2015年07月11日

相撲人気復活 〜 満員御礼と決まり手

相撲ブームが再燃しているという。若貴以来らしい。確かにNHKの相撲中継を見ると、満員御礼の垂れ幕が下がり、客席には若い女性が増えている。若貴ブームとの違いは、若乃花と貴乃花に相当する人気力士がいないこと。いや、人気力士どころか日本人力士すら減ってしまい、幕内番付には外国人力士がズラリと並んでいる。それなのに、あるいは、つい数年前には八百長問題で本場所の開催を中止したほどなのに、相撲が再びブームを迎えている。
確かに、戦前生まれの人はみんな揃って相撲が好きだ。なぜと問えば、昔は相撲しかなかったからと答える。プロ野球さえ普及する前なのだから、たぶんその理由は当たっている。戦後世代にも相撲ファンは多い。なぜと問うまでもなく、「巨人・大鵬・卵焼き」の時代だからだ。筆者は大鵬の現役時代を知る最後の世代だが、大鵬は強いだけではなく、美男子で肌の色が白く、嫌われる要素が何ひとつない力士だった。
そして、今、相撲が人気なのはなぜだろう。

たぶん、外国人力士が増えたから、だと思う。
それは逆だろ国技館と言う通り相撲は日本の国技であって外国人じゃダメなんだモンゴルなんかに優勝させてるうちは相撲とは言えない云々という反論が聞こえてきそうだ。
そうではなくて、外国人力士が増えたことが、結果的に国内の新しい相撲ファンの開拓につながったのではないか、と思うのである。つまり、

外国人力士が増える

外国の相撲ファンが増える

取組が見たい

YouTubeに当日のダイジェスト動画が毎晩アップされる

国内でも時間にしばられずに相撲を見る人が増える

国技館に行って見たくなる

という流れなのだ、と思う。

YouTubeに動画をアップしているのは、ほとんどが外国人。彼らはその日の相撲中継の映像を短時間で編集し、見事にアップテンポなスポーツエンターテインメント番組に仕立ててしまう。元の映像は、明らかにNHKの相撲中継。日本在住なのか、衛星放送で見ているのかわからないが、アナウンス音声がカットされており、場内の歓声がダイレクトに響いて臨場感十分。画面下に英語の字幕が出て、"probably saving his makuuchi status"とか、なかなか玄人筋のコメントも楽しめる。
こうしたYouTubeの相撲動画が、国内外のあちこちに相撲ファンを増やしていったのだと思われる。
筆者も相撲の場所が始まると、夜、寝る前に必ずYouTubeでその日の取り組みを見る。眠いときは、平幕は端折って三役あたりから。毎日見るうちに、一時は全く知らなかった力士たちのしこ名をすっかり覚えてしまった。顔としこ名が一致してきて、出身地(国)や得意技がわかってくると、見る楽しみが増えてくる。そんな熱心なファンでもなかったのに、嘉風や豊ノ島にはなんとか勝ってほしい、なんてひそかに応援するようになっている。やっぱり擦り込み効果なのか。情が移るというのか。

一方で、外国人力士は確かに増えた。今月の名古屋場所の幕内番付を見てみると、力士の出身国は以下の通りだ。

日本 24人
モンゴル 12人
ジョージア 2人
ロシア 1人
ブルガリア 1人
エジプト 1人
ブラジル 1人

幕内力士四十二人のうち十八人が外国人。日本相撲協会が独自に「外国出身力士は一部屋一人まで」という制限枠を設定しているにも関わらず、四割が外国人だ。。日本に帰化した力士も「出身」で縛るこの制度には様々な意見があるというが、ある程度の制限がないと、オール外国人リーグになってしまう危険性もある。
しかしながら、なぜオール外国人ではいけないのだろうか。もっと多国籍化を進めて、いっそのこと全世界の格闘ファンをターゲットにする戦略もありではないか。各国に相撲が普及すれば、オリンピックの正式種目に選ばれる可能性だってある。そのときには、審判はやっぱり行司が勤めるのだろうか。「待った」はフライングと同じだから、二回繰り返したら失格とか。いや、今は一回か。

話を戻すと、オール外国人になった場合にひとつ懸念されるのは「技」だ。
相撲は、日本古来の独特の技能が、稽古を通じて綿々と継承されてきた伝統的格闘技である。技能の前提は、力士が日本人であること。昔から力士たちは、庶民よりも特段に巨大な体躯を持ちながら、重心が低く、手足が短く、礼儀を重んずる男たちだった。明治以降、体格がよくなったにしても、技能の基本は変わらずに継がれてきたのだ。
そこに、骨格や筋肉の作りが根本から違う外国人が入ってきた。彼らは自分の強みだけで相撲を取ろうとする。すると、「技」は乱れることになる。
例えば把瑠都。人懐こい笑顔がチャーミングなエストニア人で、大関陥落後、故障が癒えずに引退した巨漢だ。把瑠都の得意技は吊り出し。両上手をガッシリと掴み、相手力士を高々と持ち上げて土俵の外に運び出す。小兵の力士などは足をバタつかせるのが精一杯だった。把瑠都の長い手と高い腰があってこその吊り出し。それは、体格と怪力のなせる技であって、稽古で体得できる技能ではない。
あるいは大砂嵐。エジプト出身で信心深く、食べることが仕事の相撲界にあってもラマダンの戒律を守る力士だ。番付上位に駆け上がったのは、立合いでの強力なかち上げ。プロレスのエルボーに近く、相手の喉元にヒットすると、それだけでダウンさせてしまうほどの必殺技だ。しかし、相撲に「必殺」は必要ない。力士の礼儀正しさとは、土俵外の儀礼とともに、清らかな勝負のことでもある。普通の力士は取組中に拳を握ることはない。そうした意味では、エルボーも技能とは呼べない。

しかし、よくよく考えてみると、把瑠都と大砂嵐は極端な事例に過ぎないのかもしれない。ともにアジア以外の出身で、身体のつくりが日本人とは圧倒的に違う。外国人力士の大半を占めるモンゴル人力士は、見た目も日本人とほとんど変わらないし、大鵬だって実を言えば父親がロシア人。だから、とりわけ肌の色が白かったのかもしれない。
脱線するが、歌舞伎の世界も日本人の純血が保たれているとばかり思っていたところ、戦前に活躍した美男立役、十五代市村羽左衛門もアメリカ人とのハーフだったことを知り驚愕した。ならばフランス人と結婚した寺島しのぶは、音羽屋を継ぐ役者を産めるではないか。いやいや、もとい。今は相撲の話である。
外国人力士の台頭はともかくとして、近来の「技」の乱れは、如実に決まり手に表れている。相撲協会では、勝敗を決める技としての決まり手を八十二手と定義している。(※1)
調べてみると、昨年(平成二十六年)の幕内全取組の決まり手上位は以下の通りであった。その「取組数 全取組内シェア 二十年前とのシェア差」を見てみよう。(※2)

1位 寄り切り 541 29.6% △3.1%
2位 押し出し 332 18.2% +2.0%
3位 叩き込み 165 9.0% +2.1%
4位 突き落とし 96 5.3% +1.5%
5位 上手投げ 94 5.1% △2.6%
6位 寄り倒し 73 4.0% △0.1%
7位 突き出し 60 3.3% +1.1%
8位 下手投げ 49 2.7% △1.1%
9位 小手投げ 48 2.6% +0.2%
10位 掬い投げ 48 2.6% +0.7%


寄り切りと押し出しで全取組の半分近くが決まっている。この二つは力士にとって最も基本の技だということだ。実際に相撲協会でも八十二手の中の「基本技」に分類している。特にすべての基本となる押し出しとは「両手または片手を筈にして、相手の脇の下や胸に当て、土俵の外に出して勝つこと」とある。親指と残りの四本の指を大きくY字型に開くことを「筈(はず)」というのだそうだ。寄り切りも、押し出しと同様に、圧力をかけて相手を土俵の外に出すという点で共通している。
問題は、次に続く叩き込み(はたきこみ)と突き落としで、この二十年間で最も増えた決まり手だ。叩き込みは「体を開き、片手か両手で相手の肩、背中などをはたいて土俵にはわせて勝つ」こと。突き落としは「四つに組んだり押し合いになったとき、片手を相手の脇腹や肩に手を当て、体を開きながら相手を斜め下に押さえつけるようにして勝つ」こと。「体を開く」というと聞こえは良いが、前に出ようとする相手の力を利用する、いわゆる「引く」技である。押し合う、突き合うが基本だとすると、それを突然にやめて引くのは、相撲としてはある意味で邪道だ。だからなのか、叩き込みの分類は「特殊技」。特殊なんだから稀にしかない技であるべきところ、なんと三番目に多い。
実際に見ていても、叩き込みと突き落としの差は素人ではなかなか判別がつかず、決まったときの手の位置とかで審判されるのだろう。ベストテンに漏れた十一位の引き落としを含めて、「引き技」としてひと括りにすると、全体の二割近くが「引き技」で決まっていることになる。言い換えれば、上手投げや下手投げなどの豪快さ、醍醐味が減っているということだ。解説の北の富士さんでなくても「引いちゃあかんですな〜」と言いたくなる。前頭下位の力士ならともかく、三役から上には「引き技」を禁止してもらいたいくらいだ。

呆気なく土俵の真ん中に這いつくばる「引き技」ではなく、押し合い、突き合い、投げ合いしながら、がっぷりと四つに組む力相撲。そんな取組を体現するのが、照ノ富士と逸ノ城のふたりだ。どちらも簡単には引かない取り口で、水入りの大相撲を繰り返し見せてくれている。やや弱気な逸ノ城が巧さを身につけてきたら、この取組は、かつての大鵬柏戸、輪島北の湖、貴乃花曙といった名勝負に伍するようになるかもしれない。
そんな期待をかけたいところだが、やっぱり両人ともにモンゴル出身。外国人力士などという枠組みは、このふたりが横綱を張り合う頃にはなくなっていそうな気配である。(き)

sumo.jpg

(※1)日本相撲協会のHP「ハッキヨイ!せきトリくん」より引用。決まり手の定義も同じ。
(※2)「大相撲決まり手統計」なるHPより引用。





posted by 冬の夢 at 00:09 | Comment(1) | TrackBack(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 外国人力士の一人に「外国食材(ちゃんこにはない食べもの)」を納めている、日本のお店を知っています。そこのお子さんが、もちろん日本人ですが、当然、納品先の力士を熱狂的に応援しているようです。次世代相撲ファンに向かって「国技」を主張することじたい、無意味になっていきそうです。
 柔道はどうでしょう。競技人口からみると、いまや日本はまったく柔道大国ではありませんよね。フランスでしょう圧倒的に普及しているのは。であれば、いかに「柔」を精神的には継承するといっても、異なる身体技能を軸にした柔道が世界基準になっていくのは自然かとも思われます。
Posted by (ケ) at 2015年07月12日 01:45
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