2015年03月22日

「レッツゴー!若大将」の香港と星由里子の目 .

「目は口ほどに」というけれど、そのお手本のような視線。目で伝える恋心がスクリーンを濡らす。
 ここまでに見てきた若大将シリーズのうち、もっとも目の演技が印象的な作品だ。
 とはいえ、わずか数シーン。もっとも、しつこく繰り返されては興ざめだから、じゅうぶんだ。
 おお、この目か! と意識してご鑑賞いただきたい「レッツゴー!若大将」。 

 前作「アルプスの若大将」のメガヒットで、一九六七年は、シリーズ九作目のこの「レッツゴー!若大将」を正月公開のトップバッターに、なんと年三本の若大将シリーズが封切られる。
「レッツゴー!若大将」のテーマスポーツはサッカー。大学の対抗戦に人気があった、よき時代だ。
 若大将の「レッツゴー!」の声で試合開始。いまそんなことをしたらや確実にスベるが、カッコよかったんでしょうね、当時は。
 ただ、サッカーの若大将、加山雄三の動きにいまひとつキレがない。撮影のしかたのせいかと調べかけたら、加山は、大スター上原謙の息子だからと敬遠されたのか、学生時代に友だちがあまり多くなく、チームスポーツは苦手だったらしい。そういえば若大将シリーズに「野球」はないのではなかったか。もし、サッカーをしたことがほとんどなかったとしたら、加山は持ち前の運動神経のよさで、そつなくこなしていいるわけだ。
 身体感覚がいい証拠は、オープニングシーンの、いきなりストーリーとはぜんぜん関係ないドラムバトルでわかる。動きがいい!
 名手の白木秀雄──契約の関係か、バックにイメージフィルター越しに映るドラマーがそうだろう。日活の「嵐を呼ぶ男」で、石原裕次郎のドラムを吹き替えているのも白木──との叩き比べだ。若大将シリーズはやっぱりドラムのドコドコと、キラキラの東宝オリジナルロゴでないとねっ、と盛り上がる。
 音は白木が吹き替えたとしても加山は、本当に叩けるのかと見まごう動きだ。リズムに合っていてハイハットも正しく踏んでいる。本格的に叩けるのかもしれない。細かい話ついでに、オープニングで加山が叩いているのは、昔のロゴと貝殻調の胴が超カッコいい、ラディックのドラム。リンゴ・スターのと同系モデルでは。ちゃんとした楽器で撮影するこだわりも、いいと思う。
 劇中歌の場面も、おしゃれな仕立てで、筋への組み込みも──まあストーリーは、あってないようなものだが──スムーズだ。音楽映画としてもよく撮れている。
 監督は誰かと見てみると、やはり「エレキの若大将」の岩内克己。ところが岩内は、もともとサスペンス映画志望で、この、音楽つき青春シリーズの監督を命じられ、困って最初は辞退したというから驚きだ。もっとも、若大将シリーズではアットホームな芝居の演出が上手いと思う福田純も、アクションものの監督がやりたくて、若大将は自分には向いていないジャンルだった、と後にはっきりいっているから、わからないものである。

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 さて、今作でも海外ロケがあり、香港とマカオで撮影している。
 大学サッカー部から全日本代表に選ばれた若大将が香港遠征に行くと、日本で出会って好きになった、宝石店づとめの澄子が出張で来ていた。
 香港では、若大将は高級中華料理店の娘、美芳と知り合いになっていて、美芳の案内で観光するのだが、出かけるところを目撃した澄子が、おなじみのひとり合点でプンプン。しかし誤解はとけ、若大将と「すみちゃん」の気持ちは通じ合う。
 勝手に同行してきた青大将は、日本人観光客相手の美人局にひっかかり※1、マカオで持ち逃げをくらって若大将にSOS。若大将は美芳と軽飛行機で──若大将いきなり操縦してるし!──マカオへ青大将の救出へ。

 ところが、この映画でも徹底的に調子のいい青大将、助けられていながらよけいな横ヤリを入れ、またまた「すみちゃん」がプッツン、帰国してしまう。下心あって、すみちゃんを香港出張に同行させた、宝石店のセクハラ専務には襲われるし、すみちゃん、今作はちょっとかわいそうかも。
 帰国後、練習に身の入らない若大将は澄子の気持ちを確かめに京都へ追い、再会するが、誤解はとけないまま澄子はなんと、香港で必死で撃退したセクハラ上司と結婚するといい出す!
 京都御所の長い壁沿いに彼方へ去っていってしまう、すみちゃん。星由里子のバックショットが美しく、秋の京都御所にイチョウの黄色が散る印象的なシーンだ。が、曇りでも撮影を強行しがちな感じのこのシリーズで、この場面に限って陽射しが強すぎる! 合ってないぞ設定に。ま、いいか……。
 京都の別れを決定づけたのは、誤解の原因になった香港美人の美芳が日本に来ていて、若大将が、美芳に京都を案内するといったせいだ。その美芳は、映画公開前年に新成したての帝国劇場の、地下に中華料理の支店を出すという設定。若大将の実家、すきやき「田能久」も業績がよく、美芳の中華店の向かい側に支店を出す。その開店場面でも澄子の「ああ勘違い」があり、日本人の好きな「すれ違い」を積み重ねる仕立てになっているが、実際に世の中の景気がいいからこその、場面設定である。開店したばかりのお店でのバンド演奏に若大将が飛び入りする場面を見ていると、こんな素晴らしい時代に映画黄金時代が終焉を迎えつつあったのかと思わずにはいられない。

 ところで訪日した美芳が京都に行きたがったのは、じつは陶芸修業に日本留学している婚約者の呉隆に会いたかったから。
 なあんだ美芳にはお相手がいたんだ、ということで、澄子のもつれた誤解も解ける場面へつながるのだが、美芳の恋人の呉隆を演じるのは、なんと宝田明! 
 といっても驚いてはいけなくて、宝田は一九六〇年代前半、東宝と香港キャセイフィルムの合作メロドラマシリーズに主演、香港や台湾などで大人気だった。二歳から中学時代まで旧満州で育ち、厳しい引き揚げ体験がある宝田には、二枚目であるだけでなく中国語が話せるというアドバンテージがある。※2香港との共同制作でアジア展開を図っていた東宝にすれば、まさに適材だったろう。
 当時の東宝の考えは直裁的なもので、高額制作費の映画を撮るなら、国内のみならずアジアでも売れる映画が作れないか、というものだ。そこで当時の東宝が得意な、ややハイソな設定で、日本と香港の俳優を共演させる企画が生まれた。キャセイとの撮影現場は当初、意見の相違が多く難航したが、主演の宝田が双方のクッション的存在になれたことは、大きかったらしい。
 なお、宝田主演の日+港メロドラマは、三作目で途絶える。それが「ハワイの若大将」と同時にハワイロケしていた「ホノルル・東京・香港」だ。となると「レッツゴー!若大将」は、まず香港ロケありきでストーリーを組み立てたのではないかとも思える。つまり、いったん切れた日本と香港の映画界の共同事業への、「つなぎ」の意味もあった作品ではという想像もできそうだ。
 もし日本の映画産業が力を失わず、他社も東宝に続いて、日本とアジアの共同制作が前進を続ければ、映画を通じた相互理解がより進み……いやそれは、あり得なかった夢をいま見ようとするようなものだ。そこまでの深慮があって共同制作に至ったわけではなかろう。
 日本側と香港側の出資率にもよるが、東宝の香港ロケものはあくまで「日本映画」を作るプロダクションだし、逆にもし東南アジア公開が前提の興行形態がさきに決まっていたら、撮られた映画は、どの国で見られてもわかる毒にも薬にもならない娯楽作だらけになったはずだ。当時の香港という、中国でも韓国でもないビジネスゾーンでこそ成立したことでもあり、儲かればやるしダメならやめるで、よかったのだろうとも思う。

 舞台裏の事情はともかく、そのころの東宝がスクリーンに映し出した香港には、他社の映画における香港のイメージとは違う明朗な解放感が、リアルに満ちている。
 パン・アメリカンの協賛なので観光プロモーションの意味があるにせよ、「レッツゴー若大将」の香港は、世界に向かって開いている明るい窓だ。
 当時の他社のギャング映画などでは、実際の香港はスクリーンにはまず登場しないにもかかわらず。香港はつねに悪の魔窟、アウトローの秘密基地みたいな設定である。いっぽう「レッツゴー!若大将」では、実際に香港が映るうえ、あたかも国境が存在しない地続きの場所であるかのように、香港、東京、京都がめまぐるしく場面転換し、若者たちは自由に行き来して、恋と未来へ向かって明るく生きている。

 閑話休題。

 どうも回を重ねるごとに、かんじんの加山雄三への言及が減っていく気がするが、そこはそれ、いつもの大活躍が堪能できる、ということにさせていただいて、冒頭の「目の演技」の話をしよう。最近「壁ドン」とかいうものがあるらしいが、本気になってる女の熱いまなざしにかなうもんじゃありませんよ!
 その、まなざしとは、もちろん「すみちゃん」のもの。上映開始から三十八分くらい、香港の宝石店に青大将と入って来た若大将に、偶然に出くわすところだ。

 お店には上司も来ていて接客中なので、すみちゃんは若大将に会えた喜びを態度には示さない。しかし、その「目」が、すべてを語っている。
 この場面の星由里子は本当に上手い!
 まず、表情をほとんど動かさない。口もとに、よく見ないとわからないほどの笑みが浮かぶだけ。この口もとが美しいんです、すみちゃん! じゃない、星由里子!
 加山とは若干の丈の差があるから、微妙に上目づかいになるのだが、決してガンづけみたいな三白眼や、下品なおねだり目線にしない星由里子。黒目の位置をしっかりキープし、かつ微妙にぶらしている。黒目が揺れるのって、地なのかね、なにしろその、揺れが語る思い! すみちゃん、呼吸が速くなっているのがわかる。もちろん胸式呼吸! 胸が熱いの! 
 誰じゃい、そこで腹を出したり引っ込めたりしているアホは! 

 この場面、青大将や上司が声をかけてジャマになるが、そのかん、すみちゃんの黒目は若大将の目をつかまえて離さない。上司に呼ばれて接客に戻る直前、若大将に駆けより、このときだけ手をかけて「後でホテルに電話をするわ」。瞬間、眉が動いて、このセリフを加山にねじ込む。ハア……。
 ここまで三十五秒くらいと、けっこう長いシーンだ。
 この場面で、もうひとり、絶妙な上手さを見せる俳優がいる。青大将の田中邦衛だ。なんとか澄子の気をひこうと、ああだこうだと甘言を弄するわけだが、そのチャラけたやかましさを途切れさせないおかげで、すみちゃんの目が、ますます輝いて見える結果になっているのだ。
 
 ところが、誤解が深まって若大将をふってしまう京都の場面では、なにか別の事情があったのか、星由里子、ひどい疲れ目に見える。
 それが、すみちゃんの止まらない思い込みと悲しみを表現しているようで、またいいのだけれど、どう見ても大人の女性の、翳りのある濃密な目である。女優としては、大学が舞台の青春ドラマのヒロインは、そろそろ卒業すべきだと分かる場面でもある。

 つぎ!

 上映開始後七十二分くらい。京都行きの新幹線の中で若大将が、美芳と、青大将──マカオでのトラブルで美芳に借金したので日比谷の店でのアルバイト+お供をさせられている──に出くわしたときの美芳の目線! 
 美芳にはフィアンセ(宝田明)がいるわけだが、この場面では観客にはわからず、きっと若大将のことが好きに違いないという設定だ。
 青大将を追い払って、若大将に話しかけたときの目線、これがいい! セリフは「ワタクシ、雄一さん、京へゆけて、ウレシデス」。赤字のところがちょっと濁り、下唇をわずかに噛むのがメッチャかわいい。そのかん、この人の黒目もまた、若大将の目をとらえて離さない。じつに強くて美しい目線だ。
 いい忘れたが、美芳を演じているのは、六〇年代の香港武侠映画──歴史ものチャンバラアクション──のスター、陳曼玲(メリンダ・チェン)。後年、映画プロデューサーとして劇映画を制作したり、近年もテレビの人気武侠ドラマの脚本を担当したようだ。
 陳曼玲が立ち回りを披露する武侠映画は見ていないのだが、剣劇スターでもあると知れば、小柄でコリッとしたボディと鋭い眼光には納得。とはいえ、この映画で披露している和装も似合っているし、宝田明とのカップルぶりもかわいい。 

 さきほど、加山雄三への言及が少ないといったが、加山にはまことに申し訳ないけれど、いま書いた二人の目の演技達者の素晴らしさをより実感できる、簡単な方法がある。
 つまり、彼女たちの視線を受けているときの加山の、目の芝居の欠如ぶりを見ていただければ……。
 ただ、そこはそれ若大将の、悪意がまったくない爽やかなキャラクターを結果として表現している、ということでいいのだろう。若大将が思わせぶりに目で語る、というのも気持ち悪い。女のコの感情には鈍感だけれど、まっすぐな心で誰にでも共感してくれて、その共感や同情は行動で示す、それが若大将の魅力の中心なのだから。

 前田美波里のキャットファイトという強烈なシーンがあったり、フィナーレの立役者はじつは青大将だったりと、ほかにも書くことはたくさんあるが、今回は「目の演技」にしぼろう。
 というのも、日本と香港のスター女優の「目の演技」を、興奮ぎみに紹介したが、実はもうワンシーン、もうひとりの女優の目が輝いている。こちらはとても短いので、注意していないと見落とす。
 
 上映開始後、二十ニ、三分あたり、若大将の遠征壮行パーティでの「女のケンカ」で騒然としている中、マネジャーの江口を見つめる若大将の妹、照子の目だ! 
 江口はのちに照子と結婚、すきやき屋の田能久を継ぐという設定なのだが、今作では、まだどちらも告白ってない設定のはず。
 ここで強く主張しておく!
 若大将シリーズに、おそらく全出演しているはずの、照子こと中真千子こそが、最高にかわいいということを!
 出番は多くないが、若大将への短い突っ込みゼリフは上手いし、父親の有島一郎がおばあちゃんの飯田蝶子とのやりとりでスベっている場面など、後ろでクスクス笑ったりしているときの中真知子はいい。まるで映画を観る観客といっしょに観客席で、その場面を見てウケているような、フレンドリーな魅力だ。セリフはピリっとしているが、あくまで若大将の妹、そういう設定をいつもうまく演じている。
 そしてこの映画での一瞬の「目の演技」は、日港の主演級女優に負けない、小娘には絶対できない美しい目線だ。それもそのはず、「かわいい」と書いたが、若大将の妹といっても中真千子は、加山のひとつ歳上!

 松竹の「地獄の花束」(一九五四年)でギャング団のボスを演じている有島一郎といい、やはり松竹の「黄色いからす」(一九五七年)では同じおばあちゃんでもイジワルババアを演じている飯田蝶子といい、限りなく芸達者な人たちが作りあげた、すばらしい舞台へ上がれた加山雄三、なんと幸せな若大将であろうか。
 こうなってくると若大将シリーズ、続けて見るのをやめる「やめどき」が、どうやら大事なようで、まだまだ見ていない本数があるのに、すでに寂しさを感じる。(ケ)


※1 犯人の香港女は、じつは日本人だったという設定。
※2 広東語でなく北京語を話している、と思う。

[参考]
『東宝映画100発100中! 映画監督福田純』(ワイズ出版/二〇〇一年)
*二〇〇二年の国際交流基金「香港映画の黄金時代」の内容について記録しておられたかたがたのブログを参考にさせていただいた。それぞれにリンクはしませんが、感謝します。


*二〇二〇年八月三十一日、文書のつながりを直しました。管理用
 originally posted 2015-03-24 17:30

(c)趣味的偏屈アート雑誌風同人誌 不許複製


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posted by 冬の夢 at 23:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 若大将シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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