2017年04月09日

Bobby Caldwell − Real Thing 元気が出る曲のことを書こう[21] 【改】

 うわっ、なんてキラキラな音なんだ!
 キーボードとエレキギターは、区別できないほどピカピカした音色だし、サックスにはエコーが大盛りだ。
 イントロの響きは、まるで天使のハンドベル。お星さまが降ってきて、身も心もメロウに……なんて、書いていて恥ずかしくなってくるほどの「おしゃれな音」、これが、一九八〇年代中ばから九〇年代初めの、バブルな夜を彩った響きだ。

 ひさしぶりに聴いたら懐かしくなり、あのころ買った、大げさなエフェクト機材を引っぱり出して、そんな感じの音でギターを弾いてみようとした。
 いかん、操作のしかたを忘れた! せっかく買ったのに、そのころ自分が、おしゃれなバンドをやる機会はなく、長年ホコリをかぶったままだった。
 さいわい「プリセット」、つまり番号を選べば一発で出る音色に、キラキラ音が用意されていた。デフォルトでプログラムしてあるということは、やはり当時よく使われた音色だったわけか。

       ♪

 歌っているのは、この曲を作ったボビー・コールドウェル。
 アメリカでは、歌手として大成功はしなかったが、作曲家としては、さまざまな人気曲を作った人だ。
 アメリカでいうソフト・ロック、アダルト・コンテンポラリーというのだろうか、しなやかで心にしみる、ゆるめのテンポの曲が得意種目。近年はフランク・シナトラばりにジャズも歌っている。
 なぜか日本では、かなり人気があり、一九九〇年前後にはスポンサーつきのホール公演が何度かあった。近年も高級ライブクラブで来日公演をよく行っている。ことし二〇一七年も日本で演奏したはずだ。

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Heart of Mine 1989

 この曲は、『Heart of Mine』(一九八八年)の二曲目だ。
 ほかの歌手やバンドのために作った曲を、自分で歌っている盤なのだが、この曲は提供先がなかったから──ハワイのカラパナが演奏しているが、この盤より後のこと──コールドウェルの持ち歌といっていいと思う。

 作曲者としては、いかにもヒットしそうなドラマチックな展開の曲作りが特徴だが、歌手としては、熱唱型でなく、わずかに霧がかった渋い高音域をコントロールし、詞のストーリーをたんたんと旋律にのせて歌うタイプだ。
 そこが、いい味だと思う。
 曲を受け取って歌ったスターたちのバージョンより、コールドウェル自身が歌っているこの盤の版のほうが、ずっと落ちつく。
 ただ、アメリカでは、このての曲の場合は豪華な熱唱のほうが、人気があるらしい。コールドウェルの、歌手としての売れかたが日米で違った理由は、そのあたりにあるのだろう。

       ♪

 Here comes the night once again
  またいつもの夜が訪れる
 I'll be feeling lonely
  ひとりぼっちだと思いつづける夜が
 Oh, if only things could work out like you plan
  ことが思ったとおりに なりさえすればいいのに

 Where can love be
  愛はどこにあるんだろう
 Tell me why it's so hard to find somebody
  どうして 出会いがむずかしいのかな
 Who will stand by me
  ぼくのそばにいてくれて
 And take the time to understand
  ぼくのことを わかろうとしてくれる人に
 And so may love again
  出会えれば 愛がよみがえるかもしれないのに

 I want the real thing or nothing at all
  真実そのものがほしい そうでなきゃ なにもいらない
 I need someone that I can be sure will
  ぼくが落ちこみそうだったら かならず
 Catch me if I should fall
  受けとめてくれると信じられる人に いてほしい
 Someone who'll be there when I call
  助けてと叫んだら いてくれる人のことさ
 Then I'll know that it's the real thing
  そうであれば それが真実そのものだと ぼくにはわかる。

 I want the real thing to warm me each night
  毎夜ぼくを あたためてくれる 真実がほしい 
 Someone to love me over and over
  それは ぼくをくりかえし愛してくれる人
 Making the future bright
  未来を照らしてくれて
 Somebody who will make it all right
  だいじょうぶよ と いってくれる人
 Just give me the real thing
  その人こそ ぼくに ほんとうの真実をくれる
  (二番略)
 
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Heart of Mine (輸入盤)

 デザイナーズブランドやカフェバーなど、あの時代のおしゃれなものには、さして興味がなく、ほとんど縁もなかったのに、なぜこのキラキラした曲に元気づけられたか。
 じつは、歌詞の意味をとり違えていたのだが、間違って思い込んだ意味が、その当時の自分にぴったりだったからだ。

 Aメロの「things could work out like you plan」の「you」は、「あなた」という意味の「you」ではなくて、「世間」の意味だそうだ。
 ということは、「世の中ってうまくいかない」から孤独になってしまう、だから、真実をくれる「someone」に出会いたいけれど、それはむずかしい、と嘆息している曲なのだ。

 かつて、その「you」を「あなた」の意味にとり、こんなふうに誤訳して、当時つき合いがあった女性のことに通じる曲だと思い込んだ。

  ものごとが、あなたの思い通りになりさえすれば、ってんだろ。
  そんなのはウソっぱちさ。
  ホンネをいうと、あなたでない「someone」に出会いたいよ。


 大間違いもいいところだが、そのような関係になっていたことは確かだった。

       ♪

 バブル時代の「おしゃれ」には縁が薄かったのに、一九九〇年前後のボビー・コールドウェルの「おしゃれ」な来日公演には、何度か行った記憶がある。
 スポンサーつきのホール公演と書いたが、たしかそのスポンサーの流れで代理店の知人にペアチケットを都合してもらい、ジョージ・ベンソンふうにいえば「メロウな東京の週末」とシャレこんだわけだ。平日だったかもしれないけど。

 ところが、隣に坐っている彼女とは、とうに「the real thing」が失せた、と思っていたのだ。
 そのうえ、その彼女でない、「someone」だと意識しつつあった、べつの人と、それとなく思いを通じ合わせていた……つもりだった。
 彼女たちのどちらにとっても、ひどい話だ。
 しかし、この曲は、隣の席にいる彼女でない、べつの女性を「Someone who'll be there」だと思うなら行動しろと、元気づけてくれる曲に聴こえてしかたなかった。
 当時のツアーバンドが、キラキラサウンドを完璧に生演奏で聴かせてくれる玄人集団で、この曲が演奏されると、楽しむどころか、すべてはっきりさせなきゃダメだという緊張感にとらわれて、席に落ち着けなかったほどだ。

       ♪♪♪♪

 歌詞の意味をとり違えたまま、元気づけられてしまった形で、後日のある夜、まずは「someone」に、はっきりと意中を伝えるため会いに行った。この曲が収録されている『Heart of Mine』をヘッドホンで聴きながら。当時はカセットプレーヤーでだ。
 しかしその夜、「Someone who'll be there」であるはずの女性には、会うことができなかった。
 仕事カバンの中のカセットプレーヤーは、かさばっていたが、携帯電話もスマホもモバイルツールもない。そういう時代の話だ。約束もなく会おうとして出会えず、近くに公衆電話がなければ、機会をあらためるしかない。
 そしてなぜか、再び訪ねて会うことはなかった。
 理由は、いまとなっては、よくわからない。
 そうしないまま、すべてが終わり、以後ふたりの女性とは縁はなく、どうしているかも知らない。

       ♪♪♪♪♪


 ずっと後になって、「リアル」ということばが流行するようになった。「〜にとってのリアル」というように。なぜか「リアリティ」ではなく「リアル」という。
 そのころには、自分にとっての「the real thing」は、人であろうとモノであろうと、もうどこにも見当たらなくなっていた。
 いや、見当たらないというより、わたし自身が、嘘だらけの世の中で生きることに慣れてしまって、自分にも他人にも嘘ばかりいうことが、あたりまえになっていたのだろう。真実と虚構の区別も、つかなくなっていたかもしれない。

 いまでは、この曲はもちろん「おしゃれ音楽」をすすんで聴くことは、めったになくなった。ボビー・コールドウェルの盤は、けっこう持っているのだが、どこかにいってしまってもいた。
 この曲の歌詞の意味をとり違えていたことは、長いあいだ気づかなかった。じつのところ、この曲のことを書いてみようかと思ったときに知った。
 ほとんど昨日のことだ。(ケ)


※ 二〇一九年六月三日、十一月二十日、二〇二〇年六月十七日、二〇二一年八月十四日、わずかずつ手直ししました。管理用

●「元気が出る曲のことを書こう」の記事一覧は→こちら←

posted by 冬の夢 at 07:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽 映画音楽・ソウルなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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