長期雇用、内部昇進、労使協調、企業別組合などが噛み合って機能している。「KAIZEN」はそのまま英語になり、アメリカの自動車業界にも導入されているが、現場の仕事を楽に──能率向上や合理化は現場が考えることではない──という目的になりがちだったという。小型車生産で遅れをとったのも、アメリカでもともと人気車種だったピックアップより作り込みが必要な小型車組立工程に、能力をみての人員配置ができなかったためといわれる。

 映画が撮られ、話の設定もそうである一九八〇年代といえば、不況のアメリカは日本に押され、自動車業界は日本車人気に苦しんでいたころだ。映画の舞台となる工場でも、小型車製造を進めている。
 自動車という、アメリカにとって象徴的な存在を作る仕事は、アメリカの労働者のイコンとなる仕事でもあり、伝統的にアメリカの自動車製造従事者は、全業種でもポジションが高い給与を得てきていた。企業横断型の組合が強いことには、そういう背景もあるわけだ。
『ガン・ホー』でも、UAW(全米自動車労組)からきたという男が、低い雇用条件に応じると労組除名だぞと集会の檀上で恫喝するが、働き口がない工場員たちは、まずは仕事をくれとUAWを追い出しハントを檀上に呼ぶ。ごく短い場面だが、以後のいっそう深刻な自動車業界の不況と、その中でのUAWの立ち位置を予言するようでもある。
 こうして観ていくと、かつて笑いながら観たシーンや、ケンカの売り買いだと思っていたやりとりが、違った角度で何度でも観直せる気がするから面白い。

『ガン・ホー』は、日米両国人がひとつの家族として結びつき、協力して生産アップするという姿を描きつつ、結末へ向かう。
 そこには、労働への献身は、愛する人たちと、その人たちが暮らす地域を支えるためだというメッセージがある。ラストシーンのBGM「Working Class Man」も、そういう歌だ。
 監督のロン・ハワードは、新作の『ハン・ソロ スターウォーズ・ストーリー』(二〇一八年)も、異星人同士のバディ(仲間・相棒)ムービーとして──ちなみに『スターウォーズ』シリーズ全編の主人公って、チューバッカだった(笑)んですね──撮った。人気テレビドラマの子役を長くやった人なので、ユーモアと愛のある仲良し家族、あるいは仲間同士というのが、ハワードがいちばん描きやすいモデルなのかもしれない。

 こんなふうに楽しめる『ガン・ホー』、アメリカでは人気で、ゲディ・ワタナベが同じ役を演じたテレビシリーズにもなり、そちらもヒットしたそうだ。
 しかし日本では映画は劇場公開されず、テレビ版も放送されていない。公開の翌年ごろたまたまVHSビデオで観たが、DVD化は遅く、二〇一〇年あたりだったはずだ。
 確認はできていないが、日本のことが正しく描かれていないので、売れなかろうということだったらしい。
 そうですか? アメリカ人にはそう見える、ということではいけないのだろうか。
 さきほど書いたように、「そうだよなあ!」とうなずいてしまう場面もあるし、アメリカ人の愚かさをビシッと突くハントのセリフもあった。海外の映画やドラマへ「日本の描き方が正しくない」という指摘がよくあるが、ならば日本の映画やドラマは例外なく「日本の描き方が正しい」のだろうか。
 
 まあ、くどい議論はしないことにして、ラストまで笑って観られるかどうかは、このシーンで笑えるかどうかだ。わたしは初めてビデオカセットで観たとき、思わず吹き出した場面。
 日本側社員とその家族たちが、地元空港に会社の専用小型機で到着する。
 コロコロと敷かれた赤ジュウタンに、思わずクツを脱ぐ日本人一行。アメリカ側も慌ててクツを脱ぐ。
 この場面、出迎えのアメリカ側のセレモニーも、いちいち笑えるネタだらけだが、思わず吹いたのは、社機に麗々しく書かれた日本企業の社名だ。
 ASSAN MOTOR COMPANY こと「圧惨自動車会社」! プッ! さっき観たときも笑った!
 ここで笑えなかったら、う〜ん、この映画は、そこらでやめておいたほうがいいかもしれない。
 それに、いまはちとタイミングが悪すぎるかもしれないな、この冗談あて字は……。(ケ)


 文中※をはじめ、アメリカの自動車製造の労働構造については、
『アメリカ自動車産業 競争力復活をもたらした現場改革』篠原健一/中公新書/二〇一四年  
 を参考にしました。

 
Originally Uploaded on Dec. 28, 2018. 01:06:00
posted by 冬の夢 at 00:05 | Comment(0) | 映画 洋画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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