2016年03月14日

EARTH,WIND & FIRE - In The Stone 元気が出る曲のことを書こう [1] 【改・二〇二一】

 イントロを聴けば誰もがうわっとなる曲だと思っていたら、曲はもちろん、このグループも、忘れられつつあることを思い知った。
 ならば、知らない人にこそ聴いてもらいたい。だまされたと思って。
 この曲を聴いて、元気が出なかったらウソだ!
 リズムが鳴り出すと、わけもなく心も体もはずむ。
 地べたにしゃがみ込みたくなるような気持ちに、ほほ笑みとともに手がさしのべられるのを感じる。

 聴くと元気が出るわけは簡単だ。
 元気の素がすべて詰め込まれた曲なのだ。
 大音量で鳴らすと、作り込みのすごさに、あらためて感心してしまう。
 四〇年前の曲だから古いというなら、どんな音楽が、どう新しいのか、教えてほしい気がする。

       

 ほどほどの速さの、ノリやすいディスコビートで、リズム音痴でもついていきやすくなっている。
 鳴りモノがテンコ盛りなので迷うかというと、そんなことはない。イントロで聴き取りやすいクラベスが鳴って、ウラ打ちの手拍子にすんなり入っていける。

 そのイントロ、まずはマーチングバンドのファンファーレが鳴り響く。
 ブラスセクションは、そのまま曲のあいだじゅう、しびれるほどシャープにあおってくれる。短い音符で正確な音程と音圧を繰り出す吹奏力がすごい。
 管楽器セクションの編曲はジェリー・ヘイ! ラッパ好きなら誰もが知っている、と思う、このトランペット奏者・アレンジャーの名は、記憶しておいて損はない。

 イントロの後半からは、当時のグループに欠かせなかったリズムギターが、軽快に鳴り出す。
 レコードの録音には複数のギター奏者が加わったらしいが、イントロのリズムギターは、コード弾きで世界を踊らせた男、アル・マッケイの独壇場だろう。
 そのギターの音色に耳を傾けたい。エフェクターで飾らない、カドのとれた暖かく太い音だ。それでいて奥にこもらない、ちゃきちゃきした朗らかなリズムが右チャンネルから飛んでくる。
 マッケイはグループに参加する前、サミー・デイヴィス・ジュニアの伴奏バンドをしていたそうだ。マッケイがそのころの最新鋭エフェクター「ワウワウ」を駆使するのを聞いて、デイヴィス・ジュニアが起用したという。
 たしかに、ワウワウを使った「うにゃちゃこ、うにゃちゃこ」というリズムギターのほうがソウルミュージックらしい音だとも思うが、この「In The Stone」では、ワウワウは聴こえてこない。もしワウワウだらけだったり、そうでなければ当時流行しだしていた、きらびやかなエフェクト音で弾かれていたら、「In The Stone」をいま聴くと、それこそ古くさく感じるに違いない。それほどアル・マッケイのギターの音色には、時代を超えた心地よさがある。

 ベースの音色も同じ感じだ。指弾きの強弱がストレートに伝わる素朴な生々しさがあって、ギターとベースのアンサンブルにリアリティがある。ハネ回るベースの音列を体でも表現するかのように、縦横無尽にステージを跳び回るヴァーディン・ホワイト──コントラバスを正式に学びシカゴ響で弾いていたというのが信じられない!──の姿が思い浮かぶ。

       

 つい、すこし弾けるギターやベースの話が、長くなってしまった。
 いま一度イントロから、この曲を通して聴いてみよう。

 ホーンセクションが響かせる応援歌に続いて、ど真ん中でクラベスが手拍子をガイドしてくれ、右チャンネルから最高のリズムギター。
 ここまではいいとして、左チャンネルに聴こえ出し、全編で鳴るのは、ティンバレスとコンガだろう。なんとさらなる元気の素「ラテン音楽」も入っているわけだ! 
 といっても、ドラムスは二拍四拍をしっかり打っているし、ヴァーディン・ホワイトのベースは、暴れ回っているようで一拍三拍を上手に埋めてくれている。おかげで、ここまでの話は一行もわかりませんという人も、この大所帯グループの一員になった気分で、楽しく曲についていける。

 そして弦楽、そう「オケ」までもが、効果的に配されているのだ。映画音楽のような包容感がある弦楽の動きが曲全体をカッコよくしているポイントだったりもする。
 そうかと思うと、その弦楽に、ガツンとリズムの基本形を出させたりもして、そこまで芸が細かいと、もう困ってしまう。困りゃしないか。

 これほど、ひとつの曲に構成要素を山盛りにしてしまうと、見ただけで食欲がなくなる全部盛りラーメン(大)になりそうだが、いまいった弦楽に耳を傾けていると、なるほど、管楽器やリズムはもちろん、歌のメロディ、さらには歌詞の内容までもが、さまざまなパターンでコール・アンド・レスポンスを繰り返していることがわかってくる。ゴスペルの昂揚感と同じ仕立ててで、すべての要素が、愛に満ちた心の賛歌を奏でるウェーブを繰り返しているのだ。

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中央「羽織」で腕組みの人がモーリス・ホワイト。
その右後方にヴァーディン・ホワイト(モーリスの弟さん)。
フィリップ・ベイリーは……モーリスの左隣です、よね?

 さまざまな大衆音楽の特性を効果的に合体させて、とことん盛り上げてくれる曲だということはよく分かったけれど、黒人音楽らしさ、ブラックミュージックのアイデンティティを示すような音の芯はどこにあるのか、という話にもなってきそうだ。
 グルーブとかファンキーというような言葉でいわれる、粘りっけの濃い魂の叫びみたいなものは、やたらに仕立て上手なこの曲から、伝わってくるのかどうか、ということだ。

「In The Stone」は、アリー・ウィリス、ディヴィッド・フォスターと、グループリーダーのモーリス・ホワイトの共作だが、前二者は白人である。
 そうと知って、この曲が収録された名盤『I am』(一九七九年)を調べてみると、白人の参加率と貢献率が高い。
 収録曲でもっともシングルヒットした、「After the Love Has Gone」も三人がかりの作曲なのだが、その三人とは、翌年発売の『AIRPLAY』で度胆をぬいたフォスターとジェイ・グレイドンに、現在はシカゴのメンバーのビル・チャンプリン。弦の編曲はフォスターで、管の編曲はくだんのジェリー・ヘイと、みな白人なのだ。曲もソフトロック調で、ソウル、R&Bっぽくない。
『I am』には、もうひとつ超有名なディスコヒット曲「Boogie Wonderland」も収録されているが、アリー・ウィリスが自分の家で、シンガーソングライターのジョン・リンドと四時間で書いたという曲。リンドも白人だ。

 当時、ディヴィッド・フォスターは、いまほど有名ではないが、「In The Stone」全体のまとめ役を担当したのは彼だろう。
 これ以後もヒット曲を作った女性作曲家ウィリスは、レコードになった「In The Stone」を聴いたら、本来の歌メロはコーラスのパーツになってしまっていて、まるで違う曲で驚いたと、後年いっている。基本と意外さを巧みに組み合わせ、食材と調理と盛りつけを自在にコントロールする一流シェフ、フォスターの力がうかがえる話だ。
 かくして「白っぽい」制作体制は、セールス面で大きな効を奏した。
『I am』は、発売された一九七九年のビルボード「R&Bアルバム」部門で1位となったいっぽう、ビージーズやドゥービー・ブラザーズ、イーグルスなどが1位になっている「トップアルバム」部門でも、3位を記録している。

       

 はじめから、人口比で多い白人にもよく売れることをねらって制作されたかどうかは、わからないのだが、白人が制作に大きくかかわったブラックミュージックは、ダメな音楽なのだろうか。
 わたしは黒人でも白人でもないので、どちらかの立場で音楽を聴き分けてはいないし、実感とともに断言することはできない。そのくせ、ファンキーな音楽を聴くとき、つい「黒っぽい」という表現をするけれど、どういう根拠かと聞かれたら、返事に困ってしまう。いまさらだけれど、このあたりのことは反省しなくてはいけないと思う。※1

 それにしても、『I am』のA面一曲目からの三曲、「In The Stone」「Can't Let Go」「After the Love Has Gone」は、やはり何度聞いても完璧だ。バース、掛布、岡田の、バックスクリーン三連発である。
 きょうまでに何回、この三曲を続けて聴いたかしれないが、「After the Love Has Gone」がフェードアウトしていくときはいつも、岡田の三発目を棒立ちで見送ったクロマティの気分だ。
 なお『I am』では、この三曲の後に「Let Your Feelings Show」「Boogie Wonderland」がくる。まったく、ものすごい盤だ。あらためて、レコードのタイトル I am ≠フあとには、どういうことばが続くのだろうと、思いをめぐらせる。

 I found that love provides the key
 Unlocks the heart and souls of you and me
 Love will learn to sing your song
 Love is written in the stone

  愛がカギをくれるんだと知った
  きみとぼくの心と魂を解き放つカギさ
  愛はきみの歌を歌うだろう
  愛は石の中に刻まれている

 In the stone, you'll find the meaning
 You're not standing tall
 In the stone the light is shining
 Ever touching all

  石の中に、きみは意味を見つけるだろう
  きみはまだ自信がないんだよね
  石の中に光が輝いているよ
  あらゆるものを照らし出す光が


 フィリップ・ベイリーの高音歌唱力のすごさは、全盛期のアース・ウィンド・アンド・ファイアの最大の魅力だから、そこに耳がいくのはとうぜんだが、いつごろからか、モーリス・ホワイトの歌いかたが身にしみるようになった。打楽器出身であることに関係があるのかどうか、歌詞をメリハリよく歌って、句のひとかたまり、詞の1行ずつが、きっちり伝わる感じだ。
 このバンドのイメージ戦略には、ご存じのとおり宇宙観や占星術のようなものがあったと思うが、ピラミッドパワーめいたものでなく、わかりやすく語りかけながら手を貸して立たせてくれる、身の丈の誠実さを感じる。

 Never, never my darling, never you'll be alone
 Never, never my darling, never you'll be alone
 Ever forever my darling
 True love is written in the stone

  けっして、けっして、きみは、けっして、ひとりぼっちじゃない
  けっして、けっして、きみは、けっして、ひとりぼっちじゃない
  いつまでも永遠に
  真実の愛は石の中に刻まれている


 アース・ウインド・アンド・ファイアの歌詞がつねに前向きなメッセージを持っているのは、あなたの考えかと、後年聞かれたモーリス・ホワイトはこう答えている。※2

「すべての人に届くように、世界がいつも、ポジティブなエネルギーを作り出せるようにするのが目標だったんだ。元気になる音楽を創造するのが、私たちの目的だったんだよ」

 この考えと、アース・ウインド・アンド・ファイアの音楽づくりがリンクしていたかどうかは、さだかではないが、いまドナルド・トランプという人を支持して、その人と同じように吠えているアメリカ人たちは、モーリス・ホワイトが語ってくれたアース・ウインド・アンド・ファイアのギフトに、すなおに耳を傾けてみたことはあるのだろうか。その人たち──かならずしも白人低階層ばかりではなく黒人の支持者もいる──に「あなたはどういう人ですか」と尋ねたら「I am なに」と答えるのだろう。

       

 この曲は、かつて日本のディスコで、もちろんさんざん流れたはずだ。
 そのときのようすが書けたら、それを書いたほうが、ここまで書いたことなどいらないほど臨場感があるし、歴史的にも役に立つと思うが、わたしの場合「何度聴いたかしれない」うちの大半が、寝床でだった気がする。
 このアルバムが出たのと同時に「ウォークマン」の初代機が発売になっているが、自分がカセットプレーヤを持てたのは、もっとさきのこと。まくら元に置いた「ラジカセ」で、こんなにぎやかなディスコソングを聴いていた。
 
 めげた気持ちでいつも寝床で聴いていたら、ホントに元気が出たわけで、しばらく後に学生下宿の万年床から這い出し、ディスコにも行ったが、いまいくら思い出そうとしても、そのときの雰囲気は思い出せず、この曲で女のコと踊ってナニがありました、という話もない。ディスコといえばイベント関連の仕事で、ひとりで端のほうに立っていた記憶しか出てこない。

 亡くなったミュージシャンを追悼する文章ばかり書いてきたので、今年からは自分が聴いて元気になった曲のことを書いていこうと決めたやさきに、モーリス・ホワイトが亡くなってしまった。(ケ)

Maurice White 1941/12/19/─2016/02/03

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Maurice White 1975 public domain item

※1 AVERAGE WHITE BAND − WHATCHA' GONNA DO FOR ME の記事は→こちら
※2 二〇〇七年のインタビュー www.songwriteruniverse.com/mauricewhite123.htm
■二〇一七年三月、二〇一八年十二月、二〇二一年三月、手直ししました。管理用
■二〇一六年三月、歌詞の訳にいただいた指摘に感謝します。


●「元気が出る曲のことを書こう」の記事一覧は→こちら←


posted by 冬の夢 at 20:36 | Comment(1) | TrackBack(0) | 音楽 映画音楽・ソウルなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 二〇二一年三月に手直ししました。
 時事的な部分はオリジナル通りです。
Posted by (ケ) at 2018年12月02日 13:36
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