2017年11月28日

ラグビーテストマッチ2017 日本vsフランス観戦記

ノーサイドの笛が鳴ったとき、グラウンドに蹲って立てないのはフランスの選手たちだった。十一月二十五日に行われた日本対フランスのラグビーテストマッチ。23対23というスコアは、日本代表チームがヨーロッパの強豪に勝てるかも知れないという兆しを感じさせるものだった。
舞台はパリ郊外、ナンテールにあるUアリーナ。今年完成したばかりの完全密閉型スタジアムで、杮落としはローリング・ストーンズのワールドツアーという最新型球技場。日本戦の当日も三万二千人収容の会場はほぼ満員となった。と言うのも、フランス代表チームは最近のテストマッチシリーズでニュージーランドと南アフリカに連敗中。「日本相手ならフランスの圧勝」という憂さ晴らしを求めた観客が押しかけたのだった。
かたや”Brave Blossoms”こと日本代表は、横浜でのオーストラリア戦では大敗したものの、ツアー初戦のトンガ代表に快勝。勢いに乗ってのフランス戦であった。
生中継で観戦したわけでなく、ニュースで引き分けたと知ってから、YouTubeでフランスのスポーツチャンネルの実況放送がアップされたのを見たのだが、テストマッチとは思えない演出ぶりに驚いた。試合前には照明を暗くした中でグラウンドの周囲に炎が焚かれ、両国の国歌演奏も中編成の音楽隊による生演奏。TV中継スタッフも実況担当者と解説者に加えて、ピッチサイドにもレポーター二人を配置し、ショーアップにかなり力が入っていた。

そんな中で始まったゲームは、前半終了間際まで日本がリードする展開。点差はわずかながら、ポゼッションでは日本が七割を占め、フランスはペナルティキックでなんとかすがりつくといった状態であった。
前半の最後で逆転したフランスは、後半でも攻守において日本に後塵を拝し、ついには日本のフォワードプレーによるトライで追いつかれる。スタンドオフ田村のゴールキックが決まれば逆転というところまで追い詰められて、なんとか引き分けでゲームを終えたのだった。
その最大の要因は日本のタックル。前回のワールドカップのときにも日本が勝利したゲームはタックルが決まっていたのだが、フランス戦では必殺度が上がっているのがはっきりとわかった。
まず、最初のコンタクト。大きな相手の上半身に向かってガツンとぶつかる。自動車事故を思い浮かべるなら、互いの勢いがバッタリと止まるのが正面衝突。少しでもズレると、車は斜め方向に飛んで行ったり、半回転して逆向きになったりする。タックルでも同じ原理で、真正面から当たらないと、相手選手は身体を反転させながらランを継続出来てしまう。フランス戦でのジャパンのタックルはまさに自動車の正面衝突そのもの。もちろん全力で向かってくる相手の動きを見ながらのタックルなので、速さはフランス選手のほうが優る。その勢いを食い止めるために、タックラーを後ろから重機のように支えるサポーターがつく。センターのタックルをウィングが支え、ロックが当たればフランカーが助ける。上半身の動きを止められたフランスの選手は、前進出来ずにボールも生かせず、やむなく潰れてラックにするのみ。日本のタックルでフランスの連続攻撃は、大いに遅滞させられることになった。
日本代表がハイタックルのペナルティを数回取られたのは、逆に言えばこの正面衝突タックルが徹底されていたから。タックルを避けようと相手選手が上半身を少し屈めただけで、タックルが首に入っているように見えてしまう。ゲーム終盤までジャパンのメンバーは同じレベルでタックルをし続けた。強豪と戦う際の必殺技を手に入れたと言って良いだろう。

攻撃に目を転じると、左右に大きくボールを動かす展開力が目立った。何人かのフォワードがライン参加することで、V字型に広がったふたつのパスコースが用意され、スクラムハーフがそれを自在に使い分けるアタックは見ていて爽快だった。
けれどもそれだけではヨーロッパの最強チームのディフェンスを崩すことは出来ない。キックをほとんど使わなかった本戦において、日本の攻撃が大きく前進出来たのは、突破力のあるバックスがフランスの防御網を一気にかいくぐる場面が多かったからだ。バックスへのパスがポンポンとリズムよく横方向に決まり、全速力のラン体制に入ったキーマンにボールが渡る。それはフルバックの松島幸太朗であり、センターのラファエレ・ティモシーであるのだが、彼らは相手ディフェンスのわずかなギャップを瞬時に見抜いて、その隙間めがけてギアをトップに入れる。フランスの選手は指の先までは届くものの、ほんのわずかな差でつかまえることが出来ない。次の瞬間には松島幸太朗は相手陣22メートルラインの奥深くに刺さり込んでいるというわけである。
こうした戦い方をジェイミー・ジョセフ監督は「アンストラクチャード」と表現している。流動的なオープンプレーとも訳されるようで、相手の予測を上回る非構築性が決定力に繋がるアタックの在り方だ。
例えば、パスコースに対角線上から入った選手がボールを受ける「シザーズ」と呼ばれるプレーは本戦の中で一度しか使われなかった。パターン化された攻撃は、言い換えれば型が決まっているだけに読まれやすい。「アンストラクチャード」は予想もしない動きを加えることで、ディフェンスを混乱させ、その穴をつく作戦とも言える。それには洗練された個人技を強豪相手に発揮出来るタレントが必要であり、今の日本代表にはそんな才能ある選手が幾人も存在するということでもある。
どのコースで攻めるのか、どこへパスするのか。いつペースをチェンジするのか、あるいはどの方向に転換するのか。日本の選手もわからないようなアンストラクチャードなアタックが出来上がると、日本代表の新しい武器になることは間違いない。
もちろん、日本特有の細かな決め事がハマった部分もある。特に工夫が目立ったのは身長差のあるラインアウト。複雑に受け手が入れ替わってボールの入れどころを惑わせていたし、ショートラインアウトのはるか後方の誰もいないところにボールを入れて、走り込んだプロップがマイボールを保持していた。負傷でロックのリザーブを欠いていたことも要因らしいが、サインプレーにも磨きがかかったのは喜ばしいことだ。

試合終了後、蹲ったままのフランスフィフティーンには、スタジアム全体からブーイングが浴びせられた。格下の日本にまで引き分ける体たらくは、シャンパンラグビーの異名をとるフランスチームにはあってはならないことだったろう。だから、「田村のゴールキックがあと一本でもはいっていたら勝っていたのに」などと嘆くのはやめにしよう。日本代表は十二分にその存在感と可能性を示したのだ。”Brave Blossoms”の今後に期待したい。(き)

ラグビー日本代表.jpg

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posted by 冬の夢 at 23:07 | Comment(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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