2014年07月22日

オーディオ、恐るべし #2 〜アンプは何台必要ですか?〜


深夜の音楽鑑賞を隣家に気兼ねすることなく満喫するために、「愛しのヘッドフォン」を取り出したところまでが前回。その続き(本編)を書く前に、その後、別の同人が音楽騒音についての記事を書いたので、関連する「思い出話」(と、それから連想されたちょっとしたエピソード)をご披露したい。

8歳〜10歳頃だったか。田舎町の安下宿で暮らしていた。隣人たちは、大方若い独身男性の一人暮らしのような、今でいえば学生下宿に毛の生えたような安アパート。そこに、とある高校の教師や高校生たちが、若いサラリーマン諸氏と共に下宿していた。当時高校生だった姉もその中の一人で、そしてぼくはその姉の下宿に居候させてもらって小学校に通っていた。「高校生が下宿していた」と聞くと、現代の都会育ちの人たちには耳珍しいかもしれないが、実は今でも地方に行けば、高校生が下宿することはそれほど珍しいことではない。おそらく公共交通機関が十分に機能していないからだと思うが、県下で有数の伝統校などに通おうと思うと、当然ながらそれらの「伝統校」は旧城下町にあり、県境などに住んでいる子どもたちは、いたしかたない、当然のように下宿する。あるいは、場合によっては、公立高校なのに学生寮を持っているところさえある。

この幼年時代の一時期を過ごした「学生下宿」の下宿人の中に、朝の6時から大音量でバロック音楽を聴くことを日常とする御仁がいた。ほぼ毎朝、FM放送のバロック音楽を、かなりの大音量、つまり、外の通りからも十分に聞こえる音量(彼の部屋は、ぼくと姉が暮らしていた部屋の斜め下の、地上階にあった)で、バッハやテレマン(この名前はそのときに覚えた)、もちろんヘンデルなどが、堂々と高らかに鳴り響いていた。そして、ある朝(夏休みだったか?)姉とぼくと、そして、言わばその頃の保護者でもあった高校の先生とで、その音楽を聴きながら、「さすがにこれはあまりにうるさくて、近所迷惑と言ってもいいのではないか?」という姉の質問に対する「先生」の答えが印象的だった:「バロック音楽だからね、お金を払ってでも聴かなきゃいけないものを、いつも無料で提供してくれていると思えば、むしろありがたいものですよ」。記憶にある限りでは、その部屋の装置(もちろんその大音量氏の部屋に立ち寄ったことはない;外からチラリと、開け放たれた窓越しに垣間見ただけだ)は、真っ黒なフェースのおそらくはサンスイのアンプと、そして6畳間には大きすぎると思われるフロア型のスピーカ−、そして、今ではよほど珍しくなったオープンリールのテープデッキが目立っていた。アンプはもしかしたらマッキントッシュだったかもしれないが、いずれにしても、8〜10歳の子どもの目には「とてつもなく高価」なアンプに思われた。ちなみに、その高校教師の部屋にも同様に「とてつもなく高価」と思われるステレオ・セットが備わっていて、子どものぼくはときどきその部屋に文字通りにお邪魔して、その高価なセットで歌謡曲を録音してもらって、無邪気に喜んでいた。(弟のぼくがあまりにその先生の部屋に日参するのを申し訳なく感じたのか、そのうちに姉が「高くはないが、それなりに気の利いたステレオ・セット」を購入してくれたのが、今に続くオーディオ趣味の起源だったのかも。)

この「朝の洗礼」とでもいうべき音楽は、多分誰からも咎められることなく、姉が高校を卒業して大学生になると同時にその下宿を引き払うまで、鳴り響き続けていた。きっとその後も鳴り渡っていたことだろう。後年、ある友人にこの話をしたとき、すでに外国の街をあちこちと経験していたその人が、「それはシンガポールで毎日大音量で聞かされたコーランと同じだ」と話してくれたことも、今懐かしく思い出す。シンガポールに限らないだろうが、イスラム圏では、時間になるとモスクの天辺に据えられたラウドスピーカーから(せっかくのコーランを電気仕掛けの拡声器で流すとはあまり誉められた趣味ではないと思うが、せっかくの盆踊りを電気仕掛けでメチャクチャにしている文化圏に住む人間には言えた義理ではないね)大音量でコーランの「ご詠歌」が流されるらしい。それは、ある点では非常に美しいのかもしれないが、近所迷惑と思う異教徒もいることだろう。同じことは、これはぼく自身が中国で経験したことだが、ある朝、ホテルでまどろんでいると、突然の異様な絶叫で目が覚めた。カラスが絞め殺されるような叫びを、人間の男が真似しているように感じられた。しかも、それは何度も繰り返され、それがあまりに不愉快で、もうどうしても眠り続けることができなくなってしまった。時間はまだ6時で、本当にいったい何事が起きているのかもわからず、不気味でさえあった。朝食になり、ホテルの従業員に尋ねると、こともなげに「太極拳ですね」。ホテル近くの広場に、主にご老人たちが集まって、太極拳を舞っており、その際の号令のようなものらしい。何ともうるさい太極拳があるものだと大いに感心した。そして、それはわが国のラジオ体操を思い出させてくれたのだが、それはまた別の話だ。

余談ばかりで、肝心の「本編」が一向に始まらない。これでは「看板に偽りあり」となってしまうので、取り急ぎ、本編に移ることにしよう。

夜中に音楽を満喫するために、手元にあるGRADO SR325とAKG K-501を取り出し、しかし、ここで当初からわかりきっていた問題に直面して、ほとんどフリーズ状態になってしまった。つまり、自分の部屋で使っているアンプにはヘッドフォン端子がない。幸いにまだ痴呆症にはなっていないはずなので、自分のアンプにヘッドフォン端子がないことは、もちろん知っていた。いや、そもそも、ヘッドフォン端子がないのにヘッドフォンを持っているということ事態が奇妙であり、この事情を誤解を恐れずに簡単に説明すれば、通常、自分の部屋、リビング、寝室のどこにいても音楽が聴けるように、我家には複数セットのオーディオ装置がある。そして、複数あるアンプの中で一台だけがヘッドフォン端子を持っているのだが、それは真空管を使用したアンプで、主にリビングで使用することにしているのだが、夏の間はあまり使いたくない(真空管は白熱灯のようなもので、それを一度に4つも5つも点灯することになり、まるでシャンデリアのように熱くなる)。季節はすでに7月、リビングの真空管アンプも「夏休み」に入り、今は小さなトランジスタのアンプが代役を務めている。一方、自分の部屋では、基本的にはパソコンの音源をパワーアンプに流して聴いているのだが、そのパワーアンプは、バカみたいに重いくせに(重量とは必然的関係はないけれど)、繰り返すがヘッドフォン端子はない。「深夜に音楽を聴く」ことは、リビングよりも自分の部屋の方が頻度が高いので、この部屋に「休眠中」の真空管アンプを運べば、実は事は簡単に済んだわけだ。

なのに、どこで悪魔が囁いたか、「ヘッドフォン端子の付いたアンプを買おう!」という結論になってしまった次第。冷静になった今、何をどう考えるとこの結論になるのか、どう考えても奇妙なのだが、今は亡き伝説的アンプ製造会社サンスイの往年の名機が手頃な値段で、しかも「6年前にメーカー整備;完動品」と謳われていたために、ついつい衝動買いしてしまった。その勇姿が、これです:

DSCF1376.jpg
(SANSUI AU-9900)

ついでに
R0011702.jpg
(これがヘッドフォンは使えないパワーアンプ;QUAD 606)

この物体が我家に到着する日は、ちょっとしたドキドキもの。先ず、家人に「留守中に届いても、バカみたいに重いから、決して運ぼうとしてはいけない。ギックリ腰になりかねない」と、仕事先から電話を入れ、帰宅すると、その物体が玄関に置かれている。購入した当の本人がギクリとするほどにも巨大! 普段使っているパワーアンプの2倍は優にあり、リビングで使っている小型のアンプと比べたら、8倍はあるだろう。真空管アンプと比べても2〜3倍の大きさはある。正直、こんな大きなアンプを使ったことはない。オーディオなんぞに興味のない人のために言えば、その大きさはかつてのAppleのPowermac G5と同じほどの大きさ!

この巨大なブツを、先ずはリビングに設置し、怪しむ家人を横に「ちょっと音出しのテストをするだけ」と宥めすかして、あれやこれやとCDを取っ替え引っ替え聴いてみると、これは無条件に嬉しいことに、素晴らしい音でした。若干のプラシボ効果があるとしても、RogersのLS3/5aという小型スピーカーから、メリハリのある、つややかで、芯のしっかりした、それでいてまろやかな音が流れ出していた。肝心のヘッドフォンも、十分。

と、ここまでなら、多少大きくて重くても、「伝説的アンプを手に入れました」という報告で済むはずなのに、事態はまだまだ続くわけです。 (H.H.)


posted by 冬の夢 at 02:28 | Comment(1) | TrackBack(0) | 音楽 オーディオ・楽器 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 残念ながら先々週、ついに倒産しました。
 www.tdb.co.jp/tosan/syosai/3951.html
 アンプは二〇〇〇年ごろを最後に新製品発売を終了、前後して、その他数社の日本のオーディオメーカーとともに香港の嘉域集團有限公司の傘下に入ったという報道は、日本のオーディオファンには激震だったと記憶しています。数年前にオーディオ事業から完全撤退していました。かつて国際的知名度も高く、またJBLの日本総代理店だった時代もあったのに、文字通り「伝説のブランド」になってしまいました。旧製品のメンテナンスは、一部の元社員が各地で修理会社を立ち上げるなどし、出来る範囲で続いているようです。
 
Posted by (ケ) at 2014年07月22日 04:42
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