2014年12月19日

「若大将シリーズ」加山雄三・星由里子コンビ編総まとめ

本ブログの中でひとつのカテゴリーを作りつつある東宝映画「若大将シリーズ」。BSジャパンで十月から製作年度に沿って放映されているので、多くのファンが欣喜雀躍して毎週の愉しみとしているはず。第十一作(※1)まで辿り着き、田沼雄一は京南大学を卒業、澄子さんの登場は最後となった。
世間ではここまでを「大学編」と括ることが多く、あえて「加山雄三・星由里子コンビ編」などと別名称をつける必要などないのかもしれない。しかし、十一作品を俯瞰するとこのシリーズの魅力は、雄一のカレッジライフだけではなく、働く女性としての澄子の側にもあると思う。そしてもちろん、当時の星由里子の圧倒的な美しさがあってこそ澄子がヒロインたり得たのだし、星由里子なくしてはシリーズの華やかさは語れないのでもある。
加えて「若大将シリーズ」を続けて見ると1960年代の世相と風俗がありのままに記されていて、ひとつの時代を追体験することが出来る。おなじみの田能久の人びとに囲まれたまま、背景となる時と場所が移ろっていく。その中で登場人物が口にする何気ない台詞のひとつひとつに強烈な時代の匂いが立ち昇ってくる。
昭和三十六年製作の『大学の若大将』から四十三年の『リオの若大将』までは、日本が東京オリンピックから大阪万博に至る高度成長の頂点に立つ時期。不況などという言葉が不要だった頃で、シリーズの人気は常に高止まりしていた。それぞれの作品の時代を象徴する台詞を紹介しながら「加山雄三・星由里子コンビ編」を振り返ってみたい。(各作品の映画としての評価は双葉十三郎基準で採点した)

大学の若大将
「ダメよ。今、若大将、MMKだから」
MMKとは「モテてモテて困っちゃう」の略。雄一が歌を唄うおなじみの大団円の宴会で団令子が周りの女性たちに忠告する。つい最近も「KY=空気が読めない」というのが流行ったことがあった。頭文字略語が当時当たり前に存在していたのは驚きだ。MMKは今でも十分通用するではないか。いや、使った途端にモテなくなるかも。
大学の運動部、すき焼きやの実家、父と祖母と妹、澄子さん、青大将、運動部のマネージャー、リゾート地、誤解と嫉妬、大学選手権、大団円。シリーズの基本要素はすべてここから始まった。ちなみに澄子を救うために喧嘩に巻き込まれた雄一が警官に答える自宅の住所は「港区六本木1-23」。もちろん架空の番地だが、一丁目は現在の泉ガーデンタワーのあたりになる。(昭和三十六年七月公開 ☆☆☆★★)

銀座の若大将
「あなたの歌、イカすわ」
洋装店「ラペル」の二階で残業する澄子が、向かいのレストラン「ノースポール」の住み込み部屋でギターをつま弾く雄一に言う。「イカす」が最高級の褒め言葉であった時代。二作目ではまだ加山雄三の歌が連続したシーンのひとつとして自然に置かれていた。澄子が名前を訊くと、雄一が「俺の名前は椿三十郎。いや違う違う」と答える。黒澤明作品に出演したばかり(※2)で、立派な楽屋落ちとなっている。
今では訪日外国人観光客に占領されている銀座は、東京の代名詞でもあり最高にお洒落なエリアだったはず。そんな銀座の一角で洋装店が成り立っていたのは、オートクチュールが当たり前だったということでもあるのだろう。本作の中でも青大将の洋服はすべて誂えで作られている設定。「ラペル=ジャケットの下襟」が日用会話で普通に使われた時代なのだ。(昭和三十七年二月公開 ☆☆☆★)

日本一の若大将
「弱いな」
他人からものを頼まれたら断らない。それが若大将の魅力であり、弱点でもある。祖母りきから受け継いだその資質があるので、雄一はどんな頼みでも「弱いな」と言って断らずに承知する。「弱ったな」でないところがミソで「弱ったな」だと頼んだ相手に非があるように聞こえる。「弱いな」は雄一が自分ですべての責務を引き受ける覚悟が感じられる台詞だ。脚本家田波靖男は若大将の本質をこのひと言で表現した。
クライマックスの大学対抗マラソン大会は、オールロケで撮影されていて、当時の東京の街並みがしっかりと記録されている。当初三部作で終わらせる予定だったので、久太郎がマラソン最中の雄一と併走しながら就職試験の合格を知らせる。更にコースが競技場に近づいたとき、誤解が解けた澄子が駆け寄って「雄一さん、好きよ。大好き」と叫ぶ。実はこんな直截的な表現は本作のみ。人間、素直な気持ちになれば何でも言えるのだ。(昭和三十七年七月公開 ☆☆☆)

ハワイの若大将
「お前、C調だな」
雄一が青大将の調子の良さにあきれて言う台詞がこれ。「ちょうしいい」をひっくり返して「しいちょう」になったと言われる「C調」は、今ではサザンオールスターズのデビュー五作目のタイトルとして辛うじて残っているのみだ。このほかにも「クレイジーだよ」とか「ジェラシーね」とか初期の作品にはほぼ死語化した言葉が頻出する。
シリーズで初めて海外ロケーションを敢行した本作で加山雄三は自作の歌を披露する。但し「DEDICATED」という英語の詞によるオリジナル曲。つまり、弾厚作はまだ岩谷時子とは出会っていないのだった。マネージャー役は珍しく江原達怡ではなく二瓶正也で、後にTVのウルトラシリーズで活躍する。古谷敏もヨット部の一員として登場、ラストの田能久での宴会でひときわ背が高い彼はウルトラマンを演じることになる。(昭和三十八年八月公開 ☆☆☆★)

海の若大将
「あんなもの、どうだっていいじゃない」
雄一が出場する日豪水泳大会に駆けつけるため免許証を取り上げられた青大将に向かって澄子が言い切る。運転に必要な免許証を「あんなもの」と切って捨ててそのまま車で会場まで連れて行けと言うほど澄子のワガママは頂点に達している。
加山所蔵の光進丸が登場する本作。船の中で青大将に乱暴されそうになった澄子を雄一が救う。男だけの船に乗り込んできた君が悪いんだぞ、と注意されて逆ギレ。雄一への面当てで青大将に親切にし始める。いやいやついさっきあなたを強姦しようとした相手でしょ、とツッコミを入れたくなる。
しかし雄一の友達思いは底なしであって、どんなにひどい目にあっても青大将のことを悪く言わない。「本当はいい奴なんだ」と澄子にフォローしたりする。それも若大将の人物設計のひとつだったのだろう。(昭和四十年八月公開 ☆☆☆)

エレキの若大将
「レディスandジェントルマン マイネームイズショーンコネリー なんちゃって」
エレキ合戦の司会者役で出てくる内田裕也によるギャグ。脚本にあったのかアドリブなのか。いずれにせよ『007サンダーボール作戦』が公開されて(※3)スパイブームが最高潮に達した年。老若男女問わずショーン・コネリーの名前が通じた時期なのだった。東京オリンピック開催翌年でもあり、前作で外国人対応で大わらわだった田能久も本作では経営悪化で店を手放すことに。
澄子も態度を改めたのか「私、ヤキモチ焼いて恥ずかしいわ」と言ったり、雄一の結婚話を誤解して身を引いたりと妙にしんなりしている。
けれども本作は間違いなくシリーズ随一の傑作。バンドメンバーのスラップスティック、日光戦場ヶ原での「君といつまでも」、新装田能久での大団円のミュージカル風演出。気分が落ち込んだら本作を見てゴキゲンになろう。(昭和四十年十二月公開 ☆☆☆☆)

アルプスの若大将
「ほっぺたが落ちそう」
美味しいものを食べたときの感激を表すこの言葉は現在では全く聞かれなくなった。当時も似たようなものだったのだろうか、フランス人に扮したイーデス・ハンソンに言わせている。
パンアメリカン航空とタイアップしたヨーロッパ横断ロケ。オリンピックを契機に日本がグローバル化していく黎明期にあって、シリーズは徐々に観光映画の趣きを見せ始める。『南太平洋』『リオ』もパンナムがスポンサーだ。
今で言う「企業コラボ」は東宝の得意分野だったのだろうか。明治製菓(大学)、東芝のレコード(エレキ)とオーディオ(南太平洋)、出光石油と日産自動車(ゴー!ゴー!)、小西六のコピー機(リオ)。『アルプスの若大将』はシリーズ最高のヒットを飛ばしているので、企業側がマーケティングの価値を見出して持ちかけたのかも知れない。(昭和四十一年五月公開 ☆☆☆★★)

レッツゴー!若大将
「日本人スチュワーデスに乾杯」
香港へ飛ぶパンナム機で英語が話せない青大将。そこへ「日本人観光客が増えてきたのでスチュワーデスも日本人を乗せることになったんです」と初々しい酒井和歌子が現れる。女性の憧れの職業だったスチュワーデスは、今ではCAと呼び名を変えて契約社員が主体だ。
誤解が重なるいつものパターンながら、澄子が勤める宝飾店の上司が下心むき出しでナマナマしすぎる。かたや雄一はと言えば、やっと会えた澄子が勘違いしたまま泣いて走り去るのを追いかけもせず、いきなり歌を唄い出す始末。せっかくのキャラクターがシチュエーション優先の作り方で台無しになっている。
羽田で香港令嬢を見送るラストシーンは珍しく登場人物勢揃いではなく、雄一と澄子の二人だけ。誰にも遠慮することはないのに手も繋がないままの後ろ姿で終わる。基本を抑えておけば凡打が出ないはずのシリーズの中で間違いなく最低レベルの失敗作。(昭和四十二年一月公開 ☆☆★★)

南太平洋の若大将
「柔道はヘーシングに負けてから落ち目だからなあ」
東京オリンピックから三年も経つのにレスリング部在籍の青大将から見下される柔道部。大学選手権で巨漢のオランダ人留学生に押さえ込まれた雄一は、澄子の「かんばって〜」の声援で大逆転の大外刈り一本勝ち。ひょっとしてスポーツのほうでもタイアップしていて、人気凋落の柔道連盟が若大将シリーズで起死回生を図ったのかも知れない。ビートルズ来日公演に使う使わせないで揉めた武道館をその翌年に借り切り、しかも撮影後の加山雄三歌謡ショー無料招待をエサに大観衆を集めたという。柔道界の全面協力がなければ実現不可能ではないか。
星由里子と並んでタイトルロールにクレジットされたのが前田美波里。日米ハーフで顔も身体も強烈な存在感を主張している。加山が唄う「A-samba」に合わせて踊り出すそのリズム感。どこにも記載はないが、アメリカ人の父親というのはおそらくアフリカ系であろう。でなければこんなに完璧なプロポーションの女性が生まれるはずはない。(昭和四十二年七月公開 ☆☆☆★)

ゴー!ゴー!若大将
「当たり前だ。どんな奴だって命はひとつしかないからな」
老夫婦に言い掛かりをつけたうえで雄一と江口の車の邪魔をするダンプカー二人組が、運転を誤って谷底に転落する。江口が「助けなきゃいけないのかな」とつぶやくのに対して雄一が言う。雄一のキャラクター設定の基本はフェアネスにある。どんなときでも理にかなうことを実行し、相手が誰であろうと意地悪なことは決してしない。爽やかと言うよりは清らか。簡単明瞭に公明正大だ。
京都の名所巡りから始まって名古屋、下呂、飛騨高山、琵琶湖と日本の美しさが堪能できるロードムービー仕立て。シネスコ画面が分割される『華麗なる賭け』を先取りしたオープニングと代々木公園で複数のカップルが踊る『ロシュフォールの恋人たち』をなぞったミュージカルシーンがオシャレ(※4)。
何よりの見どころは学生ホールで雄一が澄子と踊る場面。言葉も交わさずにリズムを刻み始める雄一と感応するようにして身体を動かす澄子。プロデューサー藤本真澄の命を受けてプラトニックを通してきた二人をなんとかしてやろうという演出なのか。シリーズ屈指の官能的場面である。(昭和四十二年十二月公開 ☆☆☆★★)

リオの若大将
「お前が雄一を勘当するならわたしが久太郎を勘当するよ」
久太郎専売特許の勘当をりきさんがやり返す。勘当とは親が子との縁を切ること。だからこそおばあちゃんの言葉には重みがある。若大将シリーズの裏の主役は明らかに有島一郎と飯田蝶子の二人。初期は久太郎が優勢だが中盤以降はおばあちゃんが圧倒し始める。父親の権威が徐々に落ち始めた頃だったのだろうか。
本作で雄一は無事に京南大学を卒業する。シリーズのひと段落にあたって東宝が用意した脇役陣がすごい。宮口精二、中村伸郎、今東光。『大学の若大将』と対を成すキャスティングだ。また、サイケデリックや少年マガジンなどヒッピー文化到来が画面に反映されてもいる。
そして、星由里子の美しさは本作で絶頂を極める。女盛りとも妖艶とも言える燃えるような美しさ。必然的に雄一とのロマンスも密度が濃く、服部克久のフランス映画風BGMも相俟ってシリーズの中でも最高にロマンチックな一編となっている。雄一を探す澄子。「ある日渚に」を唄う雄一。お互いに駆け寄って階段の陰で抱き合う二人。やっと結ばれた雄一と澄子なのであった。(昭和四十三年七月公開 ☆☆☆★★★)

こうして振り返ると、雄一と澄子は日本映画史上で最もまだるっこしいすれ違いと勘違いを繰り返す組み合わせであったことがわかる。それも加山雄三と星由里子が両人揃って清潔で清廉な役者であるからこそ成り立ってきたのだ。しかし、十一作を数え、三十歳を超えた加山と二十五歳になろうとする星では、色香を漂わせずにはいられなくなった。「色」は若大将シリーズには根本から不要な因子である。かくて「加山雄三・星由里子コンビ編」は終焉を迎える。でも、私たちの中では雄一と澄子はいつまでも終わらない恋を繰り返している。まさに「君といつまでも」の若大将シリーズなのである。(き)


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(※5)


(※1)『歌う若大将』を入れると十二作品となる。
(※2)黒澤明監督『椿三十郎』は昭和三十七年一月公開。加山雄三は井坂伊織という若侍役で黒澤作品に初めて出演した。
(※3)『007サンダーボール作戦』はテレンス・ヤング監督の007第四作。『エレキの若大将』と同じ昭和四十年十二月に日本公開され、シリーズ最高のヒットを記録した。
(※4)『華麗なる賭け』はノーマン・ジュイソン監督、スティーヴ・マックイーン主演のスマートな泥棒映画で昭和四十三年六月日本公開。『ロシュフォールの恋人たち』はジャック・ドゥミー監督のフランス映画、昭和四十二年八月の公開。
(※5)星由里子。「荻窪東宝」から無断拝借した。東宝映画のロケ地を探り当てる「聖地巡礼」をご覧いただきたい。その労に一映画ファンとして敬意を表する。



(c)趣味的偏屈アート雑誌風同人誌 不許複製

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posted by 冬の夢 at 23:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 若大将シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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