2014年07月30日

ジャズ喫茶、クラシック喫茶、そして・・・

オーディオの話からジャズ喫茶の話題が派生し、その文章を読んでいるうちに、ちょっとしたことが次々に思い出されてきた。こんなことが案外とこの「同人ブログ」の、我ながら不思議な魅力なのかもしれない……で、その「思い出されてきたこと」の一つが、「ジャズ喫茶もありましたが、『クラシック喫茶』というのもありましたよ」ということ。そのことを少し書き残しておきたいと思う。

クラシック喫茶とは、その名の通り、客にコーヒーや紅茶を提供する一方で、クラシック音楽を聴かせることを目的とした喫茶店。おそらく、厳密な意味でのクラシック喫茶はすでにほぼ絶滅したものと推測される。今残っているのは単に「BGMにクラシック音楽のみを流す喫茶店」なのではないか? かつての「クラシック喫茶」で流れていた音楽は、まかり間違ってもBGMではなく、それを聴くのが店に入る主目的(したがって、提供されるコーヒーが不味くても、それが必ずしも大きな疵にはならない)であるような、これまた「死文化」と化した「レコード・コンサート」に比べられるものだった。つまり、店内はコンサート会場ということであり、店によっては注文も、決して冗談ではなく、筆談ということになっていた。当然ながら、通常の喫茶店では当然の、友人との語らいも御法度。今思えば、つくづく不思議な空間だ。

(注記:「レコード・コンサート」というのは、様々な事情から実際の演奏者には接することができない聴衆のために、レコードを使って似非コンサートを開くという、ある意味では何とも涙ぐましい催しである。レコードがCDに変わった今、「CDコンサート」なんてものがあるのだろうか? 唯一似たものは、数年前に岡山で遭遇したのだが、「フィルム・オペラ」なるもの。確かに、世界的水準のオペラを地方都市で見ることは不可能だから、世界一流のオペラハウスの公演をせめて映画で見るというのは、それなりに筋は通るわけだが……)

小学生のときに生まれて初めて連れて行かれた記憶の中のクラシック喫茶も、確かにまるで小さなホールのようで、スピーカーも尋常ではない大きさだった。大人たちが黙って音楽に聴き入っている姿が子ども心にはとても奇妙なものに思われたのだが、今思えば、子どもはそうやって万事に渡って、大人のことを奇妙だと思いながら、自ら大人になっていくのだろう……

学生時代以降けっこう長く暮らした東京にも、特に中央線沿線には、クラシック喫茶は数多くあったように記憶する。よく通ったのは、吉祥寺、荻窪、そして中野。中野のクラシック喫茶は、コーヒーを頼むとマヨネーズの蓋でコーヒー用のフレッシュが出てくるという、ちょっと風変わりな店だった。このブログの同人の一人に紹介されたはず。吉祥寺には、ぼくが知っている(使っていた)限りでも二軒のクラシック喫茶があったのだが(おそらくぼくが利用しなかっただけで、吉祥寺界隈には他にももっと多くのクラシック喫茶が存在していたと思う)、吉祥寺のその二軒は一番最初に「撤退」を強いられたのではなかったろうか? ともかく、いつの間にか吉祥寺の店からは足が遠のいていた。荻窪の店は、こちらはつい10年ほど前まではよく使っていた。昔ながらにレコードも、そして今風にCDも使い、お客は誰一人として耳障りな声では話さないが、かといって「お喋り禁止」というわけでもなく、友人との待ち合わせ場所としては都内でも最高の場所の一つだったと確信している。とりわけ、ビールが飲める喫茶店という点が、特に夏場には申し分なかった。そうなると、アルバイトの店員がみな素敵なお嬢さんや御婦人に思われてくるという不思議な効果もあった。何といっても、LPレコードをきちんと扱えるうら若い女性の姿を見るだけでも、「特別文化遺産」と見なしてよいのではなかろうか。東京を離れて以来、すっかりご無沙汰だが、荻窪の「ミニヨン」というお店、まだ健在だろうか? 健在ならば、日が落ちた頃にふらりと行って、コーヒーではなく、小瓶の瓶ビールを注文し、ショパンのノクターンでもリクエストしてみたい。

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しかし、かつて存在した音楽喫茶は「ジャズ喫茶」と「クラシック喫茶」に限った話ではない! 案外と最も心情的に懐かしいのは「ロック喫茶」だ。こちらは、言うまでもなく、ロック音楽を大音量で聴くことに特化した喫茶店で、もちろん好きな曲をリクエストできた。まだ高校生の頃だった。地方都市にぼくの知る限りではたった一軒、タバコの煙が例に違わず濛々と立ち籠める、穴蔵のような、いかにも学校をサボった高校生が背伸びして入るに適した店があり、その頃のお気に入りだったレッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)やザ・バンド(The Band)を聴いていたのだが、ある日、それまで全然聴いたことのない、不思議にカッコいい、しかし、やはりどこか調子のおかしい音楽に出会ったことも懐かしい思い出だ。それがボブ・マーリー(Bob Marley)だと知るには、それからさらに数ヶ月を要したということも、我ながらいかにも高校生らしく、自分のことながら、思い出すと奇妙に微笑ましい。

もちろんだが、このロック喫茶もとっくの昔に姿を消した。
そして、このぼくも年を重ね、この文章は、ルネサンスの作曲家ジョスカン・デ・プレ(Josquin des Pres)のMissa Pange Linguaなんかを聴きながら書いている。(H.H)

posted by 冬の夢 at 02:16 | Comment(1) | TrackBack(0) | 音楽 オーディオ・楽器 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私の学生時代は名曲喫茶といいました。御茶ノ水の駅前にあった、マリフィセントの城のような名曲喫茶ウィーンという名前だったかな。
中が吹き抜けで螺旋階段があって、階段沿いに席があって…
いまの私だったら埃アレルギーで死にそうなフカフカの絨毯。コーヒー一杯いくらしたか、もう忘れてしまった。
音楽はシンフォニーが多かったような気がします。
10年ぐらい前、あるアメリカ人のジャズベーシストから、驚きと喜びを足して2で割ったような感じで言われました。
「日本人は非常に集中してレコードを聴いている。しかも、喫茶店などで!あなた方は素晴らしいリスナーだ!」
彼にしてみれば、自分のレコードをこんなに大勢で真剣に聴いてくれる経験なんて世界のどこにもなかったんだと思います。
JASRACに潰されないでほしいです、そういう店たち…
Posted by busca at 2014年07月31日 19:36
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