2017年12月10日

AC / DC − Hell Ain't A Bad Place To Be 元気が出る曲のことを書こう[31]

 ヘイユー!

 といっても左とん平じゃないよ!
 ボン・スコットです!

 AC/DCが世界中で知られているのは、もちろん三十五年以上もこのバンドで歌ったブライアン・ジョンソンの貢献が大きいが、「Hell Ain't A Bad Place To Be」の「ヘイユー!(Hey you)」、このひと声を聞き比べるだけで、AC/DCはボン・スコットのバンドだったんだと心底、納得できる。七〇年代半ばから五年半ほどの在籍だったけれど。
 で、ジョンソンがついに抜けたAC/DCでいまマイクを握っているのは、なんとアクセル・ローズなのだが、この男の「ヘイユー!」の腑抜けたいい方ときたら、「裸で出直して来い!」と怒鳴りつけたくなるほどだ。やっぱりAC/DCは、ボン・スコットのバンドなのだ!

171210d2.JPG
LET THERE BE ROCK
映画公開とビデオソフト発売は1980年。DVDリリースは2011年までずれこんだ。
DVDの新エディションも出ているようだ。くわしく調べていない。すみません。
サウンドトラックCDも単発で出ているが、収録曲が違うかもしれない。
文末の『Live From The Atlantic Studios』と合わせ、こちらの演奏映像は必見だ。

 かなり長い間、輸入ビデオカセットしかなかったが、いまはDVDが出ている一九七九年パリでのライブ、『LET THERE BE ROCK/THE MOVIE/LIVE IN PARIS』の三曲め、「Hell Ain't A Bad Place To Be」を見てください。
 十二月の公演だが、ボン・スコット、もちろん裸である。
 そのわずか二か月後、氷点下のロンドンの朝、スコットは前夜の深酒のはてに車中に放り出されたまま亡くなってしまうので、裸でわめいているスコットの姿には、ひどくしみじみさせられる。叫びが脳天を突き破るような歌いかたなのに、ちょっと信じられないが喘息持ちだったそうだ。泥酔したままヒーターもつけない車中で人事不省に陥るとは……。
 ひどい飲酒癖はともかく人好きのする性格だったと、いつか海外の記事で見たことがある。ひょっとして、もとは体が弱く、シャイなタイプだったのだろうか。そういうヤツほどおおげさに振る舞ったり暴れたりするから。
 実際、バンド加入前は、あれこれ悪事もはたらいたらしいが、フィル・ラッドよりはましじゃないかと。というのも、そのAC/DCのドラム奏者は、世界的成功を享受し、いちど引退(クビになったのだが)後、ヘリコプター運輸会社を買収しまた成功、バンド再参加さえ果たしたが、数年前、薬物・麻薬所持や脅迫、あげくに殺人教唆(!)で、いい歳でまたバンドをクビになっているからだ。
 なぜ、いまさらスコットをかばいだてするかというと、七〇年代の日本の音楽雑誌やラジオ番組はスコットを、オーストラリアの辺境生まれで(イギリス生まれの豪州移住者だ)、動物と一緒に育ったので英語がほとんど話せないと紹介していたから。知っている英語はワイセツな単語だけ、女とみれば襲いかかる狂犬だ、みたいに。いい加減なものだ。

 それはともかく、ボン・スコットの「ヘイユー!」。
 ド田舎の貧乏白人だらけのバーで神経質そうなアンチャンにこれを言われたら、つぎの瞬間には殴られている的な「ヘイユー!」だ。日本語に訳すなら「なあ、お前」じゃなく、松田優作の「ちょっと、そこのアンタ!」だろう。これがロックの「ヘイユー!」だ!

 スコットの「ヘイユー!」がベストなのは、単純で強烈なリズムの合いの手として、ピシリと決まっているからだ。
「ヘイユー!」の前の、爆発的なギターのイントロは、 

 G5 D/F# G5 | D/F# G5 D/F# | A

 書くと、コードも譜割もえらく難しそうだが、なんの、フォークギター入門者でも弾ける。
 メインリフにいたってはイントロより簡単。初めてエレキを持ってもほどなく音が拾える。
 ラッドのドラムも単純で、代わって叩いているクリス・スレイドのほうが素人目にもはるかに上手い。ラッドのフィルインなど楽勝で同じに叩けるはずだ。
 が、なぜかラッドのほうがいい! 
 正確にはわからないが、ハイハットが異様にやかましい気がする。そこがまた、このシンプルなバンドを盛り上げる。
 ロックは単純なことをキチンとやればカッコいいんだ、ということに思えるが、そこがAC/DCが一筋縄ではいかないところ。一人でギターをいくら練習してもAC/DCに聴こえなかったり、バンドで合わせると、どうもパッとしない経験は、多くのアマチュアがしたと思う。

 目立つところでギターでいえば、アンガスとマルコム、おなじみヤング兄弟のギターのパート分担。
 息の合った兄弟どうし、弟の華麗なソロを兄がカッチリ支える、というのが、ありがちな説明だが、正確でない。もちろんアンガスがソロを弾いているときは別として、歌メロのバックでは兄弟はほとんど同じことをやっている。
 が、その「ほとんど」が非常なクセモノだ。微妙に違う。同じリフを兄弟で、わずかに音違いで弾いたり、同じ音でも違う押さえかたで弾いていたり、それが混ざることで、すごい効果になっている。
 ボン・スコットの歌は、やたらな絶叫調でなく、手裏剣のようにポイントを突き刺す。ドラムをやっていたせいかと想像している。たしかフォリナーのルー・グラムもドラム経験者。どちらもキレがいい。グラムと比べるとスコットはいかにも訛っていて歌詞は聞き取れないが、ツボを心得た掛け声のように、メリハリが気持ちいい。

 バンド全員が「リズム免許皆伝」であることが、単純な曲で世界を熱狂させ、まったく古びない理由だが、そのリズムの「テンポ」、それがまた、AC/DCならでは、なのだ。
「Hell Ain't A Bad Place To Be」はBPM128くらいの速さ。現代のロックではかなり「遅い曲」だが、いちど、この曲を聴きながら歩いてみてください。走るのと歩くのの中間くらい、やや早足のテンポだ。これが非常にノリやすく気分が高揚する。外回りの仕事で面罵されメゲて直帰のときなど、ヘッドホンでこれを鳴らすと、いつしか歩みが早まった。調子よくイチ、ニ、イチ、ニと家路へ、いや駅前の呑み屋へと、足を進めたものだ!

 Sometimes I think this woman is kinda hot
  この女 熱いヤツだぜ って思うときもあるが
 Sometimes I think this woman is sometimes, not
  どうもそうじゃねえってことが ちらほらあんだよ
 Puts me down, fool me around
  俺をコケにしやがったり 浮気しやがったり
 Why she do it to me?
  なんでそんなことをするんだろうな
 Out for satisfaction, any piece of action
  どれもこれも 満足したくてやってるってつもりかよ
 That ain't the way it should be
  そんなこと あっちゃいかんのさ

   She needs lovin'
    愛したがってるんだろ
   Knows I'm the man
    俺がベストだと知ってるもんな
   She's gotta see
    あいつもわかんなくちゃいかんぜ
   Pours my beer
    俺にビールをついで
   Licks my ear
    俺の耳を舐めりゃ
   Brings out the devil in me
    俺の中の悪魔がご登場だってことを

 Hell ain't a bad place to be
  地獄の居心地は 悪くはないよな

 kinda hot な女とは、付き合ったことも結婚したこともないし、どちらかといえばニガテな部類だ──相手にされてなかったという説もある──が、この曲を聴いていると、試してみもせず、不機嫌そうな呑み屋のオヤジがドンと置いたビールを前に突っ伏していた自分は、人生を大損したような気になってくる。

「Hell Ain't A Bad Place To Be」の、一九七九年パリ公演を、もういちど見よう。
 アンガス・ヤング! 
 丈が小さい人で、さして大きくないはずの楽器が体に合わないほど大きく見える。手が届かないんじゃないかと心配になるほどだ。
 彼が現在も弾いているギブソンSGは、構造上ネックの先端が体から遠くなる。いやおうなく体を思い切り開き、全身で弾くことに。体じゅうをバタつかせ、ステージを所せましとねり歩くアンガス。こちらも思わず動きを合わせるテンポはBPM128、いや130くらいかな、とにかく最高だ!
 兄のマルコムは、後方のアンプスピーカーの前からほとんど動かず、「分担」をひたすら弾き続ける。はじめにAC/DCはボン・スコットのバンドだ、と書いたけれども、演奏を見ているうちに、裏方に徹する心意気や作曲者としての重大な役割を強調するまでもなく、そうかこのバンドは「兄貴」のマルコム・ヤングがいないと、なんにも始まらないんだ、という地鳴りのような感動もわき起こってくる。イチ、ニ、イチ、ニ、と元気づけられながら。

 二〇一四年秋、認知症のためバンドを抜けざるを得なくなったマルコムの後任には、ヤング兄弟の甥で、かつてマルコムの代役でライブをしたこともある、スティーブ・ヤングが入っている。が、申しわけないようだが、長年バンド活動はしたがめぼしい成果がなく、すでに還暦を迎えている「新」メンバーが、マルコム・ヤングの役割を受け継ぐのは容易ではなさそうだ。
 また、さきのフィル・ラッドがクビになったのが二〇一四年、ブライアン・ジョンソンは聴力障害の悪化で二〇一六年春に離脱、創設メンバーではないがジョンソンより在籍期間が長かったベースのクリフ・ウィリアムズも同じ去年の夏に引退表明。治療を続けていたマルコムは先月亡くなってしまい、AC/DCはもはや、難破船のような状態だ。

 しかし。
 
 アンガス・ヤングに聞いたわけではなく想像に過ぎないが、この人は「完全に息の根が止まる」までAC/DCを続ける気なのではないだろうか。
 なぜならそれはヤング家、つまり移民一世家族の意地だと思うからだ。
 ボン・スコット在籍時代つまりAC/DC初期の制作担当者だったのは、六〇年代初頭に家族でイギリスからオーストラリアへ移民後、人気バンドの一員となったこともある次兄のジョージ・ヤングだ。そしてファンなら承知のことだが、バンドの名前を思いついたのも、あまりにも有名なアンガスのブレザー、半ズボン、ランドセルというスクールボーイスタイルを提案したのも、お姉さんのマーガレットさん。マルコムの後継者に、クリス・スレイドのような有名バンド経験者より長兄の息子を選んだことは、当然の帰結だったのかもしれない。

 となれば、AC/DCを「見とどける」ことが、わたしの使命だといっても過言ではないだろう。
 いかん! CDを全部は持っていない……。
 そのかわり、でもないが、日本では人気がいまひとつで来日公演が多くなかったこのバンドのライブは観ている。二〇一〇年の来日公演だ。当時五十代半ばのアンガス・ヤングはもちろん、裸だった。(ケ)

Malcolm Mitchell Young 1953/01/06 - 2017/11/18
George Redburn Young 1946/11/06 - 2017/10/22
Ronald Belford Scott   1946/07/09 - 1980/02/19
 
171210dc.JPG
BONFIRE
「ボン・ファイアー 〜ボン・スコットに捧ぐ〜」1997年発売の5枚組セット。
前出の『LET THERE BE ROCK/THE MOVIE/LIVE IN PARIS』のサントラ2枚
未発表音源1枚/『BACK IN BLACK』1枚/『Live From The Atlantic Studios』1枚
『BACK IN BLACK』はスコット死後の再起盤(ブライアン・ジョンソン)、かつ、超有名盤なので同梱されても……。

『〜Atlantic Studios』は、一九七七年に宣伝用録音され公式発売されていない。むろんボン・スコット。
気絶するほど素晴らしく、AC/DCを初めて聴くなら、まずこれと思うほどの出来だ。
でも、これ一枚のためにボックスセットを買えとはいいづらい……。
ボン・スコット時代の盤を集め直そうと思ってはいるが、ジャケットも構成も違う豪州盤と二枚ずつ買わなくちゃいけないし……。
四の五の言わず買えってか! ハイ……。


※12月11日、歌詞の訳を手直ししました。ご指摘に感謝します。
●「元気が出る曲のことを書こう」の記事一覧は→こちら←

posted by 冬の夢 at 23:47 | Comment(0) | 音楽 ロック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く:ペンネーム可・アドレスは表示されません
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: