2018年03月09日

マクガイバー、The Man Without Guns

 アメリカの、アクションものテレビドラマで、主人公が拳銃もマシンガンも使わずにミッションを遂行する人気シリーズがあったとは知らなかった。
『MACGYVER』だ。
『冒険野郎マクガイバー』というタイトルで一九九〇年代前半に放送されていたそうだが、最悪に仕事に忙殺されていたころで番組の存在にさえ気づいていない。二〇一六年にアメリカで放送が始まり日本でもこの年初からDVDリリースされている、リブートシリーズを見て知った。

 どちらも設定はほぼ同じで、きわめて広範な科学知識を持つ秘密組織のエージェント、アンガス・マクガイバーが主人公。世界の悪人どもが仕掛けるさまざまな難事件を、持ち前のユーモアセンスを発揮しながら体当たりで解決していく。
 面白いのは、マクガイバーが銃を使わないこと。新旧ともに全編を見たわけではないので絶対にとはいえないが、すくなくとも殺傷目的で銃を持ったり発砲したりはしていないはず。旧編で見たシーンでは、敵が撃とうとしたリボルバーに、瞬間技で飛びついて定規をはさみ撃鉄を落ちなくする、というものがあった。そして、虚をつかれた敵から銃を奪って撃てばいいが、マクガイバーは不快そうに銃を蹴飛ばすのだ。そもそも暴力を好まずという設定でもある。

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『冒険野郎マクガイバー』 CBSでは 'MacGyver Classic' と通称している
公式トレーラーは→こちら←

 ならば、どんな手段で敵をやっつけたり脱出したりするかというと、いつも持ち歩いているスイスアーミーナイフ、ペンチや缶切りなども出てくる十徳ナイフですね、あれとダクトテープ、つまり強力粘着テープ──現在も補修用品としてアメリカで広く使われるそうだ──を使い、現場にあるさまざまなブツから仕掛けを作って対抗する。もちろん科学工作だけでなく、暴力を好まずだがベアナックルファイトもありで、飽きさせない。

 マクガイバーが劇中で成功させる工作や薬品は、空想科学だけでなく実際に可能な場合もけっこうあるそうだ。
 クリップを曲げてあれこれ作ったり、電化製品をばらしてパーツを取ったり、調味料を混ぜて薬品を作ったりする場面は、その手順や手もとがたんねんに映し出され、ワクワクする。理科実験や図画工作ふうの、いかにもDIYな感じだけに、「子どもはマネしちゃダメだからな!」と背伸びしたがる少年のような気持ちが、かき立てられる。
 ちなみにキレイなお姉さんも出てくるが、どギツいお色気シーンはほとんどないようなので、アメリカで放送七年にもわたった人気を支えた視聴者には、ティーンエイジャーも多かったのではないか。手近な道具やパーツで臨機応変に故障を直したりすることを番組ファンの間で「macgyvering」などというようになり、その言葉がボーイスカウトのガイドブックに使われたりもしたと聞く。

 このブログで、銃をめぐる映画をいくつかとりあげている。銃と人間、銃をめぐる大人と子どもの関係などを描く映画だが、そういう映画やテレビドラマがひとつふたつ作られたからって、ゴチャマンと登場する「ドンパチ映画」──それはそれで、わたしも楽しんで見ているが──の前にはなんの訴求力もないと思うようになり、最近は、銃について考えさせるようなテーマの映画を探して見ることもなくなっていた。
 が、銃を持たないアクションヒーローものドラマが、銃がとんでもない悲劇を起こしてばかりいる、あのアメリカで、かつて大きな人気を集め、リブートシリーズもなかなか快調らしいと知り、ちょっとだけ嬉しくなったわけだ。
 
 リブートでマクガイバー役に起用されたルーカス・ティルは、オリジナルのリチャード・ディーン・アンダーソンの雰囲気を上手く受け継いでいる。いっぽう実年齢は出演時のアンダーソンのひと回り下で、ルックスは理系学生っぽい感じもあるが、逆にそれが、いま風なウィット含みのセリフのやりとりに、よく合っている。
 ただ、ちょっとしんどいのはマクガイバーの相棒のダルトンが、デルタフォース出身の荒仕事担当という設定。こいつが思いきり銃器をぶっ放しまくり、ひとりでこの番組の主旨をブチ壊している。
 昨今のエージェントものアクションドラマはみなそうなので、新『マクガイバー』だけがダメなわけではないが、女天才ハッカーというのがいて、やたらにコンピューターが出てくる。作戦はつねに本部で監視されていて、現場と本部の「二元中継」で話が進むが、俯瞰視線の場面とのカットバックは、話が見えやすい代わりに、息詰まる潜入作戦などの緊張感をそぎがちだ。

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『マクガイバー』
公式トレーラーは→こちら←

 ちなみにオリジナル主演のリチャード・ディーン・アンダーソンは、新シリーズには気に入らないところがあると発言している。※
 爆発や銃撃場面が多すぎることと、話のテンポが速すぎて、オリジナルシリーズの要所だった工作のディテールを映し出す場面が略され過ぎているのではないかと言っていた。番組終了以降、アンダーソンは環境保護運動や青少年活動をサポートしている。シー・シェパードのアドバイザーでもあり、いわば「ミスター・マクガイバー」としての人生を歩むようになったともいえるだろうから、わたしが新シリーズで「どうかな」と思った部分──新シリーズだからと割り切れば楽しめる部分でもあるが──を不満に思ったのは当然かもしれない。

 それはともかくとして。
 アメリカで、十代のころオリジナルの『冒険野郎マクガイバー』にはまった男の子たちは、いま四十歳代。社会を動かす軸の中心にいる世代だ。
 彼らが「マクガイバー・ジェネレーション」といわれて、銃器規制強化運動をサポートしたり、アンチ・システム的な、ハンドメイドのガレージ・カルチャーをリードしているというような動きは、いまのアメリカにあるのだろうか。いまのわたしには情報源がないこともあるが、聞いたことがない。
 それをいうなら、日本でも大人気だった昔の戦争ドラマ「コンバット」──初期シーズンのもの──にしても、もっと前の西部劇「ローハイド」にしても、ああいうテレビドラマを何年も熱心に見続けたら、誰だって、銃をぶっ放しまくったり戦争で人殺しをしたりするのが、心底イヤになると思うのだが。
 どうも、そうではないらしい。(ケ)


※二〇一七年、ソルトレイクのコミコン会場でのQアンドAコーナーで。youtubeなどでその様子を見ることができる。

posted by 冬の夢 at 00:57 | Comment(0) | 映画 洋画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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