2018年01月26日

たまには詩でも #7

   高波

時がよどみ
思いがあてもなく溢れるとき
思い出されるのはいつも君のこと
まだ高校生だった
君もそしてぼくも

はじめて話しかけた
ぼくの厚かましさ
話しかけられた君の
かすかなはにかみ

それが本当は奇跡だとも知らず−−
本当に出会いはいつも奇跡なのに−−
応えてくれた君の気取りのなさをただ喜んでいた
せめてその最初の喜びを信じることができていたら

ありきたりの高校のありきたりの教室
いつもと変わらない授業と授業の間の休み
いつも目が追い求めていた
他の誰よりも落ち着いて大人に見えた
その人がぼくたちの教室に入ってきた
多分クラブの友だちに会うために
そのときぼくは慣れない針と糸を手に
取れたボタンと戯れていた

まさか君が来るとは全く予期していなかったから−−

君を探すのは登下校の駅から学校までの間
そして昼休みの中庭
会える日と会えない日がまるで占いのようだった
(でも、はたしてあれを「会う」と言うのだろうか?)
(ただ遠くからその姿を見守るだけなのに?)

君がぼくのすぐ脇を通り過ぎようとしたとき
声を発せずにはいられなかった
たとえば突然の物音に驚いた小鳥のように
考えるよりも先に飛び出していた
「このボタン、つけてくれない?」

今度は君がばったりと人に出会した子鹿のようだった
−−それともぼくは藪に潜む蛇だったのだろうか……
君はいつもの落ち着いた大人びた表情を捨て
まるで六歳の子供のように目を見開き
図々しい願い事を言い出した隣のクラスの少年を見つめていた

一秒、あるいは二秒、そして永遠に……

ぼくの手から針と糸のついた制服を素早く受け取った君は
「次の休み時間に」と言って教室を出ていった

それからぼくたちは友だちになった
それが今ではお伽噺のようにしか思われない

思い出すことはまるで
虫が喰って痛くなった歯を舌先でもてあそぶか
治りかけた瘡蓋を辛抱できずに剥がしてしまい
またうっすらと血が滲むのに似ている

思い出すことは何にもならないのに……

(H.H.)




「たまには詩でも」●バックナンバーは→こちら←



posted by 冬の夢 at 02:52 | Comment(0) | 創作(詩・小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く:ペンネーム可・アドレスは表示されません
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: