2016年12月11日

Greg Lake − I Believe in Father Christmas 元気が出る曲のことを書こう[44]

 数日前に六九歳で亡くなったグレッグ・レイクが、イギリスではとても有名なクリスマスソングの作者だったとは知らなかった。しかも、作詞はピート・シンフィールドだ!

 一九七四年にオーケストラと録音し、翌年にソロ・シングルとして発売、その年の英国シングルチャートの二位になっている──ちなみに一位は、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」──いまでも、クリスマスシーズンに流れる曲だそうだ。
 オーケストラをなしにして、エマーソン、レイク&パーマーで録り直した版が一九七七年の『WORKS 2』に入っているが、ぜんぜん記憶にない。バンドがナゲヤリ状態になっていたころの盤で、いかにも拾遺集っぽいので、聴く側もナゲヤリに聴いていたせいかもしれない。

       ♪

「クリスマスは雪、世界は平和になる、というけれど、そのかわりに雨が降り続き、生誕は涙のベールにおおわれる」
 と始まるこの曲の、二番からブリッジにかけては、こんな歌詞だ。

 They sold me a dream of christmas
 They sold me a silent night
 And they told me a fairy story
 'till I believed in the israelite
 And I believed in father christmas
 And I looked to the sky with excited eyes
 'till I woke with a yawn in the first light of dawn
 And I saw him and through his disguise

 I wish you a hopeful christmas
 I wish you a brave new year
 All anguish pain and sadness
 Leave your heart and let your road be clear
 They said there'll be snow at christmas
 They said there'll be peace on earth
 Hallelujah noel be it heaven or hell
 The christmas we get we deserve

  クリスマスの夢を売りつけられ
  きよしこの夜を売られてきた
  おとぎ話もされてきた
  イスラエル人というものを信じこんでしまうまで
  サンタはいると信じてしまうまで
  わくわくしながら空を見つめた
  夜明けの最初の光がとどくまで あくびしながら起きて
  そしてサンタを見た 変装してたけどわかったよ

  みんなに希望あふれるクリスマスを
  みんなに勇気いっぱいの新年を
  苦しみも痛みも悲しみも
  心から去り 道ふさぐものは消えて
  クリスマスには雪がふり
  世界に平和がくるというのなら
  天国にも地獄にも ハレルヤ クリスマス
  ぼくらのクリスマスは ぼくらにふさわしいクリスマス


161210GL.JPG 
オフィシャルビデオは→こちら←

 こんなに政治や宗教がらみの皮肉を盛り込んだ曲が、クリスマスソングとしてヒットしたとは聴いて驚きだ。
 シングル盤発売時のプロモーション映像にも、親イスラムとまではいかずともアンチ中東戦争、あるいは反ベトナム戦争の、旗幟がうかがえる。じっさいBBCから一部カット要請が来たという。応じなかったそうだが。
 いま、悲惨なことになっている世界各地の紛争や問題に、もともとはイギリスのせいだった案件がいろいろあるわけで、イギリスが大好きと思ったことなどないが、このような曲が多くの人に受け入れられ、長く聞かれているというだけで、イギリスの人たちを、ちょっとだが信用してみたくなったりもする。

       ♪♪

 ただしグレッグ・レイク本人は、はなからこういうクリスマスソングを作るつもりだったわけではないようだ。
 レイクは、ロックとクラシックを融合させたインテリ貴公子たち、という感じの、エマーソン、レイク&パーマーのバンドイメージにそぐわないヤンチャぶりで、キース・エマーソンを、よくはらはらさせたそうだ。この曲の録音作業も、悪ふざけだらけ。
 もっともエマーソンの自伝を読むと、バンドの全盛期はエマーソンだってかなり「お盛ん」なので、レイクにしてみれば、エマーソンこそ、クラシック音楽コンプレックスの気取り屋じゃないか、ということだったのかもしれない。

 で、この曲だが、レイクは、バンドの弾き語りコーナーでおなじみのドロップDチューニングでギターを鳴らしメロディを思いつきながら、どんな曲に仕上げるか考えていた。そのとき『ジングルベル』みたいだと、ひらめいたのだそうだ。
 そこでレイクはシンフィールドに「これクリスマスソングになりそうだよな」といった。レイク自身の回想では。
 いっぽうシンフィールドは、レイクがギターを鳴らすのを聴いて自分がそういったんだ、とのこと。もっとも、あまりこだわらず、二人同時に真実の代弁者になって面白いともいっている。

 シンフィールドは、子どものころお母さんが作ったクリスマスツリーを見た思い出から、歌詞を作ったそうだ。
 素直にクリスマスを喜ぶ気持ちが、だんだんとクリスマス商法に、そして、クリスマスのストーリーを使って大衆を懐柔する政治に汚されていくという、皮肉なクリスマスソング。ただ、シンフィールドは、曲の背後にある思想をすべて説明はしないが、すくなくとも反キリスト教的な、あるいは政治的な意図が、中心にある曲ではないと明言している。

       ♪♪♪

 曲の録音は八月末のこと。
 真夏にクリスマス気分を盛り上げようとしてレイクは、三十人の合唱パートを含め百人規模のオーケストラを集めたスタジオに、高さ六メートル以上のホンモノのクリスマスツリーを持ち込んだ。指揮者には、サンタクロースの格好で振ってくれと頼む。
 サンタの指揮は断られたが、パーティ気分にするぜと、エロチックダンサーの仕出しを頼んでいたので、スタジオはドタバタのきわみに。
 にもかかわらず、オーケストラパートの録音はワンテイクで決まった。「プロだよな」と回想するレイクだが、クラシック奏者たちが、乱痴気騒ぎも楽しみながらプロの演奏力を発揮したのか、一刻も早く録り終えて逃げだそうとしていたのか、そのあたりはさだかでない。

 ばか騒ぎしながら音楽を制作できる余裕も予算もあった、いい時代だった、というとミもフタもないが、こういう曲が、そんなふうに出来たということが、いいと思う。
 おフザケとマジメ、豪華と素朴、コンテンポラリーとトラッド、歴史と現在……なにごとも大きな振幅の中でとらえられ、創造されてこそ、その振れ幅の中心に真実が見えてくると信じているから。

 それよりなにより、若いころのグレッグ・レイクの、歌とアコースティックギターは、すごくいい。それはもちろん、キング・クリムゾンとEL&Pの成功に寄与した大きな要素のひとつだが、英国文化のお家芸といってもいい、さまざまなファンタジーの世界の吟遊詩人役に、レイクはぴったりだったと思う。
 惜しいことに彼は以後、その方向でつぎつぎに歌物語を紡ぎ出しはしなかった、あるいはできなかったのだが、クリスマスのために、こんな贈りものを作ったというだけでも素晴らしい。こんな曲を届けてもらえた人たちは、幸福だ。

 あらためて、エマーソン、レイク&パーマーの盤『WORKS 2』に収録されている「I Believe in Father Christmas」を聴いてみると、やっぱり「やっつけ仕事」に感じてしまう。しかし、七〇回目のクリスマスは迎えられずに亡くなったグレッグ・レイクを偲びながら聴くには、このEL&Pの演奏のほうが、しみじみしていて合っている気もする。 
 曲の最後の The christmas we get we deserve は The government you get, you deserve のもじりだそうだが──トーマス・ジェファーソンでしたっけ──いま世界のあちこちで選ばれ、わが世を謳歌している The government(s)のことを思うと、複雑な気持ちになる。(ケ)

161210Ld.JPG 
ロンドン、一九九九年暮れか二〇〇〇年新年

Gregory Stuart Lake 1947/11/10 - 2016/12/07


※ レイク、シンフィールド、制作関係者らが応じた、英音楽誌「UNCUT」のインタビューや、英紙『the guardian』の複数記事を参考にしました。参照元
※ 二〇一六年十二月十二日、歌詞の訳に指摘をいただき、手直ししました。二〇一九年十二月十日、若干手直しし、タイトルを変更しました。管理用



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posted by 冬の夢 at 01:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽 ロック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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