2020年08月14日

「男はつらいよシリーズ」全作品鑑賞苦行記 A(のつもり)

@はこちらです。

 「男はつらいよシリーズ」連続鑑賞をとりあえず継続中。今回は第九作から十七作までの記録となります。
 @では寅さんが繰り返す迷惑行為を作品ごとに取り上げたのだが、シリーズが恒例化し、ファン層が拡大するのに伴って、それはとらやの中に留まることになったようだ。初期作品では法を犯すところまで行っていたのが、内輪揉めと言うか口喧嘩と言うか、家庭内の些細な騒動に収束するのがこの時期。よって「迷惑行為」ではなく「騒動」という括りにしてみた。が、それもあえて取り上げるほどでもない、とらやの日常のひとコマになっていく。
 と言う訳で、例によって、製作順、タイトル、公開年、マドンナ女優、採点(双葉十三郎基準)を表記。騒動の内容に加えて、印象的な名場面がある場合のみ特記します。


[9]『男はつらいよ 柴又慕情』1972年8月 吉永小百合 ☆☆☆★★
【騒動】自分の部屋が貸間に出されて怒った寅。どこかで一間借りようと不動産屋に探させた部屋はとらやだった。仲介手数料まで支払うことになり、寅は家を建てようとする博に罵詈雑言を並べる。真面目に働いて自分の家を持つことが悪いことなのかと問うさくら。寅はまたとらやを出て行く。
【名場面】結婚を決意して「嬉しいのに涙が出ちゃう」と泣く歌子。傷心の寅が夜空を見上げると星が流れる。寅と歌子が背中合わせに逆方向を向く左右対称の構図。どこか淋しげな吉永小百合の存在感に泣けてくる。

[10]『男はつらいよ 寅次郎夢枕』1972年12月 八千草薫 ☆☆★★★
【騒動】題経寺で母親が子に「寅さんみたいになっちゃうよ」と叱る姿を見た寅は、とらやでも自分のことを陰で悪く言っているのではないかと疑う。そんな自分の立場をつらいと言う寅に向かって、さくらは本当につらいのはおいちゃんたちだと泣いてしまう。
【名場面】なし

[11]『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』1973年8月 浅丘ルリ子 ☆☆☆
【騒動】さくらが何気なくピアノが欲しいと言うのを聞いた寅は、すぐに飛び出しておもちゃのピアノを買って来る。欲しかったのは実はアップライトピアノだったと知り、おもちゃを買ってきた自分が恥をかかされたと言い捨ててとらやを出て行く。
【名場面】リリーがいなくなって旅に出る寅は駅までさくらに商売道具の鞄を持って来させる。「満に飴玉でも買ってやんな」と出した財布に入っていたのは五百円。さくらは自分の財布から几帳面に折りたたんだ千円札を数枚広げて寅の財布に。「もっとお金持ってくれば良かったね」のひと言は涙なしでは見られない。

[12]『男はつらいよ 私の寅さん』1973年12月 岸惠子 ☆☆★★★
【騒動】おいちゃんとおばちゃんを九州旅行に誘ったさくらと博。明日出発というそのときに寅が帰ってくる。旅行に行くことを隠すそぶりに怒る寅。旅先からの電話でおいちゃんと口喧嘩してしまうのだった。
【名場面】なし

[13]『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』1974年8月 吉永小百合 ☆☆☆
【騒動】寅が帰ってくるなり「お絹さんという人について重要な発表があります」ととらやのみんなに告げる。いよいよ結婚相手が決まったと近所からもお祝いの品が届けられ、祝宴の席となるが、いつも通りの片思いだった。急に場がシラケてしまったことに怒る寅に、タコ社長は庭に投げ出される。
【名場面】この騒動の前に寅が旅館での番頭の仕事を語る。「サッと」「トントントンと」などオノマトペを巧みに挟みながら流れるような渥美清の台詞回しで寅の働く姿が伝えられる。カメラはよく見ないとわからないほどゆっくりとトラックアップする。シリーズ最初の寅のひとり語り。
あとは歌子との再会で恋やつれした寅におばちゃんがうどんでも作ろうかと言う場面。「ナルト巻は要らねえよ。あの渦見ると目が回っちまうから」

[14]『男はつらいよ 寅次郎子守唄』1974年12月 十朱幸代 ☆☆☆★★
【騒動】京子の誘いでコーラスに参加するさくらについて行った寅と源。さくらのハンドバッグから取り出した口紅で遊ぶ姿にメンバーが大笑い。せっかくの練習を台無しにしてしまう。
【名場面】寅が連れ帰った赤ん坊。子宝に恵まれなかったおばちゃんが熱心に世話をする。佐賀から赤ん坊の父親がやって来て連れて行ってしまった晩、ベビー用品を片付けながら泣くおばちゃん。三崎千恵子の演技が泣かせる。

[15]『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』1975年8月 浅丘ルリ子 ☆☆☆☆
【騒動】寅が旅先で知り合った謙次郎パパが置いて行った土産のメロン。リリーが来たからと、とらやのみんなで食べようとするところに寅が帰ってくる。自分の分がないことをネチネチと責める寅。それをリリーが本当ならみんなで食べてくださいくらい言うべきだと一喝する。
【名場面】リリーが歌う酒場を見てきた寅。もっと広いところで歌わせたいなと、金があったら歌舞伎座とかを借り切ってリリーがリサイタルを開く場面を語り始める。
また、小樽で初恋の人がいる喫茶店を訪れる謙次郎パパ。コーヒーも飲まずに出て行こうとするのをかつての恋人が止める。電車の時間とかあるんでと歩き出すパパの後ろ姿。

[16]『男はつらいよ 葛飾立志篇』1975年12月 樫山文枝 ☆☆☆
【騒動】帰ってきた寅がなぜ学問をするのかと真面目な話をするのに、タコ社長が寅の四角い顔を揶揄してケンカになる。まあ、騒動と言うほどのものでもないが。
【名場面】年末でかき入れどきのとらや。そこへ田所先生から礼子に電話が入る。注文をさばく声が響くとらや。電話で田所のプロポーズを拒む礼子。何気ない対位法が見事。

[17]『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』1976年7月 太地喜和子 ☆☆☆☆

【騒動】寅が連れてきた爺さんが日本画の大家とわかり、満男のために描いた絵に値打ちが出るのはと色めくとらやの面々。興奮したタコ社長がその絵を破ってしまい、寅と大喧嘩に。と言う内輪揉め。
【名場面】龍野を去る青観(宇野重吉)を見送る志乃(岡田嘉子)。志乃は精一杯背伸びをして手を振る。草履から少しだけ浮いた左足が名残惜しさを最大限に表現している。

 タイトルを「苦行記」としてしまったのが恥ずかしくなるくらい、この時期のシリーズは見ごたえのある傑作揃い。単体でひとつの作品として見ても、良質な喜劇が多い。中でも『寅次郎相合い傘』は間違いなくシリーズ最高傑作。双葉十三郎先生も「日本映画 ぼくの300本」(文春新書)で☆☆☆☆の最高点を付けて、シリーズを代表する作品として紹介している。
 さらに『寅次郎夕焼け小焼け』。シリーズの基本設定である「寅が恋してフラれて旅に出る」のパターンを完全無視。芸者と日本画家と寅次郎の三人による人情噺にしてしまった。それを噺家ではなく、映画が話す巧さ。もちろん俳優の貢献度が大なわけで、太地喜和子も宇野重吉もシリーズ最高の演技を見せてくれる。
 これらの傑作が連続して生み出された背景には、ワンパターン回避の工夫があった。山田洋次ら製作陣は、シリーズのお約束パターンをおさえた上で、マンネリにならないよう微修正を加えていた。お約束がマドンナだとすると、そこにプリマ・ウォーモ的なゲスト俳優を加える。あるいは寅の失恋が基本パターンであれば、寅が惚れられるという逆パターンを仕掛ける。そのような変奏曲が次々にハマった。『相合い傘』と『夕焼け小焼け』が傑作なのも、シリーズの中でも特に見事な変奏曲になっているから。ゲスト俳優の船越英二と宇野重吉は、マドンナとの本線ストーリーが霞むくらい印象深いキャラクターを作っている。また、本線を覆して、寅は全く失恋していない。リリーは本気で寅と結婚しても良いと思ったし、ぼたんと寅の間では「所帯を持とうな」は挨拶代わりの言葉でもあった。
 かくして、シリーズは早くも絶頂期を迎えてしまった。この後の作品はほとんどが初見となる。はたまた見続けることが出来るのか。うまく行けば次回はBとなります。(き)

夕焼け小焼け.jpg


posted by 冬の夢 at 23:50 | Comment(0) | 映画 邦画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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