「こっちが客の安全のためにやってることを、ひっくり返そうとするやつって、どこのどいつよ」
「い、いや、それはわかんないです。難癖つけるのが趣味のやつもいますし」
「わたしは、そんなバカにじゃなくて、お客さまに知らせたいのよ。出来うる対処はすべてしたから、これからも安心してお買い求めくださいっていうのを、怪しいとか嘘だとかいわれて店がつぶれでもしたら、冤罪で死刑になるようなものじゃない」
「あの、ですからね、誰がやるかわからないんです。うちのお客さまが、ふと疑念を拡散するかもしれないですし」
「あんた、そんな下品なことを考えて、接客してたりするの」
「ま、まさか」
晴海の剣幕にすっかり圧されてしまった谷下に、「ごめん」とだけいって晴海は電話を切った。そして、二週間の休業と理由の掲示を決めたのだった。
このウイルスは、世の中を不安がらせたり、感染したり症状が出たりした人たちを苦しめたり殺したりするだけではなく、わたしたちから時間を奪っていってる。それもつらくて怖ろしいことだけど、それだけじゃないのね、もっとひどい敵よ、わたしたちがいま、ありったけ使わなくちゃいけない、もう残り少なくなっている同情や、誠意や、小さな努力みたいなものを、ウイルスたちは破壊してしまうのね、なんの容赦もなく。
(ケ)
■これで「小説を書きました」を終わります。
■分割してブログに載せられる長さで書こうとしましたが、これまでで最長になってしまいました。
コメントに、読みたいというリクエストが殺到したら、違う形で読んでいただける方法を考えます。
もちろん、リクエストはないと思いますが。 (^_^;)
■コメント(リクエスト)は→こちら←へ。
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でも、筆者が「殺到したら」というフレーズを入れていらっしゃるので、私の一言だけでは通らないかもしれないと思いますが、ぜひ全文を読める形でどこかにアップロードしてくださいませ。