2015年01月12日

「俺の空だぜ!若大将」の加山雄三とBG女優・ひし美ゆり子

「初降下ぁ、二降下ぁ、三降下ぁ!」──これはパラシュート降下で飛行機から飛び出したとき、風圧の中で秒数とタイミングを計るかけ声だそうで、自衛隊空挺部隊でも、いまも使われているようだ。
 時代の先端をゆくスポーツが撮り尽くされたすえ、若大将シリーズ全十七作の十六本目では、スカイダイビングが選ばれる。
 シリーズ終了直前に初監督が回ってきた小谷承靖の、すこしでも新しいことがやりたいという希望に、アメリカですでに降下経験があったという加山雄三が応じたもの。いまも「加山クン」と呼ぶ小谷はこのとき三十五歳、加山が二つ歳下で、意気投合であったろう。加山は撮影で実際に降下する気で、監督の小谷も準備していたが、さすがに全編のプロデューサーである東宝の藤本真澄から厳禁の命。降下場面はすべてスタントを立てている。これに限らず、ドル箱スターを傷つけることならずと、若大将シリーズのアクションシーン撮影には注意が払われていたそうだ。

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 冒頭のかけ声を叫んで空を舞う若者たちは、加山が演じる若大将こと田沼雄一の大学の後輩で「スポーツパラシュートクラブ」部員という設定。若大将に指導を受け、ついでにちゃっかり、クラブ創設・運営資金のパーティ券を買ってもらおうとの思惑で、学生が若大将の勤める会社を訪ねて来る。
 そのひとりが次期若大将、大矢茂だ。次回作で若大将を引き継ぐと決まっていたので、大矢にもスポットライトがあたる。加山の唄う場面と大矢が唄う場面が巧みにつながれて盛り上がるパーティシーンや──大矢は実際に加山のバックバンド、ザ・ランチャーズの一員──加山と、社会人編のヒロイン・節子こと酒井和歌子のラブラブショットに、大矢とその彼女で節子の妹──酒井を引き立てるためか、劇中「アカガエル」と呼ばれるファニーフェイスの松村幸子──の仲良しショットのカットバックは、次作への布石を兼ねたいい仕上がりだ。初監督作といっても、映画会社時代の人づくりで磨かれた社員監督が、いかに完成された技能者だったかがよくわかる。
 ちなみに次作の「若大将対青大将」で大矢は若大将を「襲名」するが、それでシリーズ終了、以後の活躍は見当たらない、と別の文で書いた。DVD版「俺の空だぜ若大将」のオーディオコメンタリーに出演している菱見百合子によると、大矢は会社員に転身、出世を遂げたようだ。

 その菱見百合子とは、いうまでもなく「ウルトラセブン」の「アンヌ隊員」。六〇年代末に小学校高学年くらいだったファンは、一度でいいからウルトラ警備隊の制服がはち切れそうな胸に抱かれてみたかった、夢の存在だ! 
 東宝所属の菱見は、この作品も含め数本、若大将シリーズに出演しているが、ほぼ、お色気キャラクターのチョイ役。本作では、若大将が勤める建設会社で、社長である親の七光りで重役をしている青大将の秘書。胸下が開いて下パイが丸見えの黄色い「ボディコン」という、八十年代も後半にならないとありえないレッドカードなスタイルで登場し、小鳥のタマゴのように輝くボディとハスキーボイスで場を持っていってしまう! 一六〇センチに満たないのに背面フルショットの存在感はどうだ!
 が、菱見は本作の後、一年半ほどで契約を切られる。当時の東宝は深刻な経営難に陥っており、所属俳優はもちろん監督にまでリストラをかけていた。結果、菱見は撮影所づき女優の最終世代といわれるのだが、内実はポジティブなものではない。入社時点で映画業界は斜陽化しており、需要が増加するテレビの「コンテンツ」作りに使い回されての契約終了だから。
「ウルトラセブン」にしてからが、もともとアンヌ隊員に決まっていた女優が映画にとられたためのピンチヒッター。とうに傾いているのに映画のほうがまだテレビより偉かったわけだ。抜けた女優用の隊員服はきつ過ぎたが仕方なくそれを着て出演、子ども向け特撮ものらしからぬパッツンパッツンのセクシーキャラクターになってしまう。ただ放送当時は「消えもの」に出ていたという意識しかなく、視聴者の子どもたちから声をかけられたこともなくて、九〇年代のアンヌ隊員ブームに自分が驚いたそうだ。
 なにしろ自称「BG女優」。ビジネス・ガールつまり後の「OL」で、女優業は好きでなく、「お仕事」に流されるまま何でも出演していた、というのだ。
 そのせいかどうか、フリーランスになって以後はポルノ女優という領域とは一線を画しながらも、あっけらかんと脱ぎの映画に出まくる。「愛のコリーダ」の主演依頼があり、大島渚と会ったこともあるそうだ。悩んだ末に断ったというが、出演する気もあったのだろうか……かくして「アンヌ隊員」のファンたちは、その裸身があっけなく見られることが嬉しいような嬉しくないような、奇妙に引き裂かれた感情に悩まされることになる。

 そう、「俺の空だぜ!若大将」で、この憧れのウルトラ警備隊員は、中年期の見えて来た若大将の前で、また映画館の外では七〇年安保学生たちが分派闘争で死んでいく中、徒花のように寒々しく輝く。
 そして、おなじみのおばあちゃん、飯田蝶子は、部屋でゴルフの練習をし、まだまだ元気とアピールするワンシーンのみでシリーズ最終出演、二年後に死去。ずいぶん小さくなっちゃったなあ、おばあちゃん……。飯田蝶子とのおなじみのやりとりがなくなった有島一郎には、大矢の母親役の久慈あさみとのよろめき場面が用意されたが、これも見ていてかなりきつい。しかも相場で二千万円もの穴を開け、投資に誘った久慈を窮地に陥れてしまうという設定だ。

 若大将はというと、建設会社勤めのサラリーマンだが、銭湯を地上げしてマンションを建てているような会社なのに、「富士の裾野に健康的未来都市」を造るという案に固執している。この話は結局どうなったかわからない。伴淳三郎がガンコ親父で居座る銭湯の立ち退き交渉を青大将に押し付けられ、体をはった交渉なのか激熱の風呂につかり続け、伴淳にえんえんと背中を流させてガマンする。
 その場面に左ト全が突如登場、熱湯風呂に平然とはいって、撮影時に大ヒットしていた「老人と子供のポルカ」──やめてけれ、ゲバ、ゲバ、つまり時代をうたった曲だった──をひとくさり。銭湯の娘で番台に坐っていて若大将に好意を持つのが「せっちゃん」の酒井和歌子。
 とまあ、あいかわらずの取ってはつけたような仕立て、それも来るところまできた感があるが、そんな台本を流れのある映像に組み立て、世相も微妙に反映させ、脇役たちの好演を欠かさず盛り込んだ差配には、感心しきりだ。が、どこかちぐはぐで笑いが温まってこない。銭湯の場面なのに寒々しい。

 青大将は全編を通して変わらない名調子。出演者やスタッフが後年、口を揃えて「まじめ」と評した田中邦衛こそ、若大将シリーズの原動力だ。
 おなじみのクルマでのナンパや、若大将が乗馬で青大将のクルマに追いついてしまう場面、大矢茂と加山がサシで殴り合いの喧嘩になるアクション、挿入歌をバックに視線を切り替えていくファンタジックな長いシーン、そして軽飛行機からパラシュート降下する場面での実写とポーズの巧みなつなぎなど、若大将シリーズの粋を集めた傑作だといいたいが、なんなのだろう、どうにも、ちぐはぐ感と空虚さがあるのは。
 十年前のシリーズ作品との比較でいうなら、芝居の間合いの違いは感じる。「初降下ぁ、二降下ぁ、三降下ぁ!」に、なんとなく緊張感がないのと同様、全体に、タメがないのに間のびしたような、へんな間なのだ。演出くささがない自然さを意図したのかもしれないが……同録なのかアフレコなのか、スタジオで撮ったと思われる場面の青大将のセリフにへんに残響が残るのも、間合いの悪さが強調されて気になる。
 もっとも、映画よりはるかにハイペース低予算で回数を撮るテレビ向け撮影法にすでに変わっていたのであって、生兵法で技術批判をするなといわれたら、そうかとも思うが。

 結局、菱見百合子がわずかな場面で見せた小鳥の卵ボディ以上の印象が、この映画には見つけづらい。
 そうそう、セックスのときかならず失神すると当時としては爆弾な発言をして「失神女優」といわれた應蘭芳──「失神」の前は「マグマ大使」の嫁でロケット少年「ガム」のお母さん──も出ているし、大矢茂も若大将との喧嘩でパラシュート部のトレーナーを破かれ半裸になる。トレーナーを破かれる場面は加山のほうがずっと歳上なせいで、いやに不自然なのだが、そういえば加山も銭湯場面ではずっと全裸だ。
 七〇年安保のまっただ中で、非政治性を徹底して作るからこそ、あらためて人間の素の「からだ」をスクリーンにぶちまけ、大空に舞う「からだ」の賛美を謳いあげた、という見立てはまあ合ってないだろうが、結果的にそうだとして、それが「ちぐはぐ」に見えるのは当然かもしれない。
 よど号事件と、万博と、新左翼学生の殺し合いと、日本初の光化学スモッグが起きたのが作品公開の一九七〇年。世の中だってもう、メチャクチャなのだ。
 当時、小学生だった自分の記憶にあるのは若大将でもアンヌ隊員でもなく、夏休みの宿題の図画で、わたしを含め数人をのぞいたクラス全員が画用紙をタテにし青空をバックにした「太陽の塔」を描いていたこと。同じ絵が教室にずらりと貼られた異様な光景は、いまも強烈に思い出すことができる。(ケ)


※撮影エピソードはDVD版のオーディオ・コメンタリーほかによる。
※菱見百合子のエピソードは本人出演の同上ほか「万華鏡の女 女優ひし美ゆり子」(二〇一一年/筑摩書房)で。


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「ひし美ゆり子写真集 All of Anne plus」(二〇一三年/復刊ドットコム)


(c)趣味的偏屈アート雑誌風同人誌 不許複製

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