2016年02月24日

Appleをなんて褒めたらいいんだろう!


 生涯で最初に使ったパソコンは職場にあったNECのパソコンだった。いわゆるPC-9800シリーズだ。時代はようやくMicrosoft Windowsが産声を上げた頃だ。1985年、一世を風靡したWindows 95の10年前になる。MS-DOSのコマンドをひと通り知らないと全く使いこなせなかった。インターネットも「パソコン通信」(というか、今でいう「チャット」のようなものだったか?)なんて呼ばれていたし、まだ完全にキワモノ扱いだった。大学を出たばかりのぼくは、「パソコンなんか使ってられるか!」と、もっぱらタイプライターを使っていた。

英語のときはタイプライターで良かったのだが、問題は日本語を使うときだ。一方で「ワープロ専用機」というものを各電機メーカーがこぞって世に送り出していたが、他方では、現在もATOKで名を成しているジャストシステムが「一太郎」という日本語ワープロソフトを華々しく売り出していた頃だ。職場のパソコンにも早速導入され、日本語文書を作成するときには以後随分とお世話になった。そう、当時パソコンはぼくにとってはワープロ専用機でしかなかった。そして、繰り返すが、英語の文書ならタイプライターの方が使い勝手がよかった(印字も含めて考えた場合はなおのこと)。

ところが、上述のWindows 95の登場で状況はすっかり様変わりした。事実、自分のお金で最初に買ったパソコンはWindows 95を搭載したIBMのノートパソコンだった。その頃にはタイプライターはすでに過去の遺物になりかけていて、英語の雑誌に「あなたはタイプ派、それともワープロ派?」のような特集記事が掲載されていたことを思い出す。覚えている限りでは、その記事によると、故ギュンター・グラスはタイプ派で、故ガルシア・マルケスはワープロ派だった。書き直しが何度でもできるワープロは、確かにとても便利に感じられた。(もっと遡って、『飛ぶ教室』のエーリッヒ・ケストナーは緑色の鉛筆で、少なくとも草稿は書いていたらしい。ぼくも今はできる限りペンで書くことにしている。)

何が言いたいかというと、パソコンとの最初の出会いはマックではなかったということ。マックは一部の変わり者か、金持ちか(極めて高価だった)、ともかく普通(?)の職場においそれと置かれているような代物ではなかったし、薄給サラリーマンがワープロ代わりに購入できるようなものでもなかった。初めて自前で買った個人用のパソコンはthinkpad 535というB5サイズのノートパソコンだった。秋葉原の格安ショップでも30万円近くした。1ヶ月の給料並みに高かった! しかし、マックのPowerBookはその倍近い値段だったように思う。

しかし、時代は推移し、極めてユニークな形状をしたiBook G3(クラムシェル)の魅力に終には屈するようにして、1999年か2000年を境に徐々にマック・ワールドへ引き寄せられていく。ちなみにこのiBookはOSをOS8からOS9にアップグレードしたものの、いまだに手元に残してあるばかりか、ときどきは電源を入れて動かしてもみる。ただ、今の時代になって一番困るのは、OS9がいかに魅力的で、いかに完成度が高いとしても、無線LANを使おうとすると、WEPの暗号化にしか対応していないので、WPAしか使えない現行のマック(OSXは今どこまでバージョンアップしているのか?)との共存が不可能な点だ。有線で繋げば立派に使えるのだが……

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(見よ、この勇姿!)

以後、身の回りにAppleの製品が溢れていく。職場のパソコンも自宅のパソコンもマックになり、iPodもiPadも使っている。ところが、なぜか次第にマックが嫌いになりつつある。インテル・マックになったときに嫌な予感はした。それで、我ながらアホだとも思うのだが、少しずつLinuxのお勉強をして、少なくとも遊びや趣味でパソコンを使うときにはLinuxを使うようにしてきた。が、マックから決定的に気持ちが離れた気がしたのは、OSXに入っている写真管理ソフトがiPhotoから「写真」という、ふざけた!名前のソフトウェアになったときだったかもしれない。つまりごく最近のことだ。ごく簡単にいうと、かつてマイクロソフトに感じた違和感と似たようなものを最近のAppleに感じてしまう。ある種の余所余所しさか。(嫌味なお仕着せというべきか。)パソコンに「親しみ」を感じる必要があるかどうかは個人の好みだろうし、議論の余地もあるとは思うが、OS9当時の起動画面に象徴されるように、以前のマックは本当に「パーソナル・コンピュータ」だった。今はその「パーソナル」な感じが希薄になっている。

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(こういうデザインが楽しかったんだよね)

さて、今回はここまでが「長い!」前書き。

そう、15年以上もお付き合いしてきたAppleにサヨナラすることをかなり真剣に考えていたとき、凄いニュースが飛び込んできた。新聞記事を見て、少し唸ったほどだ。それは2015年12月にカリフォルニアで起きた銃乱射事件の捜査に関連して、死亡した容疑者のiPhoneのロック解除を可能にするソフトの開発をカリフォルニア連邦地裁がAppleに命じたところ、なんと!同社の最高経営責任者がそれを拒否したというニュース。凄い。凄すぎる。日本の新聞に出ていた記事から引用すると:

ティム・クック最高経営責任者は同日、ネット上に「顧客への手紙」とする声明を発表。「マスターキーを作るようなもので、悪用されれば、すべてのiPhoneのロックが解除される可能性がある」「政府はあらゆる人のメッセージや健康データ、資産情報だけでなく、マイクやカメラにもアクセスしかねない」と、命令を拒否する姿勢を明らかにした(朝日新聞2月18日付)。

続報では:

アップルは声明で「捜査関係者は、今回のFBIの要求が通れば、他にもロックを解除させたいiPhoneは何百とあると発言しており、マスターキーを作るのと同じことだ」と反論。「この問題は(テロ対策などの)安全保障との関連の中で議論すべきだ」と、情報テクノロジーの専門家などを含めた委員会の設置を求めた(2月23日付)。

例によって例のごとく、日本語の新聞を読んでいると、どうしても隔靴掻痒の感が拭えないので、英語の新聞を見ると、これまた凄いことになっている。アメリカは言うまでもなく、イギリスにとっても「対テロ対策」の緊急性・緊張度は、日本とは比較にならない。そういう状況で、犯罪容疑者が残した端末のロック解除という問題は、市民の権利(つまり基本的人権)の問題と真っ向から衝突するわけだから、そりゃ大問題になるはずだ(日本と英語圏は、言うまでもないけれど、こういうことになると全くの別世界……)。

驚くべきことに(あるいは、極めて当然なことに?)イギリスの新聞 The Guardianは社説に相当するコラムで「Appleは頑固すぎる。たとえAppleがロック解除ソフトを開発しても、そのソフトをAppleだけが管理する限りは、FBIが乱用することはないのだから、協力すべきだ」と書いている。このナイーブさは、はたしてThe Guardianの恥ずべき無知の露呈なのか、あるいは偽装された悪意の表明なのか、判断に困るのだが、ともかく、トンデモ社説なわけで、さすがに読者からのコメントの多くは「Bye Bye Guardian!」という調子だ。そりゃそうだろう。Appleが一番に憂慮していることは、「こんなソフトを開発してしまったら、その技術はいつか必ず流出して、権力者に悪用される」ということに尽きるのだから。これが「マスターキー発言」の意味だ。

そして、やはり興味深いことに、マイクロソフト帝国の帝王ビル・ゲイツも、「これは特別な機会なのだから、Appleは捜査に協力すべきだ」と発言している。いかにも。(しかし、マイクロソフト社自体はAppleにある程度同調しているらしい。ある程度だが。)

「特別の例外」を一度でも認めたら、それはもう二度と「特別」にも「例外」にもならない。すでに「前例がある」のだから。Appleが憂慮している第二点はこのことだ。捜査のために、国家の安全のために、悪魔の技術を開発してしまったら、たとえそれを必死に隠匿したとしても、その悪魔の技術の開発を別の技術者に強要することも可能になる。それも、今度は国家の命運をかけた一大プロジェクトとして。日本のニュースと、そしてこのブログをここまで読んで、そのために誤解が生じるとイヤなので、読みかじったことを書き加えるが、Appleはすでに犯罪捜査に協力するために、それが法で認められている限りは、捜査当局の求めに応じて顧客の情報を相当に手渡してきたらしい。これはどこの民間企業でもあり得ることで、その点ではAppleもごく普通の私企業というわけだ。したがって、問題の核心は、やはりティム・クックの言うとおり、「マスターキーを作っていいのか?」ということに尽きる。

となると、ニュースではこの件は情報テクノロジーとプライバシーの問題にされているが、実は、核開発や遺伝子組み換えと同じ、つまりいわゆる「悪魔の技術」の問題だ。そして、Appleという企業がその点では極めて安全志向の強い、極めて「パーソナル」な企業であることがわかる。

たとえどんなに「写真」ソフトが気持ち悪くても、もう少しAppleの製品を使い続けようと強く思った次第だ。今度の件では、Appleをなんて褒めたらいいのかわからない。(H.H.)

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(懐古趣味と言われても……)
(ちょっと目がグラグラしますね〜)




posted by 冬の夢 at 03:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 国際 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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