2020年04月12日

Sへの手紙 U - a message to S U -


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(ケ)



Originally Uploaded on Apr 17, 2020. 17:00:00
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2020年04月10日

散歩と写真とウイルスはメスかオスか【追記あり】

 運動しなくちゃならないので、なんとか散歩だけはしていたが、散歩もままならなくなり、今週から引きこもっている(二〇二〇年四月第二週)。
 暮らすためには完全な閉門は無理で、百パーセントの感染防御は不可能だ。しかし、病歴など複数の理由で、感染したら死ぬ可能性があると思っているので、できる限りの「おとなしさ」につとめることにした。感染に気づかず複数の人に広げてしまう問題も避けられるだろう。

       

 このブログの別の筆者が一日前、新型コロナウイルスを「femme fatale」、「宿命の女」に見たてて、ジョン・キーツの詩、「La Belle Dame sans Merci」を紹介している。
 読んでみると、まさにジョン・キーツ版「魔性の女」という感じの詩だが、中世コスプレふうのストーリー設定ながら、読んでいるわが身に起きたかのような寒々とした虚脱の現実感が漂う。みんな、やられてしまったか! 
 歴史ロマンの舞台を借りて心情を表現したという、単純な仕組みでないところが、この詩を読む難しさだ。いっぽう、テキストとヴィジュアルがさまざまなレイヤーとなって、アクティブになったりスタンバイになったりするような視覚的興奮がある。これまで日本語訳をしようとしてきたジョン・キーツの詩に、ほぼ共通している不思議な魅力だ。
 と、えらそうに書いたが、知識も読解も、まだまだ素人。キーツって詩にフランス語で題をつけたことがあるんだと驚いていたりする。キーツの四〇〇年くらい前にフランスの詩人が作った詩が元ネタだから、ということらしい。

 フランス語の題、から、ふと思い浮かんだ。
「COVID-19」って女(メス)なのか、それとも男(オス)なのか?
 フランス語には「女性名詞」「男性名詞」があるでしょう。バゲットは女性名詞なのにクロワッサンは男性名詞! ってやつが。

 そこで、細かく読めはしないがフランスのニュースやリリースをざっと見ると、フランスでは「COVID-19」を起こすウイルス「SARS-CoV-2」は、フランス語でウイルスが男性名詞だから「オス」。「COVID-19」も基本的に男性名詞あつかいになっている。
 基本的に、とは「COVID-19」が女性名詞の場合もあるようだし、カナダのフランス語圏ではどうも女性名詞にしているようなので。

 オスでもメスでもある、となると永井豪のアニメ『マジンガーZ』の「あしゅら男爵」みたいで怖い──というわけでもないか、悪の使者だけど無能なところも目立ったから──などとと思いつつ──後年のリブート版では「あしゅら男爵」をメチャ怖く設定した作もあるらしいが──フランスではいったい誰が新語の「性別」を決めているのだろう、と思った。(文末の【追記】も見てください)。

       

 これは、自分が調べても説得力がない。
 友だちに頼み、長くパリに住んでいる人に確かめてもらった。
 パリの閉門生活も四週目となると「悟り」の境地ですよ、という女性が送ってくれた説明に、すこし「つなぎ」を入れて書くと、こうだ。

「COVID」とは「Coronavirus Disease」で、ウイルス「SARS-CoV-2」が引き起こす病気のこと。フランス語の完全訳は「la maladie a coronavirus 2019」で女性名詞だ。「病気;maladie」が女性名詞だから。
 カナダはこれに則って女性形を用いているけれど、フランスのマスコミ含め、ほとんどがウイルスは男性名詞であることを基準にして「le 〜」といっている。

 とのことで、上記のとおりはっきりしているそうだ。
 なるほど、新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」はオスで、感染症「COVID-19」はメスか!
 もっとも、「ふつうに使う名詞について、たとえば『なぜ男性名詞なの?』と聞いても、フランス人は『はじめっからそうだった』としか教えてくれません(笑)」とのことだった。

       

 外出しなくなると、写真を撮らなくなる。
 室内を(室内で)撮ったっていいが、その気になれない。

 かつて撮った写真、それも、記念写真として撮っただけのサービスサイズプリントを探し、それを「編集」し、「作品」にしてみたいと思った。
 題は決まっている。昔、写真の見かたについて影響をうけた写真家たちのひとりに、写真で手紙を出すという設定だ。

 すこし掘り出して見はじめたが、早々にやめてしまった。
 記念写真を撮ったり撮られたりすることがあまりなく、捨てたりもしたのか、数はさほどない。
 しかし、撮った写真も撮られた写真も、いま見るのはそのまま、昔の自分に向かい合うことだ。写真だから、かなりリアルに。
 それは、いまの自分にはできないことだと悟った。

「手紙」の宛先にするつもりだった写真家に影響を受けた「写真の見かた」とは、ひとりの人の表現行為として写真を見るときは、芸術家やプロカメラマン、あるいは素人の区別なしに見ることと、可能な限り大量に見ることだ。大量とは、数百から数千、ときには万に至る数をいとわずに。
 実際には、その写真家が他の人が撮った写真を見て選び出すと、その写真家の作風になってしまった。仕方ない面もあるが、それは問題だった。ただ、それはともかく「撮影者の来歴にこだわらず大量に見ること」には、つよく影響されている。

 面白いことに、その写真家に写真で手紙を出すつもりで、自分が撮った写真を自分で見て選んでいると、やっぱり、その写真家の作品に似てしまう。
 かまわないと思っている。影響されたのだから。
 もし見る機会があったら、苦笑しながら見てくれるだろうけれど、義理を欠いているうちに、亡くなったと聞いた。(ケ)

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(c)趣味的偏屈アート雑誌風同人誌

■フランス語の名詞の「性」は、かならずしも実体的性別を示しているわけではないです。
Originally Uploaded on Apr. 11, 2020. 22:14:00


【追記】二〇二〇年五月十八日

 フランスの国立学術団体で、日本でたとえると学士院の一部門にあたり、フランス語の見守役としてよく知られるアカデミー・フランセーズは、五月七日、COVID-19、すなわち新型コロナウイルス感染症は女性名詞で、定冠詞は「le」でなく「la」を使うべき、と発表した。

 理由は、きわめて明瞭だ。
 フランス語では、単語の集まりから成立し、各語の頭文字をとって出来た名詞は、単語の集まりの中で中核にある語の性別で男性名詞か女性名詞か決まる。たとえばフランス国鉄 S.N.C.F.(Société Nationale des Chemins de fer Français)は、意味の中核である Société(法人)が女性名詞なので「♀」となり、おなじみ IOC (International Olympic Committee)は、同様に committee(委員会)が男性名詞だから、フランス語の名詞としては「♂」だ。
 この原則は外来語にも適用され、フランス語では FBI(Federal Bureau of Investigation)は「♂」(「Bureau;局」はフランス語では男性名詞)、CIA(Central Intelligence Agency)は「♀」(「agency;局」はフランス語 agence は女性名詞)なのだ。

 とうぜん COVID-19(SARS-CoV-2ウイルスによる、新型コロナウイルス感染症)もこの原則下にあり、「COronaVIirus Disease 2019」の中核語は Disease、フランス語では maladie で女性名詞なので、COVID-19 も女性名詞、la COVID-19 である。
 フランスのメディアの多くが COVID-19 を男性名詞として扱い、一般にも広がっているのは、ウイルス virus がフランス語では男性名詞だから、と思われるが、アカデミー・フランセーズは、いまから正しく女性名詞とするのが望ましく、遅すぎはしない、と記述している。
 www.academie-francaise.fr/le-covid-19-ou-la-covid-19

■二〇二〇年五月一八日、この追記とともに本文の関連部分をわずかに直しました。若干混乱がありました。すみません。同七月二十二日、文のつながりをすこし直しました。

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2020年04月09日

La Belle Dame sans Merci(あるいはCOVID-19に捧げるバラッド?)

 世に、いわゆる「魔性の女」と呼ばれる女性がいるそうな。男をたちまちのうちに虜にして、骨抜きにし、破滅させる。「宿命の女」femme fataleとも言われることもある。小説やマンガにはしばしば登場する。が、現実にはどうなんだろう? 怖いけど、死ぬ前には一度くらいお目にかかってみたいと思っていた。いったいどれほど魅力的なのか? どれほどの魔力なのか? 
 そう思っていたら、とうとう出た! 出てしまった! その名もCOVID-19。確かに、まるで某国の女スパイか、腕利きの殺し屋みたいな名前だ! 
 そこで、自宅勤務の退屈しのぎに、同人のお株を奪うようで気が引けるが、キーツが残した「魔性の女」、La Belle Dame sans Merci(情け知らずの美しい女)を訳してみようと思う。


La Belle Dame sans Merci(情け知らずの美しい女) 

何がそんなに苦しいのか、武具を纏った騎士よ、
疲れ切った様子でたった一人、こんなところで?
湖畔のスゲも枯れ果て
鳥の鳴き声も消えてしまったのに。

何がそんなに苦しいのか、武具を纏った騎士よ、
そんなにもやつれて、悲しみに沈んで?
リスも穀倉を一杯にして、
収穫の時期も終わったというのに。

額は百合の花、
熱と汗で濡れた激しい苦悶を浮かべ、
頬は色褪せた薔薇、
すぐにも枯れてしまう。

緑の牧場で一人の女に出会ったのだ、
見事に美しく、妖精の子さながら、
髪は長く、足取りは軽く、
両の目は生き生きと輝いていた。

その娘に花の首飾りや
ブレスレット、香しい帯などを作ってやると、
私を愛しそうに見つめ、
喉の奥からいかにも甘い声を鳴らしていた。

彼女を自分の馬に乗せると、
一日中もう彼女以外のものは何も目に入らなかった。
彼女は身を傾け、
妖精のように美しい歌を歌っていた。

道すがら元気の出る甘い草の根や
野生の蜂蜜、天与の甘露を見つけてくれた。
そして、聞き慣れない言葉で確かに言ったのだ、
「あなたを本当に愛している」と。

それからお伽噺のような岩屋に誘われ、
そこで彼女は胸も裂けよと涙を流し、溜息を吐いた、
そこで私は彼女の取り乱してもなお生き生きと輝く両の目を
四つのキスで閉ざしてやった。

そこで彼女は私を優しく寝かしつけ、
そこで私は夢を見たのだ−−何という悲しみ!
この凍えた丘の中腹で
私が見た最後の夢。

蒼白い王や貴族たち、
同じく蒼白い戦士たち、みんな死のように蒼白かった。
奴らは口々に叫んだ、「情け知らずの美しい女が
お前を虜にした!」と。

餓えきった奴らの唇が薄暮の中に見えた、
おぞましい警告を喘ぐように口いっぱいに広げていた。
そして目が覚めるとここにいたのだ、
この凍えた丘の中腹に。

だから私はここに留まっている、
疲れ切った様子でたった一人、こんなところで。
湖畔のスゲも枯れ果て
鳥の鳴き声も消えてしまったのに。

  Oh what can ail thee, knight-at-arms,
  Alone and palely loitering?
  The sedge has withered from the lake,
  And no birds sing.

  Oh what can ail thee, knight-at-arms,
  So haggard and so woe-begone?
  The squirrel's granary is full,
  And the harvest's done.

  I see a lily on thy brow,
  With anguish moist and fever-dew,
  And on thy cheeks a fading rose
  Fast withereth too.

  I met a lady in the meads,
  Full beautiful - a faery's child,
  Her hair was long, her foot was light,
  And her eyes were wild.

  I made a garland for her head,
  And bracelets too, and fragrant zone;
  She looked at me as she did love,
  And made sweet moan.

  I set her on my pacing steed,
  And nothing else saw all day long,
  For sidelong would she bend, and sing
  A faery's song.

  She found me roots of relish sweet,
  And honey wild, and manna-dew,
  And sure in language strange she said -
  'I love thee true'.

  She took me to her elfin grot,
  And there she wept and sighed full sore,
  And there I shut her wild wild eyes
  With kisses four.
 
  And there she lulled me asleep
  And there I dreamed - Ah! woe betide! -
  The latest dream I ever dreamt
  On the cold hill side.

  I saw pale kings and princes too,
  Pale warriors, death-pale were they all;
  They cried - 'La Belle Dame sans Merci
  Hath thee in thrall!'

  I saw their starved lips in the gloam,
  With horrid warning gaped wide,
  And I awoke and found me here,
  On the cold hill's side.

  And this is why I sojourn here
  Alone and palely loitering,
  Though the sedge is withered from the lake,
  And no birds sing


 キーツに教えてもらうまでもなく、どうやら「魔性の女」というのは、結局は男の欲望の投影に過ぎないようだ。つまり、男たちの欲望が美しい女に(そもそも、この「美しい」というのが曲者なのだが)「魔性」を付加してしまう。この la belle dame にしても、sans Merci = without pityというのが、彼女に「哀れみ、情け」がないといった場合、彼女が他人に対して哀れみを示さないのか、他人から彼女に対する哀れみがないのか、つまり、情け知らずなのは彼女の方なのか、それとも、彼女を「魔性の女」といって怖がる連中こそが「情け知らず」なのではないのか? という疑問は永久に尽きることがない。
 一方、我らがCOVID-19ちゃんだが、これはどうなんだろう? もちろん、たかがウイルスを怖がるのは、それこそ人間の勝手な都合。ウイルス嬢(残念ながら、ウグイス嬢ではない)としては、いつも通りの平常運転をしているに過ぎない。でも、もう軽口はいいか。おそらく、今はキーツの騎士と同様に、どうやら耐えて我慢するしかないようだ。「疲れ切った様子でたった一人、こんなところで?」と言われても、とにかく、いつも通りちゃんと武具を纏って。
(H.H.)

DSCF1715.jpg
(これもあまり本文とは関係ないけど、何もないと寂しいから)


posted by 冬の夢 at 14:45 | Comment(0) | 文芸・読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする