2015年05月04日

ビヴァリー・ケニー 「BORN TO BE BLUE」と電話歌手のこと

 ことしの二月、大雪のニューヨークでカゼをひき、部屋から出られずFMラジオでハード・バップばかり聴いていた。
 もどってきて、持っているジャズ・メッセンンジャーズのCDをひととおり聴いたら、そのハード・バップ・ブームはなんとなく去っていった。
 それまで聴いていた、ほかのジャズのCDも、不思議と回さなくなった。ジャンルは女性歌手のジャズ・ボーカル。たしか十年もしくはそれ以上前、日本盤での復刻ブームがあった、一九五〇年代の若手白人女性歌手たちだ。

 ヘレン・メリルやアニタ・オデイ、ジューン・クリスティやローズマリー・クルーニーといった、ビッグバンドやラジオ放送などの専属経験があって超有名な「ジャズ歌手」たちは、昔から知っていた。いっぽう、ドリス・デイやモーリーン・オハラのように日本では女優としての知名度のほうが高いような場合は、なんとなく「ジャズじゃないから」な扱いで、ほとんど知らなかった。ビッグバンドに弦楽がくっついたゴージャス系のオケのせいもあったのだろうか。すいません、扱いというのは昔のジャズ喫茶での話です。やれやれだな。
 いまは、よけいな先入観はないから、ジャケットデザインやクレジットを見て五〇年代とアタリをつけ、気分しだいで買ってみる。知らない歌手ほどいいわけで、本業が歌手だろうと女優だろうとかまわない。ジャズのコーラスがわかって歌っていようと、せ〜ので歌メロをなぞるだけだろうと、別にいい。当時だって女性歌手はルックス重視だったから、美人女優が歌う企画盤だったり、アイドル系というのも当然いたろうが、とにかく皆さん上手い! 昔からアメリカじゃ、とりあえず上手くなければ歌手にはなれないから、当然だろうけれど。
 
 余談だが、美人女優の歌で驚いたのは、映画「マイ・フェア・レディ」(一九五六年)の、オードリー・ヘップバーンの歌の「吹き替え」。
 劇中歌のかなり──ほとんど──の部分を、吹き替え歌手、マーニ・ニクソンがあてている。よく知られていることだし、アメリカのかつてのミュージカル映画では、ふつうに行われていたが、ヘップバーンは自分の歌でいくつもりで練習もし、撮影も進んでいて、吹き替え決定を知って悲しんだ。
 しかし、現行DVDの特典映像にはいっている、ヘップバーン本人の歌で撮ったテイクを見てみると……有名な「踊り明かそう( I Could Have Danced All Night)」の場面だが、なんの、ヘップバーン、歌えている! 公開版と比べれば、声の透明感や伸び、抑揚は足りないにしても、純朴なイライザらしさはヘップバーンが歌ったほうが出ている。それと知って比べると公開版はいかにも後からはめた感じもし、自分の歌声の録音に合わせて演技しているボツ版のほうが好きだ。同じ場面を本人が歌っているボツ版で見ると、カワイくて泣けて来るほど。ぜひご覧ください。ファンは、とうに見ているか……。

 さて。
 なんとなく買っていたら枚数が増えたジャズ・ボーカル盤、いちばん印象に残った歌手を思い出してから、しまいこむことにした。
 迷わず決まり。
 ビヴァリー・ケニーだ。
 五〇年代後半の五年と少しの間に六枚の公式盤を出したが、二十八歳で亡くなってしまった歌手だ。知らなかった歌手で、アメリカでも顧みられないが、日本にファンが多く、すべての音源が日本でCD化されているそうだ。ジャズファンにはよく知られた歌手なのか、それともいまも、知る人ぞ知る存在なのか。
 告白するまでもなく「BORN TO BE BLUE」(一九五八年録音)のジャケット写真にノックアウトされて買った。
 回した瞬間、タイトルチューンがまったくジャケットのイメージ通りに流れてきて感動。収録曲はほぼすべて遅めのテンポで、けだるいギターのリズムにまとわりつくオーケストラをバックに、ビヴァリーがすぐそばで語りかけるかのように歌う。めちゃくちゃ上手いわけではないが、ビブラートをかけ過ぎずエコーも控えられた、きもち高めの可憐な素顔声が、しずんだ紺色に彩られた愁いをかきたてる。名盤だ。
 昔のポピュラー音楽の歌手はだいたいそうだが、ビヴァリーも単語をしっかり発音して歌うので歌詞が聞き取りやすく、昔の曲の単純で甘い歌詞を、この声で、この上手すぎない感じで歌われると、本当に悲しくなってくる。偶然だけれど、田舎出のイライザの心からの喜びを、上手すぎずに、しかし可憐に歌って泣かせてくれたオードリー・ヘップバーンに似ていなくもない。ビヴァリーは、大きく羽ばたくことはまったく出来なかったけれど……。

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 ビヴァリーの声が可憐だ、と書いたが、この歌手が好きになって、さらに数枚、買って聴いていたら、違うような気がしてきた。
 とても他愛ない内容の軽快な曲を歌ったりするとき、ビヴァリーの歌いかたは、はすっぱ、というのだろうか、投げやり、は、いい過ぎにしても、歌詞をポイと投げ出すような感じだ。長調のアップテンポナンバーなのに、厭世感のような妙な影がまとわりつく。「BORN TO BE BLUE」のスローテンポの甘い曲では、あまりはっきりしないが、歌いかたはおそらく共通していると思う。ちなみに、あらためてジャケットを並べてみると、レコードごとに顔がぜんぜん違う。髪も、染め変えるかウィッグらしく、別人かと思うほどだ。テレビ番組で歌っている動画もネットで見られるが、「BORN TO BE BLUE」のジャケットとは違う感じだ。
 
 ビヴァリーは、プロになる前「テレホン・バースデイ・シンガー」という仕事をしていたことがあるらしい。電信電話会社のウエスタン・ユニオンは、一九三〇年代から七〇年代まで「歌う電報」というサービスをしていて、確認はできていないが、そのなかに、申し込むと、希望の相手の誕生日に電話でお祝いを歌ってもらえるというのがあったようだ。ビヴァリーはウエスタン・ユニオンでそれを歌っていたことがあるというのだ。録音したテープを流すのか、電話会社のブースで電話をかけて直接歌うのか。勝手に、若くてきれいな女のコが殺風景なブースで見知らぬ人に電話して歌う様子を想像すると、いかにも薄暗い感じがして、なぜかこの歌手のイメージと合ってしまう。
 こじつけるつもりはないが、静かだけれどきれいに抜ける声で耳もとへ話しかけるような、しかしよくも悪くも自己主張がうすく、求めて無名の歌手として歌っているような感じは、「電話歌手」と、どこかで通じているのかもしれない。
 早世の原因は、ホテル火災での事故死ということだったが、後年、自殺とわかっている。情緒不安定で、しずみがちな性格だったことが知られていた。恋人と一緒にいたホテルのバスルームで睡眠薬自殺をはかり、そのときは助かったが、死のうとすることは止まず、三度目に亡くなった。(ケ)



四十年前の「ハイウェイ・スター」 ディープ・パープルを聴いて追悼ジョン・ロード [2012/07/22]を書き直しました。
posted by 冬の夢 at 12:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽 ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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