2020年04月15日

英首相、ボリス・ジョンソンの退院メッセージについて(全文・追記あり)

Good afternoon. I have today left hospital after a week in which the NHS has saved my life, no question. It’s hard to find words to express my debt but before I come to that I want to thank everyone in the entire UK for the effort and the sacrifice you have made, and are making. When the sun is out and the kids are at home; when the whole natural world seems at its loveliest and the outdoors is so inviting, I can only imagine how tough it has been to follow the rules on social distancing.

 こんにちは。私は今日、一週間ぶりに退院しました。国営医療サービスが私の命を救ってくれた病院からです。間違いではありません。私が受けた恩恵を表現する言葉を見つけるのは難しいのです。そして、それよりも私は全英の皆さんすべてに、これまでしてくださって、いまも続けていただいている、努力と献身について、お礼を申し上げたいのです。太陽が姿をみせていても、子どもたちは家にいてくれます。あらゆる自然がいちばん美しいとき、家の外が、さあ出てきなさい、という誘惑に満ちているときなのにです。私は想像するしかありません。社会的距離をとるルールを守り続けることが、どれほど大変なことであるかを。


I thank you because so many millions and millions of people across this country have been doing the right thing, millions going through the hardship of self-isolation faithfully, patiently, and with thought and care for others as well as for themselves. I want you to know that this Easter Sunday I do believe that your efforts are worth it,and are daily proving their worth. Because although we mourn every day those who are taken from us in such numbers and though the struggle is by no means over, we are now making progress in this incredible national battle against coronavirus.

 みなさんに感謝したいのです。というのも、この国じゅうの、とてつもない数の人たちが、正しい行動をしてくださっているからです。たいへんな数の人たちが、自己隔離の難しさに耐えています。誠実に、忍耐強く、そして自分だけでなくほかの人たちへの配慮と保護の心を持ってです。知っていただきたい。今日この復活祭の日曜日(訳者注:四月十二日)、私は心から信じます。みなさんの努力がいかに復活祭にふさわしく、また日々その価値を証明し続けているかを。なぜかといいますと、私たちは毎日、私たちから奪われた多くの人たちのことを嘆いているにもかかわらず、また、この戦いがまったく終わっていないにもかかわらず、この信じられないほどの、国をあげてのコロナウイルスとの戦いで、私たちはいま前進を続けているからなのです。


A fight we never picked against an enemy we still don’t entirely understand. We’re making progress in this national battle because the British public formed a human shield around this country’s greatest national asset our National Health Service. We understood and we decided that if together we could keep our NHS safe, if we could stop our NHS from being overwhelmed, then we could not be beaten, and this country would rise together and overcome this challenge, as we have overcome so many challenges in the past.

 いまだにその全貌がつかめずにいる敵に、断じて私たちから仕掛けたわけではない戦い。その、国全体での戦いで、私たちは勝利へ前進しつづけています。なぜなら、英国民は人間らしさの防護壁を築いたからです。この国の最高の資産、国営医療サービスを守るものをです。私たちは理解しました。そして決心しました。もし私たちが心をひとつにし、私たちの国営医療サービスを安全な状態に維持できるなら、また国営医療サービスの破綻をくい止めうるなら、私たちに敗北はありえないと。そして、私たちがかつて数多くの試練を乗り越えたように、今回の試練に向かって、この国は立ち上がり、克服するであろうこともです。


In the last seven days I have of course seen the pressure that the NHS is under. I have seen the personal courage not just of the doctors and nurses, but of everyone, the cleaners, the cooks, the healthcare workers of every description physios, radiographers, pharmacists - who have kept coming to work, kept putting themselves in harm’s way, kept risking this deadly virus. It is thanks to that courage, that devotion, that duty and that love that our NHS has been unbeatable.

 この七日間で私は、国営医療サービスがおかれた厳しさを、もちろん見てとることができました。そして、人としての勇気を見てきたのです。医師たちや看護婦たちのみならず、全員の勇気です。清掃担当者たち、調理スタッフら、あらゆる部門のヘルスケア担当者たち、物理療法士たち、レントゲン技師や薬剤師たち──出勤を続け、わが身を厳しい状況に置き、この致命的なウイルスに対する危険を冒し続けてきている人たち、すべてです。この人たちの勇気、献身、この人たちの義務感と愛、そうしたもののおかげでこそ、私たちの国営医療サービスは、決して打ち負かされずにきたのです。

I want to pay my own thanks to the utterly brilliant doctors, leaders in their fields, men and women, but several of them for some reason called Nick, who took some crucial decisions a few days ago for which I will be grateful for the rest of my life. I want to thank the many nurses, men and women, whose care has been so astonishing. I’m going to forget some names, so please forgive me, but I want to thank Po Ling and Shannon and Emily and Angel and Connie and Becky and Rachel and Nicky and Ann. And I hope they won’t mind if I mention in particular two nurses who stood by my bedside for 48 hours when things could have gone either way. They’re Jenny from Zealand Invercargill on the South Island to be exact, and Luis from Portugal - near Porto.And the reason in the end my body did start to get enough oxygen was because for every second of the night they were watching and they were thinking and they were caring and making the interventions I needed. So that is how I also know that across this country, 24 hours a day, for every second of every hour, there are hundreds of thousands of NHS staff who are acting with the same care and thought and precision as Jenny and Luis.

 私は個人としての感謝を、じつにすばらしい医師たちに、各科のリーダーたちに、男性も女性もいましたが、述べたいのです。もっともそのうち何人かは、どういうわけか同じ「ニック(訳者注:刑務所?」という名だったんですが(訳者注:文末の【追記】を見てください)、そういう人たちが数日前に行った、正念場での決定のおかげで、わたしは今後も人生があることを感謝し続けるでしょう。私は、驚くべき看護をしてくれた多くの看護婦や看護士たち、男性も女性もいましたが、そのみなさんに感謝したく思います。何人かは名前を失念してしまった、許してください、でも、ポウ・リン、シャノン、それからエミリー、エンジェル、コニー、ベッキー、レイチェル、ニッキー、アンに。彼女たちは二人の看護士に特別に感謝しても許してくれるでしょう、というのは、その二人は私の症状がどちらに転ぶか分からない生死の境に、四十八時間もベッドのそばで待機していたからです。ニュージーランド出身の、正確にいうならその南島のインヴァーカーギルから来たジェニーと、ポルトガルのポルト近くの出身のルイスです。私の身体が、ついに充分な酸素を取り込めるようになったのは、彼らが夜通し1秒とおかず、見守り、考えつづけ、私がなにか訴えるたびに介護し対応してくれたからなのです。この経験から私は理解しました。全英に、毎日24時間、毎時毎秒ごとに、同じレベルのケアを提供し、そして考え、ジェニーやルイスのように正確に行動している、何百何千という国営医療サービスのスタッフがいるということをです。


That is why we will defeat this coronavirus and defeat it together. We will win because our NHS is the beating heart of this country. It is the best of this country. It is unconquerable. It is powered by love.

 これが、私たちが今回のコロナウイルスを倒せる、全員でうち勝つことができる理由なのです。私たちは勝利するのです。なぜなら国営医療サービスが、拍動し続けるこの国の心臓だからなのです。これこそ、わが国の最良のものです。けっして病気には制覇させません。愛によって力を得て動いているのですから。


So thank you from me, from all of us, to the NHS, and let’s remember to follow the rules on social distancing. Stay at home, protect our NHS and save Lives. Thank you,and Happy Easter.

 そういうわけで、私から、そして国民のすべてから、国営医療サービスに感謝します。そして、社会的距離を保つルールを守ることを忘れずにいましょう。ステイ・アット・ホームです。国営医療サービスを守り、命を守りましょう。ありがとう、そして復活祭おめでとう。

       ♪

 このブログの別の筆者が、四月十三日に書いた文の「コメント」欄で、ボリス・ジョンソン英首相の「気持ちの入った」話しかたを、評価していた。→こちらの、上から二つめのコメントです。その上の本文もごらんください←
 この筆者はかねてよりジョンソンを、ドナルド・トランプや安倍晋三と同類の、知力にも品性にも表現力にも欠けた男だと批判していたが、最近の国民向けの発言に変化が感じられる、としている。そして「全く驚かされた」とも書いた、さる四月十二日にジョンソンが無事に退院したときのメッセージを、わたしも、すべて知りたいと思った。
 ジョンソンは Twitter に、みずから語った英文字幕つき動画をあげているが、わたしは字幕の英文を見ながらでないと、話される英語がよくわからない。英文も、つっかえる箇所があるから、ゆっくり読みたいが、全文が見当たらない(探しきれていないのだろう。BBCの日本語版ニュースサイトに、半分ほどの長さの日本語字幕つき動画はあった)。

 そこで Twitter の動画の字幕を、まず書き起こし、自分が読み直せるように訳してみた。十三日の文とコメントを書いた筆者に添削してもらって、あらためて読んでいる。
 せっかくだから、このブログに掲載しておくことにした。

       ♪

 とりあえず、ここまで急いでやったので、ジョンソンの話しぶりに変化があったかどうかは、仔細には検討していない。テレビを持っていないから、あまり多くは演説を視聴してきておらず、気のきいたことは書けない。日本でテレビに出るコメンテーターたちは、すごいなと思う。言うのと書くのとは違うかもしれないが。

 話される英語を聞いて話し手の人品がすぐわかる英語力はないから、間違っているかもしれないが、たしかに退院時のメッセージにはジョンソンらしからぬ、奥行きが感じられる。
 死の危険もある状態から退院できた喜びと感謝も、もちろん背景にあるが、それ以上に「誠意」を大切にしたメッセージだと感じる。誇張的な単語を強く繰り返すなど、以前の高飛車な調子でやられたらムッときそうな表現も、このメッセージでは、むしろ「奥行き」につながっている。
 動画を見ても、EU離脱論争で吠えていたころの、パブリック・スクール生にいかにもありそうな、ナリも含めてイヤミな崩しかた、アイアン・メイデンのブルース・ディッキンソン(労働者家庭の出だがパブリック・スクールと大学にいった)なら、さだめし「ケッ」というに違いないウソっぽさがない。命を拾ったほどの経験の後だということを差し引いても。

       ♪

 いずれにしても印象批評にすぎないので、これくらいにしておくが、ジョンソンのメッセージを視聴したり訳したりして思ったことを、あとひとつだけ。
 十三日の文を書いた筆者がコメント欄で、安倍晋三と比較して書いた伝達力の違いは、ご両人の内実の有無の差、ではないかと。

 その筆者と、わたし、ジョンソンが三人でメシを食うとする。政治的ポジションは三者三様で──なのかな──意見が割れ大議論になりそうだが、それより、いろいろな話題で意外にえらく盛り上がりそうな予感がする。つまり「けっこう内容のある話をしたよな」って、われわれ二人は感想をいいながら帰るだろう。
 では、わたしたち筆者二人が安倍晋三とメシを食ったとしよう。おそらく政治的な話題では「議論にならない」に違いない。会話が成立しないというやつだ。ならばと話題を変えても「話がぜんぜん続かない」気がする。つまり、われわれ二人は「内容のある話は、なにひとつできなかったな」といいながら帰る──。

 わたしはゴルフはしない。ステキな「くつろぐ」家に住んでもいない。部屋飼いのペットなんてニガテだ。マスクの製造流通の仕組みには興味があるが、ご当人に訊ねても、さして詳しくはないだろう、たぶん。
 政治経済外交の話がムリならそのほかのネタでいいのに、日本の総理大臣としてみたい話題は見つからない。
 読書の話ならできそうだが、首相がなんの本を読んでいたのか知らないが、うっかりその本の話題をふるような失礼なことは、できないしね。(ケ)

200415L2.JPG 
LONDON 2009
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ここの意味が、うまくわかりませんでした。俗語として「刑務所」「警察」の意味があるそうです。

【追記】二〇二〇年五月三日、本文も、すこし直しました

 英紙「ザ・ガーディアン」(www.theguardian.com 二〇二〇年五月二日)によると、ジョンソン首相とキャリー・シモンズは、四月二十九日に生まれた男の子に「Nick」という名をつけた。
 フルネームは「Wilfred Lawrie Nicholas Johnson」。「Wilfred」が首相のお祖父さん、「Lawrie」がシモンズのお祖父さんの名で、「Nicholas」は、ジョンソン首相の治療を担当し、生命を救った二人の医師の名にちなむという。
 
 ドクター「Nick」のひとりは、ニコラス・プライス医師、もうひとりはニコラス・ハート医師。ともにガイズ・アンド・セント・ピーターズ(NHS財団)のお医者さん。ジョンソン首相が入院したのはセント・ピーターズ病院だ。
 ちなみにガイズ病院は、二百十年前に詩人のジョン・キーツが医学生修業をしたところ。なお、キーツが医学生であった期間は、詩人として活動した期間とほぼ同じだ。

 ついでに、「ザ・ガーディアン」のネタだが、ウィルフレッド・ローリー・ニコラスは、ここ二十年で、在任中の英首相がさずかった子どもとしては三人め。ただしトニー・ブレアに子どもができたときまで、百五十年間、そういう例はなかったという。



■ジョンソン首相の Twitter 動画の英字幕は出所不明で、音声と字幕が違う可能性があります。
■本文の英文に字幕の書き写し間違いがあるかもしれません。
■添削者には動画も見てもらいました。
■訳文へのご指摘歓迎です。なお上記の理由で無断コピペ使用はお控えください。

 
posted by 冬の夢 at 17:10 | Comment(2) | 時事 国際 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2020年04月14日

Silent Songs 6


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HMG_3130.JPG

那覇・宜野湾・辺野古ほか Naha, Ginowan, Henoko, etc.; circ. 2004

(ケ)


Originally Uploaded on Apr 17, 2020. 17:00:00
2020 (c) 趣味的偏屈アート雑誌風同人誌 請不要複製


posted by 冬の夢 at 00:05 | Comment(0) | 写真 写真 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2020年04月13日

諸悪の根源は小選挙区制と二大政党制

(怒りのあまりか、頭がちゃんと働いていなかったようで、大事な一節を抜かしてしまいました。アップした翌日に慌てて加筆するなんて、どこかのアホな政治家の悪口を言う資格はないかも……)
 
 コロナウイルスの猛威と脅威はさておき、政権が次々に放つ場当たり主義的対策のお粗末さ、愚劣さに対して、さすがに少なからずの人々が「次の選挙は自民党には投票しない」とか「必ず選挙には行く」とか言い出しているようで、それはそれで結構なことだとは思う。もっとも、英語の言い回しにある、Out of the flying pan into the fireよろしく、もっと悪い奴を選んでしまうのではないかという心配も、正直、かなりある。(というのは、関西に住んでいる身上としては、このところの大阪知事の「ご活躍」振り、さらにその背後にうごめく橋下徹への支持復活を身近に感じており、それはそれでかなり怖い。ついでに、東京都でもあの極悪な都知事が、自分の不始末は大棚に上げて、全部の責任を無能な安倍に押しつけようと画策し、それが効を奏しているようで、大変に気持ち悪い。)

 かといって、現在の野党第一党である立憲民主党の、どうやら事実上のスポークスマンである蓮舫のtwitterを通した発言に対しても、しばしば(いや、頻繁に)非常に不愉快なものがあり、耳に入るだけで憂鬱になることも少なくない。そもそも、何が嬉しくてtwitterなんぞを使いたがるのか、非常に不思議だ。まあ、極めて有効な洗脳装置、サブリミナル効果波及装置であることは認めるが、まともなコミュニケーションに益するとは到底思われない。Twitterって、いわば一方的掲示板なわけで、それこそ21世紀の電柱(つまり、誰かが張り紙をして、『迷子の犬、捜索中』とか『子猫、貰って下さい』とか、もっと時代を遡れば『パート募集』とか、そういう誰もが使える、ちょっと違法の臭いもする無料広告塔)みたいなものでしょう。そういう風に使えば、それはそれなりに便利だけど、まともな(つまり、公金の援助さえ受けている)政党が積極的に使うようなものではないと思う。Twitterで何かを言えば言うほど、自分と自分が属する政党の評判を落としかねない危険を、少しは知るだけの知性、危険察知能力が彼女にあるといいのだが、これは完全に無い物ねだりだろう。まあ、政治家なんてみんな大なり小なり自己顕示欲の化け物(or バカ者)だろうから……

 しかし、話を戻せば、どうやら現政権の化けの皮が少しは剥がれつつあるようで、次の選挙では何か変化が期待できるのかしれない、と思いたいところではあるが、本当のところは、全然期待できない。小選挙区制と、世間にいつの間にか蔓延してしまった二大政党制への盲信がある限り、自民党支配は当分続くだろう。もちろん、次の選挙で自民党は議席を減らすことは間違いない。それは確実だ。が、第一党の座を失うことはまずあるまい。今の立憲民主党に第一党になる力はない。(ちなみに、現在のマスコミの不平等さというか、unfairnessというか、ともかく、野党党首のマスコミへの露出の少なさは異常だ。この危機において、野党が何を考えて、どんなアイデアを持っているのか、マスコミは少しも伝えない。まあ、これが日本だから、仕方ないのだろうけど、つくづく異常な社会ではある。)仮に、自民党が壊滅的敗北を喫して、立憲民主党の勝利というわけではなく、単に自民党の議席があまりに少なすぎて、結果的に立憲民主党が第一党になるようなことが起きたとしても、それは極めて弱小な第一党であり、複数の政党と連立政権を作らなければならない。

 ところが、これが長年「二大政党制」という偽りの理想に惑わされてきた結果、おそらく今では連立内閣を作るknow-howを誰も知らず、作ったとしても、あれよあれよという間に瓦解することだろう。とにかく、ものごとを論理的・合理的に決めることができず、何かを決めるときには情緒的に、仲間意識的に意見の一致を計るのが日本文化の常套手段。いや、どうやらこのやり方しか知らないのだから、協働しようと思うのであれば、日頃から「ワンチーム」でなければならない。この、日頃からワンチームで活動しているときだけ、このときだけ、どうやら日本という社会は効率的に機能するようだ。それはあの真に感動的だったラグビーワールドカップでも見事に証明されたではないか。しかし、極めて残念なことに、日本の野党は、ご承知の通り、お互いに犬猿の仲と言っても過言ではない。そして、情緒的な嫌悪を越えて、合理的・論理的判断力を用いて連立する術を彼らは知らない。おそらく知ろうともしないだろう。もちろん、その必要性さえも感じていないと思う。

 おそらく、中選挙区制(一選挙区から複数の当選者を選ぶ)が一番日本の実状に相応しいのだろう。これなら、日頃から候補者も投票者も談合し放題。談合、言葉の響きは極めて醜悪だが、果たしてこの日本のような社会(繰り返すが、何よりも情緒と仲間意識が必要とされる社会)で、談合や腹芸なしで事が成立するとはどうしても思えない。本音と建前の器用な使い分けができずに、いったいどうやってこの日本社会で生き延びていけるのか。それとも、もう数年したら、この本音と建前の区別はなくなり、リクルートスーツも姿を消して、入学式や卒業式も簡素化され、それどころか、「式なんか意味ないよね」という声が大勢を占めるなんてことになるのだろうか? いや、あり得ないだろう。中身はともかく、外見こそ大事とされるのだから。本音はともかく、建前が優先されるときが確実にあるのだから。となれば、日頃からのコミュニケーション、仲間意識の醸成、ファシズムとさえも妙に響き合う同族意識の維持、阿吽の呼吸で理解し合える超能力、そして、本当のファシズムと抵抗するためにも必須となる、小集団相互の利害競争が必要となるだろう。(かつて、自民党がまだ比較的まともだった頃、彼らには「派閥」と呼ばれる小集団があった。当時は「派閥政治」といって猛烈に批判されたが、今になって思えば、あの派閥同士の闘争こそがあの破廉恥政党の唯一の自浄装置だったわけだ。その自浄装置を喪失した今、アホの安倍を止められる内部勢力はない。)

 二大政党制が機能するには、政党内でさえも意見が分かれ、他党の主張の方に理があるとわかれば、他党の主張を支持するようなことが普通にできる、そのような精神的風土が必須だ。日本社会のように、「お上の命令があれば、自粛でも集団自決でもするけど、お上の命令がない以上、いくら殺人ウイルスを撒き散らすことになっても、夜遊びは続ける」みたいなことがまかり通る社会では、つまり、自分の責任で自分の行動が決められないどころか、そもそもこの「自分の責任」という概念さえ曖昧な社会では(だって、ほとんどの人がこのコロナウイルスに対して「自分に責任がある」なんてこと、理解不可能でしょう? でも、おそらく西洋では、逆に、夜遊びを止めなかった人たちでさえ「自分の責任で外出しているんだ」と信じていたはず)、二大政党制とは、少なくとも日本では「誰もまともに考えない政治」になること必定だ。議員たちも「上司の言うとおり」に従うだけなんだから。(この典型例が、最近のあの超絶ド阿呆振りを十全に披露した森まさこ法務大臣だろう。)

 小選挙区制では各選挙区から1名しか当選しない。仮にある選挙区の候補者の2人、あるいは3人ともが非常に有能かつ誠実な人間であっても、当選者は1名だけだ。これが中選挙区であれば、有能な代議士が2名、3名と生まれることになる。逆に、別の小選挙区にはアホで愚劣な候補者しかいなかったとしても、そのうちの1人は絶対に当選してしまう。アホが淘汰されることはない。さらに問題なのは、今のような選挙制度では、政党に所属していない候補者が当選する可能性は極めて低い。ゼロと言っても過言ではない。自民党候補者にも競り勝ち、野党の候補者にも競り勝つのは、特定の政党に属さない新人候補者には至難の業だ。しかし、中選挙区制であれば、2番手、3番手で滑り込み当選の可能性がなくはない。ところで、世論調査では「支持政党なし」が圧倒的多数を占めている。ということは、本来であれば、政党に属さない候補者こそが待望されているはずなのに、そして、そういう候補者こそが「特定の支持政党なし」というサイレント・マジョリティの受け皿になるはずなのに、現行の選挙制度(小選挙区制)がそれを阻んでいるということになる。投票率が低い理由の一つは、間違いなく小選挙区制にある。

 それにしても、若い人たちは知る由もないだろうが、日本も1994年までは中選挙区制だった歴史を持っている。あのとき、小選挙区制と二大政党制を支持したアホたちは、今何を考えているのだろう。(言うまでもなく、この拙文を書いている本人は、当時は全力で選挙制の変更に反対したし、それ以後もずーっと反対し続けてきた。何度も繰り返すけれど、小選挙区制は亡国の制度だし、事実、今や亡国の危機なのではなかろうか。)小選挙区制にして喜んでいるのは、気色悪い政治家たちだけだろう。そして、酷い目に遭っているのは、我々庶民だけだ。(H.H.)
 
posted by 冬の夢 at 17:21 | Comment(2) | 時事 政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする