2012年08月11日

キヤノンとニコンのオリンピック対決

 ロンドンオリンピックの「場外」で、もうひとつの熱い対決が展開している。カメラファンにはおなじみの、キヤノン対ニコン、一眼レフ決戦だ。
 同じカメラでも一眼レフとなると、世界の市場で覇を競うのはこの両社。デジタルカメラ全体の製造台数からすれば一眼レフは一割くらいだが、最高級のプロ向け一眼レフを長年にわたり手がけ、そこで培った技術をアマチュア向けカメラに注いでもきたトップメーカーのプライドが、一眼レフという領域を重んじ続けさせてもいる。
 現代の「最高級プロ用一眼レフ」の姿を目の当たりにできるのが、スポーツの一大イベント、オリンピック。四年に一度、多数のカメラマンが厳しい撮影条件で最高の写真を撮るべく、その時点で最高性能のカメラを選択して使う場でもあるからだ。
 トップシェアを争う両社からすれば、オリンピックの各会場で自社のカメラが相手より一台でも多く採用され、プロの評価を受けている、とアピールできれば、アマチュアカメラファンも自社製品をより信頼してくれて、宣伝効果大というわけだ。
 で、もちろんオリンピックを撮影するカメラマン全員にアンケートするわけにはいかないから、競技を望遠レンズでねらうカメラマンたちの姿をとらえた映像が、ひとつの目安になってきた。カメラ本体は両社とも黒く、ボディのメーカー名が判読できなければ遠距離からの区別に説得力がない。ところがキヤノンの望遠レンズ、とくにプロ向けの超望遠レンズは外装が白く、対するニコンのレンズは外装が黒い。つまり、カメラマンたちを撮った映像をながめれば、オセロゲームがごとく、キヤノンが多いかニコンが多いかがだいたいわかる。これが「一眼レフ対決」だ。
 過去の対戦成績からすると、実は近年のオリンピック、あるいはスポーツ写真の領域では、キヤノンのカメラが採用されてきていた。オートフォーカスのピントが合う速度や率、カメラの高速性能などが、ニコンより優れているとされたわけだ(ただしシャッターを切る行為はカメラマンの感性と判断だから、単にカタログ上の数値が勝っているからいい写真が写るカメラとはいえない)。
 それが、前回の北京オリンピックでは、超高性能の最高級機を開発したニコンがキヤノンに迫り、「場外戦」は面白くなってきていた。
 で、今回のロンドンオリンピックはどうか。
 ニコンは8月決算発表の場で、副社長が「逆転宣言」。これは、現地の競技会場六十四か所で「数えた結果」だそうだ。
 キヤノンは同日、広報が「優勢」コメント。各競技場のカメラマン席を撮影し、画像を拡大して「数えた結果」だといい、両社は勝ちを譲らない。*
 ……どうなのかね。この話を聞いたとき、なぜかわたしは、かなり引いてしまった。
 つまり、ロンドンまで行ってカメラの数を数えているニコン社員の姿であるとか、ロンドンまで行って選手でなく同業者を撮影しているキヤノン社員だか専属カメラマンだかの姿であるとか、写った写真がどうかでなく、そういうことを青筋立ててやっている人びとのことを想像してしまったからだろうな。愛社精神でしていた方々には本当に申し訳ないが。
 だいたい誰が面映いといって、観察されているカメラマンたちだろう。
 この人たちがみな二大メーカーの最高機種を使うとして、一秒間に写せる枚数は一〇〜十二コマ(入門者向け一眼レフは三コマくらい)。百メートル走のスタートからゴールまでシャッターを押しっぱなしにすれば、ほとんどミスなく百コマ写るかもしれない。しかし、その撮り方では絶対の自信を持って完璧といえる一枚は必ずしも得られないことは、プロなら誰もが知っているだろう。
 またプロという立場は、属する組織の要求に応える立場でもある。写真表現と選手のパフォーマンスの合体どころか、現場にはいない人々からの要求で「挿絵」を撮る場合も多々あるに違いない。
 さらに、スポーツの美を映像で表現しようとすると、極端な仰角あるいは俯瞰、決められたカメラマン席からは狙えない超至近距離からの撮影や、ベストな場面を再現(演出)して撮ることなど、七十六年前のベルリンでレニ・リーフェンシュタールがナチスの宣伝欲を刺激して得た方法に、近づかざるを得ない面がある(結果と方法の両面における華麗で悪しき極端を純粋で一途な表現のためと疑わずに、このような方法を確立してしまったことこそ、リーフェンシュタールの罪であり凄さなのだが)。
 実はわたしは、朝日新聞にいまコラムを連載、オリンピックを撮影し掲載している福山雅治に期待している。ここまでの文脈とは違ったところで、オリンピックをとらえ、映像にしてくれるだろうと思ったのだ(そうでなければ多くの専門カメラマンを抱える新聞社がわざわざ彼を起用した意味がない)。
 いまのところ彼のコラムは、残念なことに写真も文章もひどくつまらないが、もし彼がプロ用でないカメラをあえて使い、報道スタッフの特権から離れてロンドンにいるのだとしたら、「場外戦」のさらに外で、なにかを見せてくれる可能性はゼロとはいえない。(ケ)

*朝日新聞(8月9日朝刊)から。カメラ全体の出荷台数はカメラ映像機器工業会のサイトにある。
posted by 冬の夢 at 20:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | 写真 カメラ・写真家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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