2020年04月10日

散歩と写真とウイルスはメスかオスか【追記あり】

 運動しなくちゃならないので、なんとか散歩だけはしていたが、散歩もままならなくなり、今週から引きこもっている(二〇二〇年四月第二週)。
 暮らすためには完全な閉門は無理で、百パーセントの感染防御は不可能だ。しかし、病歴など複数の理由で、感染したら死ぬ可能性があると思っているので、できる限りの「おとなしさ」につとめることにした。感染に気づかず複数の人に広げてしまう問題も避けられるだろう。

       

 このブログの別の筆者が一日前、新型コロナウイルスを「femme fatale」、「宿命の女」に見たてて、ジョン・キーツの詩、「La Belle Dame sans Merci」を紹介している。
 読んでみると、まさにジョン・キーツ版「魔性の女」という感じの詩だが、中世コスプレふうのストーリー設定ながら、読んでいるわが身に起きたかのような寒々とした虚脱の現実感が漂う。みんな、やられてしまったか! 
 歴史ロマンの舞台を借りて心情を表現したという、単純な仕組みでないところが、この詩を読む難しさだ。いっぽう、テキストとヴィジュアルがさまざまなレイヤーとなって、アクティブになったりスタンバイになったりするような視覚的興奮がある。これまで日本語訳をしようとしてきたジョン・キーツの詩に、ほぼ共通している不思議な魅力だ。
 と、えらそうに書いたが、知識も読解も、まだまだ素人。キーツって詩にフランス語で題をつけたことがあるんだと驚いていたりする。キーツの四〇〇年くらい前にフランスの詩人が作った詩が元ネタだから、ということらしい。

 フランス語の題、から、ふと思い浮かんだ。
「COVID-19」って女(メス)なのか、それとも男(オス)なのか?
 フランス語には「女性名詞」「男性名詞」があるでしょう。バゲットは女性名詞なのにクロワッサンは男性名詞! ってやつが。

 そこで、細かく読めはしないがフランスのニュースやリリースをざっと見ると、フランスでは「COVID-19」を起こすウイルス「SARS-CoV-2」は、フランス語でウイルスが男性名詞だから「オス」。「COVID-19」も基本的に男性名詞あつかいになっている。
 基本的に、とは「COVID-19」が女性名詞の場合もあるようだし、カナダのフランス語圏ではどうも女性名詞にしているようなので。

 オスでもメスでもある、となると永井豪のアニメ『マジンガーZ』の「あしゅら男爵」みたいで怖い──というわけでもないか、悪の使者だけど無能なところも目立ったから──などとと思いつつ──後年のリブート版では「あしゅら男爵」をメチャ怖く設定した作もあるらしいが──フランスではいったい誰が新語の「性別」を決めているのだろう、と思った。(文末の【追記】も見てください)。

       

 これは、自分が調べても説得力がない。
 友だちに頼み、長くパリに住んでいる人に確かめてもらった。
 パリの閉門生活も四週目となると「悟り」の境地ですよ、という女性が送ってくれた説明に、すこし「つなぎ」を入れて書くと、こうだ。

「COVID」とは「Coronavirus Disease」で、ウイルス「SARS-CoV-2」が引き起こす病気のこと。フランス語の完全訳は「la maladie a coronavirus 2019」で女性名詞だ。「病気;maladie」が女性名詞だから。
 カナダはこれに則って女性形を用いているけれど、フランスのマスコミ含め、ほとんどがウイルスは男性名詞であることを基準にして「le 〜」といっている。

 とのことで、上記のとおりはっきりしているそうだ。
 なるほど、新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」はオスで、感染症「COVID-19」はメスか!
 もっとも、「ふつうに使う名詞について、たとえば『なぜ男性名詞なの?』と聞いても、フランス人は『はじめっからそうだった』としか教えてくれません(笑)」とのことだった。

       

 外出しなくなると、写真を撮らなくなる。
 室内を(室内で)撮ったっていいが、その気になれない。

 かつて撮った写真、それも、記念写真として撮っただけのサービスサイズプリントを探し、それを「編集」し、「作品」にしてみたいと思った。
 題は決まっている。昔、写真の見かたについて影響をうけた写真家たちのひとりに、写真で手紙を出すという設定だ。

 すこし掘り出して見はじめたが、早々にやめてしまった。
 記念写真を撮ったり撮られたりすることがあまりなく、捨てたりもしたのか、数はさほどない。
 しかし、撮った写真も撮られた写真も、いま見るのはそのまま、昔の自分に向かい合うことだ。写真だから、かなりリアルに。
 それは、いまの自分にはできないことだと悟った。

「手紙」の宛先にするつもりだった写真家に影響を受けた「写真の見かた」とは、ひとりの人の表現行為として写真を見るときは、芸術家やプロカメラマン、あるいは素人の区別なしに見ることと、可能な限り大量に見ることだ。大量とは、数百から数千、ときには万に至る数をいとわずに。
 実際には、その写真家が他の人が撮った写真を見て選び出すと、その写真家の作風になってしまった。仕方ない面もあるが、それは問題だった。ただ、それはともかく「撮影者の来歴にこだわらず大量に見ること」には、つよく影響されている。

 面白いことに、その写真家に写真で手紙を出すつもりで、自分が撮った写真を自分で見て選んでいると、やっぱり、その写真家の作品に似てしまう。
 かまわないと思っている。影響されたのだから。
 もし見る機会があったら、苦笑しながら見てくれるだろうけれど、義理を欠いているうちに、亡くなったと聞いた。(ケ)

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(c)趣味的偏屈アート雑誌風同人誌

■フランス語の名詞の「性」は、かならずしも実体的性別を示しているわけではないです。
Originally Uploaded on Apr. 11, 2020. 22:14:00


【追記】二〇二〇年五月十八日

 フランスの国立学術団体で、日本でたとえると学士院の一部門にあたり、フランス語の見守役としてよく知られるアカデミー・フランセーズは、五月七日、COVID-19、すなわち新型コロナウイルス感染症は女性名詞で、定冠詞は「le」でなく「la」を使うべき、と発表した。

 理由は、きわめて明瞭だ。
 フランス語では、単語の集まりから成立し、各語の頭文字をとって出来た名詞は、単語の集まりの中で中核にある語の性別で男性名詞か女性名詞か決まる。たとえばフランス国鉄 S.N.C.F.(Société Nationale des Chemins de fer Français)は、意味の中核である Société(法人)が女性名詞なので「♀」となり、おなじみ IOC (International Olympic Committee)は、同様に committee(委員会)が男性名詞だから、フランス語の名詞としては「♂」だ。
 この原則は外来語にも適用され、フランス語では FBI(Federal Bureau of Investigation)は「♂」(「Bureau;局」はフランス語では男性名詞)、CIA(Central Intelligence Agency)は「♀」(「agency;局」はフランス語 agence は女性名詞)なのだ。

 とうぜん COVID-19(SARS-CoV-2ウイルスによる、新型コロナウイルス感染症)もこの原則下にあり、「COronaVIirus Disease 2019」の中核語は Disease、フランス語では maladie で女性名詞なので、COVID-19 も女性名詞、la COVID-19 である。
 フランスのメディアの多くが COVID-19 を男性名詞として扱い、一般にも広がっているのは、ウイルス virus がフランス語では男性名詞だから、と思われるが、アカデミー・フランセーズは、いまから正しく女性名詞とするのが望ましく、遅すぎはしない、と記述している。
 www.academie-francaise.fr/le-covid-19-ou-la-covid-19

■二〇二〇年五月一八日、この追記とともに本文の関連部分をわずかに直しました。若干混乱がありました。すみません。同七月二十二日、文のつながりをすこし直しました。

posted by 冬の夢 at 00:05 | Comment(0) | 日記 話題・意見・世相 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする