2014年11月12日

双葉十三郎『ぼくの採点表』1960年代☆☆☆☆以上一覧

映画雑誌「スクリーン」に長年連載された双葉十三郎の『ぼくの採点表』は、日本で公開された外国映画の記録として貴重な資料の役割を果たしている。製作年度と公開時期のズレや当時の流行の移り変わりが、くまなく映画批評に織り込まれていて、なおかつ軽妙な語り口で大変に読み易い。007以降のスパイ映画乱立、マカロニウェスタンの勃興と進化、スウェーデンに始まるセックス映画の台頭。双葉十三郎氏の寛容な嗜好はあらゆるバラエティに柔軟に対応するので、名作も駄作も同じような筆致で気楽に記録される。
そして、タイトル通り「採点」が独特の魅力になっていて、コラムごとのオチの役割を果たしている。俳優の演技を褒めて、演出にも見るべきところあり、と言いながら採点はすごく辛かったりするところが絶妙なオトし具合なのである。
言うまでもなく、採点は星の数で示され、「☆=20点、★=5点」で点数化される。
双葉氏の基準では、☆☆☆あたりがまあまあの及第点。☆☆☆★★★が出ようものなら見事なクリーンヒットで、つまらない映画は容赦なく☆☆★くらいしかもらえない。それでいてコメントは憐憫に溢れていて笑わせる。

1960年代の記録を一冊にまとめたのが『西洋シネマ体系 ぼくの採点表2 1960年代』(※1)。60年代に日本で公開された外国映画がおよそ1500本網羅されている。
その中で、滅多に出ない☆☆☆☆以上の傑作がどれくらいあるのだろうか、と気になって調べることにした。
本の通り五十音順に、☆☆☆☆は無印のまま。85点を★、90点を★★と表記した。ちなみに双葉十三郎はカンペキな作品はないはずという理由で、90点を最高点としている。

アパートの鍵貸します
アポロンの地獄
甘い生活★
アラビアのロレンス★
アルジェの戦い★
イエロー•サブマリン
怒りの葡萄
いつも2人で
異邦人
ウエスト•サイド物語★
エレクトラ
おかしな二人
大人は判ってくれない
俺たちに明日はない
かくも長き不在
家族日誌
カラマーゾフの兄弟
華麗なる賭け
暗くなるまで待って
グラン•プリ
黒いオルフェ
恋人よ帰れ!わが胸に
荒野の七人
黒衣の花嫁
サイコ予告編
幸福
シェルブールの雨傘★
質屋
市民ケーン
シャレード
将軍たちの夜
処女の泉★
ジョンとメリー
スイート•チャリティ
素晴らしい風船旅行
スペンサーの山
007/危機一発
戦艦ポチョムキン★
戦争は終わった★
第七の封印★
大脱走
太陽がいっぱい★
太陽は光り輝く
大列車作戦
チップス先生さようなら
チャップリンの独裁者
沈黙
突然炎のごとく★★

ナバロンの要塞
25時
尼僧ヨアンナ
日曜はダメよ
野いちご★★
バージニア•ウルフなんかこわくない★
博士の異常な愛情
伯爵夫人
ハスラー
8 1/2★
パリは燃えているか
ふたり
ふたりだけの窓
ブリット
砲艦サンパブロ
冒険者たち★
墓石と決闘
マイ•フェア•レディ
真夜中のカーボーイ
もしも…
モダン•ミリー
野望の系列
夜霧の恋人たち
ラインの仮橋
ラブド•ワン
ロシュフォールの恋人たち★
ロミオとジュリエット
わが命つきるとも

いやいや、タイトルを見ているだけでため息が出ますね。
60年代が外国映画にとっていかに豊饒の時代であったかが手に取るようにわかる。ちなみに本書で取り上げられている映画は全部で1527本で、十年間の記録だから一年150本、ひと月12〜13本をコンスタントに批評し採点していったことになる。当然、映画を見る時間が必要なので、その作業量は膨大。しかし、十三郎先生は嬉々としながら飄然とこの仕事を戦前から戦後にかけて五十年以上続けていた。すごいことだ。
上記の☆☆☆☆以上は合計77本で、全体の5%。二十本見るとひとつだけ傑作に出会うという勘定。さらに☆☆☆☆★以上は16本しかなく、出現率はたったの1%。百本に一本の割合で、いずれも、ふむふむ確かにそんなもんだな、と納得の数値だ。双葉十三郎氏が計算していたわけではないだろうから、逆に採点の確からしさの証明になっている。

最高得点の☆☆☆☆★★は『突然炎のごとく』と『野いちご』のみ。フランソワ•トリュフォーとイングマル•ベルイマンが特にお気に入りのようで、ともに上記リストに四本ずつ入っている。
60年代は過去の名作がやっと日本公開されるという時期でもあったのか、『市民ケーン』や『戦艦ポチョムキン』『怒りの葡萄』が登場するのは今から見るとやや場違いな感じ。
名作ととともに西部劇やサスペンス、戦争ものなどの娯楽映画が並んでいるあたりに双葉氏らしさが滲み出る。『荒野の七人』『シャレード』『ナバロンの要塞』『グラン•プリ』といったラインナップをみると、60年代のアメリカ映画が面白さの沸騰点に達していたことを再認識させられる。
もちろん、それ以外にも守備範囲はまだまだ広い。『シェルブールの雨傘』と『ロシュフォールの恋人たち』は、フランスミュージカル映画のエスプリ。ポーランド派の中でもあえてカワレロヴィッチの『尼僧ヨアンナ』をあげているし、名前が売れる前の『博士の異常な愛情』でちゃんとキューブリックに着目している。

と言いながら、筆者は二割ほどが未見。見たと言っても、大半は映画館ではなく、TV放映で鑑賞しているに過ぎない。
筆者が映画を見始めた1970年代においては、TV番組のなかでも洋画放映枠が安定した視聴率を獲得していた。1971年4月にスタートした「ゴールデン洋画劇場」で各局の洋画番組がほぼ出揃い、TV局が過去の外国映画の名作を競って放映するようになる。いかにオリジナリティーを出すかは、番組前後に登場する解説者のセレクトにも及んだ。
「日曜洋画劇場」は「サヨナラサヨナラサヨナラ」でおなじみの淀川長治、「月曜ロードショー」はインテリ派評論家の荻昌弘、そこに「ゴールデン洋画劇場」のTVタレント前田武彦が加わり、さらに数年後には「水曜ロードショー」の水野晴郎(いや〜映画って本当にいいもんですね!)で勢揃いとなる。
「ゴールデン」が1971年10月に『大脱走』で視聴率30%超えを記録した後、「月曜ロードショー」は1973年12月24日放映の『猿の惑星』(※2)で37%という驚異的な数値を叩き出した。今では録画が当たり前だし、TVで真面目に映画を見ることも少なくなったが、当時の洋画放映はTV局にとってヒットを飛ばす格好の枠であったのだ。
もちろん放映時間に合わせるため本編をズタズタとカットしてしまうのは当たり前。画面はブラウン管TV画面の4:3に合わせて勝手にトリミング。そして当然のごとく日本語吹き替えでの放映であった。それで「見た」と言えるのかどうか議論が分かれるところだろう。ただ、そうした制約条件の中で放映された形式がひとつのバージョンとして現在でも価値あるものとして見なされているのも事実であって、『大脱走』の冒頭、大木民夫のナレーションが入った日本語吹き替え版の復刻が話題をさらったのもつい最近のことである。もちろんスティーヴ・マックイーンの吹き替えは宮部昭夫でなければならず、それを言うなら、オードリー・ヘプバーンは池田昌子以外考えられないのであって、グレゴリー・ペックは城達也で……。いやいや、つい興奮してしまった。吹き替えについては、また別の機会にじっくりと振り返りたい。
このように1970年代に隆盛を極めたTVの洋画放映は、実は主たるコンテンツを60年代の作品に頼っていたのだった。だからこそ双葉十三郎の『ぼくの採点表』も1960年代を取り上げた「2」が最高に充実しているのではないかと思う次第である。(き)



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(※1)1988年7月にトパーズプレスより刊行され、現在は絶版状態にある。
(※2)『猿の惑星』の採点は☆☆☆★★。



posted by 冬の夢 at 22:38 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 洋画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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