2015年03月14日

「ハワイの若大将」 おすすめ! 星由里子

 初めて海外撮影も行ったシリーズ四本目、そのハワイロケで東宝は三本の映画に必要な場面を撮っている。撮影スタッフは共通で監督だけ交代。最初に「ハワイの若大将」を撮り、森繁久彌の社長シリーズ「社長外遊記」、宝田明と「香港の真珠」こと尤敏のラブロマンスシリーズ「ホノルル・東京・香港」を撮った。日程はどれも一週間ほど。
 なるほど。だから「ハワイの若大将」には、スカッとした空気感が思ったほどなく、ここぞというハワイのシーンが曇っていたりするのかと納得。後が詰まっているからピーカン待ち、つまり撮影を休止し快晴の日を待つことができなかったのだ。
 せっかくのドル箱シリーズの初海外ロケで、ずいぶんカツカツな日程を組んだものだと思うが、海外渡航自由化前、一ドル三六〇円の時代。当時コカコーラひと瓶が二十五セントくらいだが、コーラ一本が当時の円で百円するという為替格差では、現地でピーカン待ちしていられる余裕があるわけがない。
 憧れのハワイを思うままフィルムにおさめきれなかったのは、製作側には悔やまれる面もあったろうが、完成した「ハワイの若大将」は台所事情など吹っ飛ばすおおらかさ。胸が晴れる。

 それにしても、なんと明朗な映画だろう!
 大学の定期試験で青大将がしでかしたカンニングの連帯責任をとるはめになった若大将の、このセリフがすべてを語っている。

「すんじゃったことは、いまさらケンカしたって、はじまらないよ」

 若者から年寄りまで、「すんじゃったこと」にはこだわらず、明るくいまを生きている。屈託も屈折もなし。多少の行き違いでは人を恨まず、誰かが誰かをかならず助ける。手助けの「つて」も、なにくれとなくある時代だ。だから、偶然の出会いは幸福のサインと、初対面どうしが信じあう。ちょっと辻褄が合わないぐらいで、ちょうどいいのだ。
 むろん、他愛ない内容の昔の人気シリーズ映画の、お約束な設定。ふだんの本人のままで若大将を演じたとされる加山雄三が、等身大なんてウソで、リアリティのない理想の青春ものだったと後にいっているし、こんな話はありえないといわれたら、それまで。映画だからかまわんと開き直るつもりはない。ウソっぽい話を本当らしく見せるのが映画とはいえ、若大将シリーズや「男はつらいよ」シリーズさえあれば、憂き世の辛さがすべて忘れられるというのは、見ている自分が自分につくウソだ。
 それだからこそ、「ハワイの若大将」の、シリーズ屈指の快活さは格別に胸にしみる。

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 今回、若大将こと田沼雄一は京南大学ヨット部キャプテン。練習中にモーターボートと衝突してしまう。海のルールを知らず操舵を誤ったのに逆ギレするボートの女、これが星由里子の「澄子」だ。
 う〜ん「すみちゃん」いきなり逆ギレかよ、とムッとくるが、じつは今作のすみちゃん、ここまで見たなかでは性格がいちばんカワイイ! ちょっぴりワガママのスネ子ちゃんですもん、みたいな愛らしさへ振った演出がいい。「美人」という圧勝カードがますます輝く。
 艇の修理費を稼ごうと、自分が演奏で出演するパーティ券を先輩の会社に売りに行った若大将は澄子に再会。偶然そこの社員だったわけよ、映画だから。
 この場面で、すみちゃん、自分の無知と非を認めて若大将に謝るんだが、いい! 美人に詫びられるとこっちが恐縮する、あれです! この後、どんなにゴネても許す! 
 なにがいいといって、星由里子の声。語尾にわずかにハスキーノイズがかぶるのが印象的だ。ノイズが乗っているのに、あるいはそのおかげで、音にふくらみがあるLPレコードですね。肌の福々しい輝きといい、ようアナログ美人! 通じないか、こんなたとえ……。

 青大将が試験でカンニング、連帯責任でいっしょに停学になった若大将は、おなじみの勘当もくらってしまう。
 どこまでも調子いい青大将は、うまく父親をいいくるめ外国留学をとりつける。どこへ留学するか。「あったかくて女のコがきれいで」という理由でハワイなのだ。
 その青大将、ハワイでも入試でカンニング、入学できないまま遊び歩き、身元引受人の日本料理店経営者もサジを投げた。青大将の父親の詫びと依頼で、若大将が単身ハワイへ青大将を連れ戻しに行くことになる──。
 なかなかハワイが出てこないが、ここまでに若大将も青大将も、すみちゃんも、すき焼き店「田能久」の面々も、カンニングを咎める大学教授の平田昭彦も、青大将の父親、三井弘次も、おなじみのイメージできっちり芝居ずみ。おかげで「ありえない」展開もスッと納得できてしまう。
 監督は福田純、なるほど、田能久の有島一郎や、おばあちゃんの飯田蝶子にとてもいい演技をさせる人だ。福田演出の「若大将」が自分は好きなんだと、なんとなく見始めたシリーズを知らぬ間にマニアックに見てしまっている。

 さて場面はいよいよ若大将・イン・ハワイ。青大将の引受人の老人に会うが、これが左ト全。怪演爆演が炸裂、いきなり最高だ! 
 パスポートや旅行費の入ったパンナムロゴの青い旅行カバンを置き忘れて困る若大将に、ヨットを貸したり仕事を世話してくれたりするのは、加山の実父、上原謙が演じる二世の事業主。左ト全が亡妻の父つまり義父という設定。上原の娘でカタコトの日本語を話し若大将のことを好きになる娘役はハヌナ節子、といわれても知らず、ちょっと浮いてるほどローカルな感じと思ったら、ハワイの税関関係者の娘らしいのだ※1。機材の持ち込みなど多々便宜をはかってもらった礼として、出番の多い役回りで出演している──同じロケで撮影された「社長外遊記」にも──。これも台所事情か。
 そして、上原謙の経営する現地のドラッグストアへ化粧品販売の出張で来ているのは、なんと澄子。都合よすぎる展開だが芝居がていねいなので、すぐ納得して筋を追える。
 お膳立てが揃って若大将、ハワイのウクレレを手にとって歌にはいる流れも自然なら、告白は澄子のほうから「アナログ声」で、というのもいい。もちろん好きとか愛してるとかいう下品なのじゃなく「青大将のおかげで会えたから」みたいな婉曲表現ですよ。告ったからって、いきなり情熱の南国キスとか、ビーチでセックスとか、そんなん、なし! ケダモノじゃあるまいし!
 すみちゃんの声がいい、と書いたが、この映画ではもうひとつ、素晴らしい音が聞ける。加山雄三自作の、英語詩の劇中歌が二曲! ポップもカントリーもゴッチャの和製ロカビリーとは違う、ゴリっとした完璧なR&Rスタイルの歌とギターが予想外にいい! 加山は岩谷時子という作詞者を得たことで歌謡系の自作曲がヒットするようになるが、なんの、直球のR&Rのほうがずっと向いていた。

 ここからさきは、おなじみの恋の行き違いがあり、澄子はスネたまま帰国、さあ若大将は大学ヨット競技でライバル校に勝てるか、すみちゃんは応援に来るのか、と、いつもの展開だ。
 ヨットレースは、競技を遠景で映しても地味だし、近寄りすぎても様子がわかりづらい。そこでトップ争いのライバル艇だけ黄色と赤のセールを張って目立たせたり、競り合う選手の動きと帆の動きをシャープに切り返したりしてデッドヒート感が出ている。さすが「日本一の若大将」でマラソンという長尺長時間の競技を、緊迫感をしっかりつけて場面に仕立てた福田、映画術がさえている。
 澄子の眩しい美しさも、照明の職人芸だ。頬や肩さきなどで輝くハイライトがすみちゃんの健康美のポイント、若いからだの立体感にドキドキだが、ベタベタに明るく照明せず、暗い部分を思い切り暗くしているからきわ立つ。暗くすることもまた照明なのだ。俳優をつれてきて置くだけでも、写すべきものが写る──どんな撮影環境や場面設定でも、そのレベルの舞台を組み上げる仕事の強度を頼もしく感じながら見るのもまた、爽快だ。

 シリーズで何本か推薦することになったら、ぜひランクインさせたい「ハワイの若大将」だが、ハワイといえば昔からよくわからないことがある。

 真珠湾がある島がなぜ、日本人がもっとも憧れる夢の旅先になったのか。

 夢や憧れだけでなく、海外旅行が自由化された一九六四年には、いきなり三万人が高額なパック旅行代金を払ってハワイへ飛ぶ。「ハワイの若大将」で映るワイキキには、まだ高層ホテル群が見当たらないが、日本資本が続々と投下され、リゾートホテルが建ちならぶ日本人観光村になったことは、数えきれない日本人が体験ずみでもある。
 戦後のハワイ州は、農業から観光へ経済の主軸を転換、営業に本腰を入れる。外貨を稼ぎたいアメリカ本土の思惑も合致。日本の海外渡航制限解除はベストタイミングで、いっきに新規客を増やしたかったはずだ。実際ハワイ州政府や観光振興会が、一九五〇年代末から日本に積極的に売り込みをかけてくる。
 海外渡航自由化の前年に公開された「ハワイの若大将」は、ハワイへ行きたい欲を刺激する宣伝映画としての側面も持っている。パンアメリカン航空の協賛だ。戦争の影の暗示も、ローカルハワイ人やアメリカ本国人とのドラマもない。若大将がハワイに来て間もない場面で、観光ツアー窓口の一部か、「Peal harbor CRUISES」の文字が映ってドキンとするのが唯一ひっかかる程度、といっても偶然の写り込みだ。
 ハワイに手招きされて、日本人がますますハワイ好きになったのはいいとして、いったい真珠湾はわたしたちの記憶のどこに、どんな形であるのだろう。「すんじゃったことは、いまさら」ということなのだろうか。
 想像で書くのもどうかと思い、比較的新しい研究、「憧れのハワイ──日本人のハワイ観」という本を読んでみた。※2
 なるほど「日本人のハワイ観」を作った歴史や思想、メディア、娯楽や宣伝がよくわかり、この文でも参考にさせていただいたが、なぜ真珠湾のある場所が戦後さほどしないうちから、人気ナンバーワンの憧れのリゾートとして受け入れられたのか、その心理は、はっきりとはわからなかった。
 本の文脈から推測するなら、日本人にとってハワイはいつの時代も遠い存在だったということか。古くから日本人移民が多いが、戦前は片道切符の遠さだった。真珠湾攻撃の報に盛り上がってみても、遠い彼方の出来事。戦後に認識を転換しなければならないほどの実感は、ついぞ持たずにすんだ楽園であり続けてきたと。だから、ハワイの側から親切に「近さ」をアピールされると、「遠い」という感覚が消せたように感じ、同時に真珠湾もリセットできたのか……ますますわからない。

 そういえばこの映画で、もう一曲、印象的な曲が流れる。日本料理店のBGMという設定の、ハワイアンアレンジの「上を向いて歩こう」だ。ちょうど製作・公開の一九六三年に全米トップヒットをかちとった曲。いま聞いてもちょっと奇妙な、空へ呼吸をフハッと吹き出す坂本九の歌いかたが思い浮かぶ。
 それで悲しみが消せるという歌ではないが、とりあえず「上を向いて」。
 海外渡航自由化で日本人は、ようやく最後の縛め、国内幽閉を解かれた。その上向きな解放感が、よっしゃいちばん近いアメリカへ行ってやるぞというハワイ旅行の形をとったのだろうか。アメリカで日本人がトップになれた、その「スキヤキ」の成功に勇気づけられながら。(ケ)

※1 DVD収録のオーディオコメンタリーの、星由里子のコメントによる。
※2「憧れのハワイ◯日本人のハワイ観」矢口祐人/中央公論新社/二〇一一年


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posted by 冬の夢 at 23:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 若大将シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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