2015年11月05日

ラグビーワールドカップ2015を勝手に総括する

イングランドで開催されていたラグビーワールドカップは、ニュージーランドが三回目の優勝を飾って幕を閉じた。
オーストラリアとの決勝は、34-17とニュージーランド圧勝であった。攻めるニュージーランドと守るオーストラリアのせめぎ合いの中で、試合のターニングポイントは後半25分過ぎにあった。
オーストラリアが二つのトライをあげて、21-17と4点差に迫った場面。オーストラリアがマイボールを維持して、ハーフライン付近でラック状態に。そのときオーストラリアのスクラムハーフがほんの少し目を離した隙に、ラックからボールが半分浮き出る。それをすかさずニュージーランドのスクラムハーフが奪い取り、バックスに展開した。直前の連続トライで試合の流れはオーストラリアにあった。このラックも確実に球出しして、ラックサイドをつくか、ハイパントで陣地を取るか出来たはず。スクラムハーフの致命的なミスで流れを失ったオーストラリア。ほかにもミスが目立っていたので、もう少し早くバックアッパーと交代させるべきだった。
ボールを奪ったニュージーランドは、オーストラリア陣に攻め込み、スタンドオフのカーターがドロップゴールを決める(※1)。この得点がゲームの行方も決めることになった。
その後もオーストラリアは反撃を試みるものの、22メートルラインを超えたところでノックオンしたり、スクラムでコラプシングの反則を取られたり。決勝戦に相応しくないプレーを続けていては、ニュージーランドにダブルスコアの大差をつけられて敗れるのも仕方ないことであった。

ニュージーランドの強さばかりが目立った決勝戦だった一方で、決勝トーナメントは最後まで勝負がわからない好ゲームが見られた。特に準決勝のニュージーランド対南アフリカ戦(スコアは20-18)。あるいは準々決勝でのオーストラリア対スコットランド戦(35-34)。ともに最後のプレーで決着がつくスリリングな展開で、いっときも目を離せないゲームだった。
大会前半の予選プールの試合もバラエティに富んでいた。日本対南アフリカの歴史的アップセットは言うに及ばす、イングランドが予選敗退に追い込まれたウェールズとの一戦、まさに一生懸命同士のナミビア対ジョージア戦などが印象に残る。
全四十八試合のうち半分も見ていないので断言は出来ないが、競ったゲームが多く、出場チームはおしなべてワールドクラスだったと言っていい。最も得点差がついた南アフリカ対アメリカ戦でも64-0という結果で、かつて1995年の第三回大会において日本がニュージーランドに喫した145-17という屈辱的大敗のギャップ感からすれば、一方的な展開の試合はないも同然。
何にしろ、見ていて楽しい大会だったことは誰もが否定しないところで、イングランド2015は成功裡に終わったと総括することが出来るだろう。

翻って考えるに、いつからラグビーは「見ていて楽しい」ものになったのだろうか。
個人的には、スポーツ観戦していて最も面白いのはラグビーであると昔から一貫して信じて疑わない。ただし、昔はもう少しのんびりとした面白さであったように記憶している。スクラムは幾度となくつぶれて、組み直し。ケガ人が出るとヤカンを持ったチームメイトが走ってきて、水をかける。そんなひと息つく間が多かった昔に比べると、今のラグビーはテンポが早く、見ていても目が離せない。端的に言えば、団体スポーツとして高度に洗練されてきている。泥臭かったラグビーが、どのようにしてこんなに変わったのか。

最大の変化は、ラックからの球出し。
ボールを持った選手がタックルされて倒れる。その接点がブレイクダウンであり、ボールを確保するために素早くラックが作られる。ラックの場合は立っているプレイヤーしか手を使ってはならず、よって相手選手を阻むためにはバックスやフランカーがラックめがけて突っ込んでいく。
以前ならば、このラックに敵味方の選手が殺到して、ボールがなかなか出てこない。アンプレイヤブルになると、よっこらしょとスクラムを組む。より優位に組もうとするからスクラムは何度も崩れ、その度にやり直し。やっとスクラムからボールが出たと思ったら、タックルされてラックになり、ボールが出てこなくて、またスクラム。時計をみるとあっという間に十分間くらいが費やされているといった具合だ。
ところが今は違う。
ラックになり、タックルをした相手選手が倒れたまま球出しの邪魔になっていれば、容赦なく「ノットロールアウェイ」の反則が告げられ、ペナルティーキックが与えられる。逆にラックの中でボールを保持しようとしてタックルされた後もボールを離さないとすかさず笛が鳴り「ノットリリースザボール」の反則。運良く安定したラックになってマイボールが確実になると、今度はレフリーから「ユーズイット」の声がかかる。そこから五秒以内に球出ししないと相手ボールになってしまうので、スクラムハーフがすぐにパスを展開する。
特に今回のワールドカップでは「ノットロールアウェイ」を厳しく適用していた。日本が南アフリカに勝利したのも、この反則からペナルティーゴールを多く決めたからだ。以降の試合では、ラックの相手側に倒れていた選手が急いで這いずり出る姿が当たり前になり、邪魔をする選手がいない分、攻撃側の球出しは極めてスムーズになった。
要するに、ラックになったら即ボールを出すことが求められ、そのための仕組みがほぼ完成したということだ。その結果、コンパクトなラックからのシンプルな連続攻撃が次々と続くことになり、目が離せないプレーが継続することになったのだった。

このようにプレーの質を変えたのは、ラグビーユニオンによるルール改正があったから。周知の事実であるが、ラグビーほど毎年ルールが変わる競技も珍しい。
ルール改正はどれもプレーを断絶せずに継続するためのもの。あるいは単調なプレーを排除する目的を持っている。
ラックでのルール改正のほか、ダイレクトタッチの厳格化はゲームをキックの蹴り合い一色にしないため。タッチを出たあとのラインアウトでは、クイックスローの範囲が緩和されて試合のスピードがあがった。モールを崩すプレーは反則とする一方で、モールが一度止まった後は、これまたレフリーの「ユーズイット」のコールで球出ししなくてはいけない。
これらすべてのルール改正がもたらした効果は、ラグビーのプレー時間を最大化したこと。ひとつのプレーごとに試合がブツ切れしていた昔とは違って、八十分間の試合時間が常に動いている状態に変わったのだ。レフリーの笛で中断ばかりしていたラグビーが、ラン、パス、キック、タックルのプレーの連続になった。ラック、モール、スクラム、ラインアウトは、どれもボール展開の起点となった。見ている観客は息つく間もない緊迫した試合が楽しめ、プレーしている選手にしてみたら、息つく暇も余裕も与えられない。選手たちには、ひたすら走り続けられる体力と反則を犯さない規律あるプレーが求められることになったのだった。

規律と言えば、イエローカードはレフリーによってたちまちのうちに出される。十分間のシンビン(※2)で選手をひとり失うことは、ラグビーにとっては大いに痛手となり、だから危険なプレーや悪質なファウルを控えるようになる。これまた昔話で恐縮ではあるが、日本選手権で七連覇を果たした神戸製鋼は、強かったと同時に汚いプレーが多いチームでもあった。レフリーの目が届かないところで相手選手を蹴ったり踏みつけたり。TV中継ではビデオのリプレイでその蛮行が再生されるのにレフリーは見逃しているので、何とも納得のいかない強さなのであった。今のルールで言えば、シンビンの選手が続出して、とても連覇は成し遂げられなかっただろうと思う。
その点、TMO(テレビジョンマッチオフィシャル)の導入も大きな変化だ。得点と反則に絡むプレーで、レフリーの肉眼で捉えられない、または捉えられなかったのではないかと思われるプレーについては、多角度からのビデオ映像をもとに判断を下すことになった。このシステムによって、一度はレフリーがトライの笛を鳴らしたプレーでもTMOがその詳細をビデオ映像でしらみ潰しに調べ上げ、トライ取り消しということも当たり前になった。公正を期すためには、超スローモーションでの再生画像ほど正確なものはなく、イングランド大会でもいくつものジャッジがひっくり返った。

これらのルール改正は、毎年徐々に実施されるため、いつからラグビーの質が変わっていったのかは定かではない。少なくとも、日本国内でファイブネイションズラグビー(※3)がTV放映され始めた1990年代前半には、ルール改正はまだ部分的なものに過ぎなかった。ロングキックでの陣地取りを制限するために、ボールがデッドボールラインを超えるとキックした地点に戻されて相手ボールのスクラムになるといった程度のものだったと思う。
その後、少しずつ改正が行われたり、あるいは導入したと思ったらまた止めてみたりという試行錯誤が繰り返されたらしい。
「らしい」と言うのは、年々ラグビーを見る機会が減ってしまっていたから。真冬の秩父宮でラグビー観戦などした日には風邪を引かずには済まされないし、TV放映は有料放送局でしかやらなくなった。昼間はNHKで大学ラグビーの生中継を見て、夜は地元のUHF局で社会人ラグビーの中断録画を眺める。そんなのんびりした番組編成は、十年以上前に途絶えてしまった。当然、ラグビーを見る人は減り、その間にも頻繁にルールは変更され、結果としてなんだか見ていてもよくわからないスポーツになってしまっていた。

しかし、勝利はすべてを帳消しにしてしまう。とくにナショナルチームの場合は、注目が集まる大舞台で他国のチームに勝つことが、何よりカンフル剤になる。
ワールドカップが始まる前、ラグビーがこんなに注目されることになると誰が予想しただろうか。観戦歴の長いファンですら、大差で負けるところを見たくないというのが率直な気持ちであったのだ。ところが、我らが'Brave Blossoms'は、勝利することでラグビーなど知らなかった人たちまでをあっという間に虜にしてしまったのだ。
そのうえ、その勝ち方がまた見事であった。南アフリカ戦で同点を良しとせず果敢に攻めた末の大逆転。反則を重ねるサモアを圧勝で下し、アメリカ戦では一進一退の接戦を見事にものにした。さらに、反則が少なく、レフリーの笛に潔く従うクリーンなプレーに好感を抱いた人も多かったのではないか。優勝したニュージーランドのマコウ主将が日本チームを「見ていて楽しかったし、(試合中の選手の)態度が非常に良く、とてもいいプレーをした」と称賛した(※4)のも嬉しい知らせであった。

ラグビーの面白さを知らしめたワールドカップが、四年後の2019年には日本にやってくる。そのとき、今の瞬間的ラグビー熱は続いているだろうか。外国チーム同士のゲームがほとんどの大会を、日本人が熱心に観戦に行くだろうか。今回のワールドカップでは、イングランドの観客たちがレフリーのジャッジにブーイングする場面も多く見られた(※5)。目の肥えたファンが普通にラグビーを楽しんでいる、そんな四年後になっていたいと願うばかりである。(き)


ラグビーワールドカップ.jpg


(※1)決勝戦をTV中継した日本テレビの解説者は明大OBの吉田義人。カーターのドロップゴールが決まると「すごい!素晴らしい!相手が動いている中で入れるんですからね」と興奮気味のコメント。かたやNHK-BSの放送では薫田真広(筑波大OB)がこのひとつ前のプレーから「ゴールポスト正面のスクラムなので、ここはドロップゴールもありえますね」と専門的かつ冷静に解説していた。

(※2)シンビンとは、sin(=罪)bin(=入れ物)のこと。アイスホッケーの「ペナルティーボックス」とほぼ同じルールながら、なんとも哲学的なネーミングではないか。

(※3)ファイブネイションズラグビーは、イングランド・ウェールズ・スコットランド・アイルランド・フランスのラグビー五カ国対抗戦のこと。1910年にフランスが加わり五カ国となった。日本国内では、NHKが衛星放送を始めたものの番組不足に直面した際に海外スポーツを積極的に取り込んだ結果、ファイブネイションズをBSチャンネルで定期放映して広く認知されることになった。2000年にイタリアが参加し、現在では「シックスネイションズ」と呼ばれている。

(※4)日本経済新聞 2015年11月4日の記事より。

(※5)ワールドカップ準々決勝のオーストラリア対スコットランド戦で、試合終了間際にクレイグ・ジュベール主審がスコットランドのプレーを「ノックオンオフサイド」の反則だとみなし、オーストラリアにペナルティーキックを与えた。このゴールが決まってオーストラリアが逆転勝利したが、TVやスタジアムで再生される映像ではノックオンしたのがスコットランドではなくオーストラリアの選手のように見えたため、国際統括団体ワールドラグビーが試合後「誤審」であったと認める声明を発表した。
様々な意見が噴出する中で、ラグビーライター向風見也氏の「ラグビーに誤審はない」とするコラムが正鵠を射ているような気がする。



posted by 冬の夢 at 22:23 | Comment(2) | TrackBack(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 日本のメディアでは、ワールドカップで話題になった選手の嫁さんとかを追い回しているみたいですね。それも将来へ向けた話題作りなのか。いいのか悪いのか、よくわからないです。
 ヨーロッパに旅行すると、テレビはついついラグビーの試合番組を見てしまいます。
 イギリスと、その関連諸国のスポーツというイメージがあるかもしれないけど、フランスやイタリアでもよく放送されていました。
 なぜラグビー、といわれると困りますが、ぐいぐい感(パワー)と爆走感(スピード)の切り返しの魅力ですかね。角突き合わせて押し合ったかと思うとスタンピード、っていうと牛みたいだけど、野生感があっていい。
 しかし、いつまでたっても観戦素人。戦法もよくわからないのです。
 ルールもよく変わるようです。
 記事からは、なるほど動きがあり観戦が楽しめる試合運びになるようにしているのかと思いますが、そうなのでしょうか。結果として、リーグラグビー(押し合いのないやつ)や、アメリカの球技(秒数とか細かい規則が多い)にあまり近づいてもどうかとは思いますが。くわしいことはわかりません。
 昔のこと、高校の体育の授業でラグビーをやらされました。体育のラグビーで鼻血を出したことがあります。運動神経がないからか、めったに自分がプレー本体に関係できないので、めずらしくボールが回ってきたとき、敵に捕まろうが教師の笛が鳴ろうが、構わず暴れていたら、上半身が血だらけに(笑)なってました。中学校の体育で剣道の授業中、剣道部員にバカボコに打たれまくったり、ろくな思い出がありません。いま、中高でそんな野蛮な体育、やってるんでしょうか。
Posted by (ケ) at 2015年11月06日 00:24
待ってました! 簡潔かつ分かりやすい解説、ありがとさんです。
ラグビーのルール改正で最初に大いに驚いたのは「リフティング」の反則がなくなったこと。(大昔の話で恐縮!)
今回のワールドカップで個人的に印象に残っているのは、日本が南アに勝利したことを除けば、決勝のドロップゴール。個人的には今大会の白眉のプレーかもしれない。決定的な仕事でした。もう一つ上げると、アイルランドがアルゼンチンに敗れたこと。アイルランドにはオーストラリアやニュージーランドとぶつかって欲しかった。FWの要の主将とスクラムハーフを怪我で欠いたことが、文字通りに痛かった。
Posted by H.H. at 2015年11月06日 01:52
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