2018年01月07日

BRIAN McKNIGHT − BACK AT ONE 元気が出る曲のことを書こう[35] 【改】

 R&Bといえば、ブライアン・マックナイトをよく聴く。
 かつては、ルーサー・ヴァンドロスのファンだった。一九八〇年代や九〇年代ならではの歌を熱唱してくれる、ひと世代うえの頼れる兄貴分だったから。 
 しかし、ヴァンドロスは二〇〇三年に脳こうそくで倒れる。意識は回復したが歌の活動はできなくなり、二〇〇五年、五十四歳で亡くなってしまった。

 ヴァンドロスを最後の思い出にし、以後のコンテンポラリーR&Bは聴かないことにしてもよかったが、ほかのジャンルも、好きな曲はみな「クラシックス」とよばれる世代になってきたためか、むりに最新の音楽を追いかけはしないまでも、同じ時代を生きている人の歌を聴こう、と思うようになった。マックナイトはヴァンドロスのふた回りほど下の世代。わたしは両者の中間にあたる。

 ブライアン・マックナイトは、デビューから二作目の『I remember you』(一九九五)から聴きはじめていて、大ヒットした三作目の『anytime』(一九九七)、そして、クリスマスソング集は好きではないのに四作目『Bethlehem』(一九九八年)も買い、五作目の『BACK AT ONE』(一九九九)で、タイトル曲の「BACK AT ONE」にたどりついた。この曲には、ずいぶん元気づけられた。

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BACK AT ONE 1999

 It's undeniable
 That we should be together
 It's unbelievable
 How I used to say
 That I'd fall never
 The basis is need to know
 If you don't know
 Just how I feel
 Then let me show you now
 That I'm for real
 If all things in time
 Time will reveal
 One
 You're like a dream come true
 Two
 Just want to be with you
 Three
 Girl, it's plain to see
 That you're the only one for me
 And four
 Repeat steps one through three
 Five
 Make you fall in love with me
 If ever I believe my work is done
 Then I'll start back at one

  否定不可能だよ
  ぼくたちが一緒にいるべきなのは
  信じられないことだ
  ぼくはどうして
  恋に落ちることなんかないっていってたのかな
  まずは知っておいてくれなくちゃ
  もし気づいてないなら
  ぼくがどう感じているかってことを
  それからこういわせてほしい
  ぼくはマジだよって
  このことすべてがぴたりとはまれば
  時が教えてくれる きみがぼくを愛してくれることを
  ステップ1
   きみは夢が実現したかのようで
  ステップ2
   ただそんなきみといたいんだ
  ステップ3
   ね、かんたんにわかるだろ
   きみがぼくのオンリーワンだってことが
  そしてステップ4
   ステップ1から3を繰り返すよ
  ステップ5
   そしたらきみは僕と恋に落ちる
  たとえこの手順が完了と確信しても
  ぼくはもういちどステップ1から始めるからね (以下略)


       

 子どものころゴスペルクワイアにいたこともあって、むろん歌唱達者のマックナイトだが、強みは自分で作詞作曲できること。さまざまな楽器も弾け、自分の曲をうまく演出する伴奏を考え出している。
 ピアノやギターで弾き語りするのを聴くと、ジャズの知識もあるようで、CDのバージョンとは違ったコードをつけ、歌もそれに合わせてアドリブできるようだ。聴き手をさんざん揺さぶり、ピタリとつじつまを合わせるライブ演奏がいい、ほんとうの実力派である。
 ただ、そういうところが小技が効きすぎるように感じたせいか、じつは『BACK AT ONE』までは、おつき合いで買っていたところもなくはない。

 しかし「BACK AT ONE」は、素直に心に届いた。この曲ばかり何度聴いたかわからないほどだ。
 CDのバージョンでは、作詞作曲から伴奏、バックコーラスまでひとりで録音しているのだが、あっさり歌っているし、装飾音は多いものの、弾き歌いに聴こえるほど素朴な感じもある。宅録しながら聴かせてくれている感じがするのだ。
 素人にはできっこないシャウトとともに転調したりする華やかな面もある曲なのだが、いっぽうで、いっしょに口ずさんでいられるところがたくさんある。じっさい、フォークソングふうにギターで簡単なコードをポロンポロン鳴らしながら歌っても気持ちがいい。本人もそういう感じでライブ演奏をしていたりもする。
 歌詞の、恋のステップワンツースリーみたいなところは、ソウルの歌詞の常套句なんでしょうけれど、それもいい。しかもここを、とつとつと歌っている──いっしょに歌える──のが、さらにいい感じだ。
 もちろん女性に向かって歌っている曲だろうが、男性が女性から歌われているという設定でも聴ける。そして、恋愛だけではなく、人間関係というものはいちど縁があれば、たとえ誤解が生じても、ワンステップずつ、すこしずつつながりを結び直せばいいんだと、しみじみと聴いたものだ。

      ♪♪

 ところが、CD発売の年に公開されている、この曲のミュージックビデオ(MV)には驚いた。※1
 じつはその存在を知ったのは最近なのだが、見たあとでは、曲の受けとめかたが違ってきてしまった。
 監督は映画『ハンガー・ゲーム』のフランシス・ローレンスで、本格的に劇場映画をやる前にMVを多く手がけたころの制作。『ハンガー・ゲーム』を見れば、こんなMVになったことが、多少は理解できるのだろうか。

 誰もいない家に、買いもの袋を抱えて戻った女性。
 電話が鳴り受話器をとりに。
 画面が切り替わり、霧がかったトウモロコシ畑を、歌いながら歩いてくるマックナイトの姿。
 なぜかレスキュー隊員とすれ違い、消防車にヘリコプター。
 何ごとだろう。

 その場面は、焼煙が立ちこめる、旅客機の墜落事故現場なのだ。
 混乱のさなかを、ただひとりスローモーションで通り過ぎていくマックナイトは、その事故で亡くなった乗客。アン・ハサウェイが出ていた映画『パッセンジャーズ』(二〇〇八)を思い出す。
 ベッドルームで受話器をとった女性は、マックナイトの妻という設定。
 墜落現場から妻がいる自宅に向かうマックナイト──の霊もしくは魂だろうか──の姿に、事故場面がかぶさる。飛行機電話でマックナイトは自宅へラストメッセージを伝えるのだが、同時に彼──の霊か魂──が自宅へ戻って、妻にメッセージを聞かせる。一曲ぶんの短い時間で、うまくまとめたストーリー仕立てのMVだ。
 いや、まとまりはともかく、このMVは、若い女の子にワンステップずつ恋を告白する話ではなく、死んじゃう前に奥さんへの愛情を一つ一つ確認する話なのだ。曲から受けていたイメージが、かなり揺らいでしまった。
 そんなことより、このMVを知ったのは、二〇〇一年の米同時多発テロの後だ。ハイジャックされた機から、夫が妻に携帯電話で最後の連絡をしたケースが実際にある。初めてこのMVを見たときは、正視できない思いさえした。

       ♪♪♪

 当時のアメリカで、このMVが予知夢のようだという騒ぎになったかどうかは知らないが、同時多発テロとの関連はともかく、以後この曲を聴くたびに、かならず思うことができた。よくある設問だけれど。

 自分がまもなく死ぬとなったら、誰に、なにを伝えますか?

 愛情あるいは友情を、ごく短くワンステップずつ確かめられる誰かが、わたしにはいるだろうか。
 死ぬかもしれないといわれたり、これって死ぬのかなと感じた経験があるが、そのとき心に浮かんだのは、愛情や友情を確かめられる存在のことではなく、ただただ、未練と呪詛だった。今後もおそらく、そうなるだろう。なんてわびしく、寂しい人生だろうと思うが、しかたがない。

       ♪♪♪♪

 この曲を思いついたとき、ブライアン・マックナイトは「取説」を読んでいたのだそうだ。※2
 買ったばかりの家に引っ越して、オーディオやビデオ機器を設置していたときだ。有料の組立サービスを呼び、マックナイトは取扱説明書を見ていた。
 ええと、最初はそれを接続するだろ、つぎにこうして、こういう状態になったら、これをやってよ。う〜ん、もう一回繰り返してみてくれるかな──。
 
 おいおい、取説の曲かよ(笑)!
 いや、そういうときに思いついた曲だからこそ、いい曲なのかもしれないな。
 取扱説明書を見ながらオーディオ機器を接続するときのように、いちどでうまく行かないからってカンシャクを起こさず、ひとつひとつ、ゆっくりと。人生の残り時間など気にしないで。
 気持ちをひとつひとつ伝えるごとに、わかってくれる誰かが、まだこのさきのどこかで、待っているかもしれないしね。(ケ) 


※1「Back At One Official Music Video」で検索願います。
※2 www.mtv.com/news/1431495/brian-mcknight-on-new-singles-manual-inspiration/
※ アップロード直後、歌詞の訳をわずかに直しました。ご指摘くださったかたに感謝します。
※ 二〇二〇年十二月二十五日まで、文章をすこしずつ直しました。管理用



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posted by 冬の夢 at 01:09 | Comment(0) | 音楽 映画音楽・ソウルなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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