2014年11月25日

「若大将対青大将」と加山雄三

 いきなり最終話もどうかと思うが、どう終ったのか知っておきたかった。
 若大将シリーズ事実上の最終話「若大将対青大将」。
 正確には主人公に草刈正雄を起用した後継版、一九八一年にワンショットで制作された加山雄三版があるが、レギュラーラインアップとしては「若大将対青大将」が最後だ。

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 上映五分ほどで、いきなり「若大将」が加山雄三から大矢茂に譲られる。そういえばオープニングの出演者紹介では大矢がトップ、加山は別格扱いで最後に表示。これでは、最後まで見る意味ねえじゃんってことになりかねないが、一九七一年の公開時、加山は三十三歳。大学生から会社員に設定も代わっていて「若」も「大将」も、もう無理だ。すでにヒロインは酒井和歌子の「せっちゃん」に交代していて、このとき二十一歳、むちゃくちゃカワいいのはいいとして、恋人・加山とのデート場面やキスシーンがどう見ても上司との不倫に見えてしまう。そう、加山自身が不満なまま演じたこともあるシリーズの荒唐無稽さや辻褄の合わなさが、いくらユーモア劇映画とはいえついに崩壊に至る。
 むろん東宝もそこはよくわかっていて、二代目・若大将の登場を画策したのだろう。大矢茂はやはり二十一歳。慶応ボーイで加山のバックバンド、ランチャーズの一員だ。すでにシリーズの別の作品にも出演しているから、交代はスムーズだったはず。田中邦衛の「青大将」も、この映画で漫才の「春野チック、タック」の「タック」こと高松しげおに譲られるので、東宝はこの二人をおおいに売り、シリーズを再活性化しようと……。
 していない!
 いや、事実は調べていないが、映画を見るかぎりとうていそうは思えない。
 なぜなら加山の出演場面が減ったのは一歩引かせる意味で当然としても、大学の先輩として二代目若大将や後輩たちの面倒をみる形で登場するから、もともと加山の「バックバンド」大矢の存在感不足がいたずらに強調されてしまう。また「青大将」を譲ったはずの田中邦衛が全編にわたり「青大将」のままシリーズ共通のキャラクターを演じるから、高松の存在にほとんど意味がない。
 一九七〇年代に入り、カラーテレビのおかげで映画会社各社は深刻な集客難に見舞われていた。東宝は大映のような倒産こそまぬがれたものの、不採算の度合いが大きい製作部門を別会社化、大予算の自社制作は停止する。現在、シネコン展開の大成功とそれに乗っかるテレビスピンアウト作品の大ヒットで、業界で圧勝を続ける同社のイメージしか知らないむきには想像もつかないと思うが、そういう事態だった。大矢茂の若大将シリーズは一本も制作されず、大矢の以後の活躍はいくら調べても見当たらない。ひどい話だが、大矢と高松に宣伝費や制作費うんぬんという場合ではなかったに違いない。
 こうした事情のせいもあったのか、中途半端な最終作であり、過去の作品には曲がりなりにあったストーリーの芯らしきものもない。
 大学をやっと卒業し、加山がすでに勤めている「パパの会社」に入った田中が、加山の恋人の酒井に横恋慕、加山をニューヨーク支店に追いやって酒井を奪おうとする。若大将を譲られた大学バイク部の後輩・大矢は、ニューヨークへ行った加山の意を受けて田中と対決、加山と酒井の恋の行き違いと、大矢と吉沢京子のすれ違いがだぶって、さあ鈴鹿サーキットでの大学対抗モーターレースはどうなるか──。
 それがお約束だといえばそれまでだが、過去の作品のキメ場面をお手軽に再現してはつなぐだけで、見ていても説明していてもメゲてくる。素人目にもカメラの動かしかたやロケ場面の仕立てが雑だと感じ、つらい。せっかくレーサータイプのオートバイというアイテムを登場させているのに、これがあの「エレキの若大将」の岩内克己の監督作かよと失望する、こだわり感のない粗雑な描写に終っている。
 なんだか一方的にけなしているようだが、若大将シリーズは、ああいいなあ、いい時代だなあ、と思いながら見ているのだ。いくら時代が悪くなったからって、こんな映画にはしないでくださいよ!  という気持ちのあらわれだ。
 そこで気づくのは、ロケ場面がどれも、なんとなく天気が悪い! 原版フィルムの退色と思って見ていたが、だとしても青空が抜けなさ過ぎないか。加山雄三もどことなく暗いのはなぜだろう。黒い影をまとったように。しかもムリっぽい高音で歌う挿入歌が変! 若々しく歌わせようとしたのか、キーが不自然に高い! 
 後からこじつけるようでフェアでないかもしれないが、加山が上原謙とともに巨額の負債を抱えたのは一九七〇年。六〇年代半ばに地元の神奈川県茅ヶ崎に、鳴りもの入りで開業したレジャーホテルがわずか五年で倒産。二十数億円の赤字を整理後、六億円の債務が残り、芸能活動がある自分にしか返済能力がないとわかった時期だ。とにかく映画の仕事をくださいと思っていた※に違いない。ところが若大将シリーズの低迷は最終段階、東宝の経営じたい行き詰まっている。どうしようもない要素が重なってしまっているわけだ。それらが影響して「さえない」映画になってしまったなら、悲しいけれどあきらめるしかない。

 いや、あきらめない男が映画の中にただ一人いる。田中邦衛だ! 女とみればケツを追いかけ回し、失敗のツケはみなパパ回し。本命はいつも若大将のお相手「せっちゃん」で、二人の行き違いを仕組むが結局は敗北の繰り返し。奇妙なファッションに操り人形のようなオーバーアクション、あの口を尖らかして叫ぶ「面白くねえよっ!」。青大将は最後の最後まで健在だ。
 こうなってくると青大将が「せっちゃん」をだまして車で連れ出して迫っちゃう場面など、酒井和歌子には悪いけど、もうそのまま襲っちゃえ! と青大将を応援してしまっている。
 やはり女の子との行き違いで悩み、バイク部活に力が入らない二代目若大将──との対決にももちろん負けているんだが──を、青大将はいつもの絶叫調で諭す。

 女のコにフラれて元気なくすくらいなら、最初から惚れるな!
 俺を見ろ! いくらフラれたってちゃんと立ち直ってるぞ。
 結局、女はそういう男に惚れるんだぞ!

 おもわず失笑! が、しかし。
 シリーズ最終作と知って見るいま、このセリフはしみじみ身にしみる。昭和元禄の翳りとともにあっけなく零落するのではなく、あくまで能天気にしたたかに、その余禄をかすめ取ろうとし続けた身勝手なぼんぼん育ちの青大将こそが、このシリーズの主人公だったのだ。つまり「青大将シリーズ」だったのである。
 ところで、若大将もそうだが、青大将にも母がない。(ケ)

※ www.musicman-net.com/relay/63-5.html

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posted by 冬の夢 at 13:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 若大将シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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