2020年04月09日

La Belle Dame sans Merci(あるいはCOVID-19に捧げるバラッド?)

 世に、いわゆる「魔性の女」と呼ばれる女性がいるそうな。男をたちまちのうちに虜にして、骨抜きにし、破滅させる。「宿命の女」femme fataleとも言われることもある。小説やマンガにはしばしば登場する。が、現実にはどうなんだろう? 怖いけど、死ぬ前には一度くらいお目にかかってみたいと思っていた。いったいどれほど魅力的なのか? どれほどの魔力なのか? 
 そう思っていたら、とうとう出た! 出てしまった! その名もCOVID-19。確かに、まるで某国の女スパイか、腕利きの殺し屋みたいな名前だ! 
 そこで、自宅勤務の退屈しのぎに、同人のお株を奪うようで気が引けるが、キーツが残した「魔性の女」、La Belle Dame sans Merci(情け知らずの美しい女)を訳してみようと思う。


La Belle Dame sans Merci(情け知らずの美しい女) 

何がそんなに苦しいのか、武具を纏った騎士よ、
疲れ切った様子でたった一人、こんなところで?
湖畔のスゲも枯れ果て
鳥の鳴き声も消えてしまったのに。

何がそんなに苦しいのか、武具を纏った騎士よ、
そんなにもやつれて、悲しみに沈んで?
リスも穀倉を一杯にして、
収穫の時期も終わったというのに。

額は百合の花、
熱と汗で濡れた激しい苦悶を浮かべ、
頬は色褪せた薔薇、
すぐにも枯れてしまう。

緑の牧場で一人の女に出会ったのだ、
見事に美しく、妖精の子さながら、
髪は長く、足取りは軽く、
両の目は生き生きと輝いていた。

その娘に花の首飾りや
ブレスレット、香しい帯などを作ってやると、
私を愛しそうに見つめ、
喉の奥からいかにも甘い声を鳴らしていた。

彼女を自分の馬に乗せると、
一日中もう彼女以外のものは何も目に入らなかった。
彼女は身を傾け、
妖精のように美しい歌を歌っていた。

道すがら元気の出る甘い草の根や
野生の蜂蜜、天与の甘露を見つけてくれた。
そして、聞き慣れない言葉で確かに言ったのだ、
「あなたを本当に愛している」と。

それからお伽噺のような岩屋に誘われ、
そこで彼女は胸も裂けよと涙を流し、溜息を吐いた、
そこで私は彼女の取り乱してもなお生き生きと輝く両の目を
四つのキスで閉ざしてやった。

そこで彼女は私を優しく寝かしつけ、
そこで私は夢を見たのだ−−何という悲しみ!
この凍えた丘の中腹で
私が見た最後の夢。

蒼白い王や貴族たち、
同じく蒼白い戦士たち、みんな死のように蒼白かった。
奴らは口々に叫んだ、「情け知らずの美しい女が
お前を虜にした!」と。

餓えきった奴らの唇が薄暮の中に見えた、
おぞましい警告を喘ぐように口いっぱいに広げていた。
そして目が覚めるとここにいたのだ、
この凍えた丘の中腹に。

だから私はここに留まっている、
疲れ切った様子でたった一人、こんなところで。
湖畔のスゲも枯れ果て
鳥の鳴き声も消えてしまったのに。

  Oh what can ail thee, knight-at-arms,
  Alone and palely loitering?
  The sedge has withered from the lake,
  And no birds sing.

  Oh what can ail thee, knight-at-arms,
  So haggard and so woe-begone?
  The squirrel's granary is full,
  And the harvest's done.

  I see a lily on thy brow,
  With anguish moist and fever-dew,
  And on thy cheeks a fading rose
  Fast withereth too.

  I met a lady in the meads,
  Full beautiful - a faery's child,
  Her hair was long, her foot was light,
  And her eyes were wild.

  I made a garland for her head,
  And bracelets too, and fragrant zone;
  She looked at me as she did love,
  And made sweet moan.

  I set her on my pacing steed,
  And nothing else saw all day long,
  For sidelong would she bend, and sing
  A faery's song.

  She found me roots of relish sweet,
  And honey wild, and manna-dew,
  And sure in language strange she said -
  'I love thee true'.

  She took me to her elfin grot,
  And there she wept and sighed full sore,
  And there I shut her wild wild eyes
  With kisses four.
 
  And there she lulled me asleep
  And there I dreamed - Ah! woe betide! -
  The latest dream I ever dreamt
  On the cold hill side.

  I saw pale kings and princes too,
  Pale warriors, death-pale were they all;
  They cried - 'La Belle Dame sans Merci
  Hath thee in thrall!'

  I saw their starved lips in the gloam,
  With horrid warning gaped wide,
  And I awoke and found me here,
  On the cold hill's side.

  And this is why I sojourn here
  Alone and palely loitering,
  Though the sedge is withered from the lake,
  And no birds sing


 キーツに教えてもらうまでもなく、どうやら「魔性の女」というのは、結局は男の欲望の投影に過ぎないようだ。つまり、男たちの欲望が美しい女に(そもそも、この「美しい」というのが曲者なのだが)「魔性」を付加してしまう。この la belle dame にしても、sans Merci = without pityというのが、彼女に「哀れみ、情け」がないといった場合、彼女が他人に対して哀れみを示さないのか、他人から彼女に対する哀れみがないのか、つまり、情け知らずなのは彼女の方なのか、それとも、彼女を「魔性の女」といって怖がる連中こそが「情け知らず」なのではないのか? という疑問は永久に尽きることがない。
 一方、我らがCOVID-19ちゃんだが、これはどうなんだろう? もちろん、たかがウイルスを怖がるのは、それこそ人間の勝手な都合。ウイルス嬢(残念ながら、ウグイス嬢ではない)としては、いつも通りの平常運転をしているに過ぎない。でも、もう軽口はいいか。おそらく、今はキーツの騎士と同様に、どうやら耐えて我慢するしかないようだ。「疲れ切った様子でたった一人、こんなところで?」と言われても、とにかく、いつも通りちゃんと武具を纏って。
(H.H.)

DSCF1715.jpg
(これもあまり本文とは関係ないけど、何もないと寂しいから)


posted by 冬の夢 at 14:45 | Comment(0) | 文芸・読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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