2015年01月13日

「日本一の若大将」で東京を走った加山雄三

 おおお、俺は!
 おおお、若大将!
 坊や育ちだけれど
 甘く見るなよ啖呵も切るぜ
 ※1
 
 青島幸男に中村八大、日本のモダン歌謡に一時代を画したコンビ──永六輔と中村八大もそうだが──による主題歌を加山雄三が朗らかに歌い、「日本一の若大将」は上映開始だ。
 右から左へキックしたラグビーボールをラガーがキャッチ、シャープな動きの移動カメラでとらえたラグビーチームの疾走が左から右へ。おっ今作はラグビーかと思わせておいて、また右から左へ、若大将のマラソン部が白いユニフォームで駆け抜ける。監督は入社十六年目の福田純、安心して見ていられる爽快な絵作りだ。
 とはいえ、出ばなから歌詞も節回しもムズがゆいこの主題歌、サビは加山のこの叫び。思わずズッコケる。

 俺にあるのは 若さ!

 いや、そりゃそうなんですけどね。
 もっとも、気恥ずかしさと苦笑まじりになるのは、いまの感覚で見ているからで、当時の若い女のコたちにすれば、気絶しそうにカッコいいオープニングだったんだろうね。
 これから一発ぶちかますぜっ、と若大将に叫ばれて、うんうん、早く見せて! と観客も思わずうなずいてしまう、そんな仕立ての開幕だ。

 若大将は今回、京南大学マラソン部のキャプテン。選手権前の合宿を控え、マネジャー江口が家庭の事情で降板を申し出る。代わりのマネジャーはなんと青大将。
 ただ、この作品での青大将は比較的まじめだ! 無責任で調子がいいのはシリーズ共通だが、引き際がキレイ。メイン悪役は堺左千夫の「赤マムシの張山」で、赤マムシが六本木でグレてるドラ息子ならお前と同じじゃないかと若大将や女のコたちに笑われた田中邦衛が、「バカいえ! 青大将にはマムシの毒はないぞ」と返す。青大将はホンモノのワルじゃなく気のいいヤツなんだ、という伏線だ。父親がいくつもの会社の役員をしている青大将、事実ドラ息子だが、オヤジがあちこちに二号を作っているのがイヤでグレてしまった、という来歴も明かされている。ちなみに本作で青大将の父親役は加山雄三の実父、上原謙。若大将が応募した会社の採用面接に役員として登場する面白い場面もある。
 一九六二年公開のシリーズ三本目、この後に加山が黒澤明作品に長くスケジュールをとられると決まっていて、前二作に続き大ヒットが見込めている打ち止め作だから、サービスカットだけでも一丁上がりだったろうが、登場者の造型がていねいで気持ちがいい。
 さきのマネジャーの江口は、家庭の事情で下宿に居られなくなり、若大将の実家のすき焼き店「田能久」にころがり込むが、本当は若大将の妹、照子が好き。青大将だけでなく江口もけっこう調子のいいヤツという描写だ。その照子の出番も多く、自分の結婚観を語ったりもする。
 ちなみに、中真千子の照子は素直でメッチャ可愛いい。思い込みがひどいし、はっきりいって「自己チュウ」な態度のヒロイン、星由里子の澄子よりよほどいい!
 若大将の父親、有島一郎の久太郎は、若大将におなじみの「勘当」をかますが、若大将の真意を知ったときの有島は、一人でセリフ無しの長回しで映る。この構図と秒数は凡優では持たない。そこは有島、名脇侍。表情だけでの感情表現はさすがだ。

140105wk.jpg

 と、印象的な場面を思い出すだけで、やはりこの作品が「人」をしっかり撮っていることがわかろうというもの。それでいて娯楽的な要素もしっかり、しかも複数盛り込まれている。海外ロケは次作以降で、場所の目新しさの手助けはないから、内容の濃さがきわだつ。
 監督の福田はシリーズ初参加だが、前作の設定に乗っかり過ぎず一期一会のつもりできっちり撮ったのだろう。若大将シリーズは、設定はおおまかに共通するが、一作完結だからだ。
 よく撮影所つまり映画会社による制作方式が、映画の黄金時代を支えたというが、その実体は、会社がモノを作る力、に尽きたのではないか。天才肌や芸術家はほんのひとにぎり。演技者も含め大多数が分業で単純仕事をつみ上げる会社員だ。映画一本を商品化する予算・労働・管理のルーティンが、好調な収益を背景に機能していただけだと思う。労働者の抑圧はあったし、理不尽も多かったはずだ。「モノ作りの時代」などとひらべったく賞賛したら偽善もいいところだろう。
 しかし、たまに見る昨今の邦画の絶望的な薄っぺらさに比べると、撮影所制作の終わりとともに日本映画から大切なものが失われたことは間違いない。それは確かなことだ。

 さて、「日本一の若大将」のストーリーを整理すると、大学マラソン部の強化合宿をめぐって若大将と「すみちゃん」の出会いと恋のめばえがあり、スポーツショップ勤めの「すみちゃん」の苦境──注文生産のボートの納品が宙に浮き、未払い金を抱えた──を救うべく若大将は「おばあちゃん」の手助けで実家の預金、二百万円※2を引き出し勘当される。そこまでしてもらって「すみちゃん」は、若大将とホテル経営者令嬢との挨拶程度の語らいがスキャンダル雑誌に載ったのを誤解、あろうことか青大将に接近してしまう。「すみちゃん」との将来を信じた青大将は行状を大反省し学業集中を決意。若大将は身を引くと約束。いよいよマラソン選手権だが若大将は元気がないままスタート、ライバル校の選手に大きく差をつけられる。すると、誤解がとけた澄子が走路の若大将を走って追いかけ……。
 ま、これ以上はヤボなのでやめておきますが、「すみちゃん」の星由里子が、目がさめるようなライトブルーのサマーセーターとスラックスで走りながら──画面にくっきり浮き上がる!──「好き好き! 大好きよ、あたし!」と叫ぶ場面は、わずか十秒ほどだけれど、たしかに美しい! 女が叫んで走る場面でかくも印象に残るのは、ほかにはロベルト・ロッセリーニ「無防備都市」のアンナ・マニャーニくらいだぞ──は、いい過ぎだな、いくらなんでも。
 ついでに書いておくと、走り去った若大将を見送る「すみちゃん」の右手背後に青大将が、きもち甘めのピントで写っている。その田中邦衛の表情だけでの表現もいい! DVDでは見落とすかも知れないが映画館のスクリーンでは、若大将、澄子、青大将、三者三様の心情が一瞬で響くはず。青大将は澄子といっしょに若大将を声援して走り出したのだ。斜めに走り抜け、澄子の背後に来る演出も自然だし、ピントの度合い、つまり澄子との立ち位置で、ふられた青大将のショックが表現される見え具合もいい。
 もうひとつついでに澄子の声! 星由里子が全編で思い切り声を割るのは、この場面の「大好き!」だけ。息を混ぜるのが印象的なのは、前半で若大将とふたり夜のクルージングに出た場面での、たったひとつのセリフ「きれいだなあ! 幸せがいっぱい!」。どちらの場面もセリフも、ほんとうにいい! 最近の邦画をどれか「聞いて」みてほしい。いまの女優たちは、なんでもかんでも怒鳴るか、しゅうしゅう息を吐くかのどちらかしかやらない! なぜ!

 合宿の食費稼ぎに若大将が水上スキー大会に出る場面では加山が実演──加山は日本人としては最初期の水上スキー経験があるそうだ──し、マラソン選手権の場面では東京や横浜の各地をロケに使い、競技の空撮までしている。公道を走るマラソンゆえ、応援者や大会関係者のエキストラをうまく写り込むよう差配するだけでも大変だったろうが、自然な展開に見える巧みな編集。このあたりの作り込みも手抜かりがない。
 三百万人の鑑賞者たちに見守られ、声援をあびて若大将は逆転ゴールをめざす。
 この人のいい熱血漢は、加山雄三として実在するのだと信じて応援する観客たちの善意とともに、マラソン競技の場面ではまだうら寂しさが存分にうかがえる東京の風貌は、二年後のオリンピックに向かって大きな「進歩」をとげることになる。

田沼が僕の等身大のキャラクターだなんて、嘘、嘘ばっか! あれは理想化されたひとつの青春物語ですよ
※3


 と、いま七十七歳の加山雄三は語る。
 加山の見立てでは、三〇年くらい先を見て、作りあげた世界なのだと。
 であるなら、いまこの日本にはすばらしい「若さ!」があふれているはずだ。
 そうなのだろうか。
「若くなければいけない」という、うっとうしい風潮だけが、ひたすら強くなっていくような気がする。(ケ)

※1「ほほほ」かも。
※2 いまの価値にするなら、安く見積もっても一千万円近いはず。
※3「週刊ポスト」二〇一五年一月十六・二十三日号「特別インタビュー加山雄三 永遠の若大将からメッセージ」


(c)趣味的偏屈アート雑誌風同人誌 不許複製


このブログの 若大将シリーズ【大学編】全記事リスト(加山雄三・星由里子)→こちら←


posted by 冬の夢 at 00:00 | Comment(2) | TrackBack(0) | 映画 若大将シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マラソンコースで久太郎が雄一に駆け寄って採用通知を見せ、いっしょに喜んだあとでひと言,
「しまった!勘当するのやめたって言うの忘れた」。ここでも有島一郎の表情と台詞が光ってました。
役者もまた、役者という職業をひたすら全うしていたのだと思います。
Posted by き at 2015年01月13日 00:28
 若大将の実家のすき焼き店「田能久」で、家族でテレビを見ながら声援しているのですが、たまらず外へ飛び出して沿道へ。
 東京が、身の丈というのでしょうか、まだまだコンパクトな感じがするマラソン選手権の場面。
Posted by (ケ) at 2015年01月14日 00:41
コメントを書く:ペンネーム可・アドレスは表示されません
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック