2015年02月19日

ニューヨークで寝たきりジャズ三昧 WBGO 88.3FM

 日中気温が氷点下の日が続き、大雪も降ったニューヨークで、あっけなくカゼをひいてしまった。寝込むはめに。自分のパソコンも日本語の本も持っていない。テレビもない。黙って横になっていると、余計なことで悩んでしまう。
 部屋で見つけたミニコンポでFMラジオを聞くことを思いついた。せっかく本場ニューヨークにいるのだから、ジャズ専門局がよさそうだ。
 ニューヨークでは五十局ほどのFM局が受信できるが、ジャズ専門局は一局だけ。もっとありそうな気もするが、アメリカではジャズは決して誰もが聴いている音楽ではないから、五十分の一というのは妥当なところか。

 WBGO、88.3メガヘルツ。開局三十五年になるという、ニュージャージーの局だ。スタジオやオフィスはニュージャージーだが、送信設備はニューヨークにあり、マンハッタン中心に広域で受信できる。若干のローカルニュース、交通や天気情報タイムを別にして、時間帯ごとにホストがいて、簡単なコメントとともに全日ジャズをかけまくる形式。モア・ミュージック、レス・トーク。アメリカの音楽FM局の典型的な番組スタイルだ。
 興味深いのは、この局が開局から今日まで公共放送局、ニュージャージー拠点の非営利コミュニティ放送局で、月5ドルからのメンバーシップ(寄付)を基本に、コンサートやイベント企画などの収益で運営され続けてきていること。リスナーにはCMなし無料でジャズがひたすら聴ける嬉しさがあるわけだが、専門局でスポンサーもなく長年やってこれたということにはアタマが下がる。
 逆に、ここまで続いたということで現在はネットのストリーム受信も可能となり※1、世界にファンがいて、支援メンバーも増えているかと想像される。番組オリジナルのリアルライブのほうも、リンカーン・センターに企画を提供したり、有名クラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードでのライブを企画して音源をアーカイブにアップしていたりと充実している。企画担当には、開局当初からのスタッフの一人であるドラサーン・カークさん、あの、ラサーン・ローランド・カークの夫人もいて、おおいに活躍しているようだ。

 アメリカと日本では、FM局の許認可事情や周波数の使い方が違うし、簡単に比較はできないが、なぜ日本に、このように文化とコミュニティを背景に淡々と個性的な放送を続けられているFMラジオ局がないのか、というのは、音楽ファンなら素朴に感じる疑問だろう。
 日本でもたまにFMラジオを流してみることがあるけれど、奇妙なことにどの局も編成が似ている。個性的な試みや番組作りがない、とまではいわないが、薄っぺらいトークが軸の番組が多くなっている。日本では、広範囲に電波を飛ばす級のFM局は一定規模の経営をしなければならないので、広告タイアップをしゃべりや情報トークに混ぜる必要もあってそうなるのだろうが……。コミュニティラジオつまり、低出力の地域FM局もかなりの数があり、首都圏にも存在しているが、番組表を見比べたり、いくつか聴いてみても、なぜか、こんな面白い局があるんだ、こんな地域文化や趣味領域があるんだねという気持ちがわかず、寂しくなる。なぜなのだろう。
 そもそも日本のラジオ番組がこんなにトークだらけなのは、みんな寂しいのかな。だからって、よくもまあこんなくだらないトークを聴いていられるな、と不思議だが。
 ちなみに、アメリカのFM局はしゃべりを入れない音楽専門局ばかりかといったら、そうではない。トーク専門、しゃべりっ放しの局もあるし、スペイン語、韓国語、宗教専門局もある。国のでき具合が違うといえばそれまでだけれど、ラジオ番組まで均質な日本って何なんだろうと、ニューヨークの一隅、寝床でぶつぶつ。

 ところでWBGOの選曲だが、日中は圧倒的にアップテンポのハードバップが多い。日本で日中にストリーミングすると、ニューヨークでは深夜放送の、ソフトなボーカルなんかが多く感じるかもしれないが。
 朝から日中、ハード・バップがプウプウドンドコかかりまくるのは、運転・配送や商店仕事の聴取者が多く、景気づけかなあと想像してもみるが、ともかく毎日昼夜この局を流したままにしたことで、人生でもっとも長時間連続でハードバップを聴くことになった。似たようなリズム・チェンジ※2を、いったい何曲聴いたかわからないが、いまさらちょっと気恥ずかしいですけど、やっぱカッコいいッスよね、ハード・バップ!
 聴取者にはやはりオタク的ジャズファンも多いそうだが、彼らを満足させることがこの局の使命ではないという。マイクのこちら側のことより、向こう側にいる人が、今日いまの時間、何をしているかが大事だ、とDJたちはいう。

「ジャズのことをたくさん知ってなくちゃならない、なんてことはないわよ、それは間違っているわね。テナーサックスとアルトサックスの違いが解らなくたっていいわけ。自分の聴いているものを好きになる、ということが大事なのよ」(ロンダ・ハミルトン)
「よくホストが『ドラムスはもちろん、ロイ・ヘインズでした』なんていいかたをするでしょ、百人のうち九十九人はロイ・ヘインズが叩いてたなんて知らないんだから、見下したいいかただよね。それがジャズという芸術を紹介する態度だったんだ。そんなのやめちまえとまではいわないけど、もっと気持ちよく聴いてもらいたいよね」(ゲイリー・ウォーカー)

 お言葉に甘えて、おっこの曲カッコいいねとか、このサックス誰だろうと思ってもアナウンスを待ってメモをとることはなし。ジャズクラブも夜遊びもないわたしのニューヨーク。ソニー・ロリンズが練習したウィリアムズバーグ橋が近いけど行ってない。そんな、寝床ジャズ鑑賞記でした。(ケ)

150219NY.jpg


※1 参考にしたのは局サイト、ニュージャージーの地域案内サイトなど。
   www.wbgo.org/
   ストリーミングはトップページ右上に再生ボタン。奏者と曲名も表示されます。

※2 ジョージ・ガーシュウィンの一九三〇年代の曲「I Got Rhythm」のコード進行を使った、ジャズでよく演奏される曲のこと。ソニー・ロリンズの「オレオ」もこれ。
posted by 冬の夢 at 07:50 | Comment(1) | TrackBack(0) | 音楽 ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ラジオ好きな人間として是非ともひとこと言わせていただきたい! NYのラジオは知らないが、昨今の日本のラジオを聴いていて、番組内容の薄っぺらさもさることながら、そこでの日本語の話し方(あるいは響き方というべきか)にいっそうの違和感を感じる。つまり、日本語が汚い。聴いていてなぜか不愉快な気分にさせられることが多い。もっとも、BBCの1チャンネルを聴いていてもイヤになるときが多いから、話し方の変化は世界的なものかもしれない。電話の衰退とか、ちょっと大袈裟かもしれないが、現代文明は「語り」の文化を失いつつあるのではないか。ときどき「きれいに話す」人に出会うと、嬉しくて思わずクラりとなる。
Posted by H.H. at 2015年02月19日 12:55
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