2012年06月25日

サーとザー FMオーディオチューナーのノイズがわからない【改】

 このブログの別の筆者が、最近、FMチューナーを購入したとのこと。一九七〇年代後半発売の名機といわれた機種だそうだ。
 当時、実家がオーディオマニアでもないかぎり、カタログで見るしかなかったハイエンドモデルが、いまではかなり安値で中古市場に出ている場合がある。状態のいいものを探しあて、良好にメンテナンスできれば、楽しめるはずだ。彼もどうやら、そこにはまったらしい。

 ところが、外注調整も終えてオーディオセットに接続したところ、そのチューナーはもちろん、そのほかの機器でも、スピーカーからの出音が途切れるようになったという。なにか問題が起きたのかと、彼から質問メールがきた。
 すわ、接続ミスでアンプが故障したか。
 学校の放送部員、アマチュアバンドなどで、大昔にアナログPAをちょっとばかりいじった経験しかないわたしに相談するのは危ないが、「スピーカーから音が出ない」もしくは「音が途切れる」場合は、とりあえず実害のないこのチェックだ。
 あわてず、まずスピーカーケーブルを調べてみて、と返事する。
 チューナーを接続するためにオーディオセット全体を、久しぶりに動かしたりしたなら、ケーブル類をチェックだ。電源をすべてオフにして、スピーカーケーブルは、はずして両端を切り、被覆を剥き直し再接続。ラインケーブルも、抜いて、接点復活剤などはとりあえず使わず、きれいに拭いて再接続を。
 すると、すぐ音は正常に出るようになったとのこと。ひと安心だ。

 彼がケーブルをチェックし再接続している間に、スピーカーケーブルの芯線を「はんだ処理」(ほぐれないようはんだで固めておく)する方法を教えようと、画像のありそうなサイトを探していたら、「日本はんだ付け協会」というNPOがあることを知った。ちなみに、オーディオマニア業界には「はんだ有害説」(はんだは音質劣化の原因だという意見)がある。はんだ処理は必須だといっているのではない。念のため。
 それはともかく「はんだ付け協会」に、しみじみと見入ってしまった。
 ラジオやアンプ、楽器のエフェクターなどを自作するために、はんだゴテを握る電気工作ファンは、いまも多いのだろうか。そういえばパソコン自作派というのもよくいた。そちらは、はんだ付けなしでも出来るけれど、そういう人たちも熱心に作っているのだろうか。

 さて、ハイエンドFMチューナーで聞きはじめた彼からの問い合わせで、もうひとつ、答えるのがなかなか難しいのが「ノイズ」だ。
 チューナーから出るノイズがどうも変なのだがFMラジオ番組を聞いていてこのようなノイズが出ていたことは、記憶にあるかね、という質問である。
 彼が購入したモデルは、メンテナンスを依頼した、昔のオーディオ機器を修理する専門業者も太鼓判を押したほどの、当時の最高性能機だそうだ。しかし修理調整が終わって聞いてみると、これまで自分のオーディオ機器からは出ていなかった、気になるノイズが聞こえるという。徹底して低雑音をめざした機種だし、電波の強さもじゅうぶんなのに。

 本格的な技術知識はないから、確実な結論ではないと、ことわった上で伝えたのは、そのノイズの正体は復調ノイズと呼ばれるもののようだ、ということ。
 もともとAM放送よりノイズの影響を受けにくいFM放送だが、ステレオ信号の搬送電波を受信機でステレオ音声に戻すとき、必然的に「復調ノイズ」というものが生じるそうだ。
 モノラル受信に切り替えると発生しなくなるのはそのためで、FMの放送受信の仕組みが昔も今も変わらないとしたら、昔も聞こえていたノイズということになる。
 しかし、昔のことを思い出そうとしても、このノイズのことだといえそうな雑音の記憶は出てこない。ステレオ放送をモノラルで聴くとノイズが減るという実感はたしかにあったが、ステレオ受信するには電波が弱いからノイズが出ていたんだな、くらいの推測ですませていたはずだ。

 そもそも、単体のFMステレオチューナーなるものが使われた三〇年以上も前、流行していたエアチェック(放送番組をテープに録音して聞く趣味)で、磁気テープに録った放送を後から聴くとする。
 まず、テープ由来の盛大なノイズがある。それでいうなら、生放送でないかぎり番組もテープ収録したものを放送していたはずだ。番組内の音楽だって、生演奏でないならアナログレコードが音源だし、レコードというものがすでに、テープに収録した演奏からスタンプを作って、ペッタンコと製造されたものだったのだ。
 つまり、アナログ時代には、あたかも海辺にいるかのごとく、ノイズの層のかなたに音を聞いていたといっても過言ではないのだ。それはちょっと大げさかな。

 当時の中高生の感覚にすぎず、アナログ時代から超低雑音再生を徹底追及していたというマニアが読んでいたら怒るだろうが、あのころのティーンエイジャー音楽ファンの気分としては、雑音が「シー」や「サー」で、「ジー」や「ザー」でなければいいや、くらいで満足していた感じがある。音響機器や楽器のアンプにノイズはつきものと思っていた。彼の質問も、その感覚を共有したうえでのはず。そういう世代だから。

 しかし、いまの世の中では「ジー」や「ザー」はもちろん「シー」も「サー」もダメだ。ノイズはとことん拭い取らなければならない。二十一世紀は、清潔さに病的に固執する時代だと思っているが、まさに病的なほどの「ノイズレス」が求められていると思う。
 もちろん、よけいな機械雑音のない美しい音を聞きたいと思うが、なぜ現代の過剰なまでのノイズ忌避を病的というかといえば、ノイズがないように感じる処理がされていれば、それで納得してしまうからだ。見た目がツルッとしているだけの、ハリボテのツルピカ環境をやたらに好むのと同じだ。
 裏がいくら汚れていても、もしくは、かんじんの本題を損なってさえも、とにかくピカピカじゃないとダメ! という感覚は、自分がそうなりすぎないよう、鋭敏と過敏の区別には気をつけるようになった。しかし、仕事でそういうことを求められ、クレームされる度合いが限りないほど大きくなり、いつしか自分もかなりの、ツルピカマニアになっていると思う。
 ちなみに、一九七〇年代のハイエンドFMチューナーを導入した彼は、わたしの説明にとりあえず納得し、機器の接続をすべてチェックして再び聞きはじめてみると、これはこういうものだと思うようになったらしい。
 彼の言葉によると「デジタル耳」になっていた感覚が「アナログ耳」に戻った、ということだった。「ノイズへの感受性」が戻ってきたと。

 じつはその彼に、昔のFMチューナー、それも当時、最高性能を誇ったような受信機≠ナ、あえて空から電波をひろって音楽を聴いてみることをけしかけたのは、わたしだった。
 VHFテレビアンテナはFM放送受信アンテナの代用になりうるが(対応周波数域は異なる)、地デジ用UHFアンテナはFMチューナーには共用できないとの情報も流したので、集合自宅の自宅ベランダに専用アンテナを設置するという、近所の手前もあるし奥さんに見つかったらどうするんだ的な行動も促してしまった。
 だから、せめて「ザ行」のノイズ対策には、ない知恵をしぼって協力しなくては、と思っているところだ。(ケ)


※「ラジオ」についての記事はこちら
※二〇二〇年十二月二十三日、手直ししました。管理用


posted by 冬の夢 at 20:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽 オーディオ・楽器 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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