2014年10月10日

喜寿を迎えた加山雄三と『大学の若大将』

TVの衛星放送で加山雄三の武道館コンサートをやっていた。今年喜寿を迎えた区切りということで、武道館ライブの最高年齢記録を塗り替えたそうである。観客は大半が白髪まじりのシニア。サザンオールスターズの桑田佳祐が飛び入り参加し、日本のポピュラーミュージック界において幅広く尊敬される存在であることを再認識する場ともなっていた。
加山雄三は1966年にビートルズが来日した際、特別にヒルトンホテルの部屋に招待された日本人のうちのひとり。ベンチャーズが好きだった加山雄三は「ふーん、そいつらも自分で作詞作曲してるの」と同類相求むと言った会合だったらしい。
昨年の来日公演で、三時間近くひたすら歌い続けたポール・マッカートニーと同じく、武道館の加山雄三はヒット曲を途切れなく次々に繰り出して、観客の大合唱を誘う盛り上がりだった。
かく言う筆者もTVを前にして大声で歌っていたクチであって、加山雄三の楽曲が大衆的だからこそ今でもソラで歌えるわけなのである。
加山自身は、作曲を始めた当時、自分の曲に乗るのは英語以外あり得ないという信条があったらしく、ひたすらに日本語の歌詞を拒絶し続けていた。そこに岩谷時子という稀代の名作詞家が現れ、弾厚作こと加山雄三の曲がメジャーになるきっかけを作ったというのは有名な話のはずだ。
初のコンビ作の「夜空の星」をはじめ、「夜空を仰いで」「お嫁においで(今ならこの言葉だけでセクハラだと誹謗されそうだ)」「旅人よ」「君といつまでも」。加山雄三本人がTVでも舞台でも映画でも素のままの人らしく、たぶんさっぱりした性格なのだろう、武道館でもあっさりと次の曲に行ってしまう。もうちょっとコメントが欲しいなというところでも構わずに年次別の演奏に入るあたりが、「頼まれたら嫌と言えない」若大将らしさである。

「若大将シリーズ」と言えば、言わずと知れた1960年代を代表する東宝のドル箱連作。70年代半ばに熱狂的リバイバルブームが勃興したとき、筆者は地方都市の名画座で三本立てをしばしば見に行ったものである。最初に見たのは忘れもしない『エレキの若大将』。最も脂が乗り切った時代のシリーズ第六作が若大将に触れるきっかけであった。TVの地方局ではよく土曜日の午後に森繁久彌の「社長シリーズ」をやっていて、三木のり平だの小林桂樹だのが会社員って毎日遊んでるだけじゃん、てな会社生活を見せてくれていた。放映権の都合なのか「若大将シリーズ」は当時のTVには滅多にかかることがなく、だからこそ地方都市の名画座でも熱狂的なファンに迎えられていたのだと思う。
ところが、1980年代後半に世の中がバブル景気に浮かれ出す頃には、加山雄三は再び過去の人として思い出される対象になっていた。象徴的なのは、当時隆盛を誇っていた広告代理店を舞台にした四コママンガが若大将シリーズをパロディー化した特別編である。そこでは金持ち息子の青大将が、新車のスポーツカーでイタリアンレストランに乗り付ける。若大将は、実家のすき焼き屋も時代に取り残され、バンドのアルバイトをしながら合宿所暮らし。取り巻きの女子大生たちは裕福な青大将に群がり、流行りのバッグやアクセサリーを買ってもらって大満足。若大将は、いつからこうなっちゃったんだろ?と自分の環境を悔やむというストーリーになっていた。
マンガ雑誌に掲載された当時、筆者は猛烈な不快感に襲われたが、確かに時代は実力以上の円と株と不動産の価値を見誤って浮ついていた。それを青大将の時代だと断定し、若大将の落ちぶれ具合を見下ろす作者の視点にこそ、時代の下賤さが代表されていたのだと思う。
ほどなくバブルは弾け、広告代理店マンガはどうなったか知らないが、若大将は愛され続け、青大将とともにフィルムに定着されたひとつの明るい時代を映画館やTV画面に蘇らせてくれている。そして、加山雄三は喜寿にして、まだ現役第一線。広告代理店マンガの市場予想は、無様な空振りに終わったわけである。

そんな思いを巡らすうちに無性に若大将シリーズをじっくりと見直してみたくなった。今なら簡単にDVDボックスあたりで手に入るだろうと調べてみると、なんとBSジャパンで毎週土曜日にシリーズ全作品を放映するという。しかも、年代順に!
普段は存在感のないBS民放局が突然輝いて見えてきた。そう言えばつい最近まで『男はつらいよ』シリーズをこれまた全作品時系列放映していた枠ではなかったか。真剣に仕事など辞めて毎日BSジャパンにかじりついていたい気分である。
というわけで、早速放映されたのが『大学の若大将』。記念すべき第一作であり、シリーズの基礎となる設定はすべてここから出発している。
それにしても田沼雄一たる加山雄三にはユニークな格好良さがある。実父の上原謙は優男系なので、明らかに母親似なのだろう。浅黒くエスニックな顔立ちなのに目元がぼんやりして育ちが良く見える。当時の東宝から、会社員になるのはやめて役者になりなさいと声がかかったのも無理はない。
澄子さんを演ずる星由里子は、今で言えば石原さとみクラスに可愛い。第一作では、純情さが前面に出てキュートに見える。澄子の職業はキャンディハウスの店員。タイアップで明治製菓の名前がはっきりクローズアップされている。
そして、シリーズ化を前提にした力の入れ方は、脇役陣の豪華さに現れている。水泳部を指導する先輩は土屋嘉男。英語の教授が左卜全。植木職人を藤原釜足。寮の管理人が沢村いき雄。白バイ警官に堺左千夫。
全員が黒澤明に重用された名バイプレイヤーだった人ばかり。言わずもがなだが、『七人の侍』で侍探しに行く土屋と左。藤原は『隠し砦の三悪人』でR2-D2の原型。『天国と地獄』で江ノ電の音を再現する沢村。堺も端役で数作に出演している。
そんな中で、あくまで加山雄三はのんびりと素のままでいるだけ。演ずるというよりは、そこにいることがもう若大将であるといったおおらかな感じで、なんとも鷹揚に構えている。この大物感が若大将らしい。

武道館コンサートで、加山雄三は自身が所有する光進丸をエコエンジンに仕立て直し、八十歳までに世界一周の旅に出ることを宣言した。喜寿にしてその将来設計。成功した者だけに許される贅沢かも知れないものの、若大将が言うとまったく嫌味には聞こえない。
いいなあ、若大将は夢があって。いつまでも周りを惹きつけ続ける若大将=加山雄三であった。(き)

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posted by 冬の夢 at 23:39 | Comment(1) | TrackBack(0) | 映画 若大将シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私は偶然昨晩「エレキの若大将」を見て、筆者と同じ感想を持ちました。わきをかためている俳優たちが達者なんです。たとえば飯田蝶子がおばあちゃんをやってて、この味がたまらないんです。
「雄一、お前の好物の肉まんだよ。ここでおあがり」というセリフにしびれました。そう、「おあがり」という言い回しは、正調おばあちゃんの言い回しですよね。
加山雄三の顔は、若い頃は泥臭さがあったと思います。そこがいい味だったのに。ボーナストラックでついていた2005年にバンドやってる映像を見て、ああ、なんでいまは梅宮辰夫になっちゃったんだろう、とちょっと寂しく思いました。
Posted by busca at 2014年10月11日 11:50
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