2014年03月31日

ヘッドホンとジャズギター:SENNHEISER MX471

 ポータブルプレイヤーや、パソコンで映画や音楽を鑑賞するときに使っている自分の小型ヘッドホンが、そろそろヤバい。
 買って二〜三年、ユニットからケーブルが出ている部分が擦れ、被覆が剥がれてきた。ユニットが分解できるタイプなら痛んだ箇所を切ってハンダ付けし直す十分ほどの作業だが、無理に分解すると破損しそうだ。たしか三〇〇〇円を切る値段だったのでやむをえず買い直そうと思ったら、早くも生産中止。早くもないか。
 考えたすえ、ヤレた部分を熱収縮チューブでカバーすることに。電子部品店でなくとも百円ショップでも売っている。色がダサいんだが保護優先だ。チューブが緑色なので、このさいずっと黒だったイヤーパッドは赤にしてあげた。変でしょ。
 ごく微量の接着剤とチューブの収縮で、太さが一定でない部分を覆うのは難しく、はじめは失敗。ドライヤーの熱を何度も加えるのは不安だが、なんとか取り付けた。

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 ゼンハイザーMX471。
 販売終了品をお奨めしても仕方ないが、絶対にいい。買ったとき、店じゅうの小型ヘッドホンをほぼ全部、自分のプレーヤで試聴して決めた。なにが無意味といってオーディオ店で機器を試聴するのと、楽器屋の店頭でギターを試し弾きするのほど無意味なことはない、という説があるが、このヘッドホンは群を抜いて自分の好みに合っていた。
 まずは安いこと。一万円以上のものと聴いた感じに違いがほとんど感じられない。「分解できない」と書いたが、ケーブルやプラグも含めて丈夫なのもいい。ユニットサイズが若干小さいのも耳に合う。スピーカが小さい分、迫力がないかというとそんなことはない。
「オープン」型であることも大事だ。いま、このサイズのヘッドホンは、ほぼ「カナル」型。昔のテレビやラジオのイヤホンみたいに──知っている人のほうが少ないか──耳の穴に差し込む式。装着ずれが少なく聴診器みたいに耳洞が音で満たされて音が安定し、ガツンと聴ける。が、わたしはすぐ外耳炎になる。また、わたしの場合さほどならないが、耳くそだらけのヘッドホンはヤだ! オープン型だと、ときどきつけ直さないと低音が薄くなってしまうが、直せばいい。
 いま深夜にジョー・パスの「ヴァーチュオーゾ」を聴いているが、ジャズ用のフルアコギターをアンプを絞って弾く音のリアルさがすごくいい! 低音弦がちょっと詰まる独特の音、強力に早いフレーズで弦がビビる音、そのフレーズの隙間にピアノの左手のようにザクっとコードをつける音──こう書くと、ヘッドホンがどうこうよりジョー・パスがまさにヴィルトゥオーゾ(演奏の達人)だということだけれど──といってもギターという楽器の音としてはペラっとした音で、プレーヤのオマケヘッドホンで聴いたらパサパサして聴けたものではない。それがMX471で聴くと、ふくよかさというのだろうか、アンプはどうだったのかとか、マイクをどんな位置にして録音したかなど関係なく、目の前で弾いてくれるジョー・パスを聴く立体感がある。わずかな身動きもときどき聴こえるからなおさらいい。ジョー・パスが一人きりで、わたしもコード進行を知っているおなじみの曲を縦横無尽に弾くのを、自分一人の世界で素晴らしく聴ける。

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 そのジョー・パスが明朗なエンタテインメントをギターに託す華やかな技巧者だとすれば、さきごろ亡くなったジム・ホールはジャズギターの立場を一から組み立て直した偉人といっていい。
 ジョー・パスの白眉が「ヴァーチュオーゾ」の、一人で弾いているとは信じられないのに美しく親しみやすいソロ演奏や、オスカー・ピーターソンのトリオに加わっての高速テクニックを駆使した滝のようなメロディの応酬にあるなら、ジム・ホールのそれは「アローン・トゥギャザー」でロン・カーターと繰り広げるつぶやきだとか、「アンダーカレント」でビル・エヴァンズと五分で渡り合う音符のぶつけ合い、すなわち対話の美学だろう。必然的にジムのほうが理知的・理論的で、地味にも聴こえる。逆にジョーは曲をいつもおおらかに解釈して唄心をつめ込むがゆえに、たくさん聴いているとどの曲の仕立ても似て聴こえてくるという面もある。いずれにせよ、ジャズではやや存在感が薄いといわれるギタ−※1の表現の多くはない頂点の二つを、この二人は極めている。

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 ところで、ジム・ホールが亡くなったとき、持っているCDを回したり動画を探したりしていたが、面白い映像を見た。一九六五年にテレビのトーク番組「マーヴ・グリフィン・ショー」に出演したときのものだ。ジムは番組のハウスバンドにいる。そのバンドにレギュラー出演することは決まっているから仕立てだけれど、マーヴが「そこにいるの誰だい」とピアノのモート・リンゼイに聞く。「世界的なギタリストのジム・ホールだよ、今夜、訪ねて来てくれたんだ」と紹介されてマーヴは、「彼は使えるのかい、ここでオーディションするのかな」といい出す。モートは「だってジムはこのバンド皆の友だちだよ」。マーブは「そんなの知るかい、僕がオーディションしてやるさ」で、マーヴ自身がピアノに向かって即席オーディション。「They can't take that away from me」ですね。エンタテインメント番組なのに、マーヴ・グリフィンが弾くピアノの手元を見てリズムをつけていくジムの真剣な顔! そしてアドリブソロ。心なごむメロディなんだけれど、ちょっと音符を抜いたような緊張感がやっぱりジム・ホールのギター。ギターをかじった人なら弦を押さえる指を見れば、やっぱりタダ者じゃないなと感心するはず。
 ジムがこの番組の伴奏バンドに入ったについてはいきさつがある。結婚したてで演奏旅行しなくてもすむ収入がほしくて、バークリー音楽大学の教職に応募。ジャズ演奏家を数多く送り出す学校だ。当時すでにさきほどの「アンダーカレント」が出ているし、ソニー・ロリンズやエラ・フィッツジェラルドとも共演、「世界的なギタリスト」だったのに採用されなかった。「トークのゲストはいいけれど音楽はくだらない」仕事を三年半もすることになる。一九七五年には「アランフェス協奏曲」のヒットを出すが、バークリー音楽大学が始めたジャズギタリスト向けの「ジム・ホール記念奨学金」に自分が何度も応募しようと思ったほど、おカネはなかったそうだ。※2(ケ)


※1 ロックでは花形なのにだ。ジャズでふつう使う音列や和音が構造上弾きにくく、他の楽器と音が重なりやすいからだといわれるが、ジャズバンドにおける歴史が浅い分、仲間はずれになっている気もしなくない。音をアンプで拡大し、特殊奏法を発明し、管楽器とピアノを合体させたような爆発的な演奏で成功したウエス・モンゴメリーと、そのスタイルを継承してモダン〜スムーズのスターになったジョージ・ベンソンを聴くと、短所の「克服」で生まれたもうひとつの頂点だとわかる。

※2 www.jazz.com/features-and-interviews/2008/9/12/in-conversation-with-jim-hall

※  Joe Pass 1929-1994  Jim Hall 1930-2013  Merv Griffin 1925-2007年
 
 
posted by 冬の夢 at 03:18 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽 オーディオ・楽器 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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