2018年03月10日

Luis Miguel − Voy a Apagar la Luz / Contigo Aprendí 元気が出る曲のことを書こう[37]【改】

 本当に何度も何度も聴いた曲だ。
 この二曲のメドレーが収録された、いずれもモンスターヒットした『Romance』シリーズの三作目、『Romances』(一九九七)を、いったい何回、CDプレーヤーのトレイに乗せたことか。

 そう、メキシコの人、十人に聞いたら、間違いなく十人とも知っている、ルイス・ミゲル!
 スペイン人を父に、イタリア人を母にもち、一九七〇年にプエルトリコで生まれているが、メキシコに移住してのちは、メキシコを祖国として活動を続けているスーパースターだ。

 お父さんが歌手でギタリスト、お母さんは女優だったそうなので、幼いころから環境に恵まれたのか、十一歳でデビューするなりゴールドディスク。十三歳でラテンアメリカ諸国を公演して回り、スペイン語のポップソングを歌うティーンアイドルとして大人気となる。
 ただ、年端もいかぬうちにスターになった人によくあることだが、厳格なステージパパだった父親と折り合いが悪く、また、お母さんは謎の失踪を遂げたままだそうで、多感なハイティーン時代を辛く過ごしたようだ。

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ROMANCES 1997

 そんなミゲルは、二十一歳のとき『Romance』(一九九一年)を発表し、ますます広い世代から圧倒的な支持を受けて、国民的スターとなる。
 この盤でミゲルが歌ったのは、古くは一九四〇年代にさかのぼり、一九五〇年代ごろもっとも人気があったメキシコの歌謡曲、ボレロだ。曲のもともとの雰囲気を大切にしながら、新しいアレンジで歌っている。
 ボレロといえば、モーリス・ラヴェルじゃないの、という人もいるかもしれない。
 実際、ラヴェルの「ボレロ」も影響を受けている、十八世紀末スペイン発祥のダンス音楽、それがボレロである。スペインから中南米へ伝播し、さまざまに変化していくのだが、メキシコでは大衆向けのスイートな「歌もの」となり、好まれたというわけだ。
 歴史や楽理で説明するより、聴いたほうがはやい。スローテンポのラテンリズムが情熱的なメロメロの熱唱曲がずらりだ。歌詞を日本語で聞いたら赤面しちゃうほどのラブラブ歌謡だらけである。ご存じのとおり、日本のムーディーな戦後昭和歌謡はラテン音楽に影響を受けて──ありていにいえばパクって──いるから、どこか懐かしさもあって、思わず耳を傾けてしまう魅力もある。

       

 ミゲルが素晴らしいのは、かつて愛聴あるいは愛唱されたが、さすがに古びて、二線級の歌手がナイトクラブで歌うようなイメージになっていた曲たちを、キラキラと復活させたことだ。
 一流クラシックオーケストラのピックアップメンバーたちが奏でる華麗な弦の響きに、トップクラスのスタジオミュージシャンのコンテンポラリーなテクニックをプラスした伴奏は超豪華だ。そこに、二〇歳代にして円熟のスターの貫禄たっぷりのミゲルの、若さと余裕が合体した奇跡のような歌唱力が、みごとに乗っかっている。
 この『Romance』シリーズで、ボレロを現代的なアレンジでよみがえらせる作業をとりしきり、新曲も提供した制作者は、じつはボレロ全盛時代の人気作曲家で歌手でもあった、アルマンド・マンザネーロだ。そのことも大成功のカギだったといえる。いま紹介している『Romance』のはじめに収録されているメドレー「Voy a Apagar la Luz / Contigo Aprendi」の二曲とも、マンザネーロが一九六七年に作った曲なのだ。

 制作の背景を先に説明したが、なんといってもミゲルの歌いかたがいい。セクシーで最高だ! ごくわずかに息が通る感じがあって、フレーズの終わりをクイッと絞るところなど、わたしがいうのもなんですが、くらっときてしまう。
 もともと、ちょっと扇情的なほどのコテコテ感もあるボレロなのだが、下品になってしまっていないのがいい。古き良き時代に、ロマンスを一直線に歌いあげた曲たちが、爽やかにふたたび輝いている。
 本人のルックスもよくて、タキシードやスーツという、濃色のオーセンティックなイメージで通したのも当たりだ。ボレロの歌い手といえば、たしかにそういうスタイルなのだけれど、口ヒゲのおじさんトリオがニヤニヤしながら濃いぃ感じで演奏するイメージがあった。そうではなくて、清潔感があるのがいい。この点も、大ヒットした理由のひとつかもしれない。
 ヴィジュアルなしに説明するのはむずかしいが、たとえばわたしが、この曲をふだん着でスナックのカラオケで歌いでもしたら、どう見たってただのエロオヤジでしかないわけで、その違いです! 違いもくそもないか!

Voy a apagar la luz
Para pensar en ti
Y asi, dejar volar
A mi imaginacion
Ahi, donde todo lo puedo
Donde no hay imposibles
Que importa vivir de ilusiones
Si asi soy feliz
Como te abrazare
Cuanto te besare
Mis mas ardientes anhelos
En ti realizare
Te mordere los labios
Me llenare de ti
Y por eso voy a apagar la luz
Para pensar en ti

Contigo aprendi
Que existen nuevas y mejores emociones
Contigo aprendi
A conocer un mundo nuevo de ilusiones
Aprendi
Que la semana tiene mas de siete dias
A hacer mayores mis contadas alegrias
Y a ser dichoso yo contigo lo aprendi (略)

  灯りを消すよ
  あなたを思うために
  想像の翼を夜空へ
  そうすれば何でもできる
  なにも不可能じゃない
  幻のなかに生きていい
  それで幸せなら
  あなたをどんなふうに抱こうか
  どれほどキスしてあげようか
  いちばんの望みはあなたが現実であること
  あなたの唇を噛もうね
  あなたを全身で感じたい
  だから灯りを消すよ
  あなたを思うために


  あなたとともに知ったのです
  新たな素晴らしい情熱を
  あなたとともに知ったのです
  新たな幻想の世界との出会いを
  知ったのです
  一週間が七日以上あることを
  喜びがもっと数えられるように
  あなたに教わったさまざまなことと 
  もっと幸せにすごせるように   (略)


       ♪♪

 ルイス・ミゲルの『Romance』シリーズを教えてくれたのは、その当時メキシコにくわしかった友だちだ。わたしは中南米には行ったことがない。たしか二作目の『Segundo Romance』(一九九四年)を教わり、一作目『Romance』も買って、まもなく出た新譜『Romances』もすぐ買った。

 わたし自身の話はどうでもいいのだが、そのころ、つまり一九九〇年代の半ばから後半は、ひどくつらいことが重なっていて、やや長く療養したりもしていた。そこへもってきて、女性関係がなにごとにつけうまくいっていなかった。そのせいか、この曲は、聴くたびにひどく身にしみた。
 スペイン語はわからないので、歌詞の意味するところはいまも完全にはつかめていないが、この曲のような、嘘いつわりなく強い気持ちを持っていたのに、それが通じる「あなた」は、自分にはいないんだという、寂しい思い込みに陥っていた気がする。
 いまでは、この曲のような気持ちを語れる相手に出会うことはないと思っているし、そもそもこのようなセンチメンタルな歌謡曲に歌われているような女性なんて、世の中にいるわけがない。
 いや……それはちょっと勝手すぎる断定だろうな。あの当時だって、けっして存在していなかったわけではなくて、相手の気持ちを汲めないこちらの身勝手が、話がうまく通じなかったり、いちいちもめてしまったりした原因に違いないのだ。この曲のように「ともに知る」つき合いを女性とすることができず、去られることばかりになったのは、要するに、こちらのわがままのせいだったのだろう。

 いま、このメドレーの歌詞を見ながらミゲルの歌を聴いていると、やっぱり、せつなさがこみ上げてくる。
 懐かしさもさることながら、どこかもどかしい気持ちが、いりまじって。
 歌われていることが、妄想なのかリアルなのか、よくわからなくなってくる。幻とうつつを行き来しているようにも思える。
 すぐそこにあるようで、手が届かないことなのだ。だからこそ、この歌は輝きつづけている。
 曲に歌われているような「あなた」との出会いは体験できなかったし、今後それが起きるような歳でもなくなった。それでもなお、こんな「あなた」がいたらいいのにと、いい歳をして思いながら、また聴いてしまう。
 それって、ちょっと危ないかな?

       ♪♪♪

 いくらミゲルの歌がすばらしくて、どの盤もヒットしたといっても、スローテンポの大甘な、しかも大昔の曲のカバーばかり歌うライブを、わざわざ聞きにくる若いお客さんなんているのかなとさすがに思う。
 しかし、中南米でのミゲルのライブの映像を見ていると、客席には若い女の子もたくさんいる。アップテンポの曲も歌っているが、バラードのカバー曲ばかり続けて歌っても、とんでもなく盛り上がっている。
 ラテン系だからかどうか、お客さんの女の子たちがみなとても美人に見える。ライブ録画のための仕込みじゃないかと疑ってしまうほどだ。それはともかくとして、若く美しい女の子たちが、生まれてもいない大昔の曲をミゲルといっしょに思いっきり歌っている姿には、あっさり感動してしまう。若い人たちが、昔のラブソングをいまでもそんなふうに共有できる姿って、すなおに「いいなあ!」と。(ケ)

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Mis Romances 2001



※スペイン語歌詞の英訳サイトをいくつか見て訳しました。
※二〇二二年一月二〇日、手直ししました。管理用


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posted by 冬の夢 at 03:13 | Comment(0) | 音楽 映画音楽・ソウルなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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