2017年04月19日

VAN McCOY − THE HUSTLE 元気が出る曲のことを書こう[22] .

 元気が出る曲のことを書こうと思って、初回こそEW&F(アース・ウィンド&ファイア)をとりあげたが、それ以後は、ソウルやディスコの曲を登場させる機会がなかった。われながらなぜかなと思っていたが、むりやりにでも元気になれる曲がそもそも多いからだろうか。 
 追憶や後悔、あるいは夢想にふけるのではなく、いまの君が好きなんだ、今夜に賭けるぜお願いだ、みたいな曲が多くて、それを踊り出したくなるリズムで聞いたら、いやおうなく調子がよくなる。なので、これ1曲となるとかえって思いつきにくかったのかもしれない。
 そこで、ソウルやディスコのヒット曲で、初めて元気になった曲を思い出すことにした。初めての曲かどうかは、さだかでないが、すぐ思い出すのはこれだ。

  Woo
   う〜うううう〜
  Woo
   う〜うううう〜
  Do it!
   ちぇすと!
  Do the hustle!
   皆ハッスル!
  Do the hustle!
   皆ハッスル!


 はい! ヴァン・マッコイの「ザ・ハッスル」! 
 いまの人は知らんでしょうが、旧制、帝大時代は、ここだってとき怒鳴ったはずです、「チェーストゥ」と! 実際、薩摩示現流の気合らしい。もとの歌詞とは関係ないけど。
 この曲は一九七五年夏の大ヒット。世界中で人気となり、トータル1千万枚以上売れたそうだ。日本でも同年夏の、洋楽最大の人気曲だったという。
 日本での大人気には実感がある。その年は小学生か中1くらいだが、街なかがいまほどBGMだらけでない時代の地方都市にいたのに、どこへ行ってもこれが聴こえていたという、うっとうしいほどの記憶があるからだ。
 歌唱ものでない洋楽が日本でトップヒットになったことは、この曲のほかにはあまり例ががないのでは。まして当時の日本、いかにディスコに人気が出つつあったにしても、このジャンルのファンがいまほど広く多くいたとは思えないので、なぜ全国ヒットしたのか不思議だ。
 これは推測なのだが、「ハッスル」という言葉が、さきに日本に根づいていたからではなかろうか。

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 ものの本によると「ハッスル」という単語を初めて輸入したのは、阪神タイガースなのだという。一九六三年のアメリカキャンプから「ハッスルプレー」を持ち帰り、流行語になったのだとか。※1
 当時の新聞を調べると、阪神は、その年の二月に初の海外キャンプを実施しているのだが、フロリダ州リーランドで、デトロイト・タイガーズのキャンプに参加している。※2
 そっか、「ハッスル」って言葉はモータウン由来だったんだ! と、かなり感動。
 その、阪神タイガースが輸入したばかりの「ハッスル」が、いかに広まったかは、同年秋公開の東宝映画「クレージー作戦 くたばれ!無責任」をみれば一目瞭然だ。※3

 製菓会社の経営改善のため開発された新商品、それは、元気の出るコーラ。
 ためしに社内有数の無気力社員、田中太郎(植木等)に飲ませてみたら、たちまちバリバリの働き手に変身。無気力社員のときは画面がモノクロで、コーラを飲んで効能が現われるとカラーに!
 ところが、興奮成分を入れたせいで販売認可が降りず、責任をとらされそうになった重役は、子会社の販社を作り、成分抜きの生産済み在庫の営業を押し付ける。内幕を知らずクビ含みで出向させられたのは、クレージーキャッツ演じるダメ社員たち……という設定だ。
 おかしいな、コメディ映画の話の流れを説明しているのに、どこか笑えない感じもする。

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 元気の出るコーラとは、その名も「ハッスルコーラ」!
「飲めばたちまちファイトがわいて、猛然とハッスルするハッスルコーラ」
 なんの説明もなく「ハッスル」が連発される。
 さらには植木等の歌で、こんな劇中歌までも。

  ハッスル ハッスル ハッスル ホイ
  なんだか知らぬが 天下取った気分だヨ
  ハッスル ハッスル ハッスル ホイ
  この世は春だよ お祭りだ


 う! ヴァン・マッコイより、こっちのほうが元気が出てくるぞ。※4
 それはともかく「ハッスル」は、その語感もイメージも、すっかり日本人にとっての「元気語」として定着していたわけだ。

 ヴァン・マッコイがヒットしたのは、このクレージー・キャッツ映画の十年後だが、そのときはオイルショックのせいで、ついに戦後初のマイナス成長、ひどい物価高騰が続いていた。「ハッスル」という曲のタイトルが、人びとの心にしみたとしたら、無理もない。
 その当時の景気低迷は、子どもゴコロにも明らかに察知できるほど、ウチの空気を暗くしていた。父はクレイジー映画の設定と同じ営業マンだったが、石油原料製品の会社に勤めていたからだ。そのころの少年があこがれた、高機能ラジオやオーディオ機器は「ウチには無理だな」と家庭内暗黒ムードを読んでひとり決めし、電器店に行っては展示品をながめたものだ。すると、お約束のように鳴り出すのだった、ヴァン・マッコイの「ハッスル」が。
 ションボリ気味に通りかかる、電器店やオーディオショップの店頭で「またこの曲か」と毎度思い、聴いてその場で元気いっぱいになるわけでもないが、なぜかウキウキしてくる気持ちを扱いかねた。「うっとうしさ」としか表現できない複雑なあの気分は、いまも思い出すことができる。

 海外の感想書き込みをいくつか見ていたら、当時、サンフランシスコのショッピングセンターで初めてこの曲が流れたとき、その場にいた客全員が踊り出した、という思い出を書いていた人がいた。
 たしかに、最初の「う〜うううう〜」のオープニングコールが、効果バツグンなのだ。充分にタメて「Do the hustle!」で、ウワッと爆発する。
 が、そこからピッコロが軽やかにリードする。案外と軽い感じの曲なのだ。コテコテじゃない。そこが万人に受けいれられた理由だろうか。
 無名のハウスバンドの演奏で、こんなにもヒットするものかと調べてみると、マッコイ自身のピアノのほか、ゴードン・エドワーズ、スティーヴ・ガッド、リチャード・ティ、エリック・ゲイル、ジョン・トロペアの名がある。え! これってほとんど「スタッフ」じゃん! ※5
 もちろんこのことは、よく知られているんでしょうけれど、なるほど、グルーヴは強力なのだが、ネチっこくなり過ぎず聴きやすいのだ。いかにも「スタッフ」の演奏らしさがある。この面々ならではの大ヒットかと、いまごろ納得。ちなみに「スタッフ」の曲「リアル・マッコイ」が、ヴァン・マッコイに捧げる曲だったということも、やっと知りました。すみません。

 曲そのものは、忘れることができないのに、その背景をなぜこうまで知らなかったかというと、ヴァン・マッコイという人を、よく知らないままだったからだ。
 それもそのはず、プレーヤーや歌手でなく、ハウスコンポーザーやプロデューサーという制作担当者としての功績が大きい人なのだ。「ハッスル」がヒットするとは夢にも思っておらず、とつじょスター扱いされて本人が驚いたという。
 しかもマッコイは「ハッスル」のわずか四年後に、三九歳で急死してしまった。キャリアからして決して「一発屋」ではないのだが、歴史に大きくは書き残されなかった人なのだ。

 ところでヴァン・マッコイのこの「ハッスル」だが、含意としてはあるかもしれないが、じつは「ハッスルしようぜ」って意味の曲じゃないのだ。
「ハッスル」とは、ダンスのスタイルのこと。「ハッスルを(ハッスルで)踊ろうよ」くらいの意味だろう。
 そして、ヴァン・マッコイも出演しているこの曲のオリジナルフィルムを見ると、驚くべきことにハッスルは、社交ダンスに似た感じのペアダンスなのである。元気いっぱいのディスコダンスとはかなり違う優雅な感じのダンスだ。
 かなり驚かされたが、もはや、この曲に持っている記憶を正しく書き直して整理するのは、ほとんど不可能な気もする。
 ちなみに、このダンスは、もともと「ハッスル」というダンススタイルが流行していたのと同じニューヨークで「ニュー・スタイル・ハッスル」となって新しく注目されていたそうで、二〇一五年ごろから日本でも人気になってきているらしい。
「らしい」ばかりでは文にならないが、「クラブ」といわれると「銀座」だと思ってしまう世代なので、ニュー・スタイルとやらを確かめにいくのは無理だ。なのでヴァン・マッコイの「ハッスル」で、そのニュー・スタイルが踊られているのかどうかも、まったくわからない。(ケ)

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※1『暮らしの年表 流行語100年』講談社/二〇一一年 この本によると「ハッスル」は、娼婦が客引きをする意味の俗語でもあるので、当時のNHKでは放送禁止用語になった、という。
※2『スポーツニッポン』一九六三年二月一〇日
※3 監督・坪島孝 星由里子と同期の浜美枝、「若大将」シリーズのマドンナが星なら、ボンドガールとして知られるこの人が、クレージー映画のマドンナ的ポジションだ。当時の浜はめっちゃカワイイうえに、芝居も出来ている! このころの東宝も女優人材にこと欠かなかったのがすごい。永遠の二枚目スター、上原謙が、東北弁の社長でコミカルさを見せているが、この映画では上原の提案で決まった演出もあるそうだ。上原は二枚目役に飽き飽きしていて、後年テレビ番組に招かれるとコントをやらせてと頼み、関係者を困らせたという。
※4 作詞:青島幸男
※5 トロペアの代わりにコーネル・デュプリー、もう一人ドラムのクリス・パーカーで、バンド「スタッフ」だ。日本でとても人気があったが、アメリカではバンドとしては売れなかったようだ。


※ 二〇二一年三月三日、すこし手直ししました。管理用



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posted by 冬の夢 at 02:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽 映画音楽・ソウルなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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