2017年05月24日

『クレイジー・ボーイ 金メダル大作戦』 〜 パンフレットで振り返るB級映画

かつて中学生だった頃、映画館に行ったときの愉しみのひとつは、パンフレットを買うことだった。映画配給会社が作るから、デザインは安っぽいし、記事の量も薄い。肝心の写真は、フィルムから焼いているせいかどこかしらボケた感じ。それでも、買ったパンフレットを大事に抱えて持ち帰り、自分の部屋で開くとき、さっき見たばかりの映画が自分のものになったような気がした。VTRもDVDもYouTubeも何もない時代で、映画は保管出来ないものだった。パンフレットを買うのは「映画を蒐集する」ことの代償行為だったかも知れない(※1)。
そうして子どもの頃に集めたパンフレットが、住む人がいなくなり取り潰すことになった実家の押入れに保管されているのを見つけた。とても捨てる気にはなれない。かくして数百冊の黴臭いパンフレットは、数百kmの距離を移動して、再び陽の目を見るに至ったのである。
そんなパンフレットをつらつらと眺めていると、映画館で見たときの印象が強烈に蘇ってきた。二度と再び映画を見直す気はしないけれども、記憶を掘り起こすのは楽しい。パンフレットだけで振り返る映画があってもいいんではないだろうか。

かくしてパンフレットの山から取り出したB級映画が『クレイジー・ボーイ 金メダル大作戦』(※2)。
1970年代にフランスで活躍したお笑い四人組、レ・シャルロ。アイドル並みの人気があった彼らの映画は、当時で言えば『ゴッド・ファーザー』よりも大ヒットしたらしく、シリーズものになっている。日本で公開されたのは『金メダル大作戦』が最初で、その後、『スーパーマーケット珍作戦』『突撃大作戦』『ミサイル珍作戦』『香港より愛をこめて』と立て続けに上映された。フランス映画のコメディものが当たり前にロードショー公開されていたのだから、ある程度、日本でも当たったのだろうが、どの作品もDVD化はされていない。『クレイジー・ボーイBOX五枚組』とかで発売すれば、結構売れるんではないか。もちろん、自分では買わないけれど。

パンフレットだけで振り返るならば、その表紙に注目だ。
スマホが普及した現在では考えられないことだが、かつて映画の宣伝手法は新聞広告とチラシの配布が主だった。映画館に置いてあるチラシにどれだけの訴求力があったかは定かではないけれど、映画少年たちはみんな揃ってチラシ集めに精を出したものである。映画のチラシはたくさんの中で目立つために、どれもデザインがキャッチーだった。本国でアートとも言えるようなデザインのポスターが作られていたとしても、日本の配給会社ではそんなものははなから無視。映画館に人を呼ぶのにアートは何の役に立たない。いかに面白そうに見せるか、ただそれだけがチラシの役割だったのである。
だから、輸入された外国映画は、公開に先立って配布されるチラシによってイメージが形作られることになった。『金メダル大作戦』もまったく同じで、チラシのデザインをそのまま流用したものがパンフレットの表紙になっている。

クレイジー01.JPG

上下逆転した赤い車を中軸にした大胆なデザイン。屋根に括り付けた自転車が逆に動力源になるという映像ひとつで、本作がオリンピックをパロディにしたスポーツものだということがわかる。車の上にいる四人組がレ・シャルロ。この四人は別々の写真を合成したもの。それぞれのベストショットを繋ぎ合わせているのだが、ぱっと見ではそうとはわからない。さらにすごいのは四人が下げている金メダル。なんと写真の上から絵の具で描き足している!随分勝手なことをやってしまっているわけだ。
左右に散りばめられているのが映画の名シーンで…と言うよりお色気シーンそのもの。女優の水着姿や下着が見られますぞ、という下ネタあり宣伝でわかりやすい。さらに最上段にフランス国旗を背景に置いて、B級コメディ映画のチラシが一丁上がり!となるわけであります。

こんなに好き勝手にアレンジしまくって良いのだろうかと心配になるところだが、本作の配給会社は松竹。本流は歌舞伎であり演劇であり、日本映画の王道をいく松竹株式会社のなかで、たぶん外国映画の配給を担当する部署はかなり隅っこの傍流であったはず。会社の上層部からは期待されず、あまり注目もされない部署であったなら、こういうところで弾けずにどこで鬱憤を晴らすのか。配給権はあったとしても、映画の著作権までは買わないはずだから、このチラシの作り方は明らかに著作権侵害の法律違反を犯している。そうだとしても、それがナンボのもんじゃい!という開き直った破茶滅茶感が溢れ切っていて、強く惹きつけられてしまう。

映画のチラシやパンフレットとして放っておくのはもったいない。イメージコラージュアートと言ってもいい。いや、もとい。アートではない。アドバタイズだ。フランス映画を日本流に解釈したアプルーバルなしのアドバタイズのカタチ。そんな手法がかつての映画配給会社では当たり前にあったのであって、その代表作が『クレイジー・ボーイ 金メダル大作戦』でもある。
もちろん、作品自体はそんなに大した映画ではありません。(き)

クレイジー02.JPG



(※1)社団法人日本映画製作者連盟によると全国映画館の平均入場料金は、1970年324円→1975年751円→1980年1009円と十年間で三倍となり、映画不況により入場料値上げが進んだ時代だった。筆者が所有する当時の映画パンフレットも200円、250円、300円と徐々に値上りしていた。

(※2)『クレイジー・ボーイ 金メダル大作戦』は1972年製作のフランス映画。クロード・ジディ監督作品。日本では1973年に公開、1987年にビデオ化されている。



posted by 冬の夢 at 21:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 洋画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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